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2008_日本代表・・勝ち越しゴールまでの沈滞サッカーにこそ「リスクチャレンジ」というテーマが見える・・(日本vsタイ、4-1)(2008年2月6日、水曜日)

「アタマでは分かっていたつもりだったが・・やはり公式戦は厳しい・・」

 記者会見の冒頭で、岡田監督が絞り出すように語っていました。正直な人だ。いや、正直というよりも、自分自身に対する深い確信があるからこその素直な(余裕のある)コメントなんだろうね。とはいっても、そんな厳しい状況のなかで、もっとも重要だと考え、十二分の準備を積み重ねてきたセットプレーから三点を奪って初戦を勝ち抜いた。それはそれで、高く評価できる。とにかく、良かった。

 とはいっても、終わりよければ全て・・ってなワケにゃいかない。

 要は、山瀬功治のスーパードリブル突破をキッカケに奪ったラッキーな二点目(勝ち越しゴール)までの、課題山積みの鈍重なパッシブサッカーのことです。

 「先制ゴールさえ奪えればな何とかなると思っていたが・・でも甘かった・・引いて守る相手に対し、スペースがないから詰まってしまう・・そして動きが止まってしまう・・ハーフタイムには、いくら選手の密度が高くても、とにかく主体的に動いてスペースを作り、そこを別の味方が使うというプレーを積み重ねていかなければ、この詰まった状況は打開できないと言った・・」

 岡田監督がそんなニュアンスのコメントを出していたわけだけれど、それは非常に重要なポイントでした。だから聞いた。「そのような展開になることは事前に予測されていたと思うのだが、その打開策について、詰まったら、(具体的な選手名も含め)とにかく主体的に動き出すことで全体的なゲームの流動性を活性化しなければならない等の具体的な指示はゲーム前にされましたか・・」

 その質問に対しては、短く「そのような指示はしなかった」ということだったけれど、とにかく一点さえ取れれば(それもセットプレーで)というゲーム展開イメージが、遠藤のスーパーフリーキックで現実のものになったのだから・・。でもそれは、肉を切らせて骨を断つというワールドカップ地域予選では甘かった。岡田監督自身が言っていた通りにネ。「だからこそ、このゲーム展開を良い学習機会としたい・・」というニュアンスの発言で答えを締めていた。フムフム・・。

 攻撃に詰まった(動きのない)状況。要は、タイ守備ブロックにとっては、常に前を向いてボール奪取勝負を仕掛けていけるという、まったく怖くない沈滞状況のこと。もちろん日本は何とか打開していかなければならない。例えば、主体的にゲームを流動化させる(とにかくゲームを動かす)ことで攻撃の変化を演出していくとかね。

 誰でもいいから、とにかくまずしっかりと動くことで自らスペースを作り出せば、味方がそこを使える。そして逆のゾーンに出来たスペースへボールを展開する。そんな集中(接近!?)コンビネーションからの展開プロセスを「連続」させていくのが基本的なイメージだろうね。

 例えば、高原が繰り返していたように、最前線プレイヤーが爆発的に戻ってタテパスを受けるという状況。そして、その選手が作り出した最前線のスペースへ、後方の味方が飛び出していく。そこへタテパスが通り、ダイレクトで落としたボールが逆サイドへ展開される・・などなど。

 でも、そんな活発な動き(人とボールの動きによる変化の演出)が、二点目が入るまでは、ほとんど出てこなかったのですよ。要は「解放」されるまでに時間が掛かり過ぎたということだね。

 解放・・。最後の20分間は、タイの選手が一人退場になったこともあって、組織的な攻撃プレーのコンテンツが大幅に改善しました。意志のチカラを絶対的なベースに、人とボールがよく動きつづけた。そして、「ホンモノの」リスクチャレンジも連発した。でも、そんな「解放サッカー」が展開できるまでの紆余曲折は、やっている方だけではなく、観ている方にとっても、大変なストレスだった!? フ〜〜

 この「解放」までの沈滞サッカーでは、大久保嘉人が、大きなブレーキになっていたと思っている筆者です。そう、最前線のフタ・・。とにかく動かない。私が作り出したキーワードを使えば、強烈な意志の発露としての「全力ダッシュ」が、あまりにも少なすぎるということになります。攻撃においても、守備置いても。相方の高原直泰は、素晴らしい汗かき全力フリーランニングを繰り返していたのに・・。

