湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第5節(2003年9月13日、土曜日)

 

今節も、注目すべき様々なコンテンツがてんこ盛りでしたよ・・レッズ対マリノス(0-3)、FC東京対ジェフ

 

レビュー

 

 さて、どうしたものか・・。ホームのレッズが、(後半は少しは持ち直したとはいうものの)発展性のない「規制(戦術)サッカー」で、マリノスに完敗を喫してしまったのですよ。

 レッズ選手たちが陥っている(囚われている?!)前後分断サッカーからどのように脱却したらいいのか・・まあ最後は選手たちの自覚しかないけれど(全員の高い守備意識のみが、攻守にわたる組織プレーを活性化し、リスクチャレンジを可能にする!)・・とはいっても、その前後分断サッカーイメージが監督による「基本的な意識付け」だから始末が悪い・・レッズがペースを握れない(仕掛けで危険なカタチを作り出せない)ケースでは、その原因は、例外なく動きのない流れ(悪魔のサイクル)に陥ってしまうから・・周りの選手たちが動かない・・だから、相手守備のウラスペースを突くようなボールの動き(組織パスプレー)を演出できない・・この試合でも同じように、マリノス守備ブロックに明確に読まれてしまう(予測されてしまう)ようなパスを出してカットされ、逆に危険なカウンターを仕掛けられてしまう・・(この試合での3失点は、すべてカウンター状況!)。

 要は、タテのポジションチェンジなど、ボールがないところでの活発な動きをベースにしたダイナミックな組み立てというイメージが希薄なレッズだから、(選手のケガが重なっていることで)守備を固めるマリノスの思うツボにはまってしまったということです。何せ、組み立ての段階で、まったくといっていいほどボールがタテに動かないのだから、前を向いて対処できるマリノス守備ブロックに簡単に仕掛けを読まれてしまうのも道理だということです(前線選手たちの戻り気味のパスを受ける動きがない・・後方選手たちの、タテへ抜け出るフリーランニングがない・・等々)。タテへボールが動くのは、エメルソンや田中に対するラストパスなど、最終勝負の場面だけという体たらく。これでは、個の才能に頼り切った「前後分断サッカー」と言われても仕方ない・・。

 レッズ選手たちが描く「唯一」の仕掛けイメージは、田中やエメルソン、はたまた両サイドの山田や平川が、前にスペースのある状況でボールを持ち、そこからの単独ドリブル突破にチャレンジしていくというものです。

 もう何度も書いているように、エメルソンや田中、はたまた山田等のドリブル突破能力を最大限に活用するというイメージは、たしかにポジティブですし、どんな監督でも「いの一番」に志向するチーム戦術でしょう。でも、「それしかない」というのでは、実効が減退するのも(逆にそれがブレーキになってしまうケースが増えるのも)道理。何といっても攻撃の根元的コンセプト(概念)は「変化」ですからネ。

 でもレッズの場合は、「それ」で結果が出るケースが増えたから始末が悪い。「それ」で勝ち点を積み重ねられるようになった選手たちは、「それさえあれば・・」という心理に引っ張られがちになり、サッカーの攻撃においてもっとも重要な「発想」である、「変化」を演出するための組織的な組み立てイメージ(組織プレーと個人プレーのバランスイメージ)が阻害されてしまうというわけです。

 ここのところ、良い結果が出はじめたレッズの選手たちの、「マンマークでしっかり守り、前線の才能へ良いカタチのパスを供給すれば結果はついてくる・・それがオレたちのサッカーだ・・」「そこでは追い越しフリーランニングなど、次の守備でのリスク要素を極力抑える・・」という発想が、より強化されはじめたと感じていました。でもそれでは、サッカー内容を次の段階へ進めることなど望むべくもないし、そんなふうにチームの意志が強化されはじめたことで、ファーストステージにおいて一瞬希望の光を放った「山瀬効果」も、結局は再生・発展することが叶わなかった?!

