湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第9節(2001年10月17日、水曜日)

魅惑的で強いサッカーを展開したジュビロ・・FC東京vsジュビロ磐田(2-5)・・そしてアビスパ対レッズ(1-1)を少しだけ

レビュー

 いや、強いネ本当に・・、ジュビロは。このゲームについては、両チームの「守備」にスポットを当てて観戦しようと思っていたんですが、とにかくジュビロの、素早く、広いボールの動きをベースにした魅惑的な(組織的な)崩しが目立ちに目立ってしまって・・

 FC東京は守備を固めてきました。例によって、最終ラインの四人と中盤の四人(浅利が絶対に上がらない前気味スイーパー!)、それにトップの二人が、きれいにスリーラインを作るんですよ。もちろん、それぞれの選手たちのポジションをしっかりと「バランス」させながらネ。

 教科書通りの、「ポジショニングバランス・オリエンテッド守備」というわけです。また、ジュビロのボールの動きを警戒して、いたずらにボール周りに「集中」することもしません。要は、ジュビロの攻撃を追い込むまでは、絶対に、守備ブロックが振り回されないように・・ということを強く意識した守備だということです。それでも・・

 対するジュビロの守備は、クリエイティブ&ダイナミック(前半の30分前後の集中切れを除いて・・)。例によっての、「読み」をベースにした中盤での「ボールホルダーへの寄せ」は超一流。それも、基本的には「前から戻ってくる選手」が寄せていくのです。そこを「キーポイント」に、全員が「次」を狙う・・。まさに、「一人の例外もない、有機的なプレー連鎖の集合体」というディフェンスじゃありませんか。もちろん、センタリングを上げられたり、決定的なスルーパスを出されてしまうような状況では、「決定的なパスレシーバー」がフリーになるようなシーンはほとんど出てきません。

 もちろんその背景には、それぞれの「ステーション(ボールホルダー)」で時間がかかり過ぎるなど、東京の攻撃が「停滞気味」だということもあるわけですが、逆にそれも、ジュビロ中盤における抜群に忠実で、素早く、そしてクリエイティブな「ボールへの寄せ」があるからとも捉えられるし・・。フ〜〜ッ。攻守が連続的に入れ替わる、「様々なファクターが入り組む」理不尽なボールゲームだから、ある現象の要因を特定することは難しい・・

---------------------

 この試合でのジュビロの中盤は、右に西(残り時間7分で河村と交代)、左に金沢、縦横無尽に走り回る守備的コンビに福西と服部、そして「中心」は、もちろん藤田。トップと最終ラインはいつもの通りです。

 それにしても、西と金沢。とにかく攻守にわたって積極的なだけではなく、抜群の「実効プレー」を展開していました。何度、「サイドの決定的スペース」を攻略する彼らのプレーが最終勝負の「起点」になったことか。もちろんそれには、服部と福西という中盤でのバランサーの存在も見逃せません。西にしても金沢にしても、安心して(後ろ髪を引かれることなく)攻撃の最終シーンまで絡んでいけるハズです。

 ジュビロが魅せる「抜群にクリエイティブ」なボールの動きですが、とにかく、「球離れの良さ」が次元を超えていると感じます。警戒し、互いのポジショニングバランスに気を「遣い過ぎる(!?)」FC東京ディフェンスブロックの「すき間」をどんどんと突いてくるのです。もちろん(ジュビロの)周りの選手たちは、その「球離れのタイミング」を明確にイメージできているからこそ、「比較的早いタイミング」で、どんどんと「間隙」に入り込んでいけるというわけです。だから東京の守備陣も、「次」にターゲットを絞り込めない(次のボールの動きをイメージできない)・・。

 それにしても、「足許」でボールを動かすだけではなく、常に、バランスを取る東京ディフェンダーの「間」にできる小さなスペースへ「走り込む」味方へ、どんどんとボールを動かしてしまうジュビロの「チームプレー発想」。素晴らしいとしか表現しようがありません。選手全員が、「パスを受けた後」を常にイメージしているということです。

 そして、西がシュートを放ち、金沢の持ち込みからの折り返しを起点に、最後は福西が決定的シュートチャンスを迎え、はたまた金沢のセンタリングが直接ポストをたたいたり、服部のフリーキックと中距離シュートが惜しいスポットに飛んだりと、続けざまにジュビロがチャンスを作りつづけます。対する東京は、ジュビロのペナルティーエリア際まで進出することさえできない。

