湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第10節(2001年10月20日、土曜日)

アントラーズは、本当に「勝負所」をよく心得ている・・柏レイソルvs鹿島アントラーズ(0-1)・・そしてガンバ対レッズ(1-1)も少しだけ・・

レビュー

 しぶとく「勝ち点3」をモノにしたアントラーズ。試合の展開を見ていて、彼らの「勝負強さ」の本質を見た感じがしたものです。

 柳沢が渡辺を突き飛ばして退場になり(後半12分)、そこからの「10人の戦い」で掴み取った勝利。後半に入った時点で、ジュビロが「2-1」でコンサドーレに勝ったことは、アントラーズ選手たち全員が強烈に意識していたに違いありません。「何としても、この試合をモノにして、グランドチャンピオンシップで、雪辱を期すぞ!」。そんな「執念」が、集中の切れない堅牢守備ブロックと、それをベースに作り出した「ワンチャンス」における名良橋の右足シュートに込められていた・・。

 この、唯一のゴールのシーンですが、そこに絡んだ選手たちの顔ぶれを見れば、この試合の「構図」が見えてくる・・!?

 大きなサイドチェンジのロングボールを、最前線において、ヘディングで小笠原に「落とした(バックパスした)」のが熊谷。そして右サイドで「タメ」ている小笠原を、最後方からのオーバーラップで「追い越し」、タテパスをそのまま持ち込んでゴールを挙げたのが名良橋。この時点で、攻撃的ミッドフィールドのビスマルクと小笠原、そして守備ブロックから上がってきた熊谷と名良橋が、完全に「タテのポジションチェンジ」を演出していたのです。

 そんなシーンに、彼らの「執念」だけではなく、「ここが勝負だ!」というクリアな意志を感じていた湯浅でした。

-------------

 立ち上がりから、両チームともに積極的に攻める姿勢を前面に押し出します。これですよ、この「自分主体のリスクチャレンジ姿勢」がサッカーをエキサイティングなものにするのです。そしてゲームが、押しつ押されつという面白い展開になっていく・・。

 とはいっても、最終勝負シーンの「質」では、確実にアントラーズに軍配が上がります。この「質」の意味は、何といっても、相手守備の「薄いスポット」、特に決定的スペースを突いていけているか・・組み立ての段階から、そこを突いていこうとする「発想」があるかどうか・・という部分に集約されます。

 たしかに回数は限られていましたが、柳沢がギリギリのタイミングで「抜けだし」、その決定的スペースへスルーパスが通される(ビスマルクや小笠原から)という美しい「ウラ取り」シーンは、アントラーズの専売特許でした。またサイドからの攻撃にしても、アントラーズの場合は、「その時点」でサイドをケアーしているディフェンダーを「置き去り」にして決定的スペースへ入り込み、まったくフリーで最終勝負のセンタリングを上げるというシーンを何度も演出します。それに対しレイソルは、スリーバックということで、サイドからの崩しが生命線であるにもかかわらず、どうしても効果的な攻めを構築できない・・(後半に杉山と交代した砂川が、何度かチャンスを演出しましたがネ)。

 もちろんそれには、アントラーズ守備ブロックの、ハイレベルな「イメージ・シンクロプレー」をベースにした、堅実な守備網という背景もあります。

 両サイドの名良橋、アウグスト(この試合では、相馬はベンチスタート)が上がったままで次の相手攻撃に戻り切れなくても、確実に熊谷と中田浩二がカバーに入っている・・。もちろん、どちらかのサイドスペースに、レイソルのトップ(北島かファン・ソンホン)がロービングすれば(開けば)、アントラーズのセンター(秋田かファビアーノ)がついていき、両サイドバック、守備的ハーフが「絞り込む」ことで、中央ゾーンでの「守備での厚み」を演出してしまう・・。この、ケースバイケースのカバーリング機能性(スペースを忠実に埋めつづける=守備ブロックのバランスを保ちつづける意識)の高さが、両チームの「僅差」の一つというわけです。

 それにしてもアントラーズの両サイドコンビ、名良橋とアウグスト。どんどんと攻撃の最終シーンまで、「吹っ切れた心理」で絡んでいくではありませんか。

 まずアウグスト。この試合では、レイソルの杉山が初先発を果たしたわけですが(アウグストとの直接対決になるレイソルの右サイド)、その杉山が「まだ」チカラを出し切れず(ミスがあったり、アウグストとの一対一勝負で抜き去られるシーンが続出したことで)、前半ではちょっとプレーに安定感を欠いてしまいます。そしてアウグストが、そんな彼の「心理的な穴」をうまく突いていくのです。ここらあたりも「百戦錬磨のプロの本領」。相手の「自信レベルの低下」を敏感に感じ取って、その弱みをどんどんと攻め立てていく・・。

