湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第15節(2001年11月24日、土曜日)

深い背景の「心理ゲーム」ではありました・・東京ヴェルディーvsFC東京(1-0)

レビュー

 さて・・。この結果をどのようにコメントして良いものやら。アビスパは、9人になったガンバに敗れ(後半27分には、アビスパGK、小島も退場になり「10対9」になる)、「J2」への降格が決定しました。

 サッカーではよくあることなんですが、アビスパにとっては、「状況的なアドバンテージ」が心理的にネガティブに作用した・・、逆にガンバにとっては「状況的なディスアドバンテージ」が心理的な追い風となった・・!? それこそ「サッカーは本物の心理ゲーム」だということを如実に証明するゲームだったのではないか・・と思っている湯浅なのです。もちろん私は、「内容」はまだ見ていないのですが・・。

 そのことは、ヴェルディー対FC東京のゲームにも言えます。立ち上がり、ガンガンと攻め上がるヴェルディー。2分、下平のミスパスをさらった小倉がシュートまでいく・・。5分、右サイドで、エジムンドからの「柔らかいパス」を受けたマルキーニョスが、そのままシュートまでいく・・。直後には、永井が中央をドリブルで進み、そのままシュートまでいく・・。11分、エジムンドが、決定的なシュートを放つものの、GKの正面にいってしまう・・。そして13分、エジムンドのドリブルから、タテに流れたボールを、永井がそのままダイレクトでシュートし先制ゴ〜〜ル!! ただこの後が・・。

------------

 この試合も、深い意味が包含された「心理ゲーム」になったのです。

 開始早々には、東京サポーターから「福岡、先制! 福岡、先制!」なんていう大コールが起こり、すぐその後に「嘘だよ! 嘘だよ!」というコールが追い打ちをかける・・。フ〜〜。

 さてヴェルディー。選手たちは、「マスト(must)」の先制ゴールを奪い、ちょっとホッとしたのでしょう、立ち上がりの「大パワー」が減退していきます。そして試合が拮抗した内容に変容していく・・。「1-0」というリードが、心理的に、そして物理的にも、ものすごく危険な状態であるにもかかわらず・・。

 もしヴェルディーが、東京のプレーを「完璧にコントロール」しているならば、ペースを落として試合の流れを拮抗させ(相手の重心を少し前へ上げさせ)、機を見たカウンターを仕掛ければいいのですが、実際の「試合内容」は、まさに「イーブン」。東京が、危険なシーンを作り出しはじめるのです。対するヴェルディーは、特に中盤の、攻守にわたるダイナミズムが沈滞し(中盤ディフェンスが、「待つ」ようになってしまう!)、東京に制圧されてしまう時間帯まで出てきてしまって・・。

 この試合に関しては、戦術的な分析なんて必要ないのかも。とにかく選手たちの心理的な「揺動」の方が、ものすごく面白い。何といっても、まったくどうなるか分からない・・という不確実な時間軸の上で三つのゲームが同時進行しているんですからネ。

 そのとき、前に座っているメディアの方から「ガンバの二人の選手が退場させられて、アビスパが先制ゴールを奪いましたヨ!」というニュースが入ってきます。さて、ドラマが動きはじめた・・、そんなことを考えていました。この展開で両チームが勝利をおさめたら、最後は「得失点差」で降格チームが決定する・・。

-----------------

 ハーフタイム。記者室のボードに張り出された他会場の試合経過を見たら、何と、ガンバが「同点」に追いついたという情報が目に入ってきます。そのとき、これは・・と思ったんですよ。9人になったら、もう「やり方」は決まっています。全員が、まさに誰一人として「心理的な空白」なく、全力で守備に参加しつづけなければならない・・。そしてその「高い守備意識」が、次の攻撃を活性化させる(人数が足りないのだから、とにかくボールを持った者は、常にリスクにチャレンジしつづけなければならない!)・・。それなんですよ、(ボードの経過を見て)その瞬間に思ったことは。

 外的な要因で、選手たち全員の「マインド」が統一される・・。そうなった場合の「チーム・パフォーマンス」は、時として何倍にもふくれ上がってしまうものなのです。それに対して、「見かけ上のアドバンテージ」をもらった方のチームは・・。