 このまま一方的な展開になってしまうのかな・・なんて思いはじめていた前半25分を過ぎたあたりから、東京の「前への勢い」にも加速度がつきはじめます。それは、ジュビロの「ボールへの寄せ」に鋭さが欠けてきた・・、つまり「心理・精神的」な部分に「すき間」が見えはじめた(ちょっとイージーな心理になってきた!?)からです。だから東京のボールホルダーが、また次のパスレシーバーが、より余裕をもって「次をイメージ」できるようになり、それが、続けざまのチャンスにつながったというわけです。

 前半32分に魅せた、右サイドからの攻撃は見事でした。右サイドの佐藤が、フリーでタテパスを受け、ゴール前では、アマラオが、一度左へ動くと見せかけて、マークする田中(だと思ったんですが)の前に入り込むような決定的アクションを仕掛けたのです。そこへ、佐藤から正確なラストセンタリングが送り込まれます。あっ、ゴール!? でも、ボールがジュビロのゴールへ転がり込んだところで、レフェリーが、キーパーチャージの反則を取ってしまいます。決定的スペースを「初めて」突かれたジュビロにとっては、ラッキーなシーンではありました。でもその後、GKのヴァン・ズワムが、負傷で交代してしまって・・。

 交代したGK、大神ですが、実戦から遠ざかっていることもあり、とにかく不安定。特にハイボールの処理が安定しません。そんな「マイナス要素」が、ジュビロ守備ブロックを不安定にし、逆に東京を勇気づけてしまうのは当然。何度か、サイドから決定的に近いカタチを作り出されてしまいます。42分の、左からのセンタリングシーンは、完璧に一点ものではありました。

---------------

 後半は、再びジュビロがゲームを支配します。それでも先制ゴールは東京。アマラオのヘディングアシストを、後方からバックアップしていた三浦文丈が蹴り込んだのです。でも逆にそれが、ジュビロのゴールラッシュの序章になってしまって・・。

 ここでは、「シーソーのように」たくさん入ったゴールについては触れませんが、ハットトリックを達成したジュビロの清水範久についてだけは一言。

 先発した期待の若手、(目立った活躍ができなかった)前田の代わりに後半から登場した清水。トップではなく、限りなく中盤に近い二列目に入ります。そして、(それまでベンチを温めていた悔しさをぶつけるかのように!?)これぞ縦横無尽というダイナミズムで、攻守にわたり、まさに「至る所」に顔を見せては「実効ある」プレーを展開するのです。後半のジュビロのペースアップには、彼の貢献度も大きかったと思う湯浅なのです。こんな「チーム内のライバル関係」もジュビロの強みの一つということです。

 そんな清水ですから、まさに「自ら掴み取ったハットトリック」。心地よいことこの上ありません。忠実でダイナミックなチームプレーが「カタチ」として報われたんですからネ。

 もう一人、藤田。まあもう語る必要などないかもしれませんが、とにかくその攻守にわたる実効ある活躍は、インプレッシブそのものでした。爆発的なチェイサーとしても(前からの戻りで、忠実にボールホルダーへ寄せるプレーが秀逸!)、協力プレス要員としても(何度、高い位置でボールを奪い返したことか!)、つなぎ役としても、仕掛けのコアとしても、ポスト役としても、はたまた決定的な崩しでの最終フリーランナーとしても・・。

 特に「三人目」の動きが素晴らしい。決定的シーンに「なりそう」な状況では、それを「感じた」彼は、必ずといっていいほど、後方からのフリーランニングで「最後」まで走り切るのです。この試合では実を結ぶことはありませんでしたが、少なくとも4-5回は、前にいる味方までも追い越して決定的スペースに入り込むような爆発フリーランニングを魅せていました。周りから信頼されるはずです。明確なイメージに支えられた「自分主体」のリスクチャレンジに乾杯!!

---------------

 「例によって」、魅惑的なだけではなく、強さも併せもつ高質サッカーで、三位だったFC東京を一蹴したジュビロ(ちなみに、シュート数では、ジュビロの21本に対し、東京は7本だけでした)。アントラーズもしっかりと勝ち点を伸ばしたことで、いよいよ「二強」のせめぎ合いが激しさを増す・・、また「降格リーグ」も徐々に熱を帯びてきている・・、理想的なリーグ展開になってきたではありませんか。

==========

 さて、アビスパ対レッズ戦について、レッズを中心に、少しだけレポートすることにしましょう(昨日の夜中にアップしたFC東京とジュビロの試合レポートに、次の朝に「書き足し」ました)。

 本当によくトレーニングされているアビスパ。ノ・ジュンユン等が加入して、クリエイティブな勢いも出てきましたからネ。でも彼らについてのレポートは、今回はご容赦ください(申し訳ありませんが、朝の時間に限りがあるもので・・必ずまた私の視点を発表しますので・・)。

