湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第11節(2004年5月23日、日曜日)

 

興味深いコンテンツが詰め込まれたエキサイティングマッチでした・・(マリノス対グランパス、2-1)

 

レビュー

 

 本当にグランパスのパフォーマンスは高みで安定している・・ヤツらがこんなに下位に低迷しているのは奇異な現象だな・・まあそれも理不尽なサッカーだから仕方ないけれど、セカンドステージでは巻き返しが期待できそうだ・・あっ、そうか、次節はレッズとの対戦だっけ・・アウェーで戦うレッズが、強いグランパスを相手に、どこまで出来るか見物だ・・とにかく、グランパスのネルシーニョも良い仕事をしているということか・・。

 試合を観ながら、そんなことがアタマのなかを駆けめぐっていました。本当にグランパスのサッカーは良くなっている・・。そのバックボーンは、選手全員の、忠実でクリエイティブな守備意識の高揚であり、それをベースにしたディフェンスの安定です。また、忠実でクリエイティブな全力ディフェンスを展開することで、攻撃もポジティブに発展しつづけている・・だからこそ自信&確信のレベルを高揚させられる・・それこそ、自分主体の積極プレー姿勢が基盤にした善循環・・ってな具合。

 チェイス&チェック&マーキング&インターセプトチャレンジ&集中プレスといった守備ファクターが有機的に連鎖しつづけるグランパス。特に、ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェックアクションが本当に忠実でクリエイティブだと感じます。それがあるからこそ、周りの味方によるボールなし守備アクションも、よりダイナミックに活性化されるというわけです。守備意識の高揚による主体的なディフェンスプレーの活性化・・。

 「我々は良いサッカーを展開しているし、それが高みで安定してきた・・ファーストステージはうまく結果を残すことはできなかったが、様々な課題を発見できたし、それを修正していける確信も深めることができた・・我々は、より高いレベルへ向かっている・・」。試合後にネルシーニョ監督が述べた自信のコメントでした。

 「その課題ですが、一つか二つ、具体的に挙げてくれませんか?」。そんな私の質問に対する回答は、結局、もっとも知りたい具体的な戦術ポイントまでは至りませんでした。それでも、興味深いコンテンツが含まれていましたよ。それは、「ペースを握っている時間帯」というテーマです。

 グランウド上では、両チームが主導権をめぐってせめぎ合っているわけですが、ネルシーニョの指摘は、そこでペースを握ったら、確実にその「流れ」を活かし切ることが大事だというものでした。要は、主導権を握っている時間帯にしっかりとゴールを決めなければならないという当たり前のコトを言っているのですが、実はそのテーマには、深淵なコンテンツが包含されているのです。

 一方がペースを握っている時間帯では、相手チームは、物理的にも心理・精神的にも受け身で消極的になってしまう傾向にあるものです。だからこそ仕掛けアクションにも、より多くのリスクチャレンジプレーを入れていかなければならない・・。その流れをしっかりと掴み、ここぞの全力パワーで守備を崩し切らなければならない・・。もちろんそこでは、人数をかけた組織パスプレーだけではなく、何倍にも増幅した個人勝負パワーもぶつけていく・・またボールを奪われたら、瞬間的に全員が、最前線からの全力パワーディフェンスを展開する・・というわけです。

 ネルシーニョが言いたかったことは、流れを掴む感覚を着実に深化させていけば、かならず全員のフルパワープレーが連鎖しはじめるということでしょう。そうすれば、相手守備ブロックにも穴を作り出せるだろうし、そこを確実に突いていけるようにもなる・・。それこそが、ペースを握った時間帯を活かすことの意味なのです。この議論はもっと深めなければいけませんが、まあこのテーマについては、そんなところからスタートすることにしましょうかネ。

 ペースを握っている時間帯・・。今度は、そんな視点でもゲームを観察してみましょう。そこでの、選手たちの意識の連鎖をしっかりと観察できるかもしれません。もちろん逆に、チャンスなのに意識が統一されない・・だから、ボール絡みやボールのないところでの積極的プレーが連鎖しない・・等々、「何やっているんだ!」という、不満がつのることになるかもしれませんけれどネ。

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 それにしても、選手交代の内容とタイミングなど、この試合でのマリノス岡田監督の采配は冴えていました。

 「選手のコンディションは最悪・・そのことも含めて、このような苦しい展開になることは予想していた・・だから、とにかく我慢して最後の10分間に勝負をかけようというイメージで試合に臨んだ・・」。試合後の岡田監督のコメントですが、まさに、そのイメージ通りの采配をやり、そして結果がついてきた・・。たしかにツキもあったけれど、この試合結果は限りなく必然という評価が妥当でしょう。

