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06_高校選手権ファイナル・・様々な視点の「ポジティブ刺激」を放散しまくった滋賀県立野洲高校に乾杯!!・・野洲高校vs鹿児島実業高校(2-1)・・(2006年1月9日、月曜日)

「準決勝のあと、鹿実と遠野の前半15分だけをビデオで何度も見直した・・そして考えていた・・鹿実が仕掛けるプレッシングサッカーにどうやって対抗していくのか・・そこで出した結論・・オレたちは、野洲のサッカーで対抗するしかない・・絶対に、鹿実の猛攻に耐えようという(受け身の)マインドに陥ったら駄目だ・・絶対にラインを下げずにコンパクトディフェンスを仕掛け、ボールを奪い返したら前へ出て行く・・そんな積極的に前へ出て行く(前で勝負しつづける)サッカーが功を奏した・・」。記者会見での野洲の山本監督です。明るい雰囲気の中にも確信エネルギーを放散するグッドパーソナリティー。いや、ホントに素晴らしい記者会見でした。

 私にとってのこの試合におけるテーマは、何といっても、「自由と戦術の相克」でした。これまでも、静岡学園高校、東福岡高校、桐蔭高校、市立船橋高校など、しっかりとしたテクニックと自分主体の「戦術的チャレンジ」を前面に押し出すなど、発展性を感じさせてくれるクリエイティブサッカーで存在感を発揮した高校はありました。でも最近は、国見高校や鹿児島実業に代表されるフィジカル要素の方が目立つサッカーがトーナメントを席巻しています(たしかに2003年は市立船橋が優勝したけれど、内容では国見に完全にやられっぱなしだったから・・)。そんなこともあって、ここ数年、わたしの高校サッカーに対する興味も徐々に萎えていったのでありました。そこらあたりの事情については、2002年1月8日の決勝レポート2003年1月13日の決勝レポート、そして2004年1月12日の決勝レポートなども参照してください。それを読まれたら、2005年の決勝レポートを書く気がなくなった事情がお分かり頂けるものと思います。

 とはいっても、決して鹿児島実業の松沢総監督や国見の小嶺総監督といった指導者の方々を非難しているわけじゃありません。上記レポートでも書いたけれど、要は、そこに「一発勝負のトーナメント」しかないという現実があるということです。松沢先生にしても小嶺先生にしても、プロを目指す選手たちばかりを相手にしているわけじゃない。そこには、負けたらそこでおしまいということで、選手たちに貴重な体験を積んでもらうために、とにかく勝ち進むことを大前提にしたチーム戦術を徹底するしかなかったという事情「も」あるわけです。

 鹿児島実業の松沢先生は、記者会見で、「野洲は、静岡学園とか桐蔭などと同様に、ジュニアの頃から培ったテクニックや戦術をしっかりとやっている・・それが、あの素晴らしい決勝ゴールとなって結実した・・野洲の優勝は、(内容的にも)当然の帰結だと思う・・」と、これまた素晴らしい内容のコメントをしていました。

 たしかに野洲の決勝ゴールは、鹿実の松沢先生が言うように、スーパーの一言でした。その背景にあるのは、野洲のボール絡みプレーでのコンセプト。山本先生は、「一枚はがせ!」と表現するけれど、とにかく野洲の仕掛けプロセスでは、個人のテクニックを最大限に駆使し、上手いキープや鋭いワンツーなどで少なくとも一人の相手選手を「引き出して置き去り」にするという具体的イメージをビンビン感じます。要は、スペース活用の実効レベルを極限まで高揚させるというイメージのことだけれど、とにかく野洲の選手たちは、相手のディフェンスアクションの「ウラを取る」ことに長けているのです。それは、相手をディフェンスアクションに「誘い込む」のが上手いとも言えるし、相手のディフェンスアクションに対する「予測能力が高い」とも言える。まあ見事ですよ。それこそがトレーニングの賜じゃありませんか。また選手たちの「二軸動作」にも見応えがありました。だらかこそ、相手の守備アクションを冷静に観察できるし素早く対応できるというわけです。まあここでは、相手のアタックアクションを見極めることに対する自信があるからこそ、二軸動作のボールコントロールにも余裕が生まれるということだろうけれどネ。

 さて、決勝ゴールのシーン。野洲のなかでも特筆のテクニシャンである「14番の乾」が、見事な、本当に見事なボールキープ(右サイドから中へ切れ込むドリブル)で鹿実ディフェンスラインの意識と視線をクギ付けにしてしまう・・次の瞬間、自然なアクションのヒールキックで、自分が作り出した背後のスペースに入り込んだ10番の平原へのバックパスを「ポンと置く」・・そして次の瞬間、平原が、その一連のアクションと同時に右サイドをズバッとオーバーラップしていた19番の中川の眼前スペースへ決定的タテパスを送り込んだという次第。それは、中川が止める必要のないパーフェクトなコースと強さと種類のタテパスでした。これで鹿実の守備ブロックはズタズタ。中川は、タテパスを送り込んだ平原のイメージ通り、そのままダイレクトで、逆サイドのファーポストスペースへ走り込んだ12番の瀧川へのラストトラバースパスをビシリッと決めたという次第。いや、ホント、鳥肌が立ちましたよ。何せこちらは、心から野洲を応援していましたからネ。野洲の山本監督が(準決勝を控えた)テレビのインタビューで自信をもって言っていたように、確かにこのサッカーだったら高校サッカーを変えられる・・。そんなことまで思っていた湯浅でした。

