トピックス


2006_ワールドカップ日記・・やはりブラジルは強い(ブラジル対ガーナ、3-0)・・(2006年6月27日、火曜日)

今日は、短くまとめます(まとめたいと思っています・・というニュアンス)。テーマは、もちろんブラジル。個の才能たちが織りなす夢のような組織プレーと、ツボにはまったときの天賦の才の爆発。ちょっとカッコつけすぎ!? 要は、上手いヤツらが、あくまでもシンプルな組織パスプレーに徹しているということです。そして、最終勝負ゾーンのスペースで、ある程度フリーでボールを持ったときには、次元を超えたドリブル勝負を繰り出していく。

 この試合でのテーマは、まず何といっても、相手GKと最終ラインの間にひろがる決定的スペースを狙いつづけるブラジルというところでしょうかね。中盤で人とボールを活発に動かしながらも、その流れのなかでボールを持った選手は、常に決定的スペースへのパスを意識している。また、「その時点」で最前線にいる選手や、後方から上がってくる二人目、三人目の選手たちも、決定的スペースでの「パスレシーブ」をイメージしている。まあ、パスを呼び込む動きが先か、送り込むパスがコンビネーションを主導するのかは、ケースバイケースですけれどね。要は、勝負は、ボールがないところで決まるというコンセプトも、このテーマに内包されているということです。

 ブラジル先制ゴールのシーン。ロナウドに、ギリギリのタイミングでスルーパスが通る・・ボールを持ったロナウドの天賦の才が爆発し、マークする相手を、巧みに身体を使ってブロックして置き去りにするだけではなく、最後は相手GKまでもかわしてゴールを決めてしまう・・。要は、決定的スペースである程度フリーでボールを持ったロナウドが繰り出した、次元を超えた勝負ドリブル&ゴール・・というわけです。そんな「ツボにはまったときの怪物プレー」があるからね、コンディションが全く戻っていなくても使いつづける価値があるとパレイラ監督が判断している(期待している)のでしょう。才能は「諸刃の剣」!? さて・・。

 その後にも、前半23分には、アドリアーノへのタテパスが通り、フリーシュートまでいくというシーンもありました。でも、やっぱり先制ゴールが早すぎた。それに、選手たちが、ガーナとの実力差を(グラウンド上で)体感してしまったという背景要因もあるから、どうも選手の緊張感が途切れがちになっていると感じていましたよ。

 ブラジルの最終ラインにしても、マークが遅れたり、タテスペースへの走り抜けを簡単に許してしまったり。ちょっとしまりがない。それでも前半のロスタイムには、完璧なカウンターから、アドリアーノが追加ゴールを挙げてしまうのだから、やっぱりこのチームは強い。これで既に実質的な勝負は決まったも同然でした。

 この二点目のカウンターゴールシーンは見所があった。中盤で、ルシオが相手のトラップの瞬間を狙ったアタックでボールを奪い返し、そのままドリブルで進みながらガーナ選手たちを引きつけ、スッと右サイドのカカーへパスを回す・・カカーも、ちょっとドリブルする振りから、オーバーラップしたカフーへのタテパスを決める・・最後は、グラウンダーの「トラバースパス(ゴールラインに平行のパス)」が、走り込んできたアドリアーノにピタリと合ったというわけです。

 あれだけ攻め上がっているガーナだけれど、徐々に集中力が増してきたブラジル守備ブロックに、為す術なしといった感じ。あっと・・ブラジルの二点目が決まる数分前に、コーナーキックから、ガーナが決定的チャンスを作り出したんだっけ。ゴール前5メートルからのフリーヘディング。でも結局は、キーパーのジーダの正面に飛んでしまうといった体たらくでした。

 ここからは、ランダムにテーマをピックアップしていきます。まず、前述した、ルシオのボール奪取と押し上げについて。ルシオの押し上げは、バイエルンでも、ブラジル代表でも、ある程度は容認されていると感じます。もちろんそれには、ブラジル伝統の「フォア・リベロ」という機能がバックボーンにあります。要は、二人のセンターバックの前に、前気味のリベロが入るというイメージです。この試合では、最初エメルソンがその任に当たり、後半からは、交代したジウベルト・シウバが効果的にタスクをこなしていました。彼らが、ルシオやジュアンの押し上げをサポートしているというわけです。