 フットボールネーションの「現場」では、「数的に優位に立ったとき、はじめてそのチームの実力が試される・・」とよく言われるのです。

 さて東京スタジアムでの試合。後半のヴェルディー選手たちは、どんな心理でプレーしていたんでしょう。普通だったら「ガンバが9人だろ・・それだったら、アビスパが大勝してしまうかもしれないじゃないか・・」って思うものでしょう。だったら、二点目、三点目を奪いにいかなければ・・というのが普通の心理だと思うんですよ。それとも、他会場の試合経過(内容)について、選手たちはまったく知らなかった・・!? フム・・。

 展開は、前半の「先制ゴール後」と変わりなく、文字通りの「イーブン」。見方によっては、東京の方に「勢い」がある・・と捉えられなくもない・・。逆に、とにかく確実な守備をベースにゲームをコントロールし、エジムンド、マルキーニョスの一発に期待する・・というヴェルディーのプレーからは(特に中盤選手たちの攻守にわたるプレーからは)、積極的にゴールを奪いにいくという雰囲気は伝わってこない・・。

 たぶん選手たちは、最後まで「経過と内容」は知らされていなかったのでしょう。タイムアップの数十秒後に、選手たちが喜びを爆発させてましたからネ。

 でも、やっぱり「本当のところ」は分からない・・知りたい・・なんて思っていたら、来ましたヨ、情報が。ハーフタイムの更衣室で、選手たちには「アチラのゲームは動いていない(まだ同点)・・」とだけしか伝えられなかった・・、でもエジムンドだけは、「オレはプロフェッショナルだ・・だから、全ての情報をおしえろ!」と言ったそうで、後半も、ベンチからポルトガル語で、「アチラの経過」が逐一伝えられていたということです。フム、フム・・。

 ベンチは、日本選手たちが「正確な現実」を知ったら「堅くなる・・」と思ったんでしょうネ。「とにかく他会場のことは気にせず、最後まで全力で闘おう・・」という指示だったそうな・・。フムフム・・。

 逆境であればあるほど「よし、オレがやったる!!」と、「自分主体」で、プレーダイナミズムを増大させていく・・。それが「肉を切らせて骨を断つという世界の勝負」では、決定的に重要なファクターになる・・。そしてそこで、選手たちの「本当の実力」が試される・・。

 ただエジムンドだけは・・。全てを「体感」しているピュアなプロフェッショナル・・ということですネ。プレー内容だけではなくて・・。ヨーロッパのコーチ連中から聞いた彼の評判から考えれば、もう別人。やはり「明確なミッション」を感じている人間は、目的に向かって「全力を傾注」するものだということなんでしょう。彼にとっての「アクション・アイデンティティー(目的意識=ヴェルディーを降格の危機から救う=それが彼自身の評価を格段に向上させる・・もちろん本国において!)」は、まさに「明確」でしたからネ。

 とにかく、ヴェルディーの降格を助けたのは、エジムンド。この試合でも、縦横無尽に走りまわり、本当に「ほとんどの仕掛け」の起点になるだけではなく、フィニッシャーとしても相手を震え上がらせることで、ヴェルディー選手たちにとっての、「明確な自信ソース」になっていた・・。いや、脱帽です。

------------

 最後に、アビスパについて・・。試合の内容を見ずに書くのは気が引けるのですが、公式記録では、「後半のシュート数」が、ガンバの「10本」に対して、アビスパは「7本」。また前節の「エスパルス戦(大逆転されてVゴール負けを喫した!)」でも、エスパルスの斉藤が退場になった後(2-0でリードしていた後)、アビスパが、まるで違うチームに(消極的に)なってしまったことを鮮明に覚えています。

 その「現象」は、前述したように、これしかないという意志で統一され、プレーヤー全員の「全力エネルギー」が相乗効果を発揮する相手に対し、逆に、心理的に「守り」に入ってしまったアビスパ・・という「構図」でした。

 私は、フットボールネーションにおける、深〜〜い「歓喜と悲劇のドラマ」を、数限りなく体感しています。そして、サッカーが生活文化として深く浸透している「アチラ」では、そんな様々なドラマが、人々の「意識」をどんどんと活性化させていくこと(どんな結末でも、最後は、何らかの前進エネルギーに収斂されていくという事実!)も知っているつもりです。どんな結末になろうと、(ポジティブな社会的存在である)サッカーは続く・・ということが言いたかった湯浅でした。

 では・・



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]