-----------------

 前節、埼玉スタジアムでの「こけら落とし」で無様なゲームを展開したレッズ。この試合では、福永に代わってトゥット、土橋に代わって阿部が先発。そして「内容」が、期待通りに好転します。

 相手守備ブロックを崩した決定的チャンスの数では、完全にレッズが圧倒していました。キーワードは、「相手守備ブロックを崩したチャンスメーク」。そのためには、ボールのないところでのクリエイティブなプレーが決定的に重要なファクターになります。前節でのレッズは、足許パスばかりをつなぐ・・、最終勝負の「起点」ができても、決定的フリーランニングが出てこない・・、決定的フリーランニングを仕掛けてもパスが出てこない・・、だから足が止まった拙攻に終始するようになってしまう・・というチグハグなサッカーに終始していましたからネ。

 この試合では、トップのエメルソンの周りで、永井とトゥットが、頻繁に、そして縦横無尽にポジションチェンジをくり返し、それに、両サイドの山田と城定、守備的ハーフの阿部が、ケースバイケースで絡んでいきます。そして、タイミングの良いドリブル勝負、ワンツー、スルーパス、ピンポイントセンタリングなどを駆使した、クリエイティブな「崩し」を魅せるのです。

 これらの「オフェンス表現」には、(次のプレーに対するイメージがシンクロした)ボールの動き、ボールホルダーの素早いコントロールからの「クリエイティブなタメ」やドリブル&キープ、最終勝負の起点、オーバーラップなども含む様々なフリーランニング、パス&ムーブ等々、多種多様の「攻撃プレー要素」が含まれていることは言うまでもありません。それらの要素が、有機的に連鎖してはじめて「良いサッカー」になるというわけです。

 守備ブロックは、前節同様のシステム。井原をスイーパーにするコンベンショナルなスリーバックと(ストッパーは強力コンビ、石井と路木・・両サイドは山田と城定)、二人の守備的ハーフ(鈴木と阿部)で構成します。そして限りなく「マン・オリエンテッド」な忠実ディフェンスを展開するのです。安定はしていました。でも・・。まあこれについては、今後の発展へ向けた「過渡期システム」と考えることにしましょう。

 ケガから復帰した阿部。中盤守備と後方からの確実な展開では、かなりの貢献度だったと思います。それでも、最終勝負へ最後まで絡んでいくシーンは希。まあ、本調子に戻るのにはもう少し時間が掛かるということでしょう。とにかく彼には、「本物のボランチ」にまで成長して欲しいと思っている湯浅なのです。

 山田ですが、レッズの攻め全体に「確実な流れ」が出てきたこともあって(前節では、中盤でのミスパスが多すぎましたからネ)、積極性、実効性、ともにアップ。もちろん、強力な守備をスタートラインにしてネ(気の抜けたプレーも目立たず!)。でも、まだまだ。彼ほどの能力があるのだし、この試合では、鈴木が堅実なバックアップに徹していたのだから、もっともっと「行って」もよかった・・という印象をもったのですがネ。それにしても、エメルソンの先制ゴールを演出した「仕掛け」は、見事の一言ではありました。そんな「天賦の才」に恵まれているからこそ、彼に「もっと!」と期待するんですよ。

 永井は、本当に調子を上げてきていると感じます。球離れの良さ、タイミングの良いドリブル勝負、意を決した決定的フリーランニング、そして実効あるディフェンスなど、いまのレッズで一番の「自分主体プレーをベースにした伸び」を見せているのが彼だということに異論はない・・!?

 トゥットは、「二列目」もこなすようになってプレーの幅が広がったと思います。いいことじゃありませんか、選手たちが、今いるポジションの「効果的プレー」を臨機応変にイメージできるのは・・。それが、様々なファクターが、「より」有機的に絡み合う現代サッカーで成功するためのキーポイントということです。

 その意味では、エメルソンのプレーは、まだ「凝り固まり過ぎ」のように感じます。もっと周りを使う、周りに使われるというメカニズムを意識しなければ・・。もちろん、彼の爆発的な突破力は魅力ではあるんですが、もう少し「組織プレー」を意識すれば(もう少し、組織プレーと単独勝負のバランスが取れてくれば)、そんな彼の「天才」が、もっともっと活きてくるに違いない・・

 とにかく、レッズ選手たちの「意識」がアップし、発展する可能性を「再び」感じさせてくれるようになったことに安堵している湯浅でした。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]