湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第1節(2000年3月11日)

アントラーズvsグランパス(1−0)

レビュー

 このゲームは、「内容」がそのまま結果に表れた・・ということでした。

 前後左右の「揺さぶり」をベースに、常にグランパス最終守備ラインの「ウラ」を意識し、実際に入り込むアントラーズ。それに対し、単調な攻めを繰り返すグランパス。

 アントラーズでは、柳沢の「復活」が非常に印象的でした。その柳沢と平瀬、そして小笠原と中田のヤングジェネレーション。そして彼らをうまく使いこなすという意識でプレーしたビスマルク。彼らが縦横無尽の「積極プレー」を繰り広げるアントラーズは、今シーズンの主役の一角であることを如実に証明しました。

 柳沢ですが、前半から、ボールを持った状況での「自身溢れるキープ」、チャンスと見た瞬間でのドリブル突破トライ、またボールがないところでのクリエイティブな意図をもったフリーランニングなど、素晴らしい出来だったと思います。

 左サイドで中田とビスマルクが絡んでいる。その瞬間、中央にいた平瀬が、ボールサイドのスペースへ爆発的なダッシュを仕掛け、相手ディフェンダーを引きつける。そんな状況で柳沢は、忠実に「逆サイドのスペース」へ、これまた爆発的なダッシュを魅せるのです。また、中盤の上がり目で、ビスマルクや小笠原などが、ちょっとでもフリーでボールを持った瞬間(つまり彼らが決定的な攻撃の起点になった瞬間)、例外なく柳沢は、タテのスペースや戻り気味のフリーランニングを敢行します。彼のプレーに「自信の回復」を実感し、ホッと胸をなで下ろした湯浅でした。何といっても「稀代の才能」ですからネ。彼には、2002年を一つのステップとして、世界へ羽ばたいて欲しいと思っているのですヨ。

 さて、アントラーズの「前後左右の揺さぶり」。それは、柳沢と平瀬、そして小笠原やビスマルク、両サイドの名良橋、相馬、はたまたボランチの中田などが、本当に縦横無尽に動き回ってボールをしっかりと動かすことで演出されます。このボールの動き(ビスマルクがコア!)が、グランパスとの決定的な差だったといっても過言ではありません。

 右サイドでは、(もちろん基本的にですが)名良橋と小笠原、左サイドでは相馬と中田がどんどんと「タテのポジションチェンジ」を魅せます。名良橋が上がれば小笠原がバックアップし(もちろんチャンスがあれば、そのまま最前線まで絡んでいきます)、相馬が上がれば中田が・・といった具合なのです。ここいらあたりにも、彼らが「共通したイメージ」をもって攻めていることが感じられます。これこそ「ハイレベルなイメージシンクロプレー !」というシーンを何度も演出するアントラーズ。楽しいことこの上ありません。

 対するグランパス。ゼロックススーパーサッカーでの内容もそうだったのですが、とにかくグランパスの選手たちは、中盤でのビルドアップでボールをしっかりと動かすという意識に欠けていました。このことについては、ゼロックススーパーサッカーについて書いた、湯浅のHPレポート、また昨日アップデートされた「2002 Club」でも書きましたので参照してください。

 グランパスでは、中盤の日本代表、望月と平野の出来に、特に不満でした。本当は、彼らが動き回り、(アントラーズ守備がターゲットを絞り切れないような)ボールの動きをリードしなければならなかったのに・・。これでは、ストイコヴィッチがボールを持った時の「プレーのオプション」が狭くなってしまう・・

 ストイコヴィッチは、マラドーナのような「個人勝負主体」のプレーヤーではなく、まさに「チームプレーの中で発揮される才能」なのです。彼がボールをもったとき、すぐに周りがサポートに動き、ワンツーや素早いコンビネーションなどでアントラーズの守備ブロックを揺さぶらなければならなかったのに、彼がボールを持ったときの周りのチームメートの動きに「意図」がない。ストイコの「次の意図」を探るように、止まって「観察」してしまうのです。

 これでは、いくら天才とはいえ、(アントラーズ守備陣が明確に予測できてしまうような)中央最前線への「ラスト・ロングパス」が増えるのも道理。本当は、「ショート・ショート・ロングラストパス!」という「ボールの動きのリズム変化」で攻めるというイメージをもっているんでしょうがネ。ストイコのフラストレーションが、スタンドまでヒシヒシと伝わってきたものです。

 たしかに、後半「スリーバック」にしたことで、グランパスの内容が少し改善されました。それには、サイドの押し上げがアクティブになったことだけではなく、前半、かき回され続けたアントラーズのツートップ、平瀬と柳沢をしっかりとマンマークするようになったことが挙げられます(そのことでアントラーズの攻めの芽を早い段階で摘み取ってしまえる・・高い位置から攻撃を再開できる・・)。

 とはいっても、まだグランパスの攻撃の際の「動き」に「前後左右の変化」が感じられません。一度前へ突っかけはじめた・・、そうしたら例外なく、そのまま直線的に「最後まで」行ってしまうのです。そこには、効果的なサイドチェンジや、後方から上がってくる三列目の選手をコンビネーションに組み込んでいくという発想を感じることはありませんでした。

 さて、周りのメディアで「優勝候補筆頭」と評価されているグランパス。たしかにジョアン・カルロス監督になってから守備は安定しました。それでも、その強い守備を演出したメインアクター、トーレスももういない・・。また攻撃でも課題が山積み(先週のゼロックススーパーサッカー、そしてこの開幕戦に改善の兆しがないことが心配・・)。これから彼らがどこまで立て直してくるか注目することにしましょう。



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