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2008_ACL_準々決勝第二戦・・肉を切らせて骨を断つというギリギリの勝負に優る学習&発展機会はない・・(レッズ対アル・カディシア、2-0)・・(2008年9月24日、水曜日)

そのとき、心臓が止まりそうになった。

 前半16分。素晴らしいプレーを披露しつづける14番のベンアシュールから、見事なロビングのスルーパスが飛ぶ。そのラストパスに反応した17番のアルムタワが、競り合う相馬崇人をかわし、そのままGK都築龍太と1対1になったのですよ。誰もが「現実の瞬間」を覚悟したシーンでした。ただそこで、都築龍太がスーパーセーブを魅せるのです。思わず「サンキュー!」という声が出た。

 そのシーンでの、17番のアルムタワに対するマーキングだけれど、多分それは、阿部勇樹と相馬崇人の間でのマークの受け渡しがうまくいかなかった結果だったんだろうね。実は、その直前の前半13分にも、阿部勇樹の背後に広がる「ウラの決定的スペース」を、見事なスルーパスで攻略されたんですよ。そのときは相手が切り返したことで事なきを得たけれど・・。

 また前半6分にも、決定的スペースへスルーパスを通されてしまうという大ピンチのシーンがあった。そのときは、トゥーリオの読みがピタリとはまり、全力カバーリングからのギリギリのタックルによって最悪の事態を逃れることが出来た。そのときも、「サスガ!」っちゅう声が出た。

 ところでトゥーリオ。この試合での(守備での)彼は、実際のボール奪取プロセスでの抜群の活躍だけではなく、リーダーシップという視点でも鬼神の存在感を発揮していた。そして「あの」追加ゴールだからね。トゥーリオ・・。まあ、大したモンだ。

 あっと・・前半の立ち上がりに陥った大ピンチのハナシに戻りましょう。

 皆さんもご存じのように、そのピンチシーンで、もしアル・カディシアがゴールを決めていたら、その瞬間からレッズは「2ゴール」を奪わなければチャンピオンズリーグから敗退してしまうという剣が峰に立たされることになったのです。そこで新たに発生する、物理的、そして心理的なプレッシャーは推して知るべし・・なのです。

 それが、ものすごく厳しい状況であることは選手たちが一番よく分かっていた。だから、あのピンチシーンを体感したときの彼らは、筆舌に尽くしがたいほどギリギリの(絶望的な!?)心境に陥っていたはずです。

 「ゲームは、完全にオレ達がペースを掌握しているのに、何でこんなに簡単に決定的ピンチを作られちゃうんだ?・・守備のやり方については、皆でとことん話し合ってイメージを作り上げたから安定しているはずなのに・・」といった焦燥感がチームに充満しそうになった!?

 そのピンチは、パスを受けるベンアシュールに対して二人のレッズ選手が「寄せ」てしまったことで(アタックアクションが重なってしまったことで)ベンアシュールの素早く巧妙な「振り向きトラップ」によって二人とも置き去りにされてしまったことが原因でした。

 まったくフリーでレッズ最終ラインへ突っ掛けていくベンアシュール。レッズ選手の意識と視線が引き寄せられてしまうのも道理です。そして次の瞬間に、ロビングの決定的スルーパスが飛び出したという次第。

 抜け出した17番のアルムタワを最初にマークしていたのは阿部勇樹だったんだろうね。でも、意識と視線がベンアシュールに引きつけられたことで(阿部は、最悪のケースを想定してカバーリングイメージも持っていた!?)今度は相馬崇人が、17番のアルムタワのマーキングをカバーしなければならなかったわけだけれど、ベンアシュールからの決定的パスへの寄せが一瞬遅れたことで(アンラッキーに交錯したことで!?)17番のアルムタワに抜け出されてしまったという次第でした。

 でも私は、この一連のピンチシーンこそが、その後にレッズが魅せつづけた「安定した闘い」の礎(いしずえ)になったと思っているのです。

 そのピンチに襲われたときの彼らは、鳥肌が立ち、冷や汗をかいたことでしょう。でも彼らは、そんな「刺激」をポジティブな方向へと活用したのです。そう・・彼らは、ゲーム前に話し合ったディフェンスのゲーム戦術をもう一度しっかりとイメージし直すことなどによって、脅威を機会へと転換することに成功したのですよ。だからこそ、彼らは、ゲームのなかで大きく成長したと言えるのかもしれません。

 この試合は、誰もが分かっているとおり、久しぶりの「ギリギリ勝負マッチ」ということになりました。だからこそ、これ以上ないほどの学習機会でもある。

 勝たなければならないレッズ・・でも、バランスを崩して攻め上がり過ぎたら、危険なカウンターを喰らってしまう・・だから、とにかく守備ブロックを安定させるイメージを絶対的なスタートラインに、ココゾのリスクチャレンジを仕掛けていく・・とはいっても、危ないゾーンでは極力ファールを避ける(相手にセットプレーのチャンスを与えない!)などなど・・

 皆さんもご覧になったとおり、レッズの守備は本当に安定していました。いや、前述したように、ピンチを乗り越えたことで、確信レベルが一回りも二回りも増幅したといった方が正確でしょう。

 何度も繰り返すけれど、前述した「前半の三つのピンチ」には、本当に重要な意味と意義が内包されていたと思っている筆者なのですよ。それがあったからこそチームの集中力を一段と高めることができた・・それがあったからこそ、より安定したゲーム運びに対する確信レベルを、一回りも二回りも増幅させることができた・・そして実際に、素晴らしく安定したゲーム運びを魅せられた・・それは『レッズのツボとも呼べるようなゲーム運び』だったのかもしれない・・

 忠実なチェイス&チェック・・そして、その守備の起点をベースに、次、その次のボール奪取勝負アクションが有機的に(そして効果的に)連鎖しつづける・・それは、まさに美しいハーモニーが奏でられているようだった・・わたしが確認した限り、一度も、危険ゾーンで相手にフリーキックを与えるようなファールはなかったと思う・・

 これほどのハイレベルな守備が機能しつづけるのだから、次の攻撃に勢いが乗っていかないはずがない。とはいっても、そこでも、しっかりとしたバランス感覚が働きつづけていた。誰もが、最高の責任感をもって「主体的に仕事を探しつづけていた」と感じられたものです。それは、感動的でさえありました。

 前戦のエジミウソンと高原直泰が展開した、攻守にわたる全力の汗かきプレーも含め、この試合を通じて、明らかにレッズは一皮剥けた。私は、チームが、ある大事な意味を内包する「ブレイクスルー」を遂げたと確信しています。

 やはり、肉を切らせて骨を断つというギリギリの勝負こそが最高の学習機会であり発展機会ということか・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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