湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第13節(2003年11月16日、日曜日)

 

久しぶりに、ジュビロがツキに恵まれたゲームを観たという思いでした・・ヴェルディー対ジュビロ(1-2)

 

レビュー
 
 良いサッカーは、攻守におけるクリエイティブなムダ走りの積み重ねでのみ実現できる・・。そんな普遍的なコンセプト(まあ、この表現は私が創作したのですが・・世界中のフットボールネーションには同様のコンセプトが脈々と受け継がれている!)がこの試合でのメインテーマになりそうな・・。

 試合前から、そんな予感がしていました。何せ、ボールと人が動きつづけるという基本発想をベースに、組織プレーと個人プレー、ポジショニングとマンマーク、互いに使い・使われるメカニズム等々、「すべての面」でバランスを志向するジュビロと、いまのサッカー環境において(いまの日本サッカーのレベルを基準に?!)、なるべく「効率的」なサッカーをやろうとするヴェルディーの対戦ですからネ。

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 立ち上がりは互角の展開。とはいっても、最終勝負の仕掛け内容など、両チームの間にある明確な「差」は認識できます。

 個の突破をキッカケにしてセンターゾーンを突破しようという(なるべく直線的に相手ゴールへ迫ろうという)イメージのヴェルディーに対し、ジュビロ攻撃は変幻自在。攻めにおける「変化ファクター」が、明らかにヴェルディーを上回っているということです。仕掛けゾーンがサイド・センターとどんどんと変わるばかりではなく、個の勝負を基調にした仕掛けと、組織パスプレー(コンビネーション)を基調にした仕掛けがうまくバランスしているジュビロ。もちろん「局面での個人プレー」では、ヴェルディーも「個性」を誇示しますが・・。

 とはいっても、ヴェルディーの全体的なプレー内容(プレーマインド)は、この2-3試合からすれば好転していることも確かな事実です。守備でも攻撃でも、より忠実にボールのないところでのプレーを展開していますからネ。まあその背景には、相手が、少なくとも自分たちと同等に「上手い」ジュビロだということがあるのでしょう。

 とにかくヴェルディーが抱えている「体質的問題」の根っこは、選手を評価するうえで、「上手いことが絶対的な評価基準」になってしまっている(上手さに対する憧れ?!)ということです。たしかにそれも基盤の一つです。テクニックが劣るチームは、確実に時代の流れから押しやられるというのが世界の趨勢ですからネ。それでも、選手としての「総合的評価」となったハナシは別。そこでは、テクニックだけではなく、様々な視点での評価基準が適用されるのです。まあ、上手い選手と良い選手とのプレー内容の間には、本質的に大きな違いがあるということです。

 あっと、またまたハナシが逸れてしまって・・。さてゲームですが、前述した両チームの「差」は、もちろんチャンスの量と質に如実に現れてきます。「枠内シュートの和」でジュビロが凌駕しているというだけではなく、ジュビロの仕掛け内容がワンランク違う。ジュビロの仕掛けにおける、決定的スペースを攻略する意志とイメージが、明らかにヴェルディーのそれを凌駕しているのです。その実質的なバックボーンは、言わずと知れた、ボールがないところでの動き(=クリエイティブなムダ走り)の量と質。

 立ち上がりの時間帯では、前田の「100%チャンス」も含め、二度、三度と、ジュビロが決定的な「崩し」を魅せるのですよ。要は、ジュビロ選手たちが、「ポジショニング」でジュビロの最終勝負スポットを抑えようとする(決定的スペースへの走り込みをオフサイドにしてしまうとか、ラストパスを美しくインターセプトするとかのイメージでプレーする!)ヴェルディー守備ブロックのプレー姿勢を、うまく逆手に取っているということです。

 ボールがないところでの動きに置いていかれがちなヴェルディー選手たち。ジュビロは、そんなヴェルディーの「怠慢な(高慢な)ディフェンス姿勢」をよく知っているから、中盤の高い位置で起点が出来た瞬間に、「あうんの呼吸」で、パサーとパスレシーバー(=決定的フリーランナー!)の最終勝負イメージが素早くシンクロし、流れるように実際の仕掛けアクションにつながるということです。そして、ジュビロの選手たちが演出する(コンダクターはもちろん名波!)、決定的スペースを「パスで攻略」するシーンが続出する・・。

 それに対しヴェルディーの仕掛けは、個の崩しプレー(ドリブルや、タメキープなど)がうまくいったときにしかチャンスの芽を演出できない・・。まあ、サッカーの質の差が(サッカーはチームゲームという基本的な発想への理解度の差が?!)如実にグラウンド上に現れていたということです。

 チャンスメイクの「コンテンツ」という視点で、完全にヴェルディーを凌駕していたジュビロ。もちろん「個の危険度」ではヴェルディーも存在感を発揮してはいましたがネ・・。その「個の能力の実効レベル」を引き上げるためにも、もっと人とボールを動かさなければ・・あれ程の才能集団なのに惜しい・・これではいくら勝っても、絶対多数の人々が感動を覚えるような普遍的な価値は提供できない・・上手いだけじゃ、人々は感動しない・・。

