湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第4節(2000年4月1日)

アントラーズvsマリノス(2−3)

レビュー

 サッカーは、ホンモノの「心理ゲーム」・・、またまたそんな普遍的概念を強烈に意識させられてしまいました。

 この試合のメモを読み返してみても、とにかくマリノスの「カッタるい」試合内容に関する記述ばかり。「マリノス・・中盤守備がいまく機能せず、完全に受け身で消極的なディフェンスになっている・・また攻撃でも、ボールがないところの動きが緩慢・・単独での勝負ばかりが目立ってしまう・・」なんてのが、その典型なんですが、それが、先制ゴールを決められ、同時に波戸が退場になって、チーム内の「消極的・受け身」だったプレー姿勢(雰囲気?!)が、ガラッと180度転換してしまいます。

 まさにサッカーは心理ゲーム・・、一人足りない、そして強いアントラーズ相手に一点リードされてしまった・・、はたまた勝ち越しゴールを奪われた後にも(柳沢に)決定的チャンスを作り出されてしまう・・、そんな「ダブル、トリプルのネガティブ刺激」が、マリノスの選手たちを覚醒し、完璧に「フッ切れたサッカー」に大変身させたのです。

 対するアントラーズは、後半の勝ち越しゴールまでの「強いサッカー」がカゲを潜め、完璧に「心理的な悪魔のサイクル」に入ってしまって・・。湯浅は、それには伏線があったと考えています。というのも、前半の試合内容から、アントラーズの選手たちが、「コイツら(マリノス)のサッカーはボロボロだし、一点とったから今日は楽勝さ・・」と感じたことは確実であり、そのことで、後半の、同点にされるまでのサッカーが、ダレてしまったと感じるのです(一度ダレると、そこから再びペースアップするのは難しいモノ・・)。だから、マリノスの急激なパフォーマンスアップに対応できず、また名良橋が退場になるという「刺激」があったにもかかわらず、逆に悪魔のサイクルに落ちこんでしまった・・?!

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 マリノスのCKからの同点ゴールのあと、再びアントラーズのペースが二段階は上がり、柳沢のスーパー単独勝負による(波戸のファール)PKを得ます。そしてビスマルクの「世界レベル」の落ち着きはらったPK勝ち越しゴール。また波戸が退場になったため、その後マリノスは「10人」で戦わなければなりません。

 「もう勝負は決まったナ・・」。アントラーズの選手たちが、そう確信するのも当然の成り行きです。でも・・そこからホンモノのドラマが展開されるなんて誰が予想したでしょう(実は私も・・)。これだからサッカーはやめられません・・

 マリノスは、「一人でも、本当に一人でもサボッたらサッカーにならない。アントラーズに本当にボロボロにやられてしまう。フザケルナよ! ヨシ! やったる!!」ってな、吹っ切れた心境になったに違いありません。そしてそんな姿勢は、アントラーズの名良橋が退場になり、両チームともに10人になっても止まりません。それまでとは見違えるほど中盤守備がアクティブになります。それまでは、「あそこでボールを奪い返してやる!」なんていう「予測ベース」のクリエイティブな守備などまったく見られなかったのに、今度は、選手一人ひとりが、眠りから覚めたように戦いはじめ、中盤でフリーでボールを持つアントラーズ選手は、(名良橋退場という刺激があったにもかかわらず)まったくといっていいほど出てきません。マリノスの選手たちは、一人の例外なく「150パーセント」のチカラを発揮しはじめたのです。

 その「アクティブサッカー」を牽引したのは、言わずと知れた中村。名良橋のファールまで誘発してしまうくらいのダイナミックプレーです。華奢(きゃしゃ)な彼の身体のどこにそんなエネルギーが・・。とはいってもサッカーは心理ゲームですからネ。彼の潜在能力からすれば、それもアタリマエのパフォーマンスです。そして、その時間帯までの「スタンディング・サッカー」が嘘のように、「オレが中心になってやる!」という、レベルを超えた気概が発散され、アントラーズ選手たちを威圧し続けるのです。

 そして彼自身の、得も言われぬ美しい同点ロングシュート。またロスタイムでの勝ち越しゴールの演出。素晴らしい!

