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2010_WM(5)・・北朝鮮の守備でのガンバリが、ブラジルの本領を呼び覚ました!?・・そして「忍耐」というテーマも・・(ブラジルvs北朝鮮、2-1)・・(2010年6月15日、火曜日)

実はこのコラム、昨夜のうちにアップすることが叶いませんでした。ホテルで書いていたときに襲われた睡魔があまりにも強烈だったことで、途中でメゲてしまったという体たらく。まあ・・もう若くない・・っちゅうことなんだろうね・・フ〜〜ッ・・。ということで、書きかけのコラムのつづきです・・

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今日は、昨夜一泊したブルームフォンテーンのホテルから、朝一で、ワールドカップの最後まで投宿する予定のホテル(B&B)がある、ヨハネスブルク近郊のミッドランドという地域へ向かいました。このお宿の環境が、とてもいいのですよ。今度あらためて、写真付きで紹介します。とはいっても、とても寒く(零下にもなろうかという気温にもかかわらず、大きめの部屋には小型の電気ストーブが一つだけしかない!)、インターネット接続も、まったく安定しない・・フ〜〜・・なのです。

 ということで、またまた400キロの移動。途中で、ヨハネスブルク国際空港へ立ち寄り、預けてあったスーツケースをピックアップしたり、携帯型ナビゲーションを購入したりと(30日間借りつづけるよりも安いということが分かったので購入・・また、日本で使えるかもしれないしネ・・)またまた、追い立てられるようにバタバタと所用をこなしていった。フ〜〜ッ・・

 そして、一度ホテルに(B&B)入って荷物を整理し、シャワーを浴びた後、そそくさと、本日のゲームが行われるヨハネスブルクの「エリス・パーク・スタジアム」へ向かった次第。スタジアム観戦するのは、ブラジル対北朝鮮のゲームです。

 彼らが属する「Gグループ」は、とても厳しい組み合わせ。今日その初戦の2試合が行われたというわけです。

 最初は、コートジボワール対ポルトガル戦(私はプレスルームでテレビ観戦=そのこともあって、そそくさと用事を済ませて早めにスタジアムへ向かったのでした)。そして、そのゲームにつづいて、ブラジルと北朝鮮が、エリス・パーク・スタジアムで対峙したというわけです。その勝負マッチは、コートジボワールとポルトガルが「0-0」で引き分けたことも微妙に絡んでくるから、とても興味深かった。

 何といっても、このグループでは最弱と見られている北朝鮮が相手だからね、ブラジルは、そこで勝ち点を落とすわけにゃいかない。だから、ボールを支配しながら積極的に仕掛けつづけた。でも、北朝鮮が敷く、人数を掛けた分厚いディフェンスブロックの忠実なガンバリによって、そうは簡単に、ウラのスペースを攻略できない。

 北朝鮮の「ガンバリ」。それは、忠実でダイナミックなチェイス&チェックを絶対的なベースに、決して安易に当たりにいかず、落ち着いてブラジルの攻めを遅らせることで数的に優位な状況を作り出し、協力してボールを奪いにいくという強い忍耐力をベースにした組織ディフェンスを突き詰めたプレーとも表現できますかネ。

 もちろんブラジルは、ボールホルダーが、局面で「タメ」ることによって北朝鮮のディフェンダーを「意図的に集中させ」、そのことで空いたスペースを、世界トップの個人(ドリブル)勝負や、素早いコンビネーション(後述)で攻略していこうというイメージだからネ、そんな北朝鮮の「守備のやり方」は、逆に、ブラジルの思うツボ・・とも言えるわけだけれど・・

 いやいや・・北朝鮮は、ワールドカップという巨大な刺激によって、集中力が極限まで高まっていたことで(!?)、ブラジルの意図を読み、次のスペースまでしっかりとイメージするような組織ディフェンスを、少なくとも前半は、ほんとうに素晴らしく機能させつづけていたのです。

 要は、カバーリングが素晴らしかったということだけれど、その守備アクションには、「個人の判断」レベルを超越し、守備ブロックが一つのユニットとして、ブラジルが意図する「次の攻略スペース」まで、組織的にカバーしていたと感じられるほどスムーズなハーモニーがあった。

 そんな北朝鮮の「組織ディフェンス」を見ながら、彼らがトレーニングで積み重ねてきた(・・に違いない)ディフェンスの組織的な機能性イメージが見えてきた。素晴らしい・・

