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2012_CWC_準決勝の2・・チェルシーが魅せた強さのエッセンスを考える・・(2012年12月13日、木曜日)

「良いゲームだった・・テンポも良かった・・それをベースに良いプレーが出来たし、素晴らしいゴールも奪えた・・とにかく、運動量が素晴らしかった・・だから組織サッカーもうまく機能した・・」

 記者会見の冒頭で、チェルシー、ベニテス監督が、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。

 内容でも結果でも圧倒したチェルシー・・

 ということで、この試合のテーマとしては、何といっても、両チームの「差の本質」を取りあげないわけにはいかない。そのバックボーンだけれど、それは、ベニテス監督がいみじくも口にした、『運動量』というファクターに込められていたんだ。

 皆さんも観られたとおり、ゲームがはじまって数分で、両チームの実力に「有意差」のあることが明白になったでしょ。

 フィジカルやテクニック(スキル)では、あまり差はないし、逆に、部分的にはモンテレイの方が優っている面もあったよね。でも、戦術的な側面では・・

 だからこちらは、そんな「有為差の本質的なトコロ」を見極めたいと、攻守にわたる「プレー連鎖の内容」に目を凝らしたわけです。そしたら見えてきた・・

 まあ、当たり前だけれど、とにかく、攻守にわたるボールがないところでの動きの量と質(攻守にわたるハードワーク内容)で、チェルシーが圧倒していたんだよ。

 守備では・・

 ・・ボールを奪われた瞬間からスタートするチェイス&チェック・・もちろん周りは、その仕掛けプレーに呼応し、次、その次のパスを読んでボール奪取を狙ったり、インターセプトや協力プレスをブチかましていったり・・

 特に、たまにモンテレイが仕掛けてくる、ショート&ショート&(決定的スペースへの!)スルーパスといった、彼らが得意とするリズムのコンビネーションに対しては、その最後の「勝負パス」が、ことごとく狙われ、「そこ」でボールを奪い返しちゃうんだよ。

 これは、もうイメージトレーニングの為せるワザとしか言えない。

 チェルシー選手たちは、モンテレイの組み立てのやり方、そこでのボールの動きのリズムや個々のボール扱いのクセなどを完璧にイメージできている・・と感じた。

 だから、モンテレイが繰り出す(タテパスなどの)仕掛けのパスが、パスレシーバーのところで、ことごとく潰されちゃうのも道理ってな具合。

 もちろん、イヴァノヴィッチとケイヒルで組むセンターバックコンビは強力だよ。でもさ、そんな強者コンビが、次の仕掛けパスに対する「読み」でもモンテレイの上を行ってるんだから、そりゃ一発スルーパスで崩していくのは難しいよね。

 何度、この強者コンビが、素晴らしい必殺タックルを決めたシーンを目撃したことか。もちろん、そんな効果的ボール奪取には、モンテレイのエース、デニグリスを潰すという「勝負イメージ」が明確に備わっていたこともあったね。

 また、攻撃・・

 チェルシー攻撃の強みは、もう言わずもがなだけれど、あの世界の才能連中が、攻守にわたって、ボールがないところで走りまくるところにあるんだよ。

 ブラジル代表オスカールやラミレスしかり、ベルギー代表の超新星エデン・アザールしかり、スペイン代表フェルナンド・トーレスとフアン・マタしかり、ナイジェリア代表ミケルしかり・・等など・・

 チェルシーでは、人とボールがよく動く。そして、勝負の流れがスタートしたら、アッという間に、ウラの決定的スペースを攻略しちゃうんだよ。前半17分の先制ゴールシーンは、その典型だったね。

 左サイドバックのアシュリー・コール。

 彼が、「くさび」のタテパスを入れ、間髪を入れずにパス&ムーブでダッシュしたんだよ。それが、美しい勝負コンビネーションの口火を切った。そのタテパスを受けたオスカールは、もちろん、間髪入れずに、ヒールキックでタテの決定的スペースへボールを「流す」んだ。

 これでモンテレイの守備ブロックは「ズタズタ」に切り裂かれちゃった。最後は、そのリターンパスを受けたアシュリー・コールが、中央ゾーンで待ち構えるフアン・マタへラストパスを入れた・・っちゅう次第。

 もちろん、マタのシュートも素晴らしかったけれど、そのコンビネーションで、モンテレイ守備ブロックの4人が、完全なボールウォッチャーになってしまったことが注目ポイントだった。

 ここで言いたかったことは、自分の国に帰ればスーパースターである、チェルシーの「世界選抜プレイヤー」たちが、攻守にわたるハードワークに「も」精を出しつづけているという事実でした。それこそが、前述した「差」の本質だということです。

 ドイツの伝説的スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、コーチ養成コースに参加していた我々若手コーチに対して(当時は、わたしも若かったんだよ・・)、こんな助言をしてくれたことがあった。曰く・・

 ・・もう、戦術的なエッセンスは、すべて考え尽くされた・・これからのサッカー発展のプロセスでは、フィジカルの進化が中心的なテーマになるだろう・・ そこでのオマエたち若者に課せられる重要なタスクは、特に才能ある選手たちを、いかに(一生懸命!)走らせ、攻守にわたるハードワークにも全力を傾注させ られるかなんだ・・

 ヴァイスヴァイラーは、才能ある若い選手たちが、攻守にわたるハードワークを厭(いと)わなくなることこそが、進化するためのもっとも重要なテーマだと繰り返し語っていた。

 チェルシーには、優れた監督・コーチ(現場スタッフ)がいるし、潤沢な資金をベースに構築された強烈な(そしてフェアな!?)ライバル環境がある。

 そこには、スター選手が、攻守にわたるハードワークに「も」精進するように成長していける環境が整っているっちゅうことか。

 とにかく、コリンチャンスとの決勝が、楽しみで仕方なくなってきたじゃありませんか。

 ベニテスは、2005年に、リバプールを率いてトヨタカップに臨んだ。そして、ブラジルのサンパウロを相手に、ゲームは支配したけれど、結局は相手の「したたかさ」にやられてしまった。その試合のレポートは「こちら」・・

 そして今年の決勝でも、相手はブラジルの(相手の良さを消すディフェンスを中心にした!?)したたかさを代表するようなコリンチャンスだよ。そりゃ、見所テンコ盛りだろう・・

 とにかく、お互いに、とことんサッカーを愉しもうじゃありませんか。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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