 野洲のサッカーについては、いろいろと書きたいことが山積みだけれど、ここでは最後に、前述した素晴らしいオフェンスを支えつづけたディフェンスについて短くコメントしましょう。チェイス&チェック、その周りでのインターセプト狙い、相手フリーランニングに対する忠実マーク、協力プレス狙い、そして忠実なカバーリングイメージ・・等々。それらの守備ファクターが、まさに有機的に連鎖しつづけるのですよ。またこの試合では、絶対に諦めない「精神的な粘り」も素晴らしかった。それこそが勝者のメンタリティーじゃありませんか。そのことについて山本さんは、「ウチのチームは守備が弱い・・だから選手たちには、ここまできたら勝つしかないけれど、そのためには何といっても守備だと言い聞かせた・・絶対に下がって守ろうとするな・・とにかく前で勝負しろ・・コンパクトに守備ブロックを保て・・そんなことを選手たちに意識させました・・」と言っていました。これで守備が弱いチーム?! そんなコタ〜ね〜だろ〜。まあたしかに、鹿実にウラスペースを突かれたシーンもあったし、相手のパワープレーに意識が空白になったシーンもあったけれどネ・・。とにかく私は、この試合で野洲が魅せつづけた粘りのディフェンスに深く感銘を受けていたのですよ。まあそれは、野洲のサッカーに勝利してもらいたかったということもあるんだろうけれどネ・・。

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 さて、ここからは、結論のディスカッションに入りましょう。それは、高校サッカーが内包する、「一発勝負のトーナメント」がもっとも大きな(もっとも目立つから、若い選手たちにとって一番の目標になってしまう)大会だという「歪み」のことです。ジュニアやユースのレベルで「そんなこと」がまかり通っているのは日本だけ。そのことは、これまでの私の高校サッカーレポートでも常にコアのテーマでした。ジュニアやユース選手だからこそ、一週間に最低一回の勝負マッチを体感できるなど、たくさんの「発展ステージ」を必要としているのですよ。もちろんこのことは、鹿児島実業の松沢先生や国見の小嶺先生も望んでいるに違いありません。

 要は、高校とクラブが合体した(U-18の)プリンスリーグの存在感をもっともっとアップさせなければいけないということです(そのために協会と高体連による協力リードによって、もっと急速な環境整備を推し進めるべき!)。プリンスリーグとは、高円宮杯につながる全国レベルでの地域リーグのことです(それについては、日本サッカー協会HPのこちらを参照してください)。もちろん、まだまだプリンスリーグには、上澄みの強豪チームだけが参加できる、地域のジュニア・ユースサッカーとは分離したトップリーグという歪んだシステムという側面もあります。本来であれば、それをトップに、すべての高校とクラブが「・・部リーグ」というピラミッドを形成していなければならない。そんな「環境」が整備されてはじめて、ジュニアやユースのサッカーを本当の意味で活性化させられる(ユース選手たちの発展ベースになる!)というわけです。このことについては、私の母校である神奈川県立湘南高校の教諭で、神奈川では屈指の(組織内プロ)コーチである清水好郎さんとの「The 対談」記事も参照してください。

 ところで、野洲の山本先生が、「高校生が多くの勝負マッチを経験できるリーグ」についてこんなことを言っていましたよ。「もちろん我々のサッカーがもっともイキイキと輝くのはリーグ戦だ・・リーグでは、本当の意味での実力が問われるし、このようなサッカーの方が結果を残すことができる・・」。ただ、ビックリすることに、その野洲高校が(昨年の)プリンスリーグに参加できなかったのです。要は、昨年初頭におこなわれた新人戦という「予選トーナメント」で敗れたことでプリンスリーグへの参加資格を得られなかったということ。山本先生も、「昨年の我々は、公式戦では一試合も負けていない・・ただ新人戦での引き分けと、もう一つの引き分けを除いて・・(プリンスリーグの予選も兼ねる)新人戦では、相手にガチガチに守り切られて引き分け、PK戦でやられてしまった・・」と、そのときは本当に悔しそうな表情を浮かべていました。その「新人戦」だけれど、野洲にとっては、今年も厳しい状況になりそうです。何せ、正月大会で最後までいってしまったのですからね。他の高校は、すでに何ヶ月も前から世代が入れ替わることで準備に入っているのに、野洲はこれからですからね。

 高校サッカーのエキスパートの方に聞いたところ、野洲は、今年も(いまの二年生を中心に)素晴らしいチームになること請け合いだそうな。でも、そこはサッカーだし、まだ経験が足りない若い選手たちがチャレンジする予選トーナメント(新人戦)ということもあって、相手に守り切られてしまうという危険がつきまとう・・。まあ、ということで、ここからは湯浅の独断提案だけれど、まだプリンスリーグがシステム進化の初期プロセスにある今だからという視点も含め、高校の頂点に立った野洲を、特例として次年度のプリンスリーグに迎え(自動的に参加資格を与える!)・・なんていうアイデアはいかが? まあ、本来のルール的には「オフサイド」だろうし、それをやるには「大変な調整」が必要になるだろうけれど・・。いかがですかネ、川淵さん・・。

 様々な視点で「U18のサッカー」にとって重要な「ポジティブ刺激」を与えてくれた野洲。湯浅の創作意欲も俄然アクティベイトされてしまいました。ではまた・・。




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