湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第3節(2001年8月25日、土曜日)

いや堪能しましたヨ、ダイナミックサッカーを・・浦和レッズvsサンフレッチェ広島(2-1)

レビュー

 「一体いつになったらアドリアーノを外すんだ!!」。つい、怒りが口をついてしまって・・。隣で観戦していたテレビ埼玉のスタッフの方が、ちょっとのけぞっていました。ホント、失礼しました。

 アドリアーノについてですが、前節のヴェルディー戦では、少しは「改善の兆し」を感じていた湯浅でしたが、この試合では、また「元のサヤ」に収まってしまって・・。もちろん彼の「パッシブ(受け身で消極的な)プレーイメージ」という「後ろ向きのサヤ」のことですよ!

 ベンチは、彼の「最終勝負における一発の才能」に期待しているのでしょうが、彼によって、チーム全体の「攻めにおける中盤ダイナミズム」が殺がれつづけていたというのは「事実」ですからネ。阿部、永井、鈴木、はたまた両サイドの内舘、城定たちの「チャレンジ意志」が、アドリアーノという「消極ビールス」によって連鎖しなくなっていた・・

 とはいっても、前半の立ち上がりだけは、レッズの攻撃に「勢い」を感じていました。

 1分。右サイドで、まずエメルソンが粘ってボールを奪い返し(グラウンド上で魅せつづける、諦めることを知らないボールへの執念に大拍手!)、そこでボールを持った内舘から、「わき目もふらず」にタテのスペースに抜け出したエメルソンへ素晴らしいスルーパスが通ります。そしてそこからのラストセンタリングを、永井がダイレクトシュート!

 今度は7分。左サイドを駆け上がった永井が、ギリギリの体勢からセンタリング。それをエメルソンが受け、素晴らしいボールコントロールからマークする相手を振りきって、左足シュート!! これも、惜しくも右へ外れてしまって・・

 でも先制ゴールはサンフレッチェでした。彼らは、鋭いカウンターだけではなく、落ち着いた展開からの「急激なスピードアップ」という、明確な攻撃イメージをもっていると感じます。前節、ジェフを「2-0」で破った試合でも、鋭いカウンターだけではなく、鋭利なスピードアップというポイントでも、彼らが「図抜けたイメージシンクロレベル」にあると感じていた湯浅だったのです。

 たとえば「スピードアップ」。最前線プレーヤーの「足許」に強いパスを出す・・、それを「スルー」し、急激なターン&ダッシュで、自らが「三人目」の選手として決定的な仕事をする・・ってな具合です。

 さて先制ゴール。前半12分のことです。左サイドを上がったサンフレッチェの服部へ、ベストタイミングのパスが藤本から送られます。それを服部が、内舘とのギリギリの競り合いから、レッズのゴール前へグラウンダーのセンタリングを返します。レッズGK、安藤にとってはイージーボール!? ところが彼は、キャッチできずにこぼしてしまいます(大木の突っ込みと味方ディフェンダーの動きに、ちょっとビビッた・・!?)。そしてそれを、久保が「ゴッツァンゴール」・・ってな具合です。

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 その後は、攻め上がろうとするレッズの攻撃がかみ合わない・・。その意味は、互いの「仕掛けの意図」がうまく合致(シンクロ)しないことからボールの動きが遅く、サンフレッチェの守備ラインのウラを突けないということです。たしかにエメルソンの突破力には目を見張らせられますが、それでも相手の守備ブロックのもっとも「厚いところ」へ突っかけていくのでは・・

 だからこそ、エメルソンの突破力を活かすためにも、どんどんとボールを動かし、彼に、サンフレッチェ守備ブロックの「薄い部分」で勝負させるようなアイデアが必要なんです。でも、そんな、攻撃に変化をつける「アイデア・クリエーター」であるはずのアドリアーノのプレーに、まったく冴えが見られない・・。あの「運動量」じゃアタリマエなんですがネ・・

 とにかくアドリアーノの、ボール絡み、ボールのないところでの、攻守にわたる「心理的ダイナミズム(これを積極的なプレー姿勢と呼んだりするんですよ)」は、もう「プロにあるまじき!」というレベルなんです。これでは、最終勝負の「一発の才能」だって活かせるはずがありません。

 とにかくその後のレッズの攻めは、もうチグハグの極み。阿部や鈴木、両サイドバックのプレーからは、仕掛けへの「強い意志」は感じるのですが、いかんせん、「グラウンドの中央」に、その「意志」を分断してしまう存在がいるんではネ・・

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 後半、(読みベースのマークの受けわたし、一対一の勝負などで)不安定なプレーを展開していた西野に代わり、土橋が入ります。そして「前気味のストッパー」、石井が最終ラインに入り、中央で、山田と「コンビ」を組みます。これで、やっとレッズの最終ラインに安定感が出てきた・・

