湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第13節(2003年11月15日、土曜日)

 

ナビスコでの優勝を、本物の覚醒(ブレイクスルー)につなげられていないレッズ・・エスパルス対レッズ(1-0)

 

レビュー
 
 「静かな展開」だな・・。

 レッズにとっては優勝がかかった大事なゲーム。だから慎重にという姿勢が見え隠れするのはよく分かります。まあ、その慎重なプレー姿勢には、エメルソンとニキフォロフがいないという背景もあるのでしょうがネ。対するエスパルス。前節での良い内容での勝利があったし、まだ優勝争いにギリギリのところで引っかかっていますから、ホームゲームということもあって、「次」につなげるために、とにかく結果を・・というプレーぶりだということでしょう。だからこちらも慎重にというプレー姿勢が目立つ・・。

 そんな背景もあるから、両チームともにディフェンスでの「詰め」が緩くなるのも自然の流れでした。これではゲーム展開がスピードアップしないのも当たり前。サッカーの基本はディフェンス。何もそれはチームコンセプトだけではなく、ニュートラルな視点での「試合展開ファクター」にも当てはまるということです。

 両チームともに、ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェックが甘いし、次のパスに対するアタックも「慎重に過ぎる」。だから、相手守備ブロックが整わないような「高い位置でのボール奪取」がままならない・・だから次の仕掛けも「組み立てプロセス」から入っていくしかない・・だから、ドリブルでもパスでも、素早くスペースを突いていくというチャンスシーンの演出もままならない・・だからシュートシーンもほとんど出てこない・・ということになってしまったというわけです。

 まあそれでも、エスパルスは、サイドの仕掛けから(正確なクロスから)決定的に近いヘディングシュートを放ったり(トゥットとアン・ジョンファンの二本)、抜け出した澤登にスルーパスが通ってGKはと一対一になったりという決定的シーンを演出しました。それに対しレッズの攻めは、やはり鋭さに欠ける・・。田中にしても永井にしても、エメルソンという核弾頭がいたから、相手守備ブロックの意識の間隙を(散漫になった意識のスキを)突いていけていたということですからネ。

 そんな、相手の視線と意識を引きつけてしまう核弾頭がトップにいないわけですから、相手守備ブロックが余裕をもてることで、組織的なカバーリング網の機能性もアップするというのも道理というわけです。レッズが作り出した前半のチャンスは、山田の中距離シュートシーンくらいでした(クロスバーを直撃・・それはそれで素晴らしいシュートだったけれど・・)。要は、自分たちがイメージする「蜂の一刺しのカタチ」を作り出せないレッズという展開なのですよ。

 私は、ナビスコカップでの優勝を大きなステップに、レッズ選手たちが本当の意味で「覚醒」することを大いに期待していました。攻守にわたって、自分主体でリスクにチャレンジしていく積極サッカー・・。もちろんその心理・精神的なバックボーンは、オフトの辞任が決まったこと、エメルソンとニキフォロフがいないこと、そしてもちろん自分たちが優勝に一番近い位置にいるということです。でも結局は・・。

 要は、これまでの仕掛けが、あまりにも「個の勝負」に偏り過ぎていたことで(前後分断サッカー?!)組織的な崩しプレーに対する明確なイメージを描写することができない(互いのイメージをシンクロさせることができない)ということです。彼らのボールの動きにおける主なターゲットイメージは、何といっても田中とエメルソンが良いカタチでボールを持てること(そこからの個の勝負と、それを基調にしたラストコンビネーション等々)・・でしたからね。だから、ボールのないところでのアクションが、あまりにも「前方向にはリミットがある」と感じられてしまって・・。その典型的な現象は、誰もタテのスペースへ抜け出していかないということですが、まあこれでは、仕掛けの変化を演出できるはずがないのも道理。エメルソンがいないのだから、少しは工夫すると思ったのに・・。

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 後半も同じような展開になります。拮抗した展開ですが、やはりエスパルスの方が、攻めのクオリティーは高い・・。後半の立ち上がりも、エスパルスが何度かチャンスの芽を演出しましたよ。

 まあこんな展開がつづくんだろうな・・なんて思っていた後半10分、ゲームを大きく動かす事件が起きてしまいます。エスパルスの澤登が、二枚目のイエロー食らって退場になってしまったのです。

