湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第9節(2000年8月12日)

ヴェルディー対セレッソ(1−0)

レビュー

 内容のある面白い試合でした。

 「内容があった」の意味は、両チームともに、ほぼ同じ守備システムで戦ってはいますが、攻撃面での「やり方」に両チームの特徴がよく出ていたこと、そして両チームともに、この2-3試合で周囲に感じさせていた「復調の兆し」を証明する活発なゲームを展開したことです(後半のヴェルディーの出来を除いて・・)。

 攻撃でのやり方については、もうご存じのように、素早くシンプルにボールを動かすなかで、しっかりと人数をかけた「コンビネーション・ベースの仕掛け」をみせるセレッソに対し、例によって、中盤での「ト〜〜〜〜、トン」という、各ステーションでの「ゆっくり」としたプレーリズムを基調にボールを回しながら、「ココゾ!」というチャンスでの過激ペースアップで、ラストバトルを仕掛けるヴェルディー・・という構図です。

 確かにヴェルディーの攻撃は、効率追求・・それでも、中盤での「ダイナミズム」がないから、どうしてもセレッソの、忠実・堅実・アクティブな中盤守備に引っかかってしまいます。もちろん相手ゴール前で、決定的シーンを作り出せそうな雰囲気になったら、才能の爆発・・とでも表現できるような危険な攻めは魅せますが・・。

 対するセレッソの攻めは、ダイナミックそのもの。先週の「2002」で書いたとおり、内田という純粋ボランチが入ったことで、中盤の才能、ユン・ジョンファンの「プレー自由度」が上がり、そのことで、ユンの攻守にわたる「貢献度」が、先日までの「チーム絶不調」のときと比べものにならないくらい高揚したからです。そして何度かの決定的チャンスを作り出します。とはいっても、ボールの動きのリズムが「単調すぎる」といえないこともありません。どこかで「極端にタメる」など、もっと攻め(特に最終局面で・・)に変化をつけなければ・・

 中盤での組み立て段階では、セレッソの「ボールをしっかりと素早く動かすシンプル(忠実)マインド」を持ち、最終勝負局面ではヴェルディーの「変化に富んだアイデア」を持つ・・。そんな、二つの側面がうまく融合したチームになれば、鬼に金棒・・なんてことを、私の横に座るジャーナリスト界の重鎮、東京新聞、財徳さんと話し合ったモノです。

 さて試合。忠実な中盤守備がうまく機能しているセレッソが、徐々にペースを握るなかで(特に15分の、西沢と森島のパス回しからの森島の決定的チャンスは秀逸だったんですがネ・・)、「例によって?!」ヴェルディーが、ココゾ!のチャンスをしっかりとモノにしてしまいます。ホント、効率的なサッカーではありますよネ・・

 それは前半26分のこと。CKを蹴った石塚が、右サイドで再びボールを持ち、しっかりとキープしながら(タメの演出)相手を引つけるなかでタイミングを見計らい、絵に描いたように正確なピンポイントセンタリングを、セレッソGK、下川の前のスペースへ「入り込んで」いた(点取り屋のマインドをビンビンと感じさせる)キム・ヒョンソクへ送り込んだのです。GKの眼前でのヘディング一発!!・・ってな具合です。

 その後は、「相手を決定的にダマすような攻撃の変化」はあまり感じさせないにしても、イメージがシンクロした、忠実なラストフリーランニングとタイミングの良いラストパスによる攻撃をくり返すセレッソが、エキサイティングな試合展開を「期待」させます。

 よし、これは面白い展開になる・・なんて、本当に期待していたんですが、前半40分に、セレッソ最終守備ラインの中心選手、藏田が、廣長を後方から引っかけてしまい二枚目のイエロー・・

 でも私の「期待感」は、藏田の退場でもっと盛り上がりました。これで、危機感いっぱいのセレッソのダイナミズムは倍増し、逆にヴェルディーの緊張感が半減するに違いない・・なんてネ・・

 そして後半は、まさにその通りの展開になります。運動量抜群のアクティブサッカーで、「後ろ」を気にすることなくガンガンと攻め上がるセレッソに対し、ヴェルディーは、「もっとも効率的な効果的カウンター」を・・という展開です。

 それでも、ヴェルディーの「マインド」は消極性アリアリ。そのことは、中盤選手たちの運動量の少なさ、中盤守備での、ココゾのチャンスをねらうマインドに如実に現れてきます。とにかく、ボールがないところでの動きがほとんどなくなってしまって・・

 ガンガンと攻め続けるセレッソ。惜しいチャンスを何度も逃します。今日のセレッソはツキに見放されている・・。それでも、あれほどの「積極マインド」で攻守にわたる「全員参加プレー」を繰り広げられているセレッソなのだから、最後の勝負場面までも「常に急ぐ」ことはないのに・・そんなことを感じた湯浅でした。ユン・ジョンファンやノ・ジュンユン、森島や西沢などの才能がいるのですから、プレーのリズムに変化をつけようと思えば・・なんて感じていたのです。

 それでも、彼らのうちの一人でも、攻撃の「最終的な起点」になってボールを持った瞬間には、待ったなしのタイミングで、周りの選手たちが「二重・三重」の決定的フリーランニングをスタートしてしまうものですから、どうしても「早すぎるタイミング」のラストパスが飛んでしまう・・。これでは、ヴェルディー守備陣にとっても、「よし、今が勝負だ!」と、「ラストバトルのタイミング」が正確に測れてしまう・・

 そして結局は、セレッソの「怒濤の勢い」に、ゴールを割れるような「決定的に危険な臭い」を感じることが出来ないままに試合が終了してしまいました。

 「生真面目すぎる」セレッソが、ヴェルディーの、ゲームの流れ(攻守にわたる勝負所)への確かな(効率的な?!)「感覚」に負けた・・という構図だったのかもしれません。

 とはいっても、セレッソは正しい「ベクトル」上に乗っています。願わくば、「攻撃の才能たち」のイメージがシンクロすることを前提とした「攻めの変化」の演出という課題を、出来る限り早急にクリアして欲しいものなのですが・・。もちろん、それには「テーマ意識を持ったトレーニング」の積み重ねが大前提です。

 ヴェルディーについては、もう何度も同じコトをくり返しているので・・。まあ、でも、もう一度くらいは・・

 「とにかく諸君の能力は高いのだから、もっとアクティブに、高い闘争心を持ってゲームに臨んで欲しい・・」。「もちろんバランスは大事だが、それは基本的には守備のためのもの。攻めのチャンスとなったら、誰でもいいから、ボールがないところでのアクティブな動き(クリエイティブなムダ走り)を基本に、もっと自由に、ダイナミックで変化に富んだ攻撃を魅せてくれ」。「諸君には、変なカタチで相手にボールを奪われたとしても、しっかりと対処できるだけの戦術的能力が備わっているではないか・・」。「斜に構えるのではなく、もっとひたむきに、もっと積極的に、真摯な態度で自分たちのサッカーの発展に取り組んで欲しい・・」。「それがあって初めて、生活者に感動を与えられるのだ・・」

 湯浅からのメッセージでした・・



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