湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第4節(2004年4月10日、土曜日)

 

完全に解放路線に乗ったレッズだけれど、まだまだ不安定さを改善するという課題が・・(レッズ対ヴィッセル、2-1)

 

レビュー

 

 あれほどの絶対的チャンスを外しつづけたら、最後は苦戦になるのも当然だよな・・。前半では、長谷部のフリーシュートチャンス、長谷部のクロスからの田中のヘディングシュート、後半では、山瀬と田中の完璧フリーでの抜け出し、岡野のフリーシュート等々。ゲームの内容は(守備が不安定とはいえ全体的には)まあまあだったけれど、次々とビッグチャンスを作り出しながら、ことごとく外してしまったレッズ。ちょいとフラストレーションをためながら観ていた湯浅でした。

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 この試合での観戦テーマは、全員攻撃、全員守備を標榜するハシェック率いるヴィッセルのサッカーコンテンツ(これまでリーグ戦負けなし!)、そして、エメルソンがいないレッズの攻撃と、アレックスと永井雄一郎をサイドバックに据えた(山田を守備的ハーフに置いた)チーム戦術の全体的な機能性といったところでしょうか。

 永井とアレックスのサイドバックコンビは、前節のジュビロ戦からのトライですが、それは、ナビスコ一回戦(ホームで敗戦を喫した大分トリニータ戦)からの反省だったのかもしれません。あの試合では、永井、エメルソン、田中達也のスリートップで試合に臨み、まさにこの三人が「最前線のフタ」として見事に機能していましたからね。これでは、レッズの仕掛けが詰まり気味になるのも道理。何せ、後方の味方がスペースへ飛び出そうにも、その扉が彼ら三人によって塞がれているのだから・・。

 ということで、次のジュビロ戦から、(そこでの反省を踏まえ?!)より流動性があり自由な仕掛け発想が活かされるツートップにし、永井雄一郎とアレックスをサイドバックに据えたと思っているのです。もちろん監督・コーチはこの二人に対し、オマエたちは(サイドバックとして)ディフェンスにも戻ってこなければならない!と意識付けをする・・。そしてこの二人の、攻守わたる全体的なプレーのダイナミズムが自然と高揚していったというわけです。そこには、ディフェンスからゲームに入っていくことで、攻撃への意志もより活性化されるという、サッカーの歴史が証明している事実があった・・。そのチーム戦術マネージメントは、ギド・ブッフヴァルトとゲルト・エンゲルスがもつ優れた経験値の証明といったところでした。

 実際にこのチーム戦術は、ジュビロ戦でも、エメルソンが退場になるまでは本当にうまく機能していたと思います。ということで、この試合では、まずそのポイントから入ることにしましょう。

 アレックスは、攻守ともにある程度は機能していたと思います。とはいっても、守備はやはり不安。相手に切り返されたら足を止めてしまうとか、ボールがないところの守備でも「まあ・・パスなんて来ないだろう」というぬるま湯のマーキングなのです。その(相手を甘く見た?!)メリハリのなさに、ちょっと憤っていた湯浅でした。それでも攻撃プレーには見るべきシーンが多々ありましたよ。彼の「次の守備」でのパートナーは鈴木啓太(アレックスが上がったスペースは鈴木がカバーする等!)ですが、何度か、アレックスが下がって、鈴木啓太を左サイドのタテスペースへ「送り込む」なんていう、クリエイティブな「タテのポジションチェンジ」も見られました。そんなタテにも変化があった左サイドに比べ、永井と山田がコンビを組む右サイドについては・・。

 まだまだ永井は、守備が不安定・・だから右サイドパートナーの山田も、彼に守備を任せて攻め上がることに躊躇している(?!)・・だから、どうも右サイドでは、タテのポジションチェンジ(=相手の守備バランスを崩す変化の演出!)がうまく機能しない・・。それが、山田の押し上げが少なすぎたという全体的な印象につながったというわけです。

 永井雄一郎のディフェンスですが、忠実に戻ってくるし、「人」もしっかりと見ている。もちろんボール絡みとなったら(相手との直接的な競り合いでは)ある程度の強さは発揮する。それでも、ボールなしでの実効マークや効果的ポジショニングだけではなく、パスを読んだアタックのタイミング等のポイントではまだまだ不安感の方が先に立つのですよ。だから右サイドは、かなりの時間帯、「いつもの」右サイドバック山田・・右のウイング永井・・という構図になってしまっていた・・。ちょいと機能不全だっと感じた右サイドだったのです。

 とはいっても、アレックス&永井のサイドバックというアイデアは非常にいいと思うし、それには明確に発展の可能性を感じますよ。アレックスは、たまにみせる気抜けプレーをなくせば、確実に「世界レベル」へステップアップできるし、永井にしても、ディフェンスの楽しさを自覚し、その実効レベルを上げていければ、一皮も、二皮もむけるでしょう。彼の攻撃でのクオリティーは証明済みなのだから、それに高い守備意識と、バランスの取れた実効ディフェンスプレーが加われば、まさに鬼に金棒というわけです。それもまた、監督&コーチによる前向きなチーム戦術がもたらした希望の光(発展プロセスを楽しんでいる者にとっての至福)なのです。

