湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第8節(2001年10月13日、土曜日)

最高のハイレベルマッチ・・でも「内容と結果」ともに僅差でジュビロへ・・ジュビロ磐田vs鹿島アントラーズ(2-0)

レビュー

 これだけ同じ相手との対戦がつづいたら、どんな「現象」が起きるのか・・。私の興味は、まずそこに集中していました。どちらかが、相手の弱点を突いてくるのか、強みをレベルアップしていくのか・・。

 ナビスコカップ準決勝での対戦から、この日の「J」まで、両チームには、いくつかの「変更点」があります。まずアントラーズ。相馬が、スタメンに名を連ね(アウグストが欠場)、昨シーズン「トリプル」を達成した守備的ミッドフィールダーコンビ、熊谷と中田浩二が肩を並べます。でも、「代替のきかないストライカー」にまで成長した鈴木は、出場停止で欠いてしまって・・(平瀬が先発)。対するジュビロは、数日前のナビスコ準決勝第二戦とまったく同じメンバー。もちろんナビスコ準決勝の第一戦までリーダーシップを握っていた「名波」を除いて・・。

 そして、この「変更点」が、アントラーズに暗いカゲを落とします。試合の立ち上がり、相馬の守備が、ちょっと不安定なのです。長いブランクによって試合勘が・・!? まず、ジュビロ右サイドの西に、ドリブルで翻弄されて決定的センタリングを通され(秋田のクリアがバーに当たって・・!)、次には、コーナーキックから、マークしていたジュビロストッパー、大岩に走り込まれてフリーヘディングシュートを打たれてしまう(僅かにゴールを外れる!)・・。その後、守備では勘を取り戻していきますが、それでも攻撃での貢献度は、以前とは比べモノにならなくて・・。また最前線の平瀬も、絶好調だった鈴木を「リプレイス」できているわけでもなく・・。

 これは、アントラーズにとって厳しいゲームになるな・・、立ち上がりの「ゲームの流れ」を見ながら、そんなことを思っていました。それほど、ジュビロの前への「クリエイティブな勢い」が目立ちに目立ちつづけるのです。それも、名波がいないにもかかわらず。チームコンセプトが浸透していることの証左・・、だから誰が出てきても、スムーズに「流れ」のなかに溶け込んでしまう・・。いや、大したモノだ。

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 とはいっても、そこはアントラーズ、試合が進むにつれて、徐々に盛り返してきます。支配されっぱなしの状態から、徐々に「互角の展開」まではい上がってきたのです。そしてゲームが、例によっての「ハイレベルな拮抗状態」に突入していくのですが、それでも全体的な「実効ベースの展開」では、やはりジュビロに軍配が上がる・・!?

 何といっても、ジュビロ中盤の「クリエイティブで忠実なディフェンス」が光り輝きつづけるのです。ボールホルダーへのチェックをベースに、周りが、一人も集中を切らすことなく、常に「次」を読みつづける・・。

 間合いは「空け」、ボールの動き(次のパス)をベースに、ベストタイミングの効果的アタックを仕掛けるだけではなく、美しいインターセプトまでも頻繁に披露してしまう・・。見ているこちらが、「次はそこだ!」なんて考えるポイントで、ジュビロの選手たちが、どんどんとインターセプトや、トラップの瞬間を狙ったフェアなタックルでボールを奪い返してしまうんですよ。いや、爽快なことこの上ありません。

 選手たち全員が、意識レベルで常に「100%」ゲームに参加している。そんな「選手たちの意識レベル」が監督のウデのバロメーター。AFCから最優秀監督賞を受けた鈴木監督に大拍手ではありませんか。

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 攻撃ですが、ここでもジュビロに軍配が上がりそうです。何といってもジュビロは、ボールの動きがレベルを超えているだけではなく、「タテのポジションチェンジ」が、アントラーズを凌駕していますからネ。

 要は、福西や藤田などの二列目、三列目の選手たちが、最前線の中山や前田を「追い越して」いくシーンが頻発するということです。それでも、カバーリングがしっかりとしているから、「次のディフェンス」で、タテの人数バランスやポジショニングバランスが崩れることは希。

 これは本当に「スゴイこと」なんですよ。後方でボールを奪った福西が、前方にいる藤田へタテパスを出し、間髪いれずに、爆発ダッシュをスタートする。素早くトラップし、左サイドの奥へ強いパスを出す藤田。そして奥は、ダイレクトで、藤田の「背後」を通過して前線のスペースへ上がっていく福西へ、斜めのパスを送り込む・・そんな具合なんです。

 対するアントラーズの攻めは、どうも「変化」に乏しい・・。たしかにビスマルクと小笠原のコンビ、最前線の柳沢の「能力」は秀でていますが、ボールの動きの「リズム」だけではなく、それぞれのポジショニングにも、大きな「変化」を挿入することができていないと感じるのです。

 小笠原からビスマルクへ、そこから、最前線の柳沢の「足許」へつなぎ、チョン!と落とされたボールを、上がってきたビスマルクや小笠原が、これまたダイレクトで、「三人目」の平瀬を狙う・・。普通だったら、そんなクリエイティブなボールの動きによって、相手守備ブロックが「振り回されて」しまうものなのですが、(もちろん、短いスパンで何度も対戦していたことで)ジュビロ守備ブロックには、そんな「リズム」が明確に見えているんでしょう。相手の強みを減退させるというアドバンテージにしてしまうというところにも、ジュビロの強さの秘密が隠されているということです。

