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2008_ヨーロッパの日本人・・中村俊輔と長谷部誠・・(2008年4月28日、月曜日)

スゴかったね、ホント、限界まで高揚した闘志のぶつかり合い。

 セルティックのホームで行われた今回のグラスゴー・ダービーは、奇蹟の大逆転リーグ優勝というエキサイティングドラマの導火線になったのか・・。この試合は、逆転、再逆転というドラマチックな展開になったわけだけれど、それが、リーグ優勝をめぐるドラマを匂わすモノだった!? さて・・

 とにかく、そんな意味深な接戦をモノにしたセルティックだから、(リーグ優勝争いについて)気分的には「もうやるだけやった・・」という心境になっているはずだよね。もちろん、まだ3試合を残しているけれど、そんな吹っ切れた心理が基盤になっているから、たぶん残りゲーム全てに勝利を収めることでしょう。

 対するレンジャーズは、セルティックが全勝で終わるということを大前提に(セルティックよりも3試合多い)残り6試合を戦わなければならない(4勝2分けが必要!)。そのプレッシャーは推して知るべしということか。こりゃ面白い。ちょっと、スコティッシュリーグから目が離せなくなった。

 試合だけれど、前半の半ばまでは、立ち上がり4分で先制ゴールを奪ったセルティックが、その後のレンジャーズの怒濤の攻勢によって押し込まれ、逆転ゴールまで許してしまうという経過をたどった。そんなゲーム展開を観ながら、「先制ゴールの時間が早すぎたよな・・もちろんセルティックが、先制ゴールを奪ったからといって守りに入るはずがないけれど、あの先制ゴールで、レンジャーズの闘志に火を付けてしまったからな・・」なんてことを考えていた。

 その後も、逆転ゴールを奪ったレンジャーズがゲームの主導権を握りつづけるという展開がつづくのですが、そんな流れのなかで、セルティックが同点ゴールを挙げてしまう(前半43分)。ペナルティーエリア内でマクギーディーからのタテパスを受けたマクドナルドが、振り向きざまに、相手GKの頭上を越えるシュートを決めたのです。それは、試合の流れからすれば、まさに唐突・・といった同点ゴールでした。

 その後は、後半も含めてほぼ互角の「ダイナミックな潰し合い」がつづく。両チームのチェイス&チェックの勢いに、気合いレベルが極限まで高揚していることがうかがえる。そして、そんなギリギリの緊張感が支配する雰囲気のなか、レンジャーズのディフェンダーが痛恨のミスを犯してしまうのですよ。

 ペナルティーエリア内で、スッと、相手よりも先にボールの落下点に入ったマクドナルドを、マークしていたレンジャーズ選手が押し倒してしまったのです。それは、完全に冷静さを欠いた守備プレーだった。それもまた、「ダービー・テンション」の為せるワザだったということだろうね。そしてセルティックが、その虎の子の一点リードを守りきったというわけです。

 スミマセンね、手に汗握る攻防だったから、レポートもゲーム展開に集中してしまった。さて、中村俊輔。

 まあ、これまでのグラスゴー・ダービーの例にもれず、組織パス展開のイニシアチブを握ろうとはするけれど、どうも、中盤での組織的な組み立てを上手くリードできないといった雰囲気でした。ボールを「収める」起点になろうとパスレシーブの動きをつづけるけれど、ボールは、そんな中村の頭上や横を飛び交いつづける・・ってな感じなのですよ。もちろん、豊富な運動量と、忠実で効果的なディフェンス参加をベースに、局面では優れたクリエイティブプレーを繰り広げてはいるのだけれど・・。

 前半のフリーキックシーン(正確にゴールの右上隅へ飛んだけれど、コースを読んでいた相手GKにギリギリのセービングで防がれる!)だけではなく、右サイドでパスを受けた直後にシンプルに送り込んだ危険なクロスボール、また素早く正確なボールコントロールから繰り出した、最前線へのラスト・ロングパスなどはサスガだった。

 ただ、この試合でも「オレにボールをよこせ!」と両腕を広げるシーンが目立ったことも確かな事実でした。決して足を止めて(怠惰に)パスを要求しているというわけじゃない。ボールがないところでしっかりとスペースへ走っているにもかかわらず・・なのです。要は、もっともっとアピールしなければならないということだよね。チームのなかで、シュンスケにボールをわたせば、必ず(ポジティブな)何かが起きるはずだという期待感を醸成させるためにネ。

