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2008_「ユーロ08」・・日本代表が志向するベクトル(方向性)の先にいるロシア・・ロシア対スウェーデン(2-0)・・(2008年6月19日、木曜日)

「どこをどう見たらそういう試合分析になるんだ? 試合前から私は選手たちを見ていたが、そんなことは決してなかった。はい、次の質問!」

 グループDの初戦、スペイン対ロシア試合後のプレスコンファレンス(監督会見)。そこに参加したヨーロッパ在住のジャーナリスト、中田徹さんのレポート(ヤフーの『スポーツナビ』)によれば、フース・ヒディンクが、怒りを吐き捨てるように冒頭のコメントを出したとのこと。

 そのコメントがぶつけられたのは、こんな質問に対してだったそうな。「前半のロシアはスペインに敬意を払いすぎていたのではないか?」

 多分そこでは「トゥー・マッチ・レスペクト?」なんていう表現で使われたのでしょうが、でもそれには「ロシアは、スペインを恐れていたように見えるが・・」という挑発的なニュアンスも含まれているのですよ。その挑発に対して、ヒディンクが素晴らしいリアクションをしたということです。

 私は、そんなヒディンクの過激な反応に、いろいろな「意味合い」を感じていましたよ。

 まず何といっても、心理マネージャーとしての彼のウデに対する疑問を強烈に全面否定したということ。もちろんヒディンクにしても、「たしかに、少しはそんな心理的弱点があったかもな・・」とは感じていただろうけれどネ。フムフム・・

 もちろんそこには、チームに対するメッセージという意味もあったでしょう。そんな質問に対してまともに答えでもしたら(挑発に乗せられたら)チームに対する監督の立場が地に落ちてしまうし、それまでの努力が水泡に帰してしまうことだってあるわけだからね。私は、その「反応」には、多分にチームに対する心理マネージメント的なニュアンスが込められていたと感じていました。

 またそこに、「シンパ」のジャーナリストとの「あうんの呼吸」という背景があった可能性も否定できない。要は、挑発的な質問を出すことによって、逆に監督に、メディアを利用する可能性を与えるという意味合い。メディアを利用して、チームを鼓舞するような強烈なメッセージを発信する・・。

 とにかくスペイン戦でのロシアが、前半から吹っ切れたダイナミズム(活力・迫力・力強さ)を魅せつける積極サッカーを展開していたことは確かな事実です。素晴らしい守備意識を(もちろん高い実効レベルも!)絶対的なベースにした、攻守にわたる究極の組織サッカー。まあ、日本代表が志向するベクトルの先にあるといったイメージですかネ。

 ただ、これまたヒディンクが言っていたように、ナイーブにも、カウンターを狙いつづけていたスペインの思うつぼにはまってしまった・・ことも確かな事実でした。ただ、そこでの「経験」が、このスウェーデン戦に大いに活かされていたと言えないこともない。

 ゲームを支配し、攻め上がるロシア。それに対し、リュンベリ、ラーション、そしてズラタン・イブラヒモビッチといった才能をコアに「蜂の一刺し」を狙うスウェーデン。ただ、この日のロシア守備は、ボールを奪い返された後の「切り替え」が素早く、そして効果的でした。とにかく、ボールを奪われた後のディフェンススタートが素晴らしかったのですよ。素早く効果的なチェイス&チェックを繰り返すことで簡単に縦パスを出させないし、ちょっとでもスウェーデンのボールの動きが停滞したら、間髪いれずにプレスの輪で取り囲んでしまう・・といった具合。

 そんなダイナミックな守備を基盤に、「これでもか!」と、人とボールが動きつづける見事な組織オフェンス(攻撃)を展開するロシア。

 技術がしっかりしていることで、ボールコントロールが見事(やはりボールコントロールの内容こそがチーム戦術の基盤!)。だからこそ、周りの人の動きの「イメージが阻害」されない。そりゃそうだ。パスを受ける味方のボールコントロール能力に確信が持てなかったら、走り(次のパスレシーブのフリーラン)に勢いの乗るはずがないよな。

 とにかくロシアの攻撃では、タテのスペースが上手く活用される。「タッチ&パス&ゴー」といった小気味よいリズムで「人とボール」が動きつづけ、そしてタテのスペースを活用してしまうのです。