 そして前半34分、ジュビロのベスト攻撃シーンが現出します。後方から上がっていった福西への、藤田からのタテパス・・、ボールをコントロールする福西の大外を回り込んだ前田への、福西からの、チョン!というアウトサイドパス・・、ただ最後は、(守備では)順調に感覚を取り戻しつつある相馬がカット! ただ続く35分には、今度はアントラーズが、決定的チャンスを演出してしまいます。

 まず、右のゾーンで何本かタテに動かしてから、ボールがビスマルクまで戻されたとき、右サイドの名良橋が、マークする奥の、ビスマルクへの視線の動きを「盗んで」爆発ダッシュをスタートし、その右サイドの決定的スペースへ、(ビスマルクから)ベストタイミング&コースのスルーパスが送り込まれたという次第。ゴール前では、例によって柳沢が、ファーサイドへ走り込むことで、クレバーにフリーになっています。でも、完璧にフリーになったにもかかわらず、名良橋のセンタリングは、ミスキックになってしまい、ジュビロGK、ヴァン・ズワムへ真っ直ぐに飛んでいってしまいます。

 そのとき私は、アントラーズの真骨頂とまで言える「ワンチャンスの確実なゲット!」をアタマに描いていました。それが、アントラーズの「勝負強さ」のコア。堅実なディフェンスをベースに、「ワンチャンス」に対するイメージをシェアした何人かがタイミング良く攻撃参加し、それを確実にモノにしていく・・。それです。

 また39分には、同じようなカタチで、再び名良橋が、今度は小笠原からのスルーパスをフリーで受けて決定的なセンタリングまでいきます。ここでも、センタリングが、中央ゾーンの平瀬まで届かずにカットされてしまいましたが、この時間帯は、確実にアントラーズペースになっていました。それにしても、ジュビロ左サイドの奥。数分間の間に、(ボールウォッチャーになってしまうことで)二度も名良橋をフリーで走り込ませてしまって・・。

 ただ押し込んでいるアントラーズに対し、今度はジュビロが、カウンターで冷や汗をかかせます。後半44分、コーナーキックからボールを持った西が、爆発的なドリブルで、グラウンド中央を攻め上がっていきます。その左横からは、これまた守備ブロックの田中がバックアップのフリーランニングでサポートしてきている。そして最後の瞬間、西から田中へ、ていねいなラストパスが通されます。トラップして持ち込み、そのままフリーでシュートを放つ田中。僅かに、ゴール右に外れてしまったとはいえ、完璧なカタチのカウンター攻撃ではありました。フ〜〜

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 後半。両チームともに、中盤で、激しくせめぎ合います。

 それでも、やはり中盤の守備では、ジュビロに一日の長がある・・。何といっても、相手ボールホルダーへの「チェック」が忠実なんですよ。もちろん「距離」がある場合は、無理しないで「次」に備えますが、それが10メートルくらいだったら、例外なく、前方や横にいる選手たちが「全力」で戻ったり、寄ってきたりすることで、アントラーズのボールホルダーへのチェック(相手への心理的プレッシャー=味方の「次の読み守備」への準備!)を敢行するのです。そんな忠実なディフェンスがあるからこそ、中盤から最終ラインにかけての守備が、余裕をもって対処できるというわけです。

 中盤でボールをもったビスマルクへ、10メートルは後方にいた藤田が、全力ダッシュで「追いつき」、そのままアタックを仕掛けたり、前に立ちはだかったりする・・。そんなプレーを何度目撃したことか。ただ、この「中盤でのクリエイティブで忠実なチェイシング」では、何といっても「服部」がチャンピオン。本当に「縦横無尽」に、クリエイティブでスピーディーなチェイシングを仕掛けつづけるのです。試合後に、最終ラインの田中が、うまく守り切れたのは、何といっても中盤守備が良かったから・・と述べれば、服部が、中盤守備をアクティブに出来るのも、最終ラインが安定しているから・・と発言する・・。

 それこそ、「あうん」の呼吸で有機的に連鎖しつづける組織ディフェンス。そして(それを基盤にした!)、忠実でダイナミックなボールのないところでのプレー(フリーランニング)をベースにした「組織(パス)プレー」と、勝負所での、勇気をもった単独ドリブル勝負が「絶妙なバランス」を魅せつづける攻撃。強いはずだ。

 中山の「先制ゴール」は、完全に、彼のファール。ボールを完全にキャッチしていたアントラーズGK、曽ヶ端を、「遅れたタイミング」で飛び込んだ中山が、身体で「ド突いて」しまったのですからネ。まあ「レフェリーのミスジャッジもドラマのうち」ってことですか・・。でも追加ゴールは、見事!

 中盤で競り勝った「忠実」な服部から、右サイドのスペースへ、これまた忠実に「走り上がる」中山へタテパスが通ります。この状況で、アントラーズゴール前では、まず最初に走り込んだ前田の動きに「引きつけ」られたアントラーズ最終守備ブロックの「意識の間隙」を突いて、藤田が(急激な方向転換で)ニアポストスペースへ走り込み、中山からの正確なラストパスをゴールへたたき込んだという次第。それにしても、藤田の「右サイドキック」でのシュートは見事の一言。それは、彼の、中盤ディフェンスにおける多大な貢献が報われた瞬間でもありました。

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 この対戦カードは、常に「ハイレベルなコンテンツ」を提供してくれます。それも、世界とも比較できるくらいのコンテンツを・・。この二チームは、完全に、日本サッカーのイメージリーダー。その「継続的に発展しつづけるプロ体質」が、他クラブの規範になることを願って止まない湯浅です。  二試合をレポートし、ちょっと疲労困憊気味の湯浅。乱筆乱文のところも多々あるとは思いますが、ご容赦!



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