 たしかに大久保嘉人は才能に恵まれています。ドリブルでも、決定的なシーンで抜け出す勢いにしても、はたまた(高原へ送った)ダイレクトスルーにしても、局面では良いプレーをする。そんな「部分的なプレー」は、たしかにチームにとってはプラスでしょう。ただ全体的な内容を「相殺」したらどうだろうか。わたしは、組織プレーにとってはマイナス要因が大き過ぎると思っているのですよ。

 これについては、皆さんも、もう一度ビデオを見直してみてください。あれだけの才能があるのに・・と、残念に思うこと(腹が立つこと!?)請け合いですよ。守備にしても「アリバイ傾向」が明白だし、攻撃でも、ボールがないところでの汗かきのフリーランニングがほとんどない。ボールがないところでしっかりと動き、シンプルな組織パスプレーを積み重ねるからこそ、彼の才能が発揮できる、有利なカタチでの「個人勝負シーン」を仕掛けていくことができるのに・・。

 勝ち越しゴールが決まるまでは、大久保嘉人が最前線でスペースを潰しつづけていたから、遠藤保仁(ヤット)、中村憲剛、そして鈴木啓太で構成する「ダイナミック・トライアングル」も、うまく機能しなかったという体たらくだったのです。だからこそ(大久保嘉人が二列目に下がったこともあって!?)、最後の20分間の、彼らがコアになったダイナミックブレーが目立ちに目立っていた。

 ところで・・鈴木啓太が「ワンボランチ」だって〜〜!? 何言ってるの。この「ダイナミック・トライアングル」ほど、高質な「守備意識」を備えた中盤トリオはいないのですよ。彼らは、臨機応変にトリプルボランチにもなるし、トリプル・オフェンシブハーフになったり、トリプル・センターハーフにもなったりする。今の代表チームを支える絶対的ジェネレーターは、このダイナミック・トライアングルなのです。

 さて最後に、代表チームのミッションについても、ほんのちょっとだけ触れておこう。要は、日本サッカーを引っ張る「イメージ・リーダー」としての代表チームのタスクについてです。

 考えて走るサッカー・・守備意識・・人とボールが動きつづけるサッカー・・攻守にわたる数的に優位なカタチの演出・・「接近・展開・連続」・・相手との接触なしでシュートまで・・などなど、とにかくキーワードは多い。でも、それらをリンクする最も大事なテーマは、やはり「リスクチャレンジに対する意志」ということになるだろうね。

 前にスペースがある・・そこへ抜け出していくことは、自分がマークしていた相手をフリーにしてしまうことを意味する・・それでも勇気をもって抜け出していく・・。ものすごく単純化したけれど、それこそが「ホンモノのリスクチャレンジ」であり、それがなければ、決して発展ベクトルに乗ることはできない。もちろんそれは、途中でボールを奪われたら、全力で戻るという覚悟を前提にした「前向きなチャレンジ」です。

 ただ、特に日本人の場合、監督が「注意深く、バランスを取って攻め上がろう」なんて一言でも匂わせたら、選手がリスクへチャレンジしなくなるのは目に見えている。「行かなければ」決してミスをしない(ネガティブに目立つことはない)のがサッカーだからね。でも、だからといって、状況を考えずに行きっぱなしになるのは、単なる無責任な蛮勇だから、それもマイナス。

 だからこそ監督は、(相手にボールを奪われた次の瞬間のディフェンスへの全力バックなどに代表される)守備意識を強烈に刺激しながら、(本物の)リスクへチャレンジさせる方向へ「常に、少しずつ重心を移しながら」ギリギリのところで心理マネージメントを展開しなければならないのですよ。それこそが本物の「バランス感覚」っちゅうことです。そして、それがあるからこそ、本当に意味で、日本サッカーの「イメージ・リーダー」として機能することが出来る。

 難しいテーマだけれど、まあ、このことについては拙著を参照してください。乱筆・乱文・誤字・脱字・・ゴメンなさい。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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