 また逆サイドの名良橋も、負けてはいません。サイドをオーバーラップするだけではなく、「攻めの流れ」に乗って、中央ゾーンでの最終勝負シーンまで、どんどんと顔を見せていくのです。

 とにかくこの二人の、熊谷、中田浩二に対する信頼の厚さは格別だと感じました。もちろん、実際にどうなのかは部外者には分かりません・・。もしかしたら、熊谷にしても中田浩二にしても、上がりつづける二人に対して「しょうがネ〜〜な」と、カバーリングに入らざるをえなくなっていたりして・・もちろん「自分主体の判断」でネ。

 まあアントラーズの場合は、両サイドのオーバーラップは、確実に「チーム戦術」に組み込まれているのでしょうが、「自己主張を前面に押し出す者」、「その時点で調子の良い(積極的な)者」が、イメージ的な計画(ゲーム戦術)以上に目立ってしまい、そのことで他のチームメイトが、「より頻繁に」バックアップ役にまわらざるを得なくなる・・という現象が、自然に生じてしまうことも多々ありますからネ。

 とにかくアントラーズ選手たちは、互いに「使い・使われる」というメカニズムを、しっかりと理解している(それが互いの信頼感を醸成する!)・・。そんな「自分主体のプラグマティックな判断・決断・実行」のチカラも、前述した「僅差」の構成ファクターだということです。

------------

 そんな「自分主体の判断・決断・実行能力」が、後半に柳沢が退場になってから(レイソルに主導権を握られてから)、存分に発揮されることになります。状況が厳しくなればなるほど、選手たちの「主体性の質(本当のチカラ)」が明白になってくる・・。

 もっとも目立っていたのが、熊谷と名良橋の、より積極的な「前へのプッシュアップ」。多分それは、「オレがバックアップに入るから、オマエ行け!」といった、ビスマルクや小笠原の「オファー」があったからなんでしょうがネ(また逆に、ビスマルクや小笠原が、熊谷と名良橋の前への意欲を殺がないようにと、よりバックアップを強く意識するようにしたのかも・・)。とにかく、ビスマルクと小笠原に対するマークは厳しく、「10人」になってからは、彼らも、より積極的にディフェンス参加しなければならなくなったという背景もありましたからネ・・(ということで、最前線の鈴木を除き、全員が、次のカウンターでは同列の可能性をもっている=各人の「意欲」がベース!)。

 そしてアントラーズは、押し込まれながらも、レイソルにほとんどチャンスを作らせず、逆に、(数は限られていたものの・・)危険な(忠実な)カウンターを仕掛けていく意欲を失うことなく、最後の最後に、それを結実させたというわけです。

 彼らの、意志の強さ、そして勝負所に対する嗅覚に対して(もちろん臭いを嗅ぐだけではなく、常に実効あるアクションまでつなげつづけたことも含めて!)惜しみない拍手を送る湯浅でした。

===========

 さてこれから、ガンバ大阪と浦和レッズのゲームを観戦するつもり、「何か」あったら、またトピックスでレポートすることにしますので・・

=============

 ということで、前回と同じように「書き足し」になりますが、ガンバ対レッズについてのショートレポートを・・。

 前半は、もう完全にガンバの流れ。レッズは、防戦一方で、攻撃に移っても前へ進むことがままならないなど、サッカーになっていませんでした。

 そのもっとも大きな要因は、ガンバの守備ブロックが、素晴らしく「ソリッド」だったこと。誰一人としてサボらず(集中を切らさず)、ボールホルダーへのチェイシング&チェックから、次のパスレシーバーを「読んだ」忠実なアタック(インターセプト)という「一連の守備の流れ」に、確実に乗りつづけるのです。そしてボールを奪い返してからの、これまた忠実な「サイドアタック」。全員が「サッカーのやり方」について、共通の、そして明確なイメージをもっていると感じます。レッズ選手たちの、攻守にわたる「動き」が鈍重なこともあって、ガンバの、中盤からのダイナミック&クリエイティブ守備からの危険なアタックばかりが目立つ前半だったというわけです。

