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2011_U22_・・素晴らしく積極的に前へ仕掛けてきたシリア・・だからこそ最高の学習機会になった・・(U22日本代表vsシリア代表、 2-1)・・(2011年11月27日、日曜日)

「このゲームは、肉食系チームと草食系チームの対戦という構図もありそうな感じがする・・」

 わたしの質問は、そんな表現から入りました。その瞬間、関塚隆監督が、「エッ・・何ソレッ!?」ってな表情と態度を露(あら)わにした。

 わたしが質問に込めたかった骨子は、シュートへの積極性という視点でした。

 要は、シリアの方がより積極的にシュートにトライしていた・・たしかに日本チームは組織サッカーでシリア守備を崩して何度も決定機を作り出したけれど(決定的チャンスの量と質という視点では、完全に日本チームがシリアを凌駕していた!!)・・ただ、こと「シュートを打つ姿勢」というテーマに絞れば、もっともっと積極的にチャンスを狙っていくというどん欲な姿勢も大事ではないのか・・ということでした。

 でも、どうも質問の入り方(表現)が無神経になってしまったようで・・。いま考えれば、関塚隆監督が、ちょっと引っ掛かったのもよく分かる。

 何せ日本の若武者たちは、局面でのボールを巡るせめぎ合い(球際)では、勇気をもって、本当に立派な闘いを展開していたわけだからね(関塚隆監督も、その点を強調していた!)。

 「その部分」では、まさに両チームともに肉食系のチームだった。だから、わたしの質問の表現は、たしかに無神経だったと反省しきりになった次第。関塚さん、ゴメンなさい。

 でも関塚さんは、そんな無神経な質問にもかかわらず、(まあ周辺情報に関するコメントも含めて多くを語ってくれちゃったわけだけれど・・無神経な私へのリベンジ!?)しっかりと大事なポイントだけは押さえていたよね。そう・・、組織プレーと個人勝負プレーのハイレベルなバランス。

 関塚コメントでの周辺的なハナシだけれど、それは、究極はしっかりと守って攻め切れるサッカーという理想論から若手育成システムのハナシにまで及んだのですよ。とはいっても、そんな(私に対する当てつけの!?・・アハハッ・・)語りのなかで、随所に、エッセンスも散りばめていたっけ。

 そのなかでも聞き逃せなかったのが、「もちろん、どん欲に、積極的にシュートを打つという姿勢はとても大事・・ただし、同時進行は、そんなに簡単ではない・・」という短いフレーズだった。

 同時進行は、そう簡単ではない・・というフレーズの意味合いだけれど、多分それは・・

 ・・組織プレーを絶対的なベースに、チーム戦術のイメージ作りをしていくプロセスで、より積極的に(個の勝負というニュアンスも多く内包する!?)シュートにチャレンジさせるという方向性(心理ドライブ)も同時にミックスしようとした場合、よほど上手くコーチングのやり方をマネージしていかなければ、組織プレーと個人勝負プレーのバランスを極限まで高めるプロセスが理想的な軌跡から外れてしまう危険性もある・・だから今は、これまでのやり方を推し進める方が正解だと確信している・・ということだろうね・・

 まあ、関塚コメントに対する「この解釈」は、わたしの個人的なモノだから、関塚さんが言わんとしたことと乖離しているかもしれない。でも・・まあ・・そんなに外してもいないとも思う。どうですか・・関塚さん・・??

 このテーマを質問しようと思ったのは、シリア選手たちが魅せた、シュートすることに対する強烈な「意志の爆発」が素晴らしかったからです。何本あっただろうか、プロセスはアバウトでも、そんな中からブチかましてきた、誰もが息を呑むような強烈で惜しいミドル(キャノン)シュートが・・。

 それに対して日本は、例によって、人とボールが活発に動きつづけるスーパーコンビネーションからのスルーパスや、スペースを攻略してサイドから持ち込んだ正確なクロスで決定機を演出する。それは、それで素晴らしかった。私も、常日頃、そんな若武者たちのスーパー組織サッカーを賞賛しつづけたし、いまでも素晴らしいと思っている。それでも・・

 まあ、そんな見方について、関塚さんがどのように考えているのか聞きたかったということです。質問の表現がうまくなかったけれどネ・・あははっ・・

 試合だけれど、特筆に値するのは、何といっても、シリアが強引ともいえるくらい積極的に仕掛けつづけていたことです。

 彼らは、本当に積極的にゴールを奪いに仕掛けてきた。だからこそ、日本の若武者にとって、この上ない学習機会になった。(関塚さんが言う)球際での勇気をもったボール奪取勝負への取り組みという視点でも・・若武者たちの、自信と確信レベルを高揚させるという意味合いでも・・

 それ以外にも・・素晴らしい機能性を魅せた扇原貴宏と山口螢の守備的ハーフ(チームの重心)コンビのプレー(二人は同じセレッソのコンビ!)・・攻撃のコンビネーションシーンでは、多くのケースで、この二人のうちの一人がキーパーソンだった(ラストパスやシュートに絡みつづけた!)・・

 ・・大迫勇也は、もっともっと個の勝負を仕掛けていい(後半になってやっとドリブル勝負を仕掛けていった)・・山田直輝は、この試合でも、素晴らしい組織プレイヤーとして存在感を発揮しつづけた・・

 ・・大津祐樹は、関塚さんが言うように、結果を残さなければいけない本場での毎日を通して自然と培われる「どん欲さ」が、チームにも好影響を与えている・・等など・・とても多くのテーマが内包されていたと思う。

 まあ、それらのテーマについては、また機会を改めて・・。

 最後になりましたが、シリアの監督さんと、記者会見でこんなコミュニケーションがあったので、そのことも記しておくことにします。

 「シリアは、本当に素晴らしい、賞賛に値する積極的な闘いを展開したと思う・・そのことを大前提に、一つだけ質問したいことがある・・日本選手がケガをしたことで、日本がボールをタッチラインの外へ出したシーン・・治療の後のスローインから、シリアの8番がボールをもった・・普通だったら、日本のキーパーへボールを返すだろう・・ただ彼は、日本陣内の深いゾーンのタッチラインへ蹴り出した・・もちろん日本のスローイン・・そこで、その8番の選手が、チームメイトたちに、日本のスローインを奪うぞ・・もっとプレッシャーを掛けるぞ・・と鼓舞した・・ただ、シリアのチームメイトたちは、その鼓舞に乗らなかった・・それは、それでポジティブに思うのだが・・監督さんは、この現象を、どのように考えるか??」

 しっかりと頷きながら通訳を聞いていたシリアの監督さんが、質問に対して、こんなニュアンスのコメントをくれた。それを聞いた私は、ちょっと爽快な気持ちにさせられた。

 「そのシーンは、わたしもよく覚えている・・その選手の行為に対しては、わたしも不満だ・・シリアは日本に対して敬意を持っている・・日本のサッカーは近代的だし、とてもクリーンだ・・我々も、そんな日本を目指して進化していけることを願っている・・ところで、試合中のその行為だが、帰ったら、その選手と話し合い、注意しようと思う・・」

 そして監督さんと、同席したチームマネージャーの方(!?)が、私を見た。だから、思わず、頭を下げた。そうしたら、お二人とも、同時に頭を下げてくれた。とても爽やかな感覚が残った。どうも、お疲れ様でした・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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