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2010_WM(10)・・ ワールドカップという巨大な刺激(その4)・・(日本vsオランダ、0-1)・・(2010年6月19日、土曜日)

ウワ〜〜ッ!! そのとき、思わず頓狂な声を出してしまった。

 後半40分、カイトからベストタイミングのスルーパスが送り込まれ、これまたベストタイミングでオフサイドラインを駆け抜けたアフェライが、まったくフリーで日本ゴールへ迫っていったのです。誰もがオランダの追加ゴールを確信したシーン。でも最後の瞬間、ゴールマウスから飛び出した川島永嗣が、これまたベストタイミングで身体を投げ出すことで「人の壁」を作り、シュートされたボールを弾き出した。

 それだけじゃなく、その数分後にも、同じアフェライに決定的なシュートをブチかまされた。でも川島永嗣が、ギリギリのところでシュートを弾き、最後はトゥーリオがクリアした。そのときは、変な叫び声を出す余裕なんてなく、完全に身体がフリーズした。

 そんな決定的ピンチシーンの両方で、最後はガッツポーズを出せた。ほんとうに、ホッとした。何せ、追加ゴールを奪われたら、グループリーグ最終戦でのデンマークとの戦い方が、微妙に、変わらざるを得なくなるかもしれないからね。それに対して、この一失点だけで負けたら、この2試合で日本が魅せつづけた、守備と攻撃が、(これが大事なポイントだけれど・・いまの日本の実力レベルからすれば!!)とてもうまく『バランス』したサッカーを貫き通せるでしょう。

 ということで、ここで用いた「バランスサッカー」の意味合いは、受け身に「引いて」守備ブロックを固めるなんていう無様な「守備的サッカー」じゃなく、全員が、積極的なボール奪取をイメージし、主体的に、そしてダイナミックに(クリエイティブに)守備プロセスで機能するという『有機的なプレー連鎖の集合体』と表現できるディフェンス(ボール奪取プロセス)のことです。だから、次の攻撃で(ボールを奪い返した直後から)盛り上がるべきエネルギーが、必要以上に「殺がれる」ことがない。

 表現が、ちょっと難しいかな〜〜。そうか・・先ほど話したラジオ文化放送に出演したときに使った、こんな表現が分かりやすいかもしれない。

 「サッカーには、クロかシロかなんて明確に分けられるモノじゃないんですよ・・そこには、シロっぽいグレーか、ちょっとクロよりの濃いめのグレーかしかないんですよ・・要は、先日のカメルーン戦では、ちょっとシロ寄りで、このオランダ戦では、どちらかといったらクロ寄りのグレーっぽくプレーするっちゅうことです・・あっと・・要は、オランダ戦では、より注意深いディフェンスからゲームに入っていくということです・・でも、決して、消極的で受け身のサッカーをやるということではなく、次の攻撃では、出来る限り人数を掛けた攻撃を仕掛けていけることが大前提ですよね・・選手たちのマインドを、あまり守備方向へ引っ張りすぎちゃったら、次の攻撃での押し上げパワー(意志のパワー)も殺いじゃうから・・」

 いま、ゲームがはじまる前にラジオ文化放送で語ったことを文章に落としたんだけれど(ホントにオレってよくしゃべるよな〜・・アハハッ・・)、内容は、やっぱり難しいネ。

 自由であるからこそ、とても魅力的で錯綜した要素が、何重にも折り重なるように「相互に影響を与えつづける」サッカーだから、それを簡単な言葉で表現することほど難しい作業はない。まあ・・だからこそ私も、やる気満々で、この仕事をつづけられているわけだけれど・・(わたしの新刊は、自分で言うのも何だけれど、とてもよく書けていると思う・・読めば、戦術の仕組みがよりよく分かり、もっと深くサッカーを語り合えるようになること請け合い・・なのです)

 ところで、「ちょっとクロ寄りのグレー」というニュアンスで、とてもバランスの取れたサッカーを展開し、素晴らしく(あの強い!)オランダ代表をコントロールしていた日本代表だったけれど、結局、後半8分に、スナイデルに先制ゴールをブチ込まれてしまう。

 前半は(まあ・・全体的には)本当に見事にオランダを制御していた日本代表だったけれど、後半の立ち上がりは、ちょっと不安定だった。そうか・・、そんな不安定な流れは、オランダがガンガンと攻め上がってきたゲーム立ち上がりの(前半の)10分くらいまでも同じだったっけ。

 だから、ちょっと心配がつのったものです。でも前半も10分を過ぎたあたりから、日本が(守備意識を前面に押し出しながら)しっかりとオランダをコントロールするようにポジティブな展開になった。でも、後半の立ち上がりは・・

 この決勝ゴール。スナイデルのシュートを川島永嗣が弾きそこね、そのボールがゴールへ飛び込んでいってしまったわけだけれど、あのシュート場面では川島永嗣を責められないし、そのゴールプロセスでは、決して日本の守備ブロックが崩されたわけでもなかった。それは、左からのクロスボールが、不運に、強力なキャノンシュートを持つスナイデルの眼前に「こぼれて」しまったという偶発性の高いオランダの得点だったのです。