 要は、後方からのタテスペースへのフリーランニングが機能しつづけているということだけれど、とにかくフリーランニングを「走り抜ける意識」が素晴らしい。組織守備だけじゃなく、そんな目立たないボールナシのプレー内容にも、ヒディンクの、心理マネージャーとしてのウデが垣間見える。だからこそ、仕掛けの「当面の目標」である「ある程度フリーでボールを持つ」という「攻撃の起点」がどんどん演出されるというわけです。

 ある程度フリーでボールをを持てば(要は、うまくスペースを活用すれば)、次の仕掛けのオプションは無限に広がる。ドリブル勝負を仕掛けていってもいいし、タメからラストパスを出しても、突っ掛けるドリブルから流れるような最終勝負コンビネーションをスタートしてもいい・・。スペースさえうまく使えれば、最終勝負の可能性は無限に広がるのです。

 前半のロシアのサッカーには、そんな「守備意識を絶対的なベースにした、夢のような組織プレーの雰囲気」が充満していた。そう、全員守備&全員攻撃というイメージが基盤の「トータル・フットボール」。そのベクトルこそ日本代表が志向するものでしょう。

 とはいっても、そこは強豪スウェーデン。前半では、ロシアがスウェーデンの3倍ものシュートをブチかましたのですが(14本と5本)枠内シュートという視点ではロシアの5本に対してスウェーデンが4本と、差が縮まってくる。そのスウェーデンの枠内シュートのほとんどが、前半の残り5分という時間帯に記録されたものでした。要は、ちょっとでもロシアの「組織プレス」の勢いが減退したら、スウェーデンの「実力」がいかんなく発揮されるということです。

 その前半残り5分でのゲーム展開だけれど、たしかにロシア選手の足が止まり気味になっていた。その現象は、もちろんチェイス&チェックの「実際の内容」に如実に現れてくる。要は、先日バンコクで鈴木啓太が表現していた「最後のところで足が伸びない」といった感覚(そのコラムはこちら)。また協力プレスの動きにしても、ちょっと「足が伸びていない」という印象があった。人数はいるけれど(実は、この現象が一番アブナイ!)肝心のボール奪取での実効レベルが上がらないという現象。

 やはりサッカーは「意志のスポーツ」。「行かなくても目立たない」し「ミスをすることもない」というのがサッカーの本質的なメカニズムなのですよ。そこでは、「自由」の本質的な意味が問われている。やはり、本質的に自由にプレーせざるを得ないというサッカーの哲学レベルは深い。フムフム・・

 あっと・・実力には疑いのないスウェーデンの逆襲というテーマだった。

 前半終了間際のスウェーデンの攻勢を観ていて、「こりゃ後半のロシアは大変だぞ・・」なんて思っていたけれど、結局は、ヒディンクのことを甘く見ていた・・という結果になった。

 後半立ち上がりの攻守にわたる「ロシアの意志」に必死に目を凝らしていた。そして思った。やはり「意識がリセット」され、しっかりと守備からゲームに入っている・・ロシアは、前半終了間際の「意志エネルギーの減退」をしっかりと修正した・・それによってスウェーデンは、攻撃のリズムをうまく回しつづけることが出来ず、逆にロシアが、鋭いカウンター気味の攻撃を仕掛けている・・それもまた「チーム内での意思統一」・・やっぱりヒディンクのウデは流石だな・・。

 そんなことを考えていたら、まさに電光石火の早業で、ロシアが(ヒディンクが意識付けしたとおりの!?)カウンターを決めてしまうのですよ。自然に感嘆の声が上がった。

 もうこうなったら、どんどんヒディンクの意図が先鋭化していく(より実効レベルが高揚していく)だけだろうな・・そう、高い位置からの積極ボール奪取勝負をベースにしたカウンター(ダイナミックなボール奪取勝負の流れがうまく回ることによって自然と活性化する次の組織的な仕掛けイメージ!)・・そしてまさに「その展開」になった・・その後のゴールチャンスの量と質をみれば一目瞭然・・フムフム・・

 さて今日は、血湧き肉躍る「ドイツ対ポルトガル」の準々決勝。いまから気合いが入る。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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