 その勝ち越し(決勝)ゴールですが、まず右サイドで永井がボールをキープし、「タメ」て、タテに抜け出た中村へピッタリのタテパスを送ります。そのまま中村が持ち込み、得意のフェイントで、当たりにきたアントラーズのディフェンダーをかわし、GKの高桑までも引きつけてラストセンタリングを送り込みます(彼の才能が100パーセント発揮された瞬間!!)。そして最後は、ユー・サンチョルが無人のゴールへボールを蹴り込みました。いや、素晴らしい・・

 私は、前節の試合、そしてこの試合でも、後半の最後の時間帯まで、あるコトを心配していました。中村のことが本当に心配だったのです。自分のサッカーのオリジナルとでもいえる「クラブでのサッカー」に大きな問題点が露出して・・

 まわりが踊らないから、彼のゲームメークセンスも生きてこない。そして(まわりの雰囲気に呑み込まれ)自らも、足の止まった「スタンディング・プレー」に終始してしまう。これはもう悪魔のサイクルとしか言いようのない現象でした。このままだったら大変なことになる・・そんなことを感じたモノです。

 ただこの試合の後半最後の時間帯で、彼本来の・・、というよりは、それを超えるパフォーマンスを魅せはじめます。

 あ〜〜良かった・・と胸をなで下ろす湯浅でした。

 ところでマリノスですが、このスーパーパフォーマンスは、長続きするのでしょうか・・。この試合をキッカケにして、以前の強いマリノスが戻ってくるのでしょうか。それとも、「危機感の薄れた」次の試合では、前のようなカッタるいサッカーにもどってしまうのでしょうか・・

 彼らにとっては、ここが正念場です。この試合では、チームプレーに問題を抱える永井を先発メンバーから外したアルディレス監督。そろそろ、プロコーチとしての本領を発揮しても良い頃では・・なんて思っています。そんなふうに、この「素晴らしい機会」を次のステップにつなげてしまう、オジー・アルディレスの「監督の手腕」を期待する湯浅でした。

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 簡単に、アントラーズの柳沢について。

 調子は戻りつつあります。もちろんそれは、彼の「才能レベル」に見合ったパフォーマンスを「再び」発揮しはじめた・・ということにしか過ぎませんが・・

 アクティブな「ボールがないところでの動き」、クリエイティブな決定的フリーランニング、ボールをもったときの自信溢れるキープと単独ドリブル勝負トライ・・、積極的で忠実、そしてクレバーな守備参加・・・などなど、頼もしい限りです。

 圧巻だったのは、後半22分にPKを取ったプレーでした。マークする波戸を、トラップの瞬間にうまく回り込むことで抜き去り、そのまま超速ドリブルでマリノスゴールへ突進していったプレーです。また、ビスマルクの勝ち越しゴール(そのPK)が決まったあとの後半25分にも、右サイドからのセンタリングを、これまたうまくトラップし、そのまま二人のマリノスディフェンダーを「うまく身体をつかって」振り切り、自ら決定的なシュートまでいってしまうようなスーパーパフォーマンスを魅せました。

 こんなプレーができるのは、今の日本じゃ彼しかいない?! そんなことを思ったモノです。柳沢には、とにかく迷いを捨て、チームプレーと個人勝負プレー(リスクチャレンジ)のバランスを(このまま)崩さずに「前へ」突き進んでもらいたいものです。

 このことを「公表」するのは初めてなのですが(もちろん今のところ・・という注釈付きですがネ・・)、私は、「2002」を支える日本代表のストライカーコンビは、サンフレッチェの久保と柳沢しかいない、と思っているのです。