 ハンス・オフトは、とにかく一番手っ取り早く「結果」を出すチーム作りプロセスを選択しました。しっかりと守り(それも、迷いやミスが生じ難いマンマーク戦術!)、エメルソンや永井、山田など(また両サイドの山田と平川)、前線の才能たちが仕掛けるドリブル勝負に賭ける・・。そこでは、いくら前にスペースがあっても、前線の選手たちを追い越していくような「クリエイティブなフリーランニング(ある意味ではリスクチャレンジプレー!)」は極力控えるようにと指示される・・、ボールがないところでのサポートの動きが制限されるのだから、組織的なボールの動きを演出できるはずがないけれど、そんななかで、一試合に数えるほどの割合で、単独ドリブル勝負や、最前線の選手たちによる最終勝負のコンビネーションプレーが成功することで、ある程度の結果を残すことができる・・というわけです。

 要は、今のレッズが展開しているのは、選手たちが主体的に考えるようなクリエイティブな(組織プレーと個人の勝負プレーが高質にバランスした、創造性にあふれる)サッカーとは対極に位置する、ガチガチの規制ばかりが目立つ(結果さえ出せば文句はないだろう!)という「戦術偏重サッカー」だということです。そこには、クリエイティブに美しく、そして勝負にも強いサッカーという理想型へ向かおうとする意志が感じられることはない。これでは、選手たちが(チームのプレー内容が)発展するはずがない。選手たちは、自分主体で考え、決断し、勇気をもって行動するという積極プレー(リスク・チャレンジ)をつづけなければ、決して発展することはないのです。

 前節のコラムでも書きましたが、今シーズンの(2シーズン目に入った)ハンス・オフトが、もっと中盤で組み立てるサッカーを志向しているということを聞きます。でも、これまでのレッズのサッカーを観察しても、そんな「発展志向(=理想へ向けた、監督のリスクチャレンジマインド!!)」があるとは思えない・・。とにかく「グラウンド上の現象は、監督を映す鏡」なのですよ。

 昨シーズンのレッズは、抜群に守備意識が進化しました。それはハンス・オフトの功績です。でも彼は、そこから、勝負へこだわる規制方向ベクトルを強化してしまった。選手全員に共通する守備意識の発展こそが、攻守にわたるクリエイティブサッカーの基盤。せっかくその前提条件を進化させることができたのに・・。

 前後分断サッカーという「呪縛」から選手たちを解放できるのは監督しかいません。とにかく私は、これからのレッズのプレーに、(ハンス・オフトが公言しているような)発展マインドが少しでも見られるようになることを願って止みません。たしかに、選手たちのプレーマインドの変化は微妙ですが、それでも選手たちが少しでも意識してさえいれば、ボールなしでのプレーマインドやボールを持ったときのプレー内容など、その変化(その兆候)は確実に感じ取れるものです。

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 さて、FC東京対ジェフユナイテッドのゲームレポートを短く・・。

 ものすごくエキサイティングで内容のあるゲームになりました。この試合の証人になった観客の皆さんは、ホント、得をした・・。

 試合は、立ち上がりから、攻守にわたるジェフの高質サッカーが目立ちに目立ちます。例えば前半3分・・FC東京カウンターのシーン・・前線の羽生が、攻め上がる石川のマンマークに杯って、50メートル以上全力で戻る・・自分主体のボールがないところでの積極ディフェンス参加・・それもアリバイではなく、オレがボールを奪い返してやる!という実効ある守備マインドをふりまきながら・・。

 それこそ、オシム監督がいう「攻守にわたって走りつづける(=考えつづける)」というキーワードの本質的な意味の一端を示唆する現象です。そう、ホンモノの実効ある守備意識・・。

 また前半7分には、攻撃でこんなシーンもありました。左サイドからのジェフの仕掛け・・村井、大柴、サンドロが絡んだコンビネーションで、最後に決定的スペースへ飛び出し、サンドロからのダイレクトタテパスを受けたのは、ボールがないところでの勝負の動きをつづけた阿部勇樹・・彼のダイレクトシュートは外れたが、本当に目の覚めるようなコンビネーションによる、決定的スペースの攻略シーンだった・・。

 そんな高質サッカーを展開するジェフでしたが、「対処ゲーム戦術」がうまく機能していたFC東京も、実効シーンでは負けていませんでした。頻度はジェフに劣るものの、危険なシュートを放つという視点では互角以上の攻撃内容を魅せたのです。

 左サイドのクロスから戸田(?!)が決定的なフリーヘディングシュートを放ったり、右のクロスでこぼれたところを、最後は宮沢(?!)が決定的なミドルシュートを見舞ったり。そして18分、宮沢のミドルシュートが見事に決まって、FC東京が先制ゴールを奪うのです。攻め上がるジェフの「ウラ」を突くカウンター気味の効率攻撃が実った瞬間でした。フムフム。

 そこで、仕掛けの中心になっていたのは言わずと知れたケリー。攻守にわたるダイナミックな実効プレーには、本当に拍手喝采です。そしてFC東京は、前半39分に、コーナーキックから、戸田がラッキーなゴールを奪って「2-0」とリードを広げてしまうのです。