 そして、その失点から、ゲームが大きく「動き」はじめるですよ。日本が、よりリスキーに攻め上がりはじめたのです。そのタイミングで、松井大輔に代わって、中村俊輔も登場してきた。さて・・

 あっと・・松井大輔。これまで私は、松井大輔に対して、とても厳しい評価ばかりをしてきました。彼のボールがないところでの「サボリ」が許せなかったのです。あれ程の才能に恵まれているのに、それをドブに捨てているようなものだ・・ってね。

 松井大輔のベストプレーは、何といっても、イビツァ・オシムが監督を務めていた頃の、クラーゲンフルトでのトーナメントだった。トレーニング中から(互いにフランス語が堪能ということで)密にコミュニケーションを取っていた。そこでは、イビツァが、松井大輔に対して大声を張り上げたり、大袈裟なジェスチャーで、「それじゃ、ダメだろ〜〜ッ!!」って檄を飛ばしていたっけ。

 でも、その後の松井大輔は、まさに「鳴かず飛ばず」。フランスリーグの下位チームが展開する、「個」に偏った局面サッカー。それじゃ、攻守にわたる大局的な組織プレーをイメージすることなんて叶わないよな。もちろん、彼の個のチカラは認めていたけれど、ボールがないところでのハードワークができないのでは、ワールドカップにチャレンジする日本代表にとっての「実効ある戦力」にはなり得ない。

 そう思っていた。でもフタを開けてみたら、まさに「詐欺のように」、攻守にわたって、見違えるようなハードワークをするようになっていた。だからこそ、彼の個人プレーにも活き活きとした(自信にあふれる)エネルギーが満ち、結果もついてくるようになった。

 ふざけるなヨ〜ッ! 出来るのに「やらない」のは、スポーツマンとして許せないプレー姿勢だぜ!! それは、個人の矜持(プライド)と目標意識(意志のレベル)の問題だけれど、松井大輔が展開した素晴らしい「覚醒プレー」を観ながら、もし、もっと早い段階で・・なんて、残念で仕方なかった。とにかく、松井大輔の覚醒プレーについては、岡田武史の、心理マネージャーとしてのウデの確かさの証明といったところだね。

 ちょっとハナシが逸れた。ということで、一点を追いかけることになった日本代表。

 中村俊輔も含め、やはり、互いに仕掛け合うダイナミックなゲーム展開になったら、岡田武史も言っていたように、日本には明らかな限界があると感じる(また、俊輔のプレーは、明らかにトップフォームからかけ離れていた・・)。

 組織パスプレーは、よいリズムで回せるし、しっかりと前戦に人数を掛けていけるけれど、肝心の最終勝負シーンになったら、ことごとく、ボールがないところでの決定的なフリーランニングが抑え込まれてしまうし、個人のドリブル勝負も簡単に潰されてしまうのですよ。

 そんなゲーム展開を観ながら、私は、サッカーでは、相手との接触を避けながらスペースを使いまくる組織プレーを機能させるという視点とは別に、やはり、局面での「個の勝負」の積み重ねが明確に「サッカー内容と結果」に何らかのカタチで反映されてくる・・という事実を反芻していた。

 もちろん、日本代表(岡田武史)のゲーム戦術が、前半10分すぎからの展開のように、これ以上ないほど機能するなかで失点せずにゲームが推移していれば(またまた、タラレバになってしまって申し訳ないけれど・・)確実に、日本代表に、とても有利にゲームが流れていったに違いない。セットプレーやショートカウンター、はたまた爆発的な中距離キャノンシュート(本田圭佑!!)によって日本が決勝ゴールを挙げる可能性だって大きくなっていっただろうことも含めてネ。

 ゴメン・・日本が、あれほど立派なサッカーを展開したのに惜敗してしまったことで、ちょっと落胆していた筆者だったのですよ。

 さて、デンマーク戦・・。

 こうなったら、究極の組織プレーで、日本サッカーを世界にアピールするという「目標」は、取り敢えずはタンスにしまっておきましょう。

 このオランダ戦での選手たちは、結局は負けてしまったとはいえ、とても強烈な「成功体感」というポジティブな影響も勝ち取れたはず。要は、「このサッカー」に対する確信レベルは、確実に極限レベルまで高揚しているということです。

 ということで、筆者は、デンマーク戦では、先発メンバーもゲーム戦術の方向性も変えずに臨むのがいいと思うわけです。もちろん、ベントナーという高さの抑え方とかチャンスメイカーのトマソンの潰し方など、細かなチーム&ゲーム戦術的な「調整」は当たり前だけれど、基本は、守備と攻撃が高次元にバランスした、「クールな戦術サッカー」に徹するということですかネ。

 とにかく、これほどまでに岡田ジャパンが「深〜〜い学習機会」を提供してくれるとは思ってなかったから(甘く見てスミマセン!)、どんどんと、ポジティブなクリエイティブエネルギーが身体に充満してくることを体感している筆者だったのでした。

 ちょっと長くなりすぎたかもしれない。もう読み返すエネルギーは残されていません。だから、またまた、テニオハや文章構成のミス、誤字、脱字などなど、読みにくいところはご容赦アレ。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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