 ちょっと「オフサイド気味」の発言でしたかネ・・

 最後に「ベベット」について・・

 (先制ゴールは見事でしたが・・)全体的な出来については、このままでは、トニーニョ・セレーゾ監督は、彼と「心中」するしかなくなってしまう・・、というのが私の正直な印象です。誰が見ても、ベベットのパフォーマンスは「最低!!」。ホントに、チームにとって「邪魔」な存在にしか過ぎません。

 多くボールにさわるため(クリエイティブな展開・組み立てに参加するため)にアクティブに走るわけではなく、またチャンスに、率先してゴール前へ走り込むわけでもありません。単に、相手にとってまったく怖くない「つなぎのプレー」に終始するベベット。当然、効果的な守備参加なんて夢のまた夢・・

 それでも「使い続ける」トニーニョ・セレーゾ。これは問題です。セレーゾは、ベベットが調子を取り戻すためには試合に出るしかない・・、そして調子が出てくれば、チームも感謝するサ・・と考えているのでしょうネ。

 ただ私は思います。もしそうだとしたら、実際にはできないにしても、アクティブな「プレー姿勢(良いサッカーに対するマインド)」だけは感じられるハズ。でも、今の彼のプレーからは、とてもポジティブな「見通し」をたてられない湯浅なのです。これで本当に彼が、「チームにとって価値のある」パフォーマンスを発揮しはじめるのだったら、もちろん脱帽するし、自分の「目」を、もう一度ブラッシュアップしましょう・・

 それでも、今のベベットの「プレー姿勢(マインド)」では・・。もしこのまま、セレーゾ監督が使い続けるとなると、チームとの「不協和音」を心配せざるを得ません。

 私は、今のアントラーズが、一番、優勝に近いと思っているのですが・・それが・・。まあ、もうちょっと観察しましょうかネ・・

ヴェルディーvsジェフ(0−1)

レビュー

 この試合については、ホンの少しだけ・・

 久しぶりに見たヴェルディー。実際のところショックでした。中盤での守備がボロボロ(林がいませんでしたが・・)。また岩本や小林も、例によっての運動量の少ない「斜に構えたサッカー」です。頑張っている(頑張ろうとしている)のは北沢だけ。

 攻撃にしても、ボールがないところで動いているのが北沢だけですから、美しいサッカーができるハズがありません。ヴェルディーの選手たちは、例外なく、「オレはフリーなんだから・・」と、足元でパスを受けようとします。それが、ジェフ中盤守備陣の「ワナ」であることも知らずに・・。そして案の定、パスを受けようとした瞬間、そこにターゲットを絞り込んでいたジェフ選手たちの(フェアな)タックルでボールを簡単に失ってしまいます。

 また、ボールをとにかく動かそう・・という意識も希薄。持ちすぎで、これまた簡単にボールを失ってしまう雑なプレーをくり返します。

 彼らのサッカーがよくなりかけたのは、問題児の「岩本(例外なく彼のところでボールの動きが停滞!! たまに魅せる、才能ベースの素晴らしいパスも効果なし!)」が交代した後半の最後の時間帯だけでした。もちろん一点リードされているのですから、ガンガンいくしかない・・という状況ではありましたがネ・・

 これは苦労する・・ここからどう立て直していくのか・・李総監督のウデの見せ所ではありますが・・

 ジェフについては、ベンソン、酒井、中田、武藤などによる忠実な中盤守備、攻撃でのチームプレーと個人プレーの優れたバランスなど、好感を持ちました(とはいっても中盤が広がっていたから評価の対象外かも・・)

 特にベンソン。もう一度見てみようかな・・と感じさせる魅力あるプレーヤーです。また、守備ラインの山口、茶野、阿部、そしてもちろん中西も、非常にステディーなプレーを展開していました。上位を狙うにはキビシイでしょうが、このままのプレーを続けていれば昨年のように「降格リーグ」に組み込まれることもないでしょう。

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 ちょっと長くなってしまいました。それではこれで・・



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