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 試合展開ですが、開始早々の3分に、山田からの一発勝負タテパスを受けた田中達也のうまいボールコントロールによって(それで相手ディフェンダーが田中の身体を抑えざるを得なくなった!)レッズがPKを獲得します。それをアレックスが慎重に決めてリードを奪うという展開です。でも、その後は、一進一退。ヴィッセルの、高質な組織プレーイメージが光ります。特に、相手のボールの動きをイメージベースにした組織的なプレスのかけ方など、忠実でクリエイティブな守備に、彼らが本当によくトレーニングされたチームだと感じるのです。ボールを奪い返した後の攻撃にしても、組織的なパスと個人勝負がうまくバランスしていましたからネ。ホームのレッズに一歩もひけをとらず、積極的・攻撃的ディフェンスを基盤に高質なサッカーを繰りひろげるヴィッセル。ここまで無敗というのはフロックではない。ハシェックは本当にいい仕事をしている・・。

 とはいっても、決定的チャンスの量と質では、完全にレッズに軍配が上がりました(冒頭で書いたように、それをことごとく外してしまったのには閉口しましたが・・)。そこでのレッズ選手たちの奔放で積極的な仕掛けプロセスを見ながら、やはりヤツらは解放された・・なんて思ったものです。エメルソンがいないにもかからず、しっかりと神戸守備ブロックのウラを突いていけてましたからね。

 もちろんそれは、人数をかけた組織的な仕掛けができていたからに他なりません。そんな組織パスプレーに、田中や永井、はたまた長谷部や山瀬のドリブル突破チャレンジがタイミングよくミックスされていくのだから、攻めの実効レベルが上がるのも道理。昨シーズンは、一人でも「個の才能」が欠けたら(まあ・・分かりやすくエメルソンが欠けたらというふうにしましょう)、それに比例して攻撃力も低落してしまったレッズ。でも今シーズンは、組織力(選手たちが共有する組織プレーイメージ)が「それ」を十分に補えているというわけです。それもまた「解放路線」の賜・・。

 とはいっても、もちろん課題も多い。例えば最終勝負のイメージシンクロ。田中が、常に「飛び出し」を狙っている・・もちろん長谷部も山瀬もそれを強烈にイメージしながら(スルーパスをイメージしながら)組み立てている・・でも結局オフサイドの山を築いてしまった・・等々。それ以外でも、両サイド、中央ゾーンでのポジションチェンジ(積極的に仲間をタテへ送り出すようなプレーも含めた攻撃の変化・・)がまだまだ少ないとか、勝負所の時間帯で、中盤守備が甘くなってしまった等々、問題もあったのです(まあ、ここで表現した現象レベルはちょっと前後しますが・・)。

 特に、レッズが2-1とした後、ヴィッセルに押し込まれた時間帯でのディフェンスは明確な反省材料でした。足が止まり気味になっている・・相手にボールを奪い返された後の戻りが遅くなった・・相手ボールホルダーや次のパスレシーバーへの間合いを詰め切れない・・絶対に飛び込んではいけない状況で安易に飛び込んだために置き去りにされてしまう・・等々。それが守備の不安定さ(このゲームでの後味の悪さ)につながったというわけです。

 あの場面では、誰かがリーダーシップをとり、過激な言動などの刺激で叱咤激励しながら、全員に「オールコートマンマーク」を徹底させなければいけませんでした。それがあれば、確実に相手の押し上げエネルギーを減退させられる・・。相手は、いくら攻め上がってもマークされていたり、フリーでボールを持てないことで、徐々に、脇目もふらない攻撃性に翳りが出てきてしまうというわけです。

 とにかく、同点ゴールを奪われなくて良かったと、そのネガティブな現象を「そのままにする」のではなく、明確に「あの状況」を思い浮かべ、そこでの対処法に対するイメージトレーニングを積んでおくべきです。その積み重ねこそが、ホンモノの勝者のメンタリティーのベースになるのですよ。

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 本日は、レッズ対ヴィッセル戦の後、テレビ埼玉の「レッズナビ」への出演があったため、レポートのアップが送れてしまいました。また、ビデオに収録しておいたこの日一番のビッグゲーム、ジェフ対アントラーズもまだ見られず仕舞い(これからまだ仕事があるから今日はもう無理・・)。

 明日は所用のため一日中外出しますので、帰宅した後、ジェフ対アントラーズ、中田英寿、中村俊輔、小野伸二たち「ヨーロッパの日本人」のプレーぶりもレポートする予定です。

 



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