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2012_高校サッカー決勝・・サッカーは意志のスポーツ・・(市船vs四中工、2-1)・・(2012年1月9日、月曜日)

「その時間帯はコーナーキックがつづいていたこともあって、あ〜(やっぱり!?)やられてしまった!・・というのが正直なところでしたかね・・もちろんその直後には(気持ちを入れ替えて!)延長戦に臨むためのイメージを準備していましたよ・・」

 四日市中央工業の樋口士郎監督が、「後半ロスタイムに同点ゴールを叩き込まれたときの正直な思いを表現していただけませんか・・?」という、ちょっと無神経な(!?)私の質問に対して、とても誠実に、そう応えてくれた。感謝でした・・

 この試合は、期待に違わず、希にみるドラマチックな展開(仕掛け合い)へと成長していきました。

 開始早々の前半1分、四中工がコーナーキックから先制ゴールを奪い、その後も、素早い攻守の切り替えから全体的なゲームの(勝負の)イニシアチブを掌握しつづける。

 ただ後半の市船は、フッ切れた。朝岡隆蔵監督が、選手の意志をアップさせる心理マネージメントも含めた(何らかの!?)修正を加えたことで、俄然、彼らのサッカーが積極的なモノへと高揚していったのです。その絶対的なベースは、もちろん守備(ボール奪取プロセス)にあり。

 市船が魅せた、ボールを四中工に奪われてからの素早い切り替えと全力のチェイス&チェック、はたまた、爆発的なダイナミズムを内包する効果的カバーリング、そして局面でのボール奪取の競り合いは、とても、とてもインプレッシブだった。

 だから、その後の攻撃に勢いが乗っていくのも道理。そして遂に、後半ロスタイムに市船が追い付き、その勢いを、延長戦での決勝ゴールに結びつけた。

 そんな展開を観ながら、やっぱりゴールだよ、ゴール・・それこそが、さまざまな「変化」を生み出す決定的なエネルギーを供給するんだ・・なんてことを思っていた。あっと・・ここで言うゴールは、もちろん、ゲーム開始早々に四中工がブチ込んだ先制ゴールのことですよ。そして(特に後半の)市船には、もう失うモノは何も残されていなかった。

 ・・積極的に人数を掛けてガンガン仕掛けつづける市船・・ボールを奪い返されたら(カウンターのピンチでは!)例外なく誰でも、まさに全力スプリントで守備に参加する(最初のチェイス&チェックの勢いが素晴らしい!)・・そしてその背後に控える素晴らしいセンターバックコンビが、抜け出してきた四中工の「仕掛け人」たちを、ことごとく潰しつづける・・

 四中工は、たぶん市船を超える攻撃の才能を備えていると思う。それでも、後半の彼らは、まったくといっていいほど市船の「背後スペース」を攻略できなかった。もちろん何度かはシュートチャンスを作り出した。でも(ゴールにつながる)可能性は見るからに限定的だった。

 後半の市船だけれと、彼らのダイナミズム(活力、迫力、力強さ・・など)は、どんどんと加速していった。私には、彼らが、チームとして(追い詰められたからこその!)本物のブレイクスルー領域へ突入している・・と感じられた。

 それは、「次に備える」戦術サッカーなどとは次元の違う、とにかく『攻守にわたって』全力で仕掛けつづける、極限の積極サッカーのことだ。一人の例外もなく、全員が、攻守にわたって「次・・その次」をイメージし、積極的に全力のアクション(ハードワーク)を繰り出しつづける。

 市船が魅せつづけた『意志エネルギーの連続爆発』は、守備から攻撃、攻撃から守備へと、まさに間断なく連鎖していった。そして、だからこそ、自分たちのサッカーが次のステージに入ったことを体感し、その「勢い」も加速していく。私には、そう感じられた。そんな体感が、ホンモノの自信と確信として脳内にストックされないはずがない。

 選手を次のステージへと誘う『ロジックを超えた意志の爆発・・』。このコラムで言いたかったことは、その一点に絞り込まれますかね。

 仲間のジャーナリストの方から、「湯浅さん・・久しぶりに高校サッカーの醍醐味に舌鼓を打ちましたよね〜・・」なんていう声を掛けられた。

 そうだね・・。たしかに「そこ」には、ロジックが主導するのではなく、あくまでも「強烈な意志」が先行する、ホンモノの「自由な闘い」があった。不確実な要素が満載されたサッカーは、最後は「自由」にプレーせざるを得ない「意志のスポーツ」なのである。

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 ちょっとご無沙汰してしまいましたが、これからは、ヨーロッパを中心に様々なテーマを追いかけようと思います。

 そうそう・・。四中工の樋口士郎監督だけれど、彼もまた(ある質問に応えて)バルサの強さの根源はディフェンス(アクションが素晴らしいハーモニーを魅せつづける協力プレス守備!)にありと語っていた。

 まさに、その通り。世界中のサッカーシーンに、強烈な(そしてポジティブな)影響エネルギーを放散するバルセロナ。とても、とても貴重な存在です。でも、いつまで!? だからこそ、いまのバルサをしっかりと記憶に留めておかなければ・・

 日本にも、バルサのように、理想イメージのリーダーとして機能していたチームがいたよね。例えば、2000年あたりに素晴らしい組織サッカーを魅せつづけたジュビロとか・・。でもその記憶は、時間とともに薄れていった。だからこそ、記憶に留め、後世に伝える努力を怠ってはならないと思うわけなのです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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