湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第8節(2003年5月10日、土曜日)

見所が多いエキサイティングマッチでした・・マリノス対FC東京(3-2)

レビュー

 開始早々の5分、最初から中盤ディフェンスを「勢いのソース」にゲームを支配するマリノスが、勢いそのままの先制ゴールまで決めてしまいます。演出家である二人のイメージがピタリとはまったゴール。佐藤由紀彦と久保竜彦。それも、ピンポイントクロスに走り込み、ダイレクトで合わせたという美しいゴール。さて、その「コンテンツ」は・・。

 右サイドでの細かなパス交換から、佐藤由紀彦がフリーになり、ルックアップしながらゆっくりとドリブル。その「間」がよかった。中央ゾーンでは、フィニッシャーの久保竜彦が、「最終勝負ポイント」について明確なイメージを描写する。そしてそのイメージ「だけ」に誘われた勝負フリーランニングの爆発スタート。ペナルティーエリアの逆サイドから、ズバッと、ニアポストサイドへ(実際には中央ゾーンの決定的スペースへ!)走り込んだのです。

 もちろん、その勝負フリーランニングには「前段」がありました。マークする加地を引き連れるように「まず」ファーサイドへゆっくりと動き、そして、イメージしていた中央ゾーンのスペースへズバッと後方転換したのです。そのダッシュの勢いこそが、彼が描写していたイメージの「明確度」を証明していました。完璧にマークのウラを取られてしまう加地。

 佐藤由紀彦と久保竜彦のイメージが完璧にシンクロしたゴール。何といっても、両方とも、同時にピンポイント勝負のアクションを起こしたのですからネ。一方は、正確なクロスを送り込み、一方は、「そこしかないというポイント」へ爆発ダッシュをスタートする。また、久保のダイレクトシュートも見事。いや、美しいゴールでした。

 もちろんその後は、FC東京の中盤ディフェンスも機能回復してきます。ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェックを基盤に、次、その次へのマークがより忠実に、タイトになっていったのです。たしかに「個のチカラ」ではマリノスの方が上だと思います。それでも、タイトにマークすることで「個の表現」を抑制できれば、自チームの攻めも機能するようになるというわけです。逆にマリノスの中盤が、ちょっと「戻り気味(足が止まり気味)」になり、「チェックと次のマーク」がうまく連鎖しなくなる・・。まあサッカーとはそういうものです。もちろんそれには、マリノスがリードしているという心理的な背景もありますがネ(ちょっと落ち着いて行こうというマインド・・)。そんなゲームの流れの変化でしたが、どうもFC東京にも、マリノス守備ブロックを振り回すだけのチカラはない・・。

 そしてゲームは拮抗状態へ。ボールポゼッションを向上させる東京・・でもマリノス守備ブロックを崩せない(アマラオの惜しいシュートはありましたが)・・逆にマリノスは、カウンターをイメージして守備ブロックを固める・・。

 そんな展開のなか、まさに唐突にFC東京が同点ゴールを奪ってしまいます。前半39分。フリーキックからの決定機を逃したマリノスがちょっと足を止めていた間隙を突き、右サイドへ上がっていた阿部へ、素晴らしい一発ロングパスが通る・・そこから、中央ゾーンへ押し上げてきたケリーへ・・そして最後は、ケリーからの「ダイレクト」でのラストパスを、これまた後方から押し上げていた三浦文丈がヘッドで決めたというゴール。

 このカウンターゴールも素晴らしかった。右サイドで阿部がボールをコントロールした瞬間、マリノスゴール前へ戸田が押し上げていく・・そしてその後ろから三人目となる「影武者」が・・阿部からのパスを受けたケリーは、その「影武者の動き」を明確にイメージしてた・・そしてダイレクトでのラストパス・・。まさに電光石火の同点ゴールではありました。でもその3分後には、これまた完璧なカウンターから横浜マリノスが突き放してしまって・・。

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 カウンター攻撃ですが、そのプロセスには、大きく分けて三種類あります。一発ロングパスから人数をかけずに相手ゴールへ迫る・・ある程度人数をかけた素早いコンビネーションから加速して相手ゴールへ直線的に迫る・・そして「個のドリブル」によるカウンター。東京の同点ゴールは、まさに一発ロングパスがツボにはまったもの。それに対しマリノスの勝ち越しゴールは、素早いコンビネーションからのスピードアップがツボにはまったものでした。とにかく両方とも、目の覚めるようなカウンターゴールでしたよ。

 あっと・・素早いコンビネーションをベースにしたマリノスの追加ゴールですが、その演出家は、最近、攻守にわたって抜群のパフォーマンスアップを魅せている「奥大介」でした。中盤の左サイドで相手を引きつけてからワンのパスを出し、そのままパス&ムーブのダッシュで上がっていく奥。そしてリターンパスを受けた彼が、同時に右サイドのタテスペースへ爆発スタートを切った久保へ、素早く正確なボールコントロールからのスルーパスを通したのです。

 柔らかい「左足タッチ」でうまくボールを前へ運び、同時にゴール前へ視線を飛ばす久保。そして、中央へ走り込んだ佐藤由紀彦ではなく、一つ「山を越えた」逆サイドスペースへ走り込む安永聡太郎へ、フワッというラストパスを通したという次第。もちろん左足で・・。まさに芸術的なラストパスではありました。

 これで、ホームのマリノスの「2-1」のリード。これは面白くなる・・なんて思っていた前半終了間際、マリノスが、これまた唐突に追加ゴールを挙げてしまう。中盤の高い位置でパスを受けた遠藤が、そのままドリブルで一人、二人とかわしてゴールを決めてしまったのです。意を決したドリブル突破チャレンジに拍手!

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 さて後半。東京がゲームを支配し、マリノスを押し込みつづけたことは言うまでもありません。彼らは優秀なチームですよ。とにかく守備がしっかりしているし、攻撃にも「クリエイティブな変化」をつけることができる。アマラオとケリーだけではなく、そこに、戸田や石川、阿部や宮沢等が効果的に絡んでいく。その攻撃は、(カウンター気味の)ツボにはまれば爆発的な破壊力を発揮します。

 今シーズン、彼らのゲームは何試合か観ていたのですが、とにかく忠実でクリエイティブな中盤ディフェンスからの「素早い」攻めには感嘆させられたものです。でも、自分たちがペースを握った状況で(相手を押し込んでいる状況で=相手守備ブロックが固められている状況で=組み立てベースで)仕掛けていかなければならなくなったら・・。

 後半では、東京の攻めのコンテンツと、マリノスの守備ブロックが、観戦テーマでした。そして案の定・・という結果に落ち着いてしまいます。

 自らがペースを握って相手を押し込んでいる状況では、うまく攻撃の変化を演出できない(うまくフリーでボールを持つ起点を演出できない)FC東京。どうもボールの動きに(ボールのないところでの動きに)鋭さが欠ける。左右両サイドにうまいカタチで(タイミングで)ボールが入れば、そこからの仕掛けには可能性を感じましたが・・。

 もっと「タテに変化」を付けなければ・・なんて思っていましたよ。最前線から何人かがズバッと戻り、そこへパスを付けた者が、「追い越しフリーランニング」を仕掛けるとかネ。まあ彼らは、サイドからのクロスをイメージしていたんでしょうが、それだけではね。マリノスのセンターバック(中澤と松田)は、抜群にヘディングが強いし・・。

 そんな、型にはまった東京の攻撃ですから、マリノス守備ブロックがウラを突かれるというシーンはほとんどありません。彼らは、互いのポジショニングバランスから、タイミング良く「人」を探してマークするというクリエイティブで忠実なプレー姿勢を魅せつづけます。よくトレーニングされたチームだ・・まあ、守備が強固なのは彼らの伝統でもあるけれど・・それにしても自ら仕事を探すというディフェンス姿勢は発展をつづけている・・なんてことを考えていました。

 そんなマリノスの強固なディフェンスは、こぼれ球シュートが決まって、FC東京に「3-2」と追いすがられてから本領を発揮しました。まったくバタつくことなく、自信あふれるディフェンスプレーを貫きとおしたのです。そこでのマリノス選手たちのプレー姿勢には、余裕さえ感じました。たしかに今シーズンのマリノスは、誰もが優勝を確信できるまでに成長する可能性を秘めている・・。



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