湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第6節(2004年9月23日、木曜日)

 

マリノスの徹底サッカー・・山瀬の穴が目立ってしまったレッズ・・(マリノス対ヴィッセル、2-2)(FC東京対レッズ、1-0)

 

レビュー

 

 前半はアラシの前の静けさだったんだナ・・なんて、試合後に反芻させられるゲーム展開でした。マリノスが二ゴール入れたとはいえ、全体的に本当に「静か」だった前半に比べ、後半は、マリノスの栗原と久保が一発退場になっただけではなく、ヴィッセルが、ジリ貧の状況からねばり強く同点まで追いついたんですからね。

 とはいってもヴィッセルは、数的に優位な状況を使い切るという意志とイメージでは大きな課題を抱えていました。数的に優位になったチームだからこそ、守備と、ボールなしのプレーを大きく活性化させるというイメージでプレーしなければならなかったのに・・。そのペースアップ(選手たちのプレーイメージの統一)がうまく機能しなかった場合、逆に、数的に優位な状態がネガティブに作用してしまうことも多々あるというわけです。後半のヴィッセルは、まさにそのネガティブ状態に落ち込んