湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第10節(2004年5月16日、日曜日)

 

その他のゲームについて、ポイントを絞った雑感をまとめます・・(ジュビロvsマリノス、1-2)(レイソルvsアントラーズ、0-1)

 

レビュー

 

 第10節の各ゲーム、各サッカー内容について、気付いたポイントをまとめ、その背景ファクターを探っておくことにします。

 まずジュビロ対マリノスですが、この試合のキーポイントは、何といってもジュビロが飛車角落ちだったこと。もちろん名波と福西のことです。河村と成岡が代役を務めたのですが、全ての面で「まだまだ」ですからね。ジュビロ中盤のパフォーマンスが低落するのも当然なのですよ。私は、物理的な能力が高い河村に期待しているのですが、どうも発展プロセスが鈍い。彼には、自覚レベルを格段に高揚させるような「内的な刺激」が必要だと思います。やはり、最後に重要になってくるのは、心理的・精神的・インテリジェンス的な部分ですからね。「まだ」彼は、日本的な甘えの構造にドップリと浸かっていると感じます。

 ということで立ち上がりのゲームの主導権はマリノスが握ります。その勢いは凄かったですよ。そのなかで、坂田やアン・ジョンファンに決定的チャンスが訪れます。それも偶発的なチャンスではなく、ジュビロ守備ブロックを振り回し、彼らのウラをしっかりと突いたチャンスメイクでした。

 勝たなければならないマリノス・・だから彼らが全力で立ち上がることは予想通り・・でも「そこまで」ジュビロ守備ブロックが崩されるとは思いもよらなかった・・それほどマリノスの勢いが強烈で、仕掛けコンテンツが優れていた・・ということです。

 それでもマリノスは、その2-3本の決定的チャンスを決められず、ゲームが徐々に落ち着きをみせはじめます。さてこれからだな・・なんて思ったものです。でも、まさにそのタイミングで唐突な先制ゴールが決まってしまうのです。前半14分に飛び出した奥のフリーキック。ジュビロゴールの左上角に決まるという見事なシュートでした。でもその二分後には、ジュビロ藤田の同点シュートが決まってしまう・・。そしてマリノスの勢いが減退し、ゲーム全体に落ち着いたムードが流れはじめる・・。

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 ここでちょっと視点を変えて、「勢い」のバロメーターについて。そのベースは、もちろん中盤ディフェンス。そこでの、ボールへのチェイス&チェックの勢い・・ボールの動きの停滞に即応した協力プレス・・次にボールが動くポイントでのボール奪取アタックエネルギーの充填・・等々、それらの守備プレーが、「勢い」を測るうえでの代表的な評価基準になるというわけです。

 とはいっても、それは「現象」。それらのプレー要素のベースは、選手たちの意志とイメージが、いかに有機的に連鎖しているかという状態になります。ということで、我々コーチは、「全体的な勢い」の基盤としての「イメージ連鎖状態」が、どこをキッカケにして高揚しはじめたか、逆に、どこをキッカケに、クサリが切れて減退しはじめたのかを、正確に分析しなければならないというわけです。

 ここでいう「どこ」とは、もちろん選手個々のプレー姿勢とプレー内容のことです。一人の選手の「鼓舞プレー」が、チーム全体のプレーを活性化するケースもあるし、逆に、一人の選手のサボりが、消極ビールスとなってチーム全体に波及してしまうこともあるというわけです。

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 さてジュビロ対マリノス。勝敗を分けたのは、決定的な武器の差。ジュビロの攻撃の武器は、人とボールの動きと、その有機的な連鎖。でもその連鎖状態をマネージするメインアクターが二人も欠けているのでは・・。それに対して横浜は、ドリブル突破力や、高さという強みを前面に押し出したクロス&セットプレー決定力など、より現実的で分かりやすい攻めの武器を駆使します。

 たしかに流れのなかでのクロス攻撃でも威力を魅せていたマリノスですが、危険度では、やはりセットプレーに及びません。何せセットプレーでは、プレーが一度止まりますからね。サッカーでは唯一、落ち着いて「計画」し、選手全員のイメージを統一できる状況だということです。もちろんマリノスの場合は、キッカーの奥と、ゴール前で待ち受ける中澤、松田、那須、久保、ユー・サンチョル等々、抜群にヘディングの強い選手たちの最終勝負イメージは明確にシンクロしています。その危険度は、「J」随一でしょう。

 那須の決勝ゴールが決まる前にも、フリーキックから、ユーや中澤のヘディングが決まりそうになるなど、ジュビロ守備陣の不安をあおったものです。そんな、セットプレー破壊力を見せつけられたら、守備ブロックのアクションや勝負イメージが縮こまったものなってしまうのも道理。だからこそ、事前の準備として、守備選手たちの確信レベルを上げるイメージトレーニングが大事になってくるのです。クロスへのゴールキーパーの対処トレーニングとか、とにかくねばり強く相手に身体を「預ける」トレーニングとかね。それがあれば、選手たちの確信レベルも向上し、より効果的なディフェンスの競り合いプレーを展開できるというわけです。