 そのとき私は思っていました。これは、レッズにとって必ずしも有利とは言えない「変化」だ・・レッズは、組織的な攻撃が苦手だから、一人多いという状況が、明確なアドバンテージにならないに違いない・・逆にエスパルスにとって澤登の退場は、これ以上ないというポジティブな刺激になるはずだ・・。

 また守備の視点でも、澤登の退場は、必ずしもアドバンテージとは言えない・・。マンツーマンマークが基調のレッズの場合、守備ブロックで一人「余る」ことはプラスにはならないということです。

 ポジショニングバランス・オリエンテッドな「ライン守備システム」など、互いのポジショニングのバランスを基調にする(自分主体のプレーイメージが優先する?!)組織ディフェンスの場合は、数的に有利な状況が、攻守にわたる全体的なダイナミズムのアップにつながるものです。ただレッズの場合は「余った選手」が、本当に余分な選手になってしまう・・。余裕を持ちすぎ、様子見になってしまうシーンが続出してしまうのですよ。本当は、フリーになった分、攻守にわたって動きまわり(フリーであるからこその実効レベルのアップ!!)、チーム全体のダイナミズムをアップさせることで(数的不利な相手を押し込むなど)ゲームを牛耳るという流れの演出家にならなければいけないのに・・。

 でも数的に優位に立ったレッズのプレーからは、そんなポジティブな変化を感じることはありませんでした(逆に、自分たちの味方が退場処分になるなど自分たちが窮地に立たされたときには、素晴らしく吹っ切れたダイナミックサッカーが展開できるのに・・!!)。

 要は、規制という発想が中心の戦術サッカーだから、自分主体で様々な状況変化にポジティブに対処できるような工夫をする姿勢が十分に発展していないということです。だからこそ、良いチームを作るときのもっとも重要なファクターは「規制と解放のハイレベルなバランス」だと言われのです。

 とにかく私は、数的優位にもかかわらず吹っ切れないレッズのサッカーにフラストレーションをためていたわけですが、そんな後半30分に、再びコトが起きてしまいます。またまたエスパルスの選手が二枚目のイエローで退場になってしまったのです。今度は、最終ラインの高木和道。何があったののかは分かりませんでしたが・・。とにかく、これで「11対9(フィールドでは10対8!)」ですからネ。もう何も言い訳はできない。でも結局は・・。

 たしかにエスパルスを押し込んでいくレッズですが、どうも「ごり押し」の感が否めないのです。要は、とにかくしゃにむに「目の前の敵を、1対1でうち破る」という猪突猛進の仕掛けばかりだということです。ちょっとクレバーにボールを動かし、後方からのボールがないところでの勝負の動きをミックスしさえすれば、確実にエスパルスのスペースをどんどんと突いていくことができるのに・・。この期に及んでも、まだまだ「スリーライン」を意識している(規制サッカーのワナ!)・・だから、まったくといっていいほどボールなしのチャレンジフリーランニング(二列目の飛び出し・・追い越しフリーランニング等々)が出てこない・・。

 エスパルスの選手が誰もいないのに(またはアン・ジョンファンかトゥット一人だけなのに!)後方に「まだ三人も」残っているレッズ守備ブロックのプレー発想に、まさに憤りにも似た感覚を覚えていた湯浅でした。「こんな状況」になっても、吹っ切れないレッズ・・。もう何をか言わんやじゃありませんか。

 グラウンド上のリーダーがいない?! まあそうかもしれません。でも、こんな規制サッカーじゃ本当の意味でのリーダーなんて必要ないから、そんなパーソナリティーが育たないのも当然の成り行きなのかもしれません・・。

 そして後半43分のエスパルスの決勝ゴール・・。それは、まさに自業自得といえる敗戦でした。

 そんなレッズに対し、アレックスや市川といった主力がいないにもかかわらず、忠実でクリエイティブなサッカーを展開したエスパルスは、地力ではリーグトップレベルにあることを証明しました。

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 日本平スタジアムでの観戦の後、どこかのコーヒー屋でコラムを仕上げようと思っていたのですが、スタジアムを出た瞬間から大渋滞に巻き込まれてしまって・・(雨ということで、クルマで移動していたのです・・)。青息吐息で辿り着いたファミリーレストランで、友人から借りた「Air H"」でアップした次第。「H"」は、どこでも使えるのが便利ですよネ。まあ私も、そのうちに・・と考えています。

 



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