湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第7節(2002年10月5日、土曜日)

完璧に(今の)レッズの「ツボ」にはまったゲームでした・・(レッズ対ヴィッセル=3-0)

レビュー

 レッズの「チーム戦術(どのようなサッカーをやるのかに対する共通イメージ)」が、どんどんと先鋭化し、徹底レベルもアップしている・・。そしてそれが、完璧に「ツボ」にはまってしまった。スゴイね、本当に・・。

 どんなサッカーでも、全員のプレーイメージが統一され、忠実に、それも全力で(集中を切らさず)実行しつづけたら強い・・という、サッカーの歴史が証明している普遍的なコンセプトが具現化された!?

 ハンス・オフトの、「戦略家」としての手腕に対して拍手を送らざるを得ません。チームが置かれている「現状」の最重要ファクターを抽出・評価・判断し、最善(!?)と確信したサッカー徹底させる手腕・・とでも表現しましょうかね。そのサッカーに結果が伴ってきたことで選手たちの確信レベルも高揚の一途じゃありませんか。一時期は、「忠実さ」が全てのベースといっても過言ではないヤボッたいサッカーに不満タラタラでしたが、選手たちがここまで徹底できるようになり、結果が伴うことで自信レベルを高揚させていることについては本当にシャッポを脱ぎますよ。

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 「自分たちのサッカーで、確実に勝ちを積み重ねていきたい・・」。試合前に紹介された選手たちのコメントには、異口同音に、そんなニュアンスが含まれていました。

 自分たちのサッカー・・。忠実で堅実なディフェンスをベースに繰り出される、「個」を主体にした爆発的な「直線的仕掛け」(ドリブル突破と、そこからのラストパス、はたまたシンプルなワンツー等!)・・。

 例によっての、忠実な、マン・オリエンテッド守備。そして、エメルソン、トゥット、永井雄一郎の「スリートップ」が繰り広げる、基本的にはカウンター状況での、相手守備ブロックの組織が整わず、人を把握できていないタイミングで仕掛けていく単独ドリブルやワンツーを使った最終勝負。永井雄一郎が「半」二列目に入りましたから、福田は、石井と守備的ハーフのコンビを組みました。

 この試合では、室井が出場停止ということで、抜群の「汗かき中盤マーキング(中盤ディフェンスの起点プレー)」を魅せつづけていた内舘をストッパーに下げます。また中盤守備の王様、鈴木啓太もアジア大会で欠けている。ということで、両サイドの山田と平川には、「この試合では、攻撃はスリートップに任せ、より守備ブロックでのプレーを重視せよ」という指示があったのでしょう。彼らの「サイド突破ドリブル」は積極的ではありません。まあそれには、スリートップがサイドに開くケースが多いために、彼らが攻め上がるスペース自体がないということもあったんでしょがネ(もちろん何度かは、山田と永井、はたまた平川とトゥットとのタテのポジションチェンジはありましたが・・山田と平川がドリブル突破を仕掛けていった状態で、永井とトゥットが、後方の守備カバーに入る!)。

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 とにかく、レッズスリートップの突破力はスゴイの一言。エメルソンにしても、自分にとって「得」なことを心底理解したようで、近頃は、パスに対する意識も高まってきていると感じます。もちろんほとんどが、カウンタータイミングでの「最終勝負シーン」においてではありますが・・。ドリブルを仕掛けては、トゥットとのワンツーを狙ったり、相手の意識(視線)とアクションを引きつけながらスルーパスを狙ったりします。

 エメルソンの「ポジティブな変化」については、ハンス・オフトの「粘り勝ち」!? エメルソンが、最終的には「自分にとっても得」という事実を理解するプロセスには時間がかかりましたが、彼のプレーイメージに「組織と個のバランス」という発想が加味されたことで、レッズ最前線の破壊力が倍増したことは確かな事実です。

 トゥットとエメルソンは、どちらがボールを持った状態でも、積極的に「クリエイティブなムダ走り」をこなすようになっています(トゥットは以前から・・)。もちろん、ココ一発の決定的フリーランニングも含めてネ。

 エメルソンが挙げた三点目は、まさにアトラクションの極みといった「鳥肌ゴール」でしたよ。ハーフウェイ付近でボールをもったトゥット。マークが甘かったことですぐに振り向き、一人をかわしながら、「タテのスペース」へ抜群のスピードの「突っかけドリブル」をスタートします。もちろんエメルソンも、同時に、その「仕掛けアクション」に乗ります。トゥットが一人をかわして振り向いた瞬間、左サイドにいたエメルソンも「大爆発」したのです。まあポルトガル語で、エメルソンが声をかけたのかもしれませんし、最初の段階で「アイコンタクト」があったのかもしれません。とにかく、相手ディフェンダー三人の意識とアクションを釘付けにしたトゥットからのラストスルーパスには鳥肌が立ちましたよ。そして、マーカーを振り切ってフリーでパスを受けたエメルソンの、動物的センスとまで表現できそうな「シュート感」。放たれたボールは、見事にヴィッセルゴールの右サイドネットに吸いこまれていきました。スゲ〜〜!

 それにしてもヴィッセル守備ブロックのプレーからは、そんな「明確なサッカー」をやるレッズに対し、どのように対応するのかというイメージが感じられませんでした。レッズがボールを奪い返した後の「パスの狙い目」は明白なのに、「次のパスレシーバー」に対するマークの間合いを詰めていない・・、またパスを受けたトゥットとエメルソン、はたまた永井に対して、本当に「安易なタイミング」でアタックを仕掛けて簡単に「置き去り」にされてしまう・・そして彼らの「加速」を助けてしまう・・。

 ヴィッセルでは、守備に残る人数が多いことが、逆に災いしていたと感じます。「俺が抜かれても、後ろがカバーしてくれる・・」。だから、抜かれたり外されたりした後の「追いかけアクション」が緩慢なんですよ。また、明白なワンツー場面でも、パス&ムーブでタテに抜け出した選手に付いていかない・・その動きを予想した(後方選手の)カバーリング動作も緩慢・・。それは、そのワンツーをまったくイメージしていないことの証明です。これではネ・・。このところ良いサッカーをやっていた神戸。この試合に限っては、トゥット、エメルソン、永井が展開する仕掛けのスピードに対応するのに(そのスピードの変化に慣れるのに)手間取ったということでしょう。

 レッズの一点目(トゥット)、二点目(永井)は、シンプルなラストパスや「ワンツー」によって、ヴィッセルの守備ブロック全体が「ズタズタに置き去り」にされてしまったというゴールでした。もちろん、ワンツーの前の段階で、彼らを「スピードアップ」させてしまった中盤ディフェンスにも問題がありましたがネ。

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 クリエイティブな理想サッカーの「基盤」である高い守備意識が徹底してきたレッズ。先週の締めの文章を(リヴァイスして)もう一度・・。  「負けないサッカー(徹底したシンプル守備)」の進展と、コンビイメージのレベルがアップした「個の才能(ドリブル突破力)」をうまく組み合わせ、降格圏から脱出しただけではなく、セカンドステージでの優勝をも狙える位置につけているレッズ。ここから(まあ今シーズンは難しいにしても・・)、どのように、「次の段階」と表現できるような攻守にわたるクリエイティブサッカーへつながけいくのか(その変化を、どのようなプロセスで演出していくのか)。ハンス・オフトの「お手並み拝見」!

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 追伸:さて、今度は相手から「狙われる存在」になったレッズ。彼らのサッカーが(上記したように)シンプルで明快ということで、これからは、両トップがガチガチにマークされたり、両サイド守備が厚くされるなど、対戦相手の「対抗ゲーム戦術」が厳しくなることでしょう。それを乗り越えられればホンモノなのですが、そのために、「攻撃の変化を演出する」という意味での、また「守備の読み」という意味での創造性が問われてくるというわけです。その視点でも、今後のレッズの動向に大注目です。



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