 それにしてもマリノスは苦しみました。

 「我々は、マリノスのやり方は分かっていたから、この一週間をかけて対処ゲーム戦術をトレーニングしてきた・・」。グランパスのネルシーニョは言います。サイドからの崩し・・そこからのクロス攻撃・・またセットプレー・・。そんなマリノス攻撃のツボを効果的に抑え込むためのトレーニングを積んだということです。サスガに策士。この試合でグランパスが魅せたゲーム戦術はなかなか効果的に機能していましたよ。

 それでも後半のマリノスは、いつもとはタイプの違う仕掛けをうまく機能させられるようになっていきました。明確なセンターフォワードはいないけれど、全員がそのことを逆手にとり、前後左右の活発なポジションチェンジ等々、さまざまな応用プロセスを、効果的に決められるようになったのです。ゲームを完全に支配しはじめるマリノス。それも前半とは違い、チャンス内容も好転していると感じます。

 それでも先制ゴールを挙げたのはグランパスの方でした。見事な、本当に見事なカウンター。右サイドのウェズレイから、逆サイドにいるマルケスへとパスが回され、そこから再び右サイドの岡山へラストパスが通されました。二度もマリノス守備ブロックが振り回されたというわけです。本当に見事なカウンター。そしてすぐにマリノス岡田監督が動きます。アン・ジョンファンに代わり、エース久保竜彦が登場。

 久保が入ったことで、マリノス最前線に明確なコアができます。その周りで激しくポジションをチェンジしながら効果的な衛星プレーを展開する奥、坂田、ユー・サンチョル、ドゥトラたち。やっとマリノスの仕掛けに「一本スジが通った」という感じがしたものです。そんなダイナミックに変身した展開のなか、限りなく「必然的にフリー」になった奥が、ドリブル突破にチャレンジしたところを倒されてPKですからね(倒された奥自身が決めた!)、やはり采配の妙と言わざるを得ない・・。

 その後ゲームは、両チームがペースを奪い合うというエキサイティングな展開になっていきました。だからこそ、グランパスのパフォーマンスが高みで安定していることを実感したという次第。そしてそんな背景があったから、試合後のネルシーニョ監督が触れた、ペースを握っている時間帯をいかにうまく活かしていくか・・というコメントが印象的だったというわけです。

 それにしてもマリノスの決勝ゴールは見事の一言でした。最前線の「コア」が、これ以上ないという爆発力を発揮した・・。

 久保が落としたボールを奥が受ける・・久保は、着地した次の瞬間には、爆発的なパス&ムーブでファーポストスペースへ抜け出していく・・ボールを持った奥の脳裏には、そんな久保の意図が明確に描写されていた・・迷わず、久保が走り込むスペースへ向けたロビングラストパスを送り込む奥・・そして、自分が走り込む眼前スペースへ、ベストコース、ベストタイミングで送り込まれたボールを久保がダイレクトでシュート!!・・ってな具合。まあ実際は、久保のシュートがこぼれたところを佐藤由紀彦がヘディングで押し込んだのですが、とにかく、久保の見事なフリーランニングと、奥が送り込んだ、まさに糸を引くように正確なラスト・ロビングパスが演出した、鳥肌が立つような最終勝負だったというわけです。

 苦しい展開のなか、タメにタメた効果的采配で勝利を呼び込んだ岡田監督・・という総評ですかネ。

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 ところでマリノスの松田。スゴイね、ホントに・・。何がって?? それは、インターセプトや、相手トラップの瞬間を狙ったボール奪取からの爆発オーバーラップですよ。レーバークーゼンのルシオを彷彿させる?! そんなことを言ったら、ヤツと比べないでよって松田は怒るでしょうか・・。

 とにかく(スキンヘッドやあの体躯だから)勢いだけは、まさに世界。もっと確実性が増したら、一つの攻め手として、チーム内でのイメージシンクロ状況も上がってくるでしょう。そこまでくれば、「見慣れない顔」が急に決定的スペースまで飛び出して効果的な仕事をしてしまうということで、相手守備ブロックにとって怖いことこの上ない存在になる・・そしてそれが攻撃の変化として、周りの味方のチャンスを広げる・・。やはりサッカーでは、積極仕掛けプレー(リスクチャレンジプレー)こそが発展ソースなのですよ。

 



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