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2012_なでしこ(アルガルベ杯)・・なでしこの立派なサッカーがゲーム展開を大きく逆流させた・・(なでしこvsドイツ、3-4)・・(2012年3月7日、水曜日)

立ち上がりは、二つの失点も含め、ホントにどうなることかと思った。でも・・

 ゲーム全体を通してみた場合(まあ・・最後はドイツのスピード&パワーにやられちゃったのは残念だったけれど・・)、なでしこが、ワールドチャンピオンの名に恥じない立派なサッカーを展開したという評価に異を唱える方はいないでしょ。

 何たったって、相手は、「あの」ドイツだからね。それにしても、ホントに、ものすごくエキサイティングで興味深いゲームではありました。

 昨年のワールドカップ準々決勝で日本に敗れたドイツは、同時に、ロンドンオリンピックへのチケットも失った。そのドイツが、因縁の日本と、決勝でぶち当たったわけだからね、モティベーションも天井知らずだったはず。

 立ち上がりのドイツは、そんな意地の「リベンジ・マインド」を、これでもかとブチかましてきた。もちろん、そんな「やったるゾ!」マインドは、ディフェンスに如実に現れてくる。

 とはいっても、そこはドイツ。決して、チカラまかせの猪突猛進ディフェンスじゃない。

 あくまでも、ドイツ的な「戦術ロジック」に裏打ちされたボール奪取プレー(クレバーで忠実な組織ディフェンス!)を仕掛けてきたのです。宮間あやや阪口夢穂といった「なでしこの動き」の中心になる選手への強烈なプレッシャーも含めて・・ね。

 要は、ドイツチームが、「なでしこ」得意の人とボールの動き(組織コンビネーション)を明確にイメージしながら、効果的に「追い込んで」いったということです。

 ・・素早く、パワフルで、忠実なチェイス&チェックをブチかますドイツ・・なでしこのボールホルダーのパスコースが限定される・・そして、次のパスレシーバーを(次の日本のパスを!)最高の集中力で狙う・・

 ・・ことほど左様に、立ち上がりのドイツ選手は、ボール奪取へ至るプロセスイメージを完璧に共有しつづけていた・・

 立ち上がりの時間帯、続けざまにタテパスをインターセプトされたり、トラップの瞬間を狙われて簡単にボールを失うといったネガティブなシーンが連続したことで、全体的に下がり気味になって足が止まり(消極ヴィールスの蔓延!?)人とボールの動きも停滞しはじめてしまう「なでしこ」だったのです。

 そんなだったから、ドイツに押し込まれ、何度もスペースを攻略されてしまうのも道理。とにかく、2点目をブチ込まれた前半25分あたりまでは、ホントにどうなってしまうのかと心配になるほどドイツに押し込まれつづけてしまった。

 ところで、「相手に押し込まれる」という現象だけれど、それは、ディフェンスで圧倒され、ボールを失いつづけたからに他なりません。

 ・・だから、押し上げていくマインド(意志)を活性化させられない・・そして、次の攻撃に「人数」をかけていけないことで、前戦へパスを出しても、インターセプトされたり、次のパスレシーバーが狙われて簡単にボールを失うといったネガティブサイクルに陥ってしまう・・

 ・・そう・・心理的な悪魔のサイクル・・

 あっと・・、またまた「前段」が長くなってしまった。スミマセ〜ン・・

 さて、ということで、2点目を失ってからの「なでしこ」の大反抗という興味深いテーマに入っていきまっせ。そこでの彼女たちは、まさに日本のアイデンティティー(誇り)だったね。

 そんな「ゲーム展開の逆流現象」を生じさせたバックボーン。それは、何だったんだろう・・

 2点のリードを奪ったことでドイツの気合いレベルが減退していった!? 逆に「なでしこ」は、2点もブチ込まれたことで、何も失うモノがなくなった(解放され、後ろ髪を引かれることのない積極サッカーへ転じた)!? さて〜・・

 とにかく、そこら辺り(その時間帯)から、全体的な運動量で「なでしこ」を凌駕していたドイツ選手のプレッシングのダイナミズム(要は全体的な運動量)が、目に見えてダウンしていったことは確かな事実だったのです。

 逆に、フッ切れた日本の、攻守にわたる活動量が格段にアップしていった(攻撃に人数を掛けていけるようになったから、局面コンビネーションも効果的に機能しはじめた!)。

 それは、ドイツのペースが減退したから、そう見えた!? それとも、日本のフッ切れたペースアップ(攻守にわたるダイナミズムの高揚)によって、ドイツの勢いが殺がれていった!? さて〜〜・・

 まあ難しい評価だけれど、それらすべての要素が絡み合い、複雑に作用し合っていたっちゅうことなんだろうね。そして後半も、そんな「なでしこペース」のゲームがつづくのですよ。

 佐々木則夫監督は、後半の立ち上がりから、3人の選手交代を仕掛けていったわけだけれど、私の眼には、阪口夢穂と守備的ハーフのコンビを組む田中明日菜の投入が、とても重要だったように映っていました。

 田中明日菜の投入は、同時に、宮間あやを、本来の自由なハーフの役どころへ戻す・・ということを意味していた。そして、組織的なショートコンビネーションだけではなく、ウラのスペースへロングパスを送り込むシーンも格段に増えるなど、「なでしこ」の全体的な人とボールの動きが(より)活性化し、彼女たちの自信と強烈な意志が甦(よみがえ)っていった。

 とにかく、2-2の同点に追い付いたときは、なでしこが決勝ゴールをブチ込むのは時間の問題・・とまで感じられたモノでした。それが・・

 結局は、ドイツのスピードとパワー、そして高さに(一発勝負に)やられてしまった!? まあ、そういうことなんだろうね。そこに、オリンピックへ臨む「なでしこ」の課題もある!?

 ・・例えば・・アーリークロスや、タテへの一発ロングパスを簡単に入れさせない(相手のスピードに振り切られてしまうようなシーンを作らせない)・・ヘディングの競り合いシーンでは、勝てないまでも、常に、しっかりと身体をあずける・・等など・・

 まあ、言うまでもないことだろうけれど・・ね。

 とにかく、またまた立派なサッカーで世界へアピールし、日本のアイデンティティー(誇り)になった「なでしこ」に、賞賛と感謝の気持ちが絶えない筆者なのでした。

PS:機会があったら、(この試合でも、攻守にわたって、素晴らしい組織プレーと個人勝負プレーを魅せつづけた!)永里優季のポジティブなイメチェンというテーマについて、そのキッカケをマネージしたに違いない(!?)佐々木則夫監督と話してみたいですね・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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