湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第1節(2003年3月21日、金曜日)

マリノスは、本当によく「内容」を回復させました・・ジュビロ対マリノス(2-4)

レビュー

 へ〜〜。マリノスは、本当によくゲーム内容を盛り返したな・・。後半のゲーム内容を観ていて、そんなことを思っていました。

 試合は、早々とマリノスが2点をリードするという予想外の展開ではじまります。先制ゴールは、意を決して持ち込んだ遠藤の中距離シュート。そして二点目が、佐藤由紀彦の、マリノスへ移籍してからの初ゴール。たしかに立ち上がりのマリノスが魅せたプレーペースはアップテンポでした。中盤でこねくり回すのではなく、とにかく素早く最前線へ・・。久保というターゲットマンが加入しましたからね。そんな前へ、前へという姿勢が結果につながったという展開だったのです。

 特に、先制ゴールの僅か1分後にマリノスが挙げた二点目は素晴らしかった。それこそ、一連のプレー絡んだ全員のイメージがピタリとシンクロしたという仕掛けだったのです。

 マリノス最終ラインの松田が、左サイドへ開いた那須へ横パスを出す。那須は、そのパスを受ける前から、最前線へ視線を奔らせていた。「マルキーニョスへのマークが甘い!」。そして迷わず、ダイレクトで、最前線へ向けたパス飛ばしたのです。素晴らしいタイミングの仕掛けパスでした。受ける側のマルキーニョスも、そのパスのコース、タイミング、強さが素晴らしかったから、横にポジショニングする久保とともに、瞬間的に、「次の勝負シーン」をイメージできたというわけです。久保がタテへ動きはじめたのは、もちろんまだボールがマルキーニョスに到達する前のタイミング。そしてマルキーニョスから、久保が走り込むタテの決定的スペースへ、ダイレクトパスが出されたことは言うまでもありません。見事な、本当に見事なコンビネーションではありました。このパスが出た瞬間に、ほぼ勝負は決まっていたといっても過言ではありません。

 まったくフリーでペナルティーエリアの左サイドをドリブルする久保。しっかりとしたルックアップから、自分でシュートにチャレンジするのではなく、爆発的に上がってくるマルキーニョスと、右サイドから上がってくる佐藤由紀彦をイメージした「ラスト横パス」を出します。そして、マルキーニョスとジュビロ選手が交錯してこぼれたボールを、佐藤が「ゴッツァンゴール」を決めたというわけです。

 もちろんこのシーンでは、久保が自分でシュートへチャレンジしなかったことの是非は重要なテーマですがネ・・(確実にシュートコースはあった!)。

 ただそのゴールから、ゲームの内容がガラッと変容していきます。ジュビロの中盤が、攻守にわたって、よりダイナミックに機能しはじめたのです。ゲームを完璧に支配しはじめるジュビロ。もちろんその背景には、早々と2点をリードしたマリノスの中盤のダイナミズムが、攻守にわたって低落したこともあります。まあサッカーは、攻守が連続的に入れ替わるという事実をベースにした「相対的なボールゲーム」ですからね。結果としてグラウンド上の現象には、常に「表裏のファクター(要素)」が隠されているということです。

 その時間帯(前半20分すぎからの時間帯)でのゲーム内容を観ていれば、選手一人ひとりのプレーイメージの総体としてのチーム力に大きな差がある・・と思わざるを得ない。そしてジュビロが、一点(右サイドでうまく相手と入れ替わって抜け出した西から、最高のアシストが前田へ!)、また一点(前田が右サイドを突破して藤田へラストパス!)と、ゴールを重ねていくのです(前半を終了して2-2!)。

 それには、今シーズンからトップで起用されはじめた西が、グラウにポジションを奪われ、結局、元の右サイドに入ったことも大きかったと思います。それによって、右サイドからの仕掛けが大幅に活性化しましたからね。たしかに守備にはまだ課題を抱えている西ですが、やはり彼が右サイドに入ったときのジュビロは、攻めのオプションが増える・・。

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 ということで、後半はジュビロがこのままマリノスを圧倒するだろうと誰もが考えたに違いありません。でも実際には、ゲームの様相が、またまた変容していくのです。内容的に盛り返しはじめたマリノス・・逆に、攻め上がりながらも、前半のようにはスペースを使えなくなったことで、マリノス最終ラインを振り回すところまでいけないジュビロ・・。

 その背景ですが、たしかにジュビロの中盤でのボールの動きが鈍くなっていたこともありますが、私は、マリノスの中盤ディフェンスが(攻守の切り換えが早くなったことも含む!)格段にダイナミックになったことの方を、より大きな要因として挙げたいと思います。マリノスが、自分主体でゲームの流れを逆流させたのです。

 遠藤と那須で組む守備的ハーフコンビ。それに奥とマルキーニョスも、積極的にディフェンスに絡んでくる。そして、ボールホルダーに対する忠実なチェックだけではなく、次、その次と、プレッシャーの輪を狭めていくのです。だからジュビロも、前半のようにはボールを動かすことができない。そんな展開がつづくことで、ジュビロ選手たちの足も止まり気味になっていく・・。

 後半では、名波の動きの減退ぶりが目立っていたように感じます。前半では、確実にボールの動きの起点になっていた名波。でも後半は、味方ボールホルダーへの寄りが遅れ気味なことで、彼を経由したパス回しの頻度が落ちてくる。だから、最前線へのボール供給タイミングが「早すぎて」しまう。そして、どんどんと前線へのロングパスばかりが目立つようになっていくのです。そんな単純なタイミングのパスだったら、マリノス最終ラインにも簡単に予測できますからね。前田やグラウに対する「寄せタイミング」もピタリと合いはじめるというわけです。これでは、最前線でボールを落ち着かせられるはずがない。そんなプロセスで、徐々に自分たちのプレーイメージを喪失していったジュビロでした。

 そんなジュビロのサッカーを観ていて、やはり中盤でボールの動きのリズムをコントロールすることが大事だ・・というテーマを反芻していた湯浅でした。味方の全員がシェアできるような明確なリズムをベースにボールを動かすことによって、ボールがないところで動くチームメイトたちも明確に仕掛けイメージを描けるようになるということです。

 まあ、(前述したように)マリノスの中盤ディフェンスが活性化した結果として、ジュビロ選手たちの「足」が停滞気味になってしまったことが、リズムを失ってしまったことの要因だったということです。人が動かなくても、とにかくボールだけは動かしていれば、そのうちにリズムを取り戻せるものなのに・・。だからこそ、中盤の絶対的リーダーである名波のパフォーマンスの低落が目立っていたというわけです。もちろんチームがリズムを乱したのは、彼だけの責任ではありませんがネ・・。

 この試合でのマリノス選手たちは、ゲームの流れを掌握するというプロセスにおいて、どのような「要素」がもっとも重要かということについて確固たる「成功体感」を得たことでしょう。そう、中盤での、忠実でダイナミックな守備と、次の攻撃での、ボールがないところでの活発な動きをベースにした素早い展開・・。

 敢えて上野良治をベンチに座らせるというリスクにチャレンジしている岡田監督。今シーズンのマリノスは、大きく成長する可能性を秘めています(この試合で、そのキッカケをつかんだ?!)。



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