 それにしてもマリノスのクロス攻撃は迫力満点でした。決勝ゴールが決まった奥のコーナーキックシーンでは、蹴られる前に、「あれだけゴール前に高さが揃ったら、決まらない方がおかしいよな・・」なんて呟いてしまったものでした。まあ、あれだけ絶対的な「攻撃の武器」があれば、たしかに、そちらに仕掛けイメージが集中するのも仕方ないのだけれど・・。

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 さて、スタジアム観戦したレイソル対アントラーズ。

 後半のコンテンツが面白かったですよ。前半は押し込まれていたレイソルが大きく盛り返して押し込みつづけ、たまにアントラーズが「ツボの速攻」を仕掛けるという展開。そこでのレイソルは、押し込んだだけではなく、何度も決定的チャンスを作り出してしまうなど、観ている方のワクワク感を高揚させるコンテンツ満載の最終勝負を仕掛けていくのですよ。

 その仕掛けの突貫隊長は、言わずと知れた玉田と、ツートップの相方ゼ・ホベルト。二人ともに、素晴らしいドリブル突破力を備えています。とにかくヤツらがボールを持ってドリブルに入ったら、ワクワク感が何倍にもふくれ上がるのですよ。

 そんなレイソルのツートップを観ていて、やはりドリブルがもっとも効果的な仕掛けツールだという事実を噛みしめていた湯浅だったのです。もちろん、実効あるドリブラーがいたらのハナシですがね。

 たしかにサッカーの基本はパスゲーム。それでも、パサーとレシーバーのイメージをシンクロさせるのは難しい作業です。まして、シュートやラストクロスを上げるなど、最後の仕上げをする選手が「三人目・四人目」であることの方が多いサッカーだから、そのプロセスで絡み合う数人の仕掛けコンビネーションイメージをシンクロさせるのは容易な作業ではない。

 それに対してドリブル勝負は、何せ自分だけですからネ。また、ドリブル突破で存在感を示せば、突っかけた状態でパスを出すなんていう仕掛けオプションの効果レベルを、天文学的な数値にまで高められるっちゅうものじゃありませんか。だからこそコーチは、ドリブルの才能があると感じた選手に対しては、とことんドリブル勝負を要求しつづけなければならないのですよ。昔、ブラジルにガリンシャというドリブルの天才がいました。当時のコーチが、彼に対してこんなトレーニングを課したとのことです。彼ひとりに対して、6-7人の高校生選手を相手させるのです。それでガリンシャは、どんな状況でもドリブルチャレンジに躊躇しなくなったということです。

 もちろん高いドリブル能力(天賦の才)は、様々な視点で両刃の剣だから、そこでも監督やコーチ、そして選手に、高質な「バランス感覚」が求められるわけですがネ。

 まあ、とにかくこの試合での玉田とゼ・ホベルトは、ドリブル突破の王様だったというわけです。だから彼らのチャレンジを抑える必要などまったくなかった・・。こちらも存分に楽しませてもらいましたよ。

 さて対するアントラーズ。小笠原の不在がかなり響いていると感じられました。パスがよいタイミングで出てこないから・・というか、パスを出すコア選手が定まらず、レシーバーが動き出しのタイミングを測りかねているから、前線の選手や、後方から走り抜ける二列目・三列目プレイヤーのフリーランニングエネルギーが徐々に殺がれていったと感じられたのです。そして、タイミング良くタテパスが出はじめたら、今度はパスレシーバーの足が止まり気味になってしまって・・。何回、相手ディフェンダーと「よ〜い、ドン!」で競争するなんていう低次元シーンを見せつけられたことか。

 それでも、中田浩二が交代出場してからは、仕掛けパワーが大きく増大したと感じました。やはり攻撃のベースは守備なのです。中田浩二が魅せる、中盤でのハイレベルなボール奪取アクションが出てくるに伴って、それまで押されていたアントラーズが、残り10分あたりからガンガンとレイソルを押し込んでいくようになったのです。もちろんそうなったら、レイソルの玉田とゼ・ホベルトの速攻ドリブルが冴えわたるわけですが、そんなカウンターにもビビらず、アントラーズは最後まで攻めつづけました。そして最後の最後に劇的な決勝ゴールを挙げてしまうのですよ。コンビネーションからのクロスを、脇目もふらずにゴール前へ走り込んだ石川がゲット! まさにアントラーズの勝負強さ象徴する幕切れではありました。

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 それ以外にも、ジェフのサッカーコンテンツの変化・・選手たちのマインドの変化・・というテーマもありますが、それについてレポートするのは、もう少し彼らの変化を観察してからにしましょう。とにかく私は、選手たちが「今シーズンは、もう少し考えて、より効率的に走れるようにしたい・・」などとメディアインタビューで語っているのを目にするにつけ、心配がつのりつづけているのですよ。

 もちろんそれが、マークだけではなく、瞬間的に変化しつづけるタスク(仕事内容)など、様々な意味を包含する「効果的な受けわたし」をイメージしているのなら別ですが・・。そこでの絶対的ベースは、攻守にわたって、まず自分がアクションを起こしつづける・・というプレー姿勢(プレーマインド)であるのは言うまでもありません。

 優れたサッカー、美しく・勝負強いサッカーは、クリエイティブなムダ走りの積み重ねでしか実現することはできない・・のです。

 



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