 「これはジェフには厳しい試合になったな・・」。そんな悲観的なことを思ったものです。たしかに、タテのポジションチェンジなど、ボールがないとろでのクリエイティブでダイナミックな「走り」をベースにしっかりとボールを動かしつづけるだけではなく(ボールの動き≒選手の動き!)、ここぞの場面では勇気をもった単独ドリブル勝負も繰り出していくジェフの攻撃は素晴らしいコンテンツを包含しています。それでも、人数をかけ、これまた素晴らしい「あうんの呼吸」を魅せるFC東京の組織ディフェンスも、ジェフ攻撃をしっかりと受け止めつづけているのです。また、それをベースに繰り出していくカウンターも、危険極まりませんしネ。そんなカウンターの脅威をモノともせず、互いの高い守備意識に対する相互信頼をベースに、組織的に攻め上がりつづけるジェフ。

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 このところ、暑いなかで、どうしても前半は「抑え気味に(注意深く)」スタートしていたジェフでしたが、この試合では、最初から、彼らの良いイメージのダイナミックサッカーを仕掛けていくという気概を感じました。まあ、それが正解ですよ。最初の意識付けで、落ち着いて・・とか、注意深くクレバーに・・ということになれば、確実に選手たちの心理・精神的なダイナミズムが予想以上に減退してしまうものですからネ。だからこそ、監督による、バランス感覚あふれる意識付けがものすごく大事になってくる。この試合では、「それ」が殊の外うまく機能していたと思っていたのです。

 さて後半。もう「行くっきゃない」ジェフは、立ち上がりから巻と山岸を投入して攻めの勢いを増幅させていきます(また後半22分にはディフェンダーの茶野に代えて、フォワードの林も投入!)。ガンガンと押し込んでいくジェフ。ケリーを中心に、蜂の一刺しのカウンターを繰り出していくFC東京。本当に見応え十分の攻防がつづきます。

 忠実なパス&ムーブを基調にした(タテのポジションチェンジを基調にした!)組織パスプレーで活発にボールを動かしながら、パスでの最終勝負ばかりではなく、タイミングのよいドリブル勝負も織り交ぜていくジェフ。その勢いは止まりません。何度FC東京の最終ラインをこじ開けそうになったことか。でもゴールは遠い・・。

 でも、「ツキもないから、これはダメかもしれないな・・」、そんなことを思いはじめた後半37分、やりました。一念発起しドリブル突破にチャレンジしたジェフの佐藤勇人がペナルティーエリア内で倒されたのです。PK! サンドロが落ち着いて決めて「2-1」。そして後半43分、林の同点ゴールが決まるのです。左サイドをドリブルで突破してラストパスを決めた坂本にも大拍手です。それは、まさに「劇的」という表現がピタリの鳥肌ゴールでした。

 まあ、全体的な内容からすれば「2-2」は順当でしたが、勝負という視点の実質的な流れからすれば、ジェフにとってはラッキーな引き分けということになりました。この引き分けは、勝者のメンタリティーという視点でも自信につながったでしょうし(最後まで諦めずに攻めつづけた自分主体の積極姿勢が報われたこと)、ジェフにとっては、このうえなくハッピーな第5節でした。

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 ところで試合後の記者会見。例によって、戦術的なものも含む様々なテーマの質疑応答が飛び交った最後に、私が、こんな質問をぶつけてみました。

 「ジェフの選手たちはしっかりとリスクにチャレンジしていくし、自ら(苦しいに違いない)守備もしっかりとこなす・・そんな自分主体の積極プレー姿勢こそが人々に感動を与えるわけだが、一般的に日本人は、そのような自分主体の(個人責任の所在が明確になる)リスクチャレンジプレーをするのは得意ではないと思う・・オシムさんは、そのことをどう考えるか・・また、どのように、選手たちのリスクへチャレンジしていくマインドを高揚させているのか・・まあ、一言で応えるのは難しいとは思うけれど、キーワードだけでも聞かせて欲しい・・」。

 それに対しオシムさんが一言。「まあ(アンタも言っているとおり?!)・・そのテーマを一言で表現するのは無理だね・・それについては、この次にでも(機会を改めて)・・」だって・・。

 たしかに多岐にわたるテーマだから、こちらもジックリと時間をかけて、テーマをパーツに分けながら、しつこく質問していくことにしよう・・。何といっても、イビチャ・オシムというプロコーチの「ウデの本質」を、一般的な(普遍性があり、かつ簡単な)言葉で残しておくことは「我々」の使命ですからネ。

 

 

 



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