 でも、後半からは、色々な意味で「見所豊富」な内容になります。

 後半開始から、左の城定に代えて、トゥットを投入します。そして、(負傷のために完全な状態ではない)阿部を左サイドに据え、アリソンの基本ポジションをちょっと「下げ」ます。要は、エメルソンをトップに、それに永井とトゥットが「縦横に絡む」・・、その後方に守備的ハーフコンビとして、アリソンと鈴木を置く・・、阿部には、左サイドからの「組み立て」をイメージさせる・・というわけです。

 これが、殊の外うまく機能します。とはいっても、アリソンのところで、「まだ」ちょっとボールが停滞することは前半と変わりませんでしたが・・。それでもトゥットが入ったことによって(彼をターゲットマンにしたタテパスがどんどんと入るようになって)、レッズのゲームが格段にダイナミックになっていきます。やはり、「前後のボールの動き」がパッシブだと、ゲームの流れ全体も停滞してしまうものなのです。

 レッズが同点に追いついた後は、両チームともにチャンスを作り合うようなエキサイティングな展開に・・。組織的な組み立てから、最後は常に「サイド」からの仕掛けで(吉原もサイドに開くプレーが多い)、ニーノ・ブーレを使おうとするガンバ(もちろんそこをポイントにした「次の勝負」もイメージして・・)。それに対し、トゥットとエメルソンという強力ツートップを活かそうという明確なイメージをもって攻撃を仕掛けていくレッズ(コンビネーションによる崩しが今後の課題・・)。

 そして、互いにチャンスを作り出しながら、結局はノーゴールで引き分けに・・(神様の領域であるそれぞれのチャンスについてはコメントなし・・ご容赦アレ)。

---------------

 アリソンですが、攻守にわたって「実効ある絡み」をしようという「意志」だけは明確に見えました。まあ外国人プロ選手ですから、当然の姿勢なのですが、「実効レベル」では、まだまだ未知数。要は、ブッフヴァルトやペトロヴィッチなどの「レベルを超えた補強」ではなく、時間をかけて、日本人選手を凌駕する「コンテンツ」を発揮できるかどうかを見極めなければならない・・そのレベルの選手だということです(だから次のエスパルス戦での彼のパフォーマンスに興味が高まる・・)。

 阿部は、左サイドに入ることで、多くの時間帯で「消えて」しまいました。彼のところにボールも集まりませんでしたからネ。サイドですから、絶対的なオーバーラップチャンスなどを除いて、組み立て段階でそこにボールを集めるためには、「周り」がそのことを明確に意識していなければなりませんしネ(日本代表の中村俊輔や小野のように・・)。まあ彼の場合は、まだケガが完治していないということで「次」に期待しましょう。

 次に石井。後半の途中から池田が入ったことで、久々に守備的ハーフに入ります。そして、鈴木とのコンビで、ある程度のパフォーマンスを魅せます。やはり彼は、中盤に置いた方が、チームにとってプラスだな・・なんて再認識していた次第。常に「最終勝負」と対峙しなければならない最終ライン要員では、周りとの関連で、どうしても(自分の発想や読みだけでは対処しきれない)厳しい状況に陥りやすいですからネ。とにかく、ちょっと不安定・・という印象を拭えなかった最終ラインも、石井が中盤に上がったことで(そこでの抑えが効きはじめたことで・・再びアリソンが二列目に上がったことで!?)、ちょっと落ち着いてきたと感じた湯浅だったのです。

 最後に山田。どんどんと、サイドでの「ダイナミズム」が向上していると感じます。やれは出来るのに・・という不満もありますが、とにかく今は、90分間「集中(やる気のポテンシャル!)」を高く保つことが彼の課題。もっと、鈴木や阿部などが中心になって、彼のことを前へ「送り込む」ことを意識する必要がありそうです。もちろん「守備」をベースにしてですよ。

 後半からのレッズのサッカーは、「これから」に期待を抱かせる内容にはなりました。とにかく選手全員が、自分の基本タスク(チーム戦術)をベースに、常に「それ以上」を狙いつづける(常にリスクチャレンジへのチャンスを狙いつづける=クリエイティブなルール破りを意識しつづける)という積極マインドを、常に高いレベルで維持できるようにならなければ、本当に「降格リーグ」に呑み込まれてしまう・・。

 次のエスパルス戦は、厳しいゲームであるからこそ、願ってもない「チャレンジチャンス」なのです。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]