 ちょっと「アピール」という視点で考えてみよう。いまの俊輔のプレーは、守備でも、ボールがないところでの動きでも、しっかりとプレーできているけれど、それに対して、ボール絡みのプレーが、どうもシンプルになり「過ぎて」いるということなのかもしれない・・。要は、(以前のように)もっと意識的に「魔法」を誇示する・・なんていう「エゴプレー」的な発想が必要な状況(時期)に来ているのかもしれないということだけれど・・。さて・・

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 さて次は、ドイツ・ブンデスリーガの中堅クラブ、ヴォルフスブルクで徐々に存在感をアップさせている長谷部誠。

 彼については、まず友人のドイツ人ジャーナリストのコメントから入りましょうか。わたしも、彼のドイツでの(エキスパート連中の)評価が気になっていますからね。

 「ハセベはいいよ・・テクニック的にも高いモノを持っているし、何といっても戦術眼がいい・・まあ、アタマがいいプレーをすると言った方がいいかな・・」

 そうだね・・。豊富な運動量は言うまでもなく、テクニック的にも、十分にやっていけるモノを持っていることは確かでしょう。ただ、それよりも、長谷部の場合は、戦術的な能力の方(インテリジェンス)が際立っているに違いない。

 守備でも、攻撃でも、長谷部誠ほど組織プレーの何たるかを深く理解し、全力で実践しているプレイヤーはいない。勝負はボールがないところで決まる・・とか、互いに、使い、使われるメカニズムとか、相互信頼のベースは高い守備意識にあり・・とかネ。

 このことについては、ギド・ブッフヴァルトともよく話し合ったモノです。究極のチームプレイヤーであるギド・ブッフヴァルトが全幅の信頼を置いていた長谷部誠・・っちゅうことです。そう・・長谷部は、しっかりと自分自身で「仕事を探せる」プレイヤーだということです。別な表現では、完璧な「自由」を与えても大丈夫なタイプの(それに見合った能力を有した)選手であるとも言える。

 まあ、長谷部誠は「玄人好みの選手」ということになるかもしれませんね。他のドイツ人ジャーナリストも、そのことにアグリーでした。「そうそう・・派手なプレーをするわけじゃないけれど、要所にはしっかりと顔を出すし、そこでビビらずに勝負もしていける・・あのクレバーで滅私的な自己主張は信頼に足るし、そのハイレベルな組織プレーには、舌鼓を打つよな・・ヴォルフスブルクでは、マルセリーニョがビッグスターだけれど、その彼が、ハセベを捜してボールを渡すというシーンが多いんだよ・・要は、マルセリーニョが、ハセベならば、オレが次で欲しいスペースをしっかりと理解し、そこへボールを回してくれると確信しているということだな・・まあ、ヤツに信頼されることには、チームのヒエラルキーからいっても重要な意味合いがあるはずだよな・・」

 でも逆に、こんな意見もありまっせ。「でも彼は、ちょっと線が細すぎるかもしれないな・・身体を駆使した競り合いじゃ、身体の大きなヨーロッパ人に負けてしまうシーンの方が目立つんだよ・・何といっても彼はヨーロッパ以外の外国人だからな(その外国人に対しては、チーム保有人数とプレーする人数に制限がある)・・それ相応の特別なパフォーマンスが求められるし、チームメイトもそれを期待する・・その視点じゃ、まだまだ十分にアピールできているとは言い難いよな・・」

 フムフム、ナルホド。その意見も、よく分かる。とにかく長谷部誠には、臆することなく(まあ、彼にはそんな言葉を掛ける必要なんて全くないだろうけれど・・)全力でのチャレンジをつづけて欲しいということですかね。彼には能力がある・・それを最大限に開花させ、世界へ向けた本物のブレイクスルーを達成することが、彼のミッションだということです。

 それにしても、あのゴールは凄かった。彼の気迫が、そのまま乗り移った、ラストトラバースパスへの「最後の寄せ」でした。まあ、ファールギリギリのプレーだったのは確かだったよね(長谷部も、ファールを取れられても仕方ないと思ったのか、ゴールした後、すぐに副審の判断を確認していた・・)。とにかくこのゴールは次の自信リソースになるに違いありません。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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