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2008_天皇杯5回戦・・「組織vs個」という構図(サンフレッチェ対フロンターレ、2-0)・・また、岸野靖之が率いる鳥栖についても・・(2008年11月16日、日曜日)

本当にサンフレッチェのペトロヴィッチ監督は良い仕事をしている。

 チーム戦術マネージメントのベーシックなコンセプトは(彼のイメージリーダーである!?)イビツァ・オシムの発想に準ずるだろうし、それに、ペトロヴィッチ自身の戦術イメージとパーソナリティーという「塩とコショウ」が効果的に反映されているということですかね。

 考えてみれば、昨シーズンの「降格監督」が、そのままJ2でも指揮を執りつづけ、ダントツ首位の成績でJ1に返り咲いたことになったわけだけれど、ペトロヴィッチ監督の「確かなウデ」を見込んで長期政権を支持したサンフレッチェのクラブマネージメントも確かなウデ(判断と決断の能力)を持っているということだね。

 とにかく、良いサッカーを展開していた昨シーズンのサンフレッチェが降格したこと自体、とてもショッキングな出来事だった。当時は、サンフレッチェが天皇杯の決勝まで進出したこともあって、そのことに何度も触れたわけだけれど、まあ最後は、「それも、偶然と必然が交錯するサッカードラマということか・・」などと、ちょっと斜に構えざるを得なかったことを覚えています。

 そのサンフレッチェが、J1で優勝争いの真っ只中にいる、破壊力抜群の仕掛けを魅せつづけるフロンターレに挑んだ(!?)天皇杯5回戦。このゲームのテーマは「徹底した組織プレーvs個人勝負プレー」ってなところですかネ。あっと・・もう一つ、フロンターレの「パパ牛若丸」が不在だったというテーマもあるね。

 攻守にわたってサンフレッチェが誇示しつづけた徹底した組織プレー。グラウンド上の現象を見ながら、彼らの確信レベルの抜群の高揚感。オレたちは「これ」さえしっかりとつづけていれば誰にも負けない!

 守備では、ボール奪取勝負へ「追い込んでいく」までに展開される『スマートで忠実な』複数の汗かきプレー(周りとの有機的なイメージ連鎖!)が秀逸だった。

 もちろんチェイス(寄せ)&チェックによる守備の起点づくりが基本だけれど、この試合では、フロンターレの「個のチカラ」を意識し、決して安易に「飛び込んだり」せず、忍耐のウェイティングから、とにかくスピードダウンを明確にイメージしつづけていた。

 要は、チェイスで素早くポジションを取り(チェック≒守備の起点)味方の協力プレスサポートを待ったり、次のポイントでのボール奪取勝負の可能性を高めるようなクレバーで忠実な守備アクションを展開するというイメージが素晴らしく機能しつづけていたということ。

 彼らが展開する「有機的に連鎖しつづける」組織ディフェンスを見ながら、「ボール絡みの細かなポジショニングや寄せのアクション、周りの味方が展開する、猛禽類の鋭さを秘めたインターセプト狙いや次のパスを狙うボカしマーキングなど、ホントによくトレーニングされている・・ホントに全員が、考えつづけながら勇気あるリスクチャレンジプレーに取り組んでいる・・」なんて、感嘆していましたよ。

 そんなふうに、サンフレッチェの組織的な「ボール奪取メカニズム」が有機的に連動しつづけているものだから、フロンターレの組織パスの「イメージ連鎖」がどんどん分断されてしまうのも道理といったところかな・・。まあその背景には、フロンターレのボールがないところでの動きが緩慢だったということもあるわけだけれどネ。

 ここで「パパ牛若丸の不在」というテーマが入ってくるわけですよ。中村憲剛がいれば、確実にリンク機能が、「こんなふう」にスムーズに回っていただろうからね・・

 ・・前戦の「個の才能」がボールを持つ・・そのとき、スッと、牛若丸が寄っていく(後方からの展開サポート)・・そんな状況じゃ、やっぱり「個の才能」連中も、憲剛への展開パスを意識せざるを得ない・・そして、憲剛への展開パスに合わせるように(憲剛のパス能力に対する信頼!)周りもしっかりと動きはじめる・・