 この「山田と石井」のセンターコンビは、本当に強い! これでレッズは、純粋な「フォーバック」になりました(それまでは、守備的ハーフの石井が、限りなくストッパーに近い働きをしていましたからネ)。守備的ハーフに入った土橋も、本来の「守備的ハーフ」の仕事に就きます。そしてその右に鈴木が、左に阿部が「基本ポジション」をとるという布陣になり、最終ラインから中盤にかけての「ブロック」に、強さと安定性が出てきたというわけです。でも「前」が・・

 そんな「フラストレーション」を感じていたときでした、やっとベンチが動いたんですよ。それまで「攻撃のブレーキ」としかいいようのないパッシブプレーに終始していたアドリアーノを下げ、ケガから復帰したトゥットをグラウンドへ送りだしたのです。「そうだ!! それだよ!! でも、遅いヨ!」。またまた、そんな「思い入れ発言」が口をついてしまって・・。テレビ埼玉の方には、ホント、申し訳なくて・・

 そしてそこからのレッズの攻撃に、本当の意味での「ダイナミズム」が出てきます。「邪魔者」がいなくなったことで、特に、阿部、鈴木のプレーが、格段にアクティブになってきたりして・・

 直後の11分には、阿部のサイドチェンジパス、永井の「折り返しヘッド」から、エメルソンの決定的シュートチャンスが生まれ、その1分後には、永井と交代し(永井の出来は決して悪くはありませんでしたヨ!)、突撃隊長の田中が登場します。そしてレッズの勢いがどんどんと加速していく(13分、サンフレッチェに、後半では唯一ともいえる決定的チャンスを作られてしまいましたがネ・・このゲームで素晴らしい出来だった藤本の、右サイドからのセンタリングを、大木がフリーヘディング!)・・

 その後、それまでにはなかった「勢い(相手守備ブロックを振り回してウラを突いていくような危険性!)」を感じさせるレッズの攻めに、サンフレッチェの沢田(振り切られたエメルソンを引き倒して二枚目のイエロー!・・後半26分)、オレグ(これまたエメルソンの突破ドリブルを倒してしまって二枚目のイエロー!・・後半33分)がつづけて退場になってしまいます。これで「11対9」。

 それでも私は、何度も決定的なシュートを放つもののゴールを割れないレッズに、「今日はダメかもしれない・・」なんて思いはじめていました。何千試合にもなる私の観戦経験からの「インスティンクティブ(本能的)なカン」なんですがネ。これについては「ロジカルな説明」は付けられませんが・・

 でもこの試合は、私の「カン」は大ハズレ! 39分にエメルソンが、43分には阿部が、それぞれ同点ゴール、勝ち越しゴールを決めたのです。もちろんそれは、試合の「流れ」からすれば、理路当然のゴールではあったんですが・・

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 とにかく、メンバーチェンジした後の、レッズの「生まれ変わったサッカー内容」を心から堪能させてもらった湯浅でした。

 トップは、エメルソンとトゥット。1.5〜2列目に、攻守にわたる「抜群の貢献度」を魅せる阿部と、永井か田中、守備的ハーフコンビに、才能を秘める鈴木と、忠実な土橋、そして最終ライン中央に「山田と石井のコンビ」・・。何となく、いまのレッズのベスト布陣が見えてきたような・・

 特に鈴木ですが、たしかに注目に値する選手です。攻守にわたる「バランサー」として・・、攻撃の最終段階での「チャレンジャー&パサー&フィニッシャー」として・・、はたまた、中盤での「忠実でクリエイティブなディフェンダー」として・・。どんどんと、期待感を高めてくれる若い才能たちが出てきているじゃありませんか。

 何度も経験しているんですが、「チームの顔」がいなくなった後、急に「ブレイク」する若手の選手が出てくるものなんですよ。要は、彼らが、「チームが動いていること」を感じている(自分にも大きなチャンスがあると感じている)・・っちゅうことです。もちろん、そんな彼らの感覚を「実感レベル」まで高めるための「ベンチワーク」が決定的に重要な意味をもってくるんですがネ。

 素晴らしい「サッカー内容」で「結果」も出した「後半10分すぎの布陣」。次のゲームではどうしますかネ、(井原を外すという決断をした)チッタ監督は・・。「ウィニングチーム(もちろん『内容』で!!)・ネバーチェンジ!」というサッカーの不変的概念を踏襲するのか、それとも・・。まあ「何人」かは、スターティングラインアップの段階では「動かして」もいいとは思うのですが・・。注目しましょう、次の試合を。



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