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2010_WM(13)・・ちょっと雑感・・また、確固たる「スタイル」に裏打ちされた両チームのサッカーというテーマも・・(ウルグアイvsメキシコ、1-0)・・(2010年6月22日、火曜日)

二日もつづけて(キックオフが遅いから!)ゆっくりと起き出した。ヨハネスブルク近郊にある、緑に囲まれたB&B(Bed & Breakfast)での朝のひととき。とてもリラックスして過ごせました。

 リラックスできた!? そうなんです。数日前だったら考えられない。とにかく、ヨハネスブルク周辺の高原地域が、10数年ぶりの強烈な寒波に襲われただけじゃなく、そこが海抜1500メートル前後ということで、日本対オランダ戦が行われたインド洋沿いのダーバンよりも、摂氏で15度ちかくは気温が低いのですよ(一般的には、高度が100メートル上がるごとに気温が一度さがるといわれている!?)。

 そんなだから、ヨハネスブルクに到着した最初の数日間は、部屋の中が、まさに冷蔵庫状態(ちょっとオーバーですかネ・・)。厚い羽毛の掛け布団と毛布を掛けても寒くて目が覚めてしまうのです。だから、羽毛のダウンジャケットを着て、再び布団に潜り込むのだけれど、今度は、暑すぎて汗をかき、それで起きてしまう。フ〜〜・・

 もちろん夜の観戦も、とても厳しいものでした。そのときの気温は、たぶん零度を下回ったこともあったに違いない。あのタフなヨーロッパのジャーナリスト連中も、寒さで震え上がっていた。

 でも、そんな強力な寒波が、昨日あたりから移動しはじめた。昨日の朝食の際、分厚いコートを着込んだオーナーの奥さんが、こんなことを言っていた。「ホント・・こんなに寒いのは異常よ・・わたし、凍え死ぬかと思ったわ・・でも明日あたりからは普段の状態に戻っていくはずだから・・」と、コートの襟を立てるのです。

 そうネ〜、今日は、「いやいや奥さん、もうコートの襟を立てる必要なんてありませんよ・・」ってな軽口まで出てきそうなくらい暖かな日になりそうな予感がします。あっと・・それが「普通」なのか・・だから、バンガロー風の大きな客室に、小さな電気ストーブ一つしか備えられていないというわけか・・。

 とにかくこれからは、気候的にも快適な日々をおくれそうな予感に、ウキウキした気持ちで、メキシコ対ウルグアイ戦が行われるルステンブルクまでやってきたというわけです。

 この試合、その背景ニュアンスはとても微妙です。というのも、お互い、引き分ければ、まさに望みどおりの結果になるからね。ウルグアイが一位抜けで、メキシコが二位。メキシコは、アルゼンチンと当たることになりそうだけれど、彼らにとっては「望むところ」らしいから、互いにリスクを冒さずに決勝トーナメントへ・・なんてマインドで暗黙の了解が取れていたりして!? さて・・

 そんな状況を考えたとき、すぐに脳裏に浮かんでくるのが、1982年スペインワールドカップのグループリーグ第一ラウンド最終マッチ、ドイツ対オーストリア戦。オーストラリアじゃなく、ドイツの隣国、ドイツ語が母国語のオーストリアですよ。あっ・・スミマセン・・皆さんには必要ない余計な注釈を入れてしまって・・あははっ・・。

 その試合だけれど、前半8分にドイツが先制ゴールを入れた後の残り82分間、お互いにロングボールを蹴り合うだけで、積極的に攻め込むことなく、そのまま「1-0」でドイツが勝利してしまうのですよ。その結果、この両チームが決勝トーナメントに進出した。それに対し、同じ勝ち点だったけれど、得失点差で(グループリーグ初戦でドイツを破った)アルジェリアは涙を呑むことになった。そして、世界中から「遣(や)らせマッチだ!」という非難がゴウゴウと飛び交うことになった。フムフム・・

