湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


セカンドステージ第1節の残り試合(2001年9月1日、土曜日)

「名波」をコアにする素晴らしいボールの動き・・堪能しましたよ華麗なサッカー・・ジュビロvsエスパルス(3-1)

レビュー

 この試合における「ゲームの流れのコア」は、何といっても名波。たしかに、まだまだトップフォームには戻っていません。それでも彼は、最後まで、ジュビロが魅せつづけた「プレーイメージのコア」として君臨しつづけたのです。

 ジュビロは、「藤田」そして「高原」を欠いています。でも、彼らの攻守にわたるアクティブプレーからは、その「マイナス要素」が感じられませんでした(もちろん部分的には・・!)。それは、ジュビロが展開する魅惑的サッカーが、「彼らの伝統(プレーイメージのベース)」といえるレベルで高まっていることのクリアな証明・・といったところ。

 「ドゥンガ」が残したイメージ資産・・!? とにかく、ジュビロ選手たちの、攻守にわたって「常に考えつづける姿勢(=ハイレベルな集中力)」が快感です。たしかに「疲れ」はするでしょうが、それも常に「自分主体」ですから、選手たちにとっては、楽しいことこの上ないに違いありません。

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 さて、ジュビロの「魅惑」を、もう少し具体的に・・。まず攻撃から・・

 もう何度も書いたことなんですが、そのキーポイントは「ボールの動き」。エスパルスも、中盤でのボールの動きは一流なんですが、この試合では、その「実効レベルの差」が明らかになってしまって・・

 要は「ボールの動き方」に差が見えるということです。ジュビロの場合は、とにかく「縦方向」へのボールの動きが活発なんですヨ。中盤でボールを持った選手が、「より積極的」にタテへ「突っかけるパス」を出し、そこから、素早く、そして広く、サイド方向だけではなく「前後にも」ボールを動かしてしまうのです。

 もちろんそれには、前線の選手たちの「前後のフリーランニング」が効果的なだけではなく(その時点で前線にいる選手たちが、常に、タテパスがくる!という強烈な意識をもっている!!)、後方からのサポートの動きが欠かせません。また全員が、忠実に「パス&ムーブ(ワンツー)」を意識しつづけるという「隠し味」もあります。

 中盤でパスを受けた名波・・、もちろんスパッという華麗な「一発トラップ」・・、そこで一度タメを入れ、マークする相手を「限界まで」引きつける・・、そこで、相手の「重心」が名波へのアタックに向かった瞬間に、「ワン」のパスを出し、ズバッとタテへ動いて(パス&ムーブ!)リターンのパスを受ける・・。そんな「マーク相手を置き去り」にしてしまうような、常に「前進」を強烈に意識した「パス&ムーブ」。その意識は、名波だけではなく、ジュビロの全員に深く浸透していると感じます。もちろん、この「強烈な意識」があるからこそ、「壁(ツーのリターンパスを出す選手)」も、明確なイメージをもって、次の「パスレシーバーポジション」に入れるというわけです。

 「激しい前後のボールの動き」ですが、そんな「ワン・ツー」だけではなく、中盤でボールを持った選手たちが、常に、本当に「素早いタイミング」で、前線プレーヤーの「足許」目がけたタテパスを出そうと強烈に意識していることも見逃せません(もちろん中山や清水の、パスを受ける前後のフリーランニングも秀逸!)。それが相まって、「前後のボールの動き」に対する、チーム全体での「イメージシンクロ・レベル」が高まりつづけるというわけです。

 名波から「素早く正確で鋭いタテパス」を受けた中山・・、その「後方スペース」に、これまたイメージが明確にシンクロした服部、福西、はたまた奥などが、どんどんと上がってくる・・。そんな「クリエイティブな組織プレー」がどんどんと出てくるのです。いや、素晴らしい・・。もちろん、そんなジュビロのボールの動きを指揮していたのが名波であることは言うまでもありませんよネ。

 例を一つだけ・・。それは前半28分のプレー。中盤の深いところでボールを奪い返した名波から、「素晴らしく早いタイミング」で、最前線の中山へ向けて、鋭く正確な「タテパス」が通されます。チョンと、後ろのスペースへ入り込んだ清水へ、ボールを「落とす」中山。そこで清水は、「ここがチャンスだ!」と駆け上がってきた右サイドの奥へ、これまた素早く「ラストパス」を通してしまったのです。ステーションは、奥で「四人目」。美しい「サイドチェンジ気味」のボールの動き・・。そのまま奥が、決定的シュートまでいったことは言うまでもありません。これは「攻めのレベル」が違う・・そう思ったモノです。そこでの「演出家」も、もちろん名波!!