 とはいっても、「もちろん」サッカーの神様はイタズラ好きですからね、先制ゴールは、まさにワンチャンスをものにしたヴェルディーが挙げることになります。前半17分のことです。

 「個の象徴」であるエムボマの一発フェイクトラップによってジュビロの田中が逆を取られて置き去りになる・・すかさずエムボマがドリブルで突っかけ、ジュビロ守備ブロックの視線と意識を釘付けにし、最後の瞬間に、左サイドからフリーで走り込む平本へのラストスルーパスを決めてしまう・・。平本のシュートも素晴らしかったのですが、この先制ゴール場面では、天才エムボマの「ファウンデーションプレー」が、0.5ゴールということです。

 その後のゲーム展開は推して知るべし。ヴェルディーを押し込みつづけるジュビロに対し、素早く危険なカウンターをしかけていくヴェルディー・・。

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 こんな展開ですからね・・攻めつづけるジュビロの守備の穴を、抜け目のないヴェルディーが活用してリードを広げてしまう・・という展開を誰もが予想したことでしょう。私もそう思っていましたよ。攻め上がり、何度もチャンスを作り出すけれど、どうしてもゴールを割れないジュビロでしたからネ。「ヤツらはツキにも見放された・・これはカウンター一発で沈み込んでしまうかも・・」ってネ。

 それにしてもジュビロの攻撃は魅力的です。例えば、後半13分の前田の決定的シーン。そこでは、ラストパスが、動いている味方が狙うスペースへ正確に送り込まれました。まさに高質なイメージシンクロを基盤にした最終勝負。魅力的です。そのキッカケになったクリエイティブな展開をリードしたのは、言わずと知れた名波。中盤でボールを持ち、相手守備ブロックのイメージを逆手に取ったボールコントロールから、素早く、左サイドを駆け上がるジヴコヴィッチへのパスを決めます(もちろんスペースパス!)。そして持ち込んだジヴコヴィッチが、相手マークを完璧に外してしまうようなシャープな動きからニアポストサイドへ全力ダッシュしてきた前田への(彼がイメージしたスポットへの!)ラストクロスを決めたという絶対的チャンスでした。でも、前田の右足アウトサイドでのダイレクトシュートは、わずにポスト左へ外れてしまって・・。

 私は、それから何度も作り出されたジュビロの決定的チャンスが潰える(ついえる)たびに、この流れでは同点や逆転は難しいな・・なんて思ったものです。まあ、名波が交代した時点で私はサジをなげていました(もちろん私は、より質の高いサッカーが勝利すべきと考えていますから、ジュビロのサッカーをサポートしていました!)。

 それでも逆転してしまったジュビロ。本当に信じられませんでした。何といっても、私のなかでは、ツキに見放される傾向が顕著なジュビロ・・というイメージが強かったですからね。

 たしかにジュビロのサッカー内容は、全盛期から比べれば減退傾向にあります。その背景はもちろん、メンバーの変化によるチーム内でのイメージシンクロレベルの(また実質的なプレー内容の)低落。若手が伸びているとはいえ、やはりまだまだ主力を張る(ジュビロ全盛時のスーパーサッカーイメージを体現する)というところまでは到達できていない・・。とはいっても、まだまだ彼らのサッカーが高質なことは誰もが認めるところでしょう。だから前節のコラムで、「大混戦のリーグ終盤・・私はジュビロが抜け出すのでは・・なんて思っています」と書いたのです。ちょいと、ポジとネガのコメントが錯綜気味ですが、まあサッカーは、そういうものですから。サッカーは、バランス感覚こそが大事な「グレーの世界」・・。

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 最後に、ジュビロの高質サッカーに対する、これ以上ないという「賛辞」を再びご紹介します。その賛辞の送り主は、ジェフ監督のイビチャ・オシムさん。ジェフ対ジュビロのゲーム後の記者会見のときのことです。その「表現」からは、本当に深い感銘を受けました。私は常日頃、良いサッカーに対する「分かりやすく、根本に迫る表現」を創作しようと七転八倒しているわけですが、これほど分かりやすく、インパクトある表現は、今まで聞いたことありませんでしたから・・。やっぱりイビチャ・オシムは、素晴らしい監督だ(インパクトある戦術表現を創作するのも、監督の大事な仕事の一つなのですよ!)。

 さて、彼の発言の骨子です。「ジュビロは、リーグのなかでは唯一、8人で攻めて10人で守れるチーム・・リーグのなかでは、もっともモダンなサッカーをやっているチーム・・彼らは、攻撃でも守備でも、常に数的に有利な状況を作り出してしまう・・」。

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 「The 対談」の第二回目は、火曜日にアップの予定です。浅野さんとの対談シリーズは、たぶん3回くらで完結することになりそうです。

 



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