 ・・そして、そんな「人とボールの動き」が、憲剛をコアに有機的に連動しつづけるというわけ・・そして「だからこそ」ジュニーニョやチョン・テセといった個の才能が仕掛けていく「個人勝負」も、より効果的に展開できるわけ・・そりゃそうだ・・人とボールの動きが活性化したら、当然スペースもうまく使えるようになるからね・・そして相手守備ブロックが薄くなったゾーンで(より有利なカタチで!)個の勝負を仕掛けていく・・もちろん、個の勝負が難しいならば、そこには、最終勝負のパスを送り込むことで「組織的にシュートまでいく」というオプションも広がっている・・

 フロンターレでは、そんな「組織プレーと個の勝負プレーのバランス」が、この試合ではうまく取れなかったのですよ、まあ、後半立ち上がりの10分間を除いて・・。そして結局は、局面での個人勝負のブツ切りサッカーへと落ち込んでいってしまった。まあ仕方ないネ。

 最後に、サンフレッチェの攻撃の「リズム」についても触れておきましょう。

 要は、彼らが展開しつづけた「ボールの動きのリズム」のことですよ。とにかく、彼らのボールコントロールからパスまでの「リズム」が素早く軽快なのです。それも、どんどんと「タテへのチャレンジパス」も出てくる。

 この「リズム」が、ものすごく大事なのですよ。その「リズム」をチーム全体が深〜〜くシェアしているからこそ、ボールがないところでアクションする味方が、「あっ、次はあのスペースだ!」と明確にイメージできる・・だからこそ、ボールがないところでの動きが活性化する・・だからこそ、理想的なリズムで「人とボールの動き」が機能しつづける・・だからこそ、相手守備ブロックも、チェイス&チェックだけではなく、次のボール奪取勝負スポットをイメージし難くなる・・だからこそサンフレッチェ選手は、より深い自信をもって、ボールがないところでのパスレシーブの動き(フリーランニング)を繰り出していける・・だからこそ・・

 まあ、理想的な「動きのリズム」ということですかね。そう、アーセナルのパスサッカー・・。ちょっと言い過ぎ!? まあいいじゃないですか。とにかく、来シーズンのサンフレッチェが掲げるべきプロモーショナル・キーワードは、何といったって「高い守備意識に支えられた究極の組織サッカー」だぜ。

 サンフレッチェは、しっかりと「昨年の天皇杯での忘れ物」を取りに行ってください。ペトロヴィッチさん・・期待しているヨ。

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 嬉しいネ〜〜・・鳥栖の岸野靖之監督も、良い仕事をしているじゃありませんか。

 彼は、読売サッカークラブ時代の戦友でもあります。わたしはコーチで、彼は選手。とにかく、彼のような「人生に対して常に真摯に、情熱的に、そして勇気をもって立ち向かう」姿勢の男に対しては、自然とサポートの気持ちも高まっていくというものです。

 だからこそ、彼に率いられた鳥栖が、忠実でダイナミックな組織ディフェンス(統一された高い守備意識!)を絶対的なベースに、最後の最後まで勇気をもってエンスージアスティックに(スミマセン横文字・・情熱的にという意味を込めました)闘い抜いたことが嬉しくて仕方ありませんでした。

 勇気・・。前述のサンフレッチェでも触れたけれど、その心的パワーは、チーム一丸となった戦術コンセプトが徹底していなければ決して高まるモノじゃありません。それを高揚させるのが監督のウデ。岸野監督は「統一感」という表現を使っているけれど、それこそが確信レベルを引き上げ、攻守にわたるリスクチャレンジに代表される勇気ある実効プレーを引き出すのですよ。

 とにかく、鳥栖が展開した、強烈な意志が迸(ほとばし)りつづけたダイナミックサッカーに乾杯!!

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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