湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第2節(2003年8月23日、土曜日)

 

オシム監督はやっぱり優れたプロコーチ・・彼の仕事のコンテンツを広く伝えていかなければいけません(ということで、このコラムは「トピックス」に入れておくことにしました!)・・ジェフ対ガンバ(2-1)

 

レビュー

 

 ゲーム最後の時間帯。私は、1点を追って押し上げてくるガンバが、どこまでジェフ守備ラインを崩していけるかに注目していました。でも結局は・・。

 ガンバの仕掛け(最終勝負イメージ)はカタチにはまり過ぎている(選手たちがカタチに固執しすぎている)。言い換えれば、互いのアクションの(崩しイメージの)リンク状態が、あまりにも「単発」に過ぎるとも言えそう・・。たしかにパス&ムーブの動きは忠実ですが、それ以外の、ボールのないところでの三人目、四人目の反応が鈍いから、その「仕掛けの起点アクション」が連鎖しないのです。

 ワンツーの仕掛けアクションに入る・・。ジェフ選手の視線と意識がそのポイントに引き寄せられる・・。でも、その瞬間を狙った「ボールのないところでの勝負アクション」を連鎖させることができない。それがあってはじめて、ジェフ守備ラインのウラを突いていくような仕掛けが可能になるのですが、どうもガンバ選手たちには、その発想が希薄だと感じるのです。

 たぶんその背景には、「マグロンのアタマ」という絶対的な武器をもっているという事実もあるのでしょう。だからガンバの仕掛けは、サイドからのクロスやアーリークロスをマグロンのアタマに合わせる(そこからの直接ヘディングシュートや、こぼれ球を拾ったシュート等)というイメージに集約されすぎてしまう・・。たしかに、そんな強力な武器を持っているのだから、それを活用しない手はない・・でも逆に、それに頼りすぎてしまった場合、そこを抑えられた、攻め手が詰まってしまう・・そう、この試合のようにネ・・。

 この試合でのマグロンは、ジェフ最終ラインのストッパー、ミリノビッチに、ほぼ完璧に抑えられていました。だからガンバの攻め硬直化傾向に陥り、「厚い」ものにならなかった・・。要は、「ツボのカタチ」を抑えられたら「次」がつづかない・・その次、またその次という「変化に富んだ攻め」を繰り出すことがままならず、結局最後の仕掛けが詰まってしまうということです。

 それでも、2-0とリードされていた後半21分にマグロンが挙げた「追いかけゴール」は素晴らしかったですよ。それを、取っかかりから仕上げまで演出したのは、遠藤保仁でした。それは、遠藤が魅せた「カタチを超えた仕掛けプレー」だったのです。

 最初、組み立ての起点としてボールの動きのコアになっていた遠藤。一度、中盤のサイドへパスをまわし、その場で動きを止めて様子見に入ります。

 でも私は、彼の「狡猾な意図」を見逃しませんでした。それは、遠藤が仕掛けた「ボールのないところでのタメ」。そして、彼のマーカーがボール周辺へ視線と意識を投げた次の瞬間、勝負の動きをスタートしたのです。その「アクションと無アクション」のメリハリが良かった・・。だから私は、「ボールなしのタメ」という称号を与えたい。それは、その時点で遠藤をマークしていたジェフ選手の「意識のスキ」を完璧に突いた、素晴らしいボールがないところでのプレーでした。

 そして最後は、タテの決定的スペースへ抜け出した遠藤へ、二川からのスルーパスが決まったという次第。もちろん、そこからの遠藤の浮き球クロスが、ファーサイドのマグロンにピタリと合ったプレーも特筆でしたが、私は、この「ポールなしのタメ」プレーに、遠藤の真骨頂を見た思いがしたものです。

 そんな、ガンバの「既存イメージを打破する」ような遠藤の仕掛けプレーを見たからこそ、最後の時間帯でのガンバの巻き返しに期待したのですが・・。

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 さて、イビチャ・オシム監督率いるジェフ市原。この試合でのジェフも、前節のヴィッセル戦と同様に、後半になって息を吹き返しました。とにかく前半は、ガンバに押されっぱなし。それは、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェックが甘くなっていたからです(もちろん中盤!)。

 中盤でのチェックが甘いから、ガンバに余裕をもってボールを動かされてしまう。中盤ディフェンスがうまく機能しないから、どうしても次の攻撃での勢いも半減してしまう(バックアップ選手たちの押し上げが見られず、前の三人だけで攻めている!)。とはいっても最終勝負シーンでは、セットプレー場面を除いて、ガンバの仕掛けをうまく抑えてはいましたがネ(前述のマグロン対ミリノビッチのことですよ!)。

 それにしてもガンバのセットプレーは、よくトレーニングされていると感じました・・ちょっとハナシが逸れますが・・。ニアポスト勝負、ファーポストゾーン勝負などなど、とにかくバリエーション豊富で、選手たちのイメージが明確にシンクロしていると感じます。だから、危険このうえない。そんなところにも、ガンバが、マグロンのアタマを狙ったクロスと、セットプレーに賭けているのがよく分かります。

 とはいっても、彼らの場合は、それが効果的であるが故の逆説的な問題点も見え隠れしている・・。要は、それも効果的な狙い目ではありますが、それで選手たちの「創造性」が殺がれてしまうのでは本末転倒だということです。やはり、定型のない攻めでのイメージ造りは、「活発なボールの動きとボールのないところでのアクションの有機的な組み合わせで相手守備の薄い部分を突く」とか、「勝負はボールのないところで決まる」等々の普遍的コンセプトに基づいたものでなければネ・・。仕掛けでの得意なカタチ(ツボイメージ)が、まったくないというのも考えものですが、それが、選手たちの創造性を殺いでしまうほど強調され過ぎるというのもまた考えものなのです。

