湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第8節(2000年8月5日)

マリノス対アントラーズ(1−1)

レビュー

 延長になって降りはじめた、本当に「滝」のような大迫力の雷雨をものともしないくらいに、見応え150%の試合でした。

 試合の流れは、時間の流れとともにクルクルと変わります。それも両チームのチカラが、高いレベルで拮抗していることの証拠だと考えましょう。

 序盤の膠着状態から、まず、「決定的な臭い」を放ったのはアントラーズ。

 最初の時間帯、ボール支配率では少し上回るマリノスでしたが、ボールの動きにダイナミズムがないことで(ディフェンダーたちに、簡単に勝負所のターゲットを絞り込まれてしまう!)、最後は、エジミウソン、ユー・サンチョル、中村、三浦などの「個人勝負」ばかり。これでは、堅牢なアントラーズ守備ブロックを崩しきれるハズがありません。

 そんな悠長な攻めの間隙を突き、アントラーズが、見事な、本当に見事なカウンターを魅せます。ビスマルク(小笠原だったかも・・)を経由し、右サイドに開いた平瀬から逆サイドの柳沢へボールがわたり、本当に「ギリギリ」のチャンスを作り出したのです。最後はマリノス守備に防がれてしまいましたが、それは、この試合の「序盤の内容」を象徴していたシーンでもありました。

 というのも、マリノスが、ツートップのユーとエジミウソン、中村、三浦の「個人勝負」ばかりで最終バトルを仕掛けていこうとしているのに対し、アントラーズの攻めが、本当に「理路整然」としていると感じたからです。要は「基本に忠実」ということです。しっかりとトラップし、しっかりとした正確なパスをつなぐことで、まず活発にボールを動かし、最後は、柳沢、平瀬の爆発フリーランニングへのラストパスを通す等・・

 また、たとえば右サイドで「ショート・ショート」のパスをつなぐことでマリノス守備ブロックを引きつけ、最後はタイミングを見計らった「ラスト・サイドチェンジパス」を送り込む、「ショート・ショート・(サイドチェンジ)ロング」という「パスのリズム」も秀逸の一言です。

 その「パスのリズム」を、選手全員がよく理解している(イメージしている)ことにも感銘を受けました。それがなければ、「ショート・ショート」のリズムでパスが回されている瞬間に、逆サイドの選手が、しっかりとタイミングを見計らった「決定的ラストフリーランニング」を仕掛けられるはずがありませんからネ。その「最終フリーランニング」を仕掛けていたのは、ツートップの柳沢や平瀬だけではなく、二列目の小笠原や中田浩二もいます。要は、その「最終の崩しイメージ」を、選手全員が「シェア(イメージを共有)」しているということです。

 またアントラーズの、攻守にわたる「ポジショニング・バランス」の良さにも注目させられました。彼らは、常に細かくポジションを修正しながら、まず「しっかりとボールを動かす」という高い意識のもと、「パス・レシーバー」になろうと、忠実にスペースへ動き続けるのです。

 ですから、夢のようなカウンターから挙げた、後半18分のアントラーズ先制ゴールは、私にとっては「順当なゴール」ではありました。

 このゴールでの柳沢のドリブルは見事の一言。素晴らしいスピード。素晴らしい「ドリブルコース」。もう完璧です。彼一人で、マリノスGK、川口も含め、三人のマリノスディフェンダーを引きつけてしまったのですからネ。そして、スパッという平瀬への「ファウンデーション」。見事!!

 とにかく、柳沢と平瀬の、忠実な「決定的フリーランニング(ショートパスだけではなく、ロングパスのタイミングでも・・)」は、常日頃の「意識付け」以外の何ものでもありません。アントラーズの伝統・・ですかネ・・素晴らしい。

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 ところが、この先制ゴールで、マリノスが目を覚まします。ボールの動きが緩慢で、「一発スルーパス(ロングラストパス)」や、無理な体勢・状況での「単独ドリブル勝負」ばかりが目立っていたのに、徐々に「チームプレー要素」も加味されてきたのです。

 私は、その第一の貢献者は、ボランチの遠藤だったと思います。中盤における遠藤の、攻守にわたるダイナミックプレーは、まさに「チームのダイナモ」。たしかにまだ細かなところでの修正ポイントはありますが、彼の活発な「攻守にわたる絡み」によって、マリノスのボールの動きが格段に向上したことは事実だと思います。そして中村、三浦、ユー、エジミウソンのプレーも、「シンプル組織プレー」と「単独リスクチャレンジ」がうまくミックスした「危険な臭い」を帯びてきます。

 この後、ゲームは完全に互角の展開に・・。そしてロスタイムに入った後半47分、左サイドでボールを持ったマリノスの中村から、「これぞ才能!」というラストパスが、マークするアントラーズディフェンダーを巻くように、右サイドで待ちかまえていたエジミウソンに通ります。そのまま、マークしていたアントラーズディフェンダーを翻弄してフリーシュートを放つエジミウソン。僅かに左へはずれる! フ〜〜! これで延長戦に入ります。

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 延長の試合展開は、もうエキサイティングそのもの。ただアントラーズは、(小笠原と本山の交代の後)平瀬、柳沢の代わりに、(登録していたのがディフェンダーだけだったことで!?)二人のディフェンダーを投入します(内田と羽田)。そして、本山のワントップの後方に、ビスマルクと、サイドバックから上がった名良橋を置くという布陣へ・・さて・・

 これでは、アントラーズにはもうカウンターしか残されていない・・なんて思ったものなのです。そして、激しい雷雨とともに、試合に、中盤がなくなる「ノーガードの・・」という雰囲気が出てきます。

 ノーガードになるのは、両チームの「バランス」が崩れてしまうから。アントラーズは守備の人数を増やし、マリノスは「前へ」重心が傾き続ける・・、そして両チームともに中盤が薄くなる・・といった展開なのです。

 それでも、アントラーズも押されっぱなしなだけではなく、名良橋の「要所のポイントプレー」が光るカウンターが効きます。名良橋は、自らが攻撃の中心になるのではなく、ボールを持ったら、まずしっかりとキープして相手を引きつけ、ビスマルクにボールを預けた瞬間に「爆発ダッシュ」で最前線へ飛び出していく・・というプレーを忠実にくり返します。足の速い名良橋だから効果的・・? いやいや、それ以上に、彼のフリーランニングに「最後まで走り抜ける」という勢い(気合い)のあることが、マリノス守備陣を震え上がらせたに違いありません。

 そして両チームともに何度かの決定的チャンスを決めることができずにタイムアップ。

 フ〜〜〜! 本当に、そんなため息が出るエキサイティングな試合ではありました。それにしても、試合後一時間も経っているというのに、雨の勢いは一向に衰える気配をみせず・・。オートバイなんですが、仕方ないからビチョ濡れ覚悟で帰宅しますか・・

 最後に、セカンドステージ、第8節の総括をちょっとだけ・・・。

 上位三チームが引き分けと負け。汚名返上のために死にものぐるいで感張る平野、望月を擁し、降格リーグ脱出を目指すパープルサンガ(平野、望月には、今のハングリー精神を忘れずに・・と言いたいですネ。彼らを覚醒させたという意味でも、今回の騒動の貢献度は高かった?!)。また、ボランチコンビが安定し、ファーストステージの勢いが戻ってきたセレッソ(これについては今週号の「ヤフー・スポーツ・2002・クラブ」を参照してください)。何となく、リーグが盛り上がりそうな雰囲気になってきたじゃありませんか。



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