 そんな北朝鮮に対してブラジルは、彼ら独特のリズムをベースにした組織パスプレーを駆使し、「それ」で攻め切ってしまったり(ラストパスからのダイレクトシュートが、その結晶!)、最後の個人勝負(その典型が、ドリブルシュート!)を、より有利に運べるように、素早く、そして美しく、相手守備の「薄い」ゾーンにボールを運んでしまう。

 そんな、「組織と個」が、この上なく美しくバランスしたサッカーが、時間の経過とともに、北朝鮮のディフェンスのリズムをも、自分たちの仕掛けイメージに取り込んでいくのです。フ〜〜・・

 ヤツらの場合、ドリブルを警戒しなければならない選手は、カカーとかロビーニョ「だけ」じゃないからね。そこがブラジルの凄さなんだけれど、とにかく全員が、忍耐強く「組織パスプレー」に徹し、ココゾッ!の勝負所で、秘めたる世界最高レベルの個の才能を光り輝かせるのです。誰でも、目の覚めるような危険なドリブル突破を繰り出していけるブラジル・・

 そんな、天才たちが(個人の欲望を)抑えに抑えて組織プレーに徹しているからこそ、ココゾッ!のドリブル勝負が、破壊的な効果を発揮する。

 わたしは、強いときのブラジルが内包する、もっとも重要なキーワードを、組織的な(相互信頼ベースの)忍耐力と定義することに躊躇(ちゅうちょ)しません。

 天才連中が、攻守にわたる「滅私奉公アクション」を繰り広げる・・そんな汗かきのチームワークプレーに対する相互信頼があるからこそ、局面での個人(ドリブル)勝負が、素晴らしい実効を発揮する・・だからこそ、組織コンビネーションにも、世界最高の内容が伴っていく・・

 これだったら、我々サッカーコーチが追い求める、「美しく勝つ」という究極のサッカーを世界に指し示せるだろうね。ドゥンガ監督は、やはり素晴らしい仕事をしていた。

 ところでブラジルの組織コンビネーション。一度はじまったら、もう誰にも止められない。

 ワン、ツー、スリー、そしてフォーというリズムのダイレクトパスをつなぎながら、そのなかに、北朝鮮ディフェンダーが描く「守備イメージ」を完璧に凌駕して、そのイメージのウラを取ってしまうような美しい「ダイレクトヒールパス」を繰り出していく。

 もちろん「それ」は、パス&ムーブだけではなく、三人目、四人目の忠実なフリーランニング(ボールがないところでの忠実な人の動き!)という組織プレーのエッセンスが為せるワザなのです。わたしは、そんな、ブラジル選手たちの強烈な意志(あくまでも組織的な自己主張!)に、ドゥンガの強烈なパーソナリティーを重ねていた。

 後半のブラジルは、(ハーフタイムでのドゥンガの檄によって!?)組織プレーに対する「忠実マインド」が明らかにアップした・・と思う。

 それがあったからこそ、彼らの個の才能が、より先鋭化してグラウンド上に表現された。ドリブル勝負にしても、抜き去ってシュートするか、はたまた、コンビネーションを仕掛けていくのかラストパスを通すのか・・という柔軟なオプションがあることを、北朝鮮ディフェンダーに、より強く感じさせていた(より強い恐怖感を与えていた)。だからこそ、北朝鮮の「組織ディフェンス」の機能性が、疲労がつのってきたこともあって、みるみるダウンしていった。フムフム・・

 ということで、この試合でのテーマは、「忍耐」という一言に収斂していくのかもしれないネ。

 ブラジルの天才連中が魅せつづけた、(その先に見える!?)めくるめくスーパー個人勝負があるからこその忠実な組織(忍耐)プレー・・ワールドカップという巨大な刺激があるからこその(自分たちの存在を世界にアピールできるというモティベーションがあるからこその)究極の(文字通りの)忍耐・・

 でも・・まあ・・戦術的なオプションや、可能性の高い希望のある「あくまでも主体的」な忍耐と、「それしかない強制的」な忍耐とは、本質的な意味合いが違うかもしれないけれど・・。とはいっても、北朝鮮にしても、「あの追いかけゴール」に集約された期待や希望も、もちろん持っていたわけだから・・。さて・・

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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