 次が、ロベカルのキック。この試合は、グラウンドから10メートルくらいの距離に設置された記者席で(この試合ではデスクなし)観戦していたのですが、前半のロベカルが、私の目の前で、まさに50-60メートルはあろうかというサイドチェンジパスを決めたのです(もちろんカフーへ!)。私は、真後ろからボールの軌跡を追っていました。ほとんど回転せず、ビューンと伸びて正確に相手ディフェンダーのアタマを越え、見事にカフーの眼前スペースへ。本当に鳥肌が立ちましたよ。それ以外でも、ロベカルからは、ビンビンと正確なロングパスが飛び出すのです。もちろん、決定的スペースへのロングラストパスも飛ぶ。ロベカルが、余裕をもってボールを持ったときの、最前線プレイヤーたちの(決定的スペースへの飛び出しをイメージする)緊張感が伝わってきたものです。ロベカルがいれば、まさに仕掛けの半径60メートルというサッカーも可能だ。

 このロベカルのスーパーキックだけれど、「才能」というだけで済ませてしまうわけにはいきません。たしかに彼は才能に恵まれてはいるけれど、その才能を、反復トレーニングによって本当の意味で開花させたという事実を忘れてはならない。そんな「汗まみれの(カッコ悪い)プロセス」こそが、ものすごく大事なのです。

 いまの日本サッカー界は、「優れたサッカーは、クリエイティブな無駄走りの積み重ね・・」とか「実効あるテクニックは反復練習という汗の結晶・・」といったニュアンスも含め、楽して金を稼ごうというマインドが、確実に「才能を腐らせる」という確かな事実を再認識しなければいけないと思っている湯浅なのですよ。まあ、そのテーマについては、(代表監督に就任する!?)オシムさんが正しいベクトルを示してくれるはずです。でも、本当に就任してくれるのだろうか・・。まだ、ちょっと心配。政治的な「うごめき」が感じられたら、オシムさんは断るかもしれないからネ。

 さてロベカル。後半11分に魅せた「飛び出し&シュート」は、本当に秀逸でした。それこそが、ボールがないところでの勝負アクション(三人目のフリーランニング)が功を奏したというシーン。カカーとゼ・ロベルトの左サイドでのコンビネーションが続いているタイミングで、脇目もふらずに、後方から決定的スペースへ飛び出していったロベカル。彼には、ガーナ守備陣の視線と意識が、カカーとゼ・ロベルトによるコンビパスに引きつけられている状況が手に取るように見えていた。そして、彼らの意識の間隙を突いて飛び出していった。

 それまでも、スルーパスと決定的スペースへの飛び出しが見事に「シンクロ」したシーンは何度もあったけれど、このロベカルの飛び出しシーンほど見事なものはありませんでしたね。もちろんそれは、タテのポジションチェンジが行われるなかで、スルーパスと飛び出しがシンクロしたからに他なりません。それでは、ガーナ守備がまったく反応できないのも道理なのです。

 そして最後が、この試合でMVPに輝いた「ゼ・ロベルト」。攻守にわたり、本当に素晴らしいプレーのオンパレードでした。汗かきからクリエイティブな仕掛けプレーまで・・ってな具合。スーパーユーティリティープレイヤーだよね。そんなプレイヤーが最優秀選手に選ばれるんだから、今大会の評価チームも「本物」っちゅうわけです。

 ところで、ブラジル守備ブロックの「センター・カルテット」。最終ラインの、ジュアン、ルシオ、そして中盤の底のゼ・ロベルトとエメルソン。今エメルソンはユーヴェントスでプレーしているけれど、彼も、元はといえば、ゼ・ロベルトとともにレーバークーゼンで主なヨーロッパキャリアをスタートした選手です。またジュアンはレーバークーゼン、ルシオはバイエルン・ミュンヘンだからね。彼らのことは、「ドイツ・カルテット」なんて呼んじゃったりして。あははっ・・。
 



[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]