 それに対しエスパルス。チャンスはあるのに(前線選手への足許パスの可能性は十分なのに!)、どうしても中盤でボールをもった選手は、「確実なパス」を選択する傾向が強いと感じてしまいます(またパスを出した後の「ムーブ」も緩慢!)。そうです、「仕掛け」という視点では意味のない「横パス」ばかり目立ってしまうんですヨ。そんな「逃げパス」だったら、「次のステーション」を読むのは簡単。ジュビロ守備ブロックに簡単にカットされてしまうのも当然です。

 最前線のバロンや沢登、はたまた平松に(その足許へ!)、もっとどんどんとタテパスを「付け」、そこから次に素早く展開するような「変化のある前後のボールの動き」を演出できなければ、ジュビロ守備ブロックを振り回すことなど叶うはずがない・・。もちろん、そんな「タテのボールの動き」をイメージできていないこともあって、前線プレーヤーたちの戻りの動きも緩慢ではありましたが・・(これこそ、それぞれの選手たちのイメージが、有機的に連鎖しなければ、良いサッカーを展開できないという普遍的概念の正しさの証明!?)。

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 「書きたいこと」が多すぎて・・。これから、ワールドカップ欧州予選の「極限の勝負ゲーム(アイルランド対オランダ、ドイツ対イングランド)」を、二試合もつづけて見なければならないのですが・・。でも、ジュビロの「魅惑」に触発されてしまって・・

 次の「魅惑」ですが、それは「決定的スペース」へ仕掛けていくまでの「プロセス」でも、ジュビロが一枚上手だということ。まあ「前後のボールの動き」というクリエイティブな組み立てプレーの「行き着く先」ということですが、要は、ジュビロの前後のボールの動きが激しいモノだから、エスパルスの最終守備ラインが、どうしても「前後にデコボコ」になりがちだということです。だからスルーパスも出しやすくなってしまう・・。

 単純なメカニズムなんですよ。その「最終的な仕掛け」のために、ジュビロ選手たちが、いかによく動いているか・・。まあ感動モノではあります。

 それに対してエスパルスの「最終的な仕掛け」は、単調そのもの。この試合では、アレックスが演出する「攻撃の芽」は、うまく消されていましたし(奥と鈴木・・後には、西と鈴木)、(試合の前半にはうまくチャンスを作り出してた)市川のサイドにしても、ジブコビッチを早々に交代させることで、効果的に対処されてしまいます(西と大岩・・後半は服部と大岩)。こうなっては・・

 次のジュビロの「魅惑」。それは、選手全員に「チーム戦術(攻守にわたる全体的なプレーイメージ)」が深く浸透しているということです。何度、服部や福西、奥や西たちが、カウンターの状況で(もちろん組み立ての状況でも!)、最前線に顔を出していたことか(最後は常にシュートポジションまで!)。彼らには「確信」がある・・。自分が攻撃の最終シーンまで絡んでいったとしても、必ず誰かがしっかりとカバーしてくれているという・・。

 右サイドで奥がオーバーラップした(最終的な攻撃シーンにまで絡んでいった!)後、右サイドのアレックスを抑えたのが「服部」。そんなクリエイティブな「その後のカバーリング・シーン」を何度目撃したことか。

 この試合では、服部と福西の「守備的ハーフコンビ」の出来も秀逸だったわけですが、もう彼らは「本物のダブルボランチ」にまで成長した・・!?(これについては、今年5月にサッカーマガジンの「1/4コラム」で発表した文章を参照してください・・そこで私は、ブラジルに敬意をはらうという意味でも、これからは、安易に「ボランチ」という表現を使うのを止めよう!と書いたので・・)

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 それら以外でも、アタックする者と、次のインターセプトや次のプレスを狙う者とのバランス等々、守備での「微妙なポジショニングバランスの取り方」、また「読みディフェンス」、「守備におけるイメージシンクロ」等々といったテーマはあるのですが、まあ今日はこれくらいにしておきましょう。もちろん、素晴らしい才能を秘めた若者、ジュビロの「前田遼一」についても、そのうちに絶対に取り上げますから・・。

 「セカンドステージ」でも、名波が復帰したジュビロが主役を演じることは誰の目にも明らかでしょう(そのうちに藤田も復帰するでしょうし、前田もどんどんと伸びてくる!)。

 この試合では凌駕されてしまったとはいえ、潜在能力は高いレベルにあるエスパルス、調子をもどしつつあるアントラーズとマリノス、キッチリとしたチーム戦術が深く浸透しているジェフとサンフレッチェ、名古屋や神戸、柏など、とにかくジュビロ包囲網をダイナミックに狭めていかなければ・・

 さて、あと数分で「アイルランド対オランダ」の試合がはじまりますので、「J」についてはここまでということで・・



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