湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第14節(2001年11月17日、土曜日)

完全にチカラ負けしたヴェルディー・・その背景は?・・鹿島アントラーズvs東京ヴェルディー(4-0)

レビュー

 「ヴェルディーね〜〜。技術的にハイレベルな選手がいるし、ゲームペースをコントロールしたりバランスを取るのはうまいのにな・・。それでも、守備でも、攻撃でも、勝負しなければならないところで止まっている選手が多すぎる。特にボールを奪い返した瞬間に前線へダッシュする選手がまったくいないっていうのは奇異だね。プレッシャーかい? それにしてもな・・」

 「それに対してアントラーズは、本当にチームとして良くまとまっている。あの10番(ビスマルク)が、ゲームのペースをうまくコントロールしているし、13番(柳沢)は、本当に良い選手だよ。特にボールがないところでの飛び出しがいいね。もちろんドリブル勝負も良さそうだけれど・・。あの選手は、来年からセリエに行くんだって・・? あの調子なら、必ずむこうでも活躍できるに違いないとは思うけれど、それには、もっともっと自己を主張しなければ・・」

 これは、私の恩師でもあるゲロー・ビーザンツさんの言葉です。カシマスタジアムに到着し、記者室に入ったところで出くわした「どこかで見た顔」。それがビーザンツさんだったから、こちらは仰天。「エッ、どうしてここにいるんですか??」ってな、頓狂な声が出てしまって・・。

 彼は、アジアフットボール連盟(AFC)に招聘され、コーチ養成特別講座の講師をするために来日しているとか。その講座(コーチ会議!?)の会場が日本だったというわけです。ビーザンツさんは、ドイツ最上級のコーチライセンス・コースの「責任者(校長)」を20年以上務めた、ドイツサッカー界の「理論的」な重鎮。私も、彼のもとでライセンスを取得したというわけです。

 ちなみにこのライセンスは、日本では「S級ライセンス」などと呼ばれていますが、正式な名称は「Fussball Lehrer Lizenz」。日本語にしたら「サッカー師範」ってなところでしょうか。その下に「Aライセンス」「Bライセンス」と続きますが、国家試験は、最上級の「Fussball Lehrer Lizenz」だけです(私は、下から上まで、全てのライセンス順次取得しました)。

 そのビーザンツさんとの、久しぶりの再会。今年の7月に、ベルリンで行われたサッカーコーチ国際会議のとき以来ですかネ。とにかく元気でなによりです。

 彼は、カシマスタジアムのロイヤルボックスで観戦していたのですが、前半の途中から、記者席からそちらへ移り、ハナシをしながら観戦していました。隣には、これまたヨーロッパサッカー界の重鎮、元チェコスロバキアの代表監督や、スコットランドの「グラスゴー・レインジャース」の監督を務めたベンゲローシュさんも座っています。彼も、今年の国際会議に列席していましたから、それ以来の再会ということになります。ビーザンツさんとは、ドイツ語で、ベンゲローシュさんとは英語で、いろいろなことを話しながら観戦した次第。いや、面白かったですよ。何といっても、彼らの「視点」が新鮮で・・。これについては、また別の機会にでも・・。

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 さて試合レポートです。まあ、ビーザンツさんが「大枠」をまとめてくれたんですが、まさにその通りで、ヴェルディーは、攻守にわたって常に「リアクション」でした。

 リアクションの意味は、次を予測していない、次を予測していてもアクションを起こさないっていうふうにでも表現できますかネ。彼らは、全体的なポジショニングバランスばかりに気を遣っていた・・!? それでも、中盤の選手たちの「活動量(運動量=ダイナミズムの源泉!)」がアレでは、いかんともし難い。何といっても人数は同じなのに、それぞれの局面では、常にアントラーズの方が人数が多いって感じられてしまうんですから・・。

 特に中盤での守備に、アントラーズとの「差」が明確に見え隠れします。ボールホルダーに対する・・、もっと言えば「次のパスレシーバー」に対する、読みベースのチェック。アントラーズの場合は、それが忠実、ダイナミック。そんなふうに「ボール(仕掛けの起点)」を抑えられたら、ヴェルディーも簡単には攻撃を組み立てるわけにはいかない・・。技術的にはハイレベルだから、ボールはキープできる・・、でもそこからの展開が「足許パス」主体になってしまうから、次で例外なく潰されてしまう・・。

 対するヴェルディーの中盤チェックは、全体的には「アナタ任せ」という雰囲気がアリアリ。ボールを奪い返すというのが守備の目的。そのために、自分の受け持ちゾーンなんて関係なくなるという状況の方が多いのが「自由にプレーせざるを得ない」サッカーですからネ。もちろんアントラーズの「ボールのないところでの動き」がダイナミックなこともあるのですが、これでは、アントラーズに、どんどんと中盤でのスペースを「実効あるカタチ(最終勝負の仕掛け)」で活用されてしまうのも道理・・ってなわけです。まあそれには、ヴェルディーの中盤ゾーンが「開きすぎ」ということもありましたが・・。

 守備のことを中心に指摘しようと思ったのですが、やはり「全てが有機的にリンク」しているサッカーですから、相手の攻めも同時に視野に入れて分析しなければ、守備での「ネガ・ポジ」がうまく表現できない・・。

 また、ヴェルディーの攻めでのマイナス面(=自分がスペースへ行くぞ・・パスを呼び込む動きをするぞ・・という姿勢が消極的)も目立っていました。

 私は、ボールのないところでの「動き」を中心に観戦するわけですが、彼らは、ボールを奪い返しても、中盤のスペースへ押し上げずに、トロトロと歩いているんですよ。これでは、「戻りが抜群に早い」アントラーズの守備ブロックに「どうぞ、組織を作ってください・・」と言っているようなもの。これでは、アントラーズのペナルティーエリアに進出することさえ叶わないのも当たり前ではあります。

 彼らは能力を備えている・・、彼らならば「もっと」出来る・・ということを大前提にハナシを進めたわけですが、それでも、アントラーズとの(個人能力の総体としての)チカラの差は、本当に「歴然」。ちょっとショックでしたヨ。これだったら、戦術的な判断として、「あまり頻繁にサポートへ上がり過ぎるな!(状況を冷静に判断してから行け!)」っちゅうことになってしまうのかも・・なんてコトまで考えてしまいました。

 何といっても、中盤で「1対1」になった状況で(まったく協力プレスを掛けられない!)、ドリブルで抜き去られたり・・、シンプルなワンツーで置き去りにされたり・・。そんなシーンを目の当たりにしたら、そんな「ネガティブ・ベースの発想」にだってなってしまうのかも・・

 それでもサッカーは相対ゲームですからネ。ヴェルディーが積極的に押し上げたら(そう、後半のようにネ)、逆にアントラーズは下がらざるを得ないんですよ。もちろん、中盤での「バランス」を取るリーダーは必要ですがネ(後半のヴェルディーは、前へ重心がかかり過ぎで、何度も、決定的カウンターを浴びてしまった!)。

 「ステディー」な試合内容で、最近の四試合を「負け無し」で乗り切ったヴェルディー。チカラは十分だと、今でも私は確信しています。「総合力は相手の方がかなり上だから・・」ということで「戦術サッカー」をやろうとする・・。そして、「計画以上」に選手たちのプレーから「ダイナミズム」が失われていってしまう・・。「相手に対する評価」と「バランスのとれたゲーム戦術(ゲームプラン)」は難しいものです。ちょっとでもアンバランスになると、すぐに「どちらかに極端に振れてしまう・・」というもサッカーですからネ。

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 さて、「降格リーグ」は、もの凄いことになってきました。

 最後の一チームの候補は、マリノス(勝ち点=29で13位)、ヴェルディー(勝ち点=27で14位)、そしてアビスパ(ヴェルディーと、同勝ち点、同得失点差ですが、総得点で劣るために15位)。

 最終戦は、マリノスが、アウェーで神戸、ヴェルディーが、ホームでFC東京、そしてアビスパが、アウェーでガンバ大阪。何ともいえません。とにかく、最後の最後まで「肉を切らせて骨を断つドラマ」が続くということです。

 「思い入れ」なしで、あくまでもニュートラルに状況を見届けようとしている湯浅でした。それにしても最終節は大変なことになった・・

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 最後に、ちょっとだけ柳沢・・。

 このことは、ビーザンツさんも指摘していましたが、とにかく柳沢の「動きだしの鋭さ」が目立ちに目立っていました。もちろんボールを受けてからのクリエイティブなプレーも秀逸なんですが、あれだけ鋭い「パスを受ける動き」だったら、パスを受けた後でも(パスを受ける前でも)、より余裕を持って、次のプレーに対するクリアなイメージが持てるのも道理だと感じます。

 美しい二点目のゴールシーン。中盤の上がり目で、ビスマルク、小笠原との間で小気味よくボールが動き、最後は小笠原が「ダイレクト」でスルーパスを決めます。そのときの柳沢の「動き出しのタイミング」素晴らしかったこと。それこそ「世界レベルのイメージシンクロ・フリーランニング」。いや、「ラストパスを呼び込む、決定的フリーランニング」。そして、パスを受けた後の落ち着いたシュート。鳥肌が立ちましたよ。いや、素晴らしい。

 「彼だったら大丈夫だネ・・」。ビーザンツさん、ベンゲローシュさんが、口をそろえていました。

 ということで・・



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