 とにかくこの試合は、そんな視点でも興味を惹かれるゲームになりそうな予感がしているのは私だけではないに違いありません。

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 さて、ということで実際のゲーム。

 結論からいえば、私の「仮説的な可能性」は完全な杞憂でした。というか、バカなことを考えたものだって反省しきりでした。もう一つのカード、フランス対南アフリカのゲームの結果によっても、もちろん、「とても薄い」順位入れ替えの可能性は残っているけれど、冷静に考えてみたら、そんなことまでコントロールできるはずがないよね、ホントに・・。

 とにかく、両チームのプレー姿勢には、ベストを尽くすことで、世界へのアピールの機会を活用し尽くそうという強烈な意志が迸(ほとばし)っていた。そして私は、それを観ながら、またまた「遣らせマッチ」なんていう発想を、スポーツマンとしても、大反省していたのでした。

 さて、メキシコ対ウルグアイ。

 たしかに立ち上がりの数分間は、両チームとも(何かを勘ぐる我々へのアピールの意志も込めて!?)ガンガンと攻め合った。そこには、本気のガチンコ勝負という雰囲気が満ちあふれていた。

 でも、10分もしてゲームが落ち着いてからは、両チームの特長(チームに浸透する共通のチーム戦術イメージ)がグラウンド上に投影されていた。

 正確に素早くパスをつなぎながらボールを支配し、そのなかからタテへの勝負パス(急激なテンポアップ)の可能性を突き詰めるメキシコに対し、彼らの仕掛けの意図を読みながら、次、その次のスペースに狙いを定めた「クリエイティブなボール奪取勝負アクション」を積み重ね、そして蜂の一刺しカウンターを狙う「我慢強いウルグアイ」というゲームの構図が見えてきたわけです。

 それにしても、ウルグアイが魅せつづける「有機的なプレー連鎖の集合体」とも言える創造的なディフェンスは素晴らしい。

 もちろん、メキシコの、着実なボールキープからの(チーム全体のパス回し自体が壮大なタメ!!)、選手たちの仕掛けイメージがハイレベルに「シンクロ」した、爆発的なテンポアップをベースにした仕掛け(静から動への瞬間的な切り替え!)も、とても効果的に機能していたけれど、本当の意味でメキシコがチャンスを作り出せたのは、右サイドからのクロスをヘディングシュートにつなげたシーンくらいだったことも確かな事実だね。

 とにかく、両チームともに、自分たちが、どのようなサッカーをやるのか・・というテーマに対し、全員が、まさに一人の例外もなく全員が、とても深く理解し、「それ」を実践できているという視点で、彼らには「スタイルがある」と言えるよね。それをヘリテイジ(文化的遺産!?)とか、アイデンティティー(自身ベースの統一感!?)なんて呼ぶんだろうか・・。

 とはいっても、この試合では、「ウルグアイのツボ」の方が存在感を発揮したことも確かな事実だった。フォルランがリードした蜂の一刺しカウンターから、最後はルイス・スアレスが、見事なヘディングを決めた先制ゴールも含めてネ。その決勝ゴールは、前半43分のことです。

 その後も、全体的にはメキシコにボールを支配されつづけているものの、肝心なところでは、危険なカウンターを仕掛けていったり、セットプレーでメキシコをピンチに陥れたりと、本物のチャンスの量と質でメキシコを凌駕したウルグアイでした。

 別な表現をしたら、メキシコに「攻めさせ」ることで重心を上げさせ、その背後を必殺のカウンターで突いていくウルグアイ・・ってな具合!? さて・・

 たしかにメキシコが仕掛ける、いくつかのダイレクトパスをつないでボールを素早く動かしつづける細かなコンビネーションは、とても魅力的だし、相手によっては、素晴らしい実効を発揮するんだろうね。でも、この日のウルグアイには、ほとんどといっていいほど通用しなかった。

 わたしは、最初の頃、メキシコのボールキープと、そのバックに潜む「仕掛けの意図(意志)」の方に集中していた。でも、時間が経つにつれて、ウルグアイのクリエイティブ守備と、その後の蜂の一刺しカウンターを仕掛けていくイメージの方に意識を引きつけられていた。フムフム・・

 この試合については、こんなところです。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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