 さて、(前半は)出来がよくないジェフ。それでも前半15分、まさにワンチャンスという先制ゴールを決めてしまうのですよ。二列目でボールを持ったチェ・ヨンス。そのままドリブルで中へ切れ込んでいきます。その仕掛けアクションが良かった。ボールをもった状態での「動きベースのタメ」が、、ガンバ守備陣の視線とアクションを釘付けにするなど、殊の外うまく機能したというわけです。そして最後の瞬間、サンドロの決定的フリーランと、チェのラストスルーパスが、美しくシンクロした・・。素晴らしいゴールでした。

 その後は、前述したように、押し込みつづけるけれど、ジェフ守備ブロックを崩しきれないガンバ・・という展開がつづきます。そして後半。ジェフのサッカーが好転してきます。中盤での「チェック作業」がより忠実に、よりダイナミックに活性化されたことで、ジェフも、ゲームのペースを握れるようになっていったのです(中盤チェックが効果を発揮したからこそ、うまくカウンターを仕掛けていけるようになった・・それにしても、何本が決まった一発ロングパスは見事だった!)。とにかく、拮抗しはじめたゲーム。そんな雰囲気のなか、ジェフが追加ゴールを挙げてしまう。後半10分のことです。

 村井のフリーキック・・チェ・ヨンスが飛び込んでくる・・でもボールに届かなかったことで、ファーサイドのミリノビッチへボールがわたってシュート(ゴール!)・・ガンバ守備陣は、チェの動きに引きつけられていたから、ファーサイドのミリノビッチがフリーになったという見方もできそう・・。これで「2-0」。そしてその後の経緯は前述したとおりというわけです。

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 ところで試合後の記者会見。私も、久しぶりに質問をしてみようという気になりました。何せ、相手はイビチャ・オシム監督ですからネ。そして彼の「試合総括」が終わった瞬間に、ハイ!と手を上げました。

 私の質問の骨子はこうです。「この蒸し暑さは、ヨーロッパの監督にとっては想像を絶するモノに違いない・・こんな厳しい環境では、運動量が落ちるのは当然・・ただ、どのように落とすのかが問題・・そこで貴方がキーと考えた指示はどんなものだったのか・・」。

 それに対しオシム監督は、「たしかに厳しい気候条件だ・・だから選手たちには、より賢く、クレバーにプレーしなさいと指示をした(答えの要約)」と回答してくれました。それに対し私は、すぐに、「そこです問題なのは・・選手たちにクレバーに、賢くと指示した場合、よほど選手たちの意識が高くなければ、彼らは、賢く、クレバーに走らなくなってしまう(忠実さを失ってしまう・・間接的なサボり!)ものなのですが(前半のようにネ・・とは言いませんでしたが・・)」と切り返してしまいました。

 オシム監督。「いや、選手たちはよく考えてしっかりとしたプレーしようとしていた・・でもうまくゲームをはこぶことができなくなってしまった部分もあった・・(たぶん前半の内容をイメージしていた?!)」という回答。でもその後に、私が聞きたかった根幹の部分に対する回答(示唆)がありましたよ。「ロジックな理想論は誰にでも語れる・・でも実際に選手たちにやらせるのは、簡単なことではない・・」。それですよ、私が聞きたかった言葉は。

 私の、ドイツ時代の師匠とも言える(まあ、片思いの部分も多かったわけですが・・)ドイツの伝説的スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーがこんなことを言ったことがあります。「ロジック、ロジックって、理論的でカッコいいいことを吹聴する若いヤツらが増えた・・たしかに理論は大事だ・・でも、それを、選手たちにやらせる(徹底させる)ことはものすごく難しい・・理論ばかりに頼って、グラウンド上の実践ノウハウを軽視するヤツらには、もっと人間のことを勉強しろ・・と言ってやるんだヨ・・」。

 私は、イビチャ・オシムを体感し、久しぶりに、勉強オブジェクトとしてものすごく興味を惹かれる現役監督に出会ったと思ったものです。「走れば良いサッカーができる・・」なんてことを、平気で公言してしまう・・。それについては、ファーストステージ第5節のジェフ対マリノス戦でのコラムを参照してください。

 とにかく、イビチャ・オシムが素晴らしく高質なプロコーチであることは間違いのない事実です。あとは我々ジャーナリストが、彼の為した「ノウハウ」を、広く伝えていかなければならない。「サッカー批評」の次号でも、西部謙司さんとの対談で、そのことに触れていますので・・。

 最後に、オシムさんの優れた発言をもう一発。それは、チェ・ヨンスに関しての質問を受けたときのことです。「彼は優れたストライカーだ・・エゴイストでもあるからな・・それでも、この試合での後半で魅せたように、味方へ良いパスを供給するようにもなった・・あのような個人の能力に長けた選手がパスもできるようになったら(組織プレーの発想も充実してくれば)鬼に金棒だ・・そうなれば、彼の個人勝負能力が、より大きく活かされることになるし、相手にとっても、(次が読めないから)より抑えにくい選手になるだろう・・」。

 要は、組織プレーと個人プレーの、高質なバランスのことですが、イビチャは、チェ・ヨンスがストライカーだからこそ、まず「エゴイズム」の部分を評価し、そして、効果的にミックスしはじめた組織プレーにも言及したのです。まさに、そのとおり・・。まあ当たり前ではありますが・・。ここで先ほどのオシム先生の発言を、(たぶん、そう言うだろうというだろうということで脚色して)もう一度。「たしかに常識だけれど、それを選手たちに徹底させるのは難しい作業なんだよ(そこにこそ、優れた監督のウデが発揮されるんだよ!)・・」。

 ということで、本日はこんなところで・・。

 

 

 



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