湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第12節(2003年11月9日、日曜日)

 

松田の退場から試合フローがドラマチックに逆流した・・グランパス対マリノス(3-2)

 

レビュー
 
 さて大混戦のリーグ戦を象徴するゲームになりそうな予感がするグランパス対マリノス戦。グランパスも、勝てばまだまだ「残った!」ですからネ。

 今回は、久しぶりに、タイムアップまでゲームを観てから書きはじめることにしました。ゲーム中は、メモもまったく取りませんでした。そして見終わった後に、一番印象に残ったポイントは??

 まず何といっても、マリノスの強さが目立っていたということです。いまの彼らは、チーム総合力で、ジュビロと並ぶリーグの双璧です。次のポイントが、ドラマチックだった試合の流れ。内容でグランパスを凌駕し、結果でも勝利コースに乗っていたマリノスでしたが、後半22分にウェズレイに同点ゴール(FK)を決められ、直後の後半24分には松田が二枚目イエローで退場になってからは、逆にグランパスに試合を牛耳られ、結局ウェズレイにハットトリックを決められて痛〜い敗戦を喫してしまったのです。とにかく、偶然と必然がドラマチックに交錯するといった面白い勝負マッチになったわけです。まあそれ以外でも、両チームの仕掛けプロセスの違いとか、前述したチーム総合力を分けるエッセンス・・なんていうポイントもありそうですネ。

 最後に挙げた「チーム総合力に影響を与えるエッセンス」というポイントですが、そのもっとも重要な部分は、選手たちの守備意識のレベルに集約されるでしょう。もちろんそれは、基本的なチーム守備戦術としてカチッと決まったルールに則ってディフェンシブに戦うチームとは一線を画する、クリエイティブな守備を展開しようとするプレー姿勢のことです。

 要は、マンマークやカバーリング作業など、決められたことを忠実に遂行することがプレーイメージの主体という方向性と、互いのポジショニングバランス維持など、最低の決まり事をベースに、それぞれの状況に応じて、自分主体で柔軟に仕事を探すことがディフェンスイメージの主体という方向性の違い・・なんていうふうに表現できますかね。

 昔、そのテーマは、マンツーマンマークかゾーンディフェンス(マークの受けわたし)かなんていう議論に象徴されていました。私が留学していたドイツはマンマーク主体。そこでは、「その方が、シンプルで簡単だし、責任の所在もはっきりするから選手たちもより必死になる・・ゾーンだと、どうしてもマークがファジーになってしまうし、責任の所在が不明瞭になってしまうことで集中力が低下してしまい、結局勝負所の抑えに問題が生じる・・」なんていう議論がさかんに行われていましたっけ・・。

 私は、そんな議論を聞きながら思っていたものです。「だからこそ、選手たちの主体的な守備意識を高揚させる仕事が、監督・コーチに課せられた本当のチャレンジなんだ・・」。当時から私は、難しく、リスキーだけれど、選手たちが主体的に考えつづけながらプレーできるゾーンタイプのやり方にこだわっていたというわけです。まあ、いまで言えばフラットタイプ守備システム・・ということになりますけれど。フラット守備システムについては、「ピックアップコラム」を参照してください(長〜〜い文章ですよ!)。

 たしかにマリノスのチーム守備戦術は「純粋フラット」ではありませんが、やり方は、限りなく選手たちの「守備意識」を主体にしたものだとすることができます。それは、ジュビロも同じ。だからこそ、次の攻撃にも、より創造性が発揮されるし、しっかりとボールと人を動かしながら積極的にタテへ仕掛けていくなど、チャレンジマインドも旺盛だというわけです。

 要は、規制ファクターと解放ファクターが、より高次元でバランスしたハイレベルな(リスキーな)守備を展開しながらも、しっかりと(守備での)結果も残しているマリノスとジュビロというわけです。

 たしかにグランパスも「同じ発想」の守備ブロックを敷いています。でも「実質的な内容」ではやはりマリノスの方がかなり上。何といってもマリノスの方が、ボールウォッチャーになって足を止めてしまうというシーンが少ないし、(決定的シーンでの)ボールがないところでのマークも抜群に忠実など、本物の守備意識の浸透度に僅差が見え隠れしていましたからね。そんな「部分的な僅差」が、総体となったときに大きな差となって現出してくるというわけです。

 この試合でのマリノスが、内容的にグランパスに優っていたと書いた背景には、もちろん(前述の)守備での「高質な内容」があったわけですが、それだけではなく、攻撃でも、より組織ファクターが加味されていたというポイントもありました。要は、組織パスプレーと個人勝負をうまく使い分けている(うまくミックスしている)ということです。それに対しグランパスは、どうしてもマルケスとウェズレイの「個の勝負」が目立ち過ぎている。組織プレーと個人プレーのハイレベルなバランス・・。その視点で、やはりマリノスに軍配が上がるというわけです(このポイントが、前述した仕掛け内容の差というわけです・・)。

 この試合でもっとも美しかったのは、前半34分にマリノスが陥れた同点ゴール。そのプロセスに、このポイントが明確に見えていました。前線から戻って相手のボールをカットしたマルキーニョス・・すぐに左サイドタッチライン際の奥へパスをまわす(この素早いボールの動きがいい・・これがパスリズム的な重要ポイント!!)・・ボールをキープし、スッ、スッと縦方向へドリブルする奥・・これでグランパス選手たちの視線と意識を吸い付け、その右側でまったくフリーになったマルキーニョスへボールをわたす・・マルキーニョスがボールを持った状況は、まさに「太平洋ひとり旅」・・すぐに、前方に空いた太平洋へ向けてドリブルをスタートする・・ここでグランパス守備ブロックが慌てる・・一人、二人と最終ラインから飛び出してくるだけではなく(チェック人数が多すぎる!)、自分がマークすべきマリノス選手のマークを離してしまう・・最後は、マルキーニョスから、ズバッとタテの決定的スペースへ抜け出した永山への正確な浮き球タテパスが送り込まれ、永山がヘッドで、大外を回り込んでまったくフリーになった坂田へラストパスを通した・・。

 このシーンでは、マリノスの「組織と個のバランス」だけではなく、グランパス守備ブロックの不安定な「判断」が目立っていたというわけです。

 でもゲームは、逆転でグランパスが勝利してしまう。もちろん松田の退場がなければ、たぶんマリノスが、余裕で守りきったに違いありませんがネ。まあとにかく、これぞサッカー!!

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 これでレッズが、暫定から「本物トップ」に躍り出ました。いや、面白いリーグ展開になったじゃありませんか。私は、ヒタヒタと追いついてきた実力チーム「ジュビロ」が、セカンドステージの本命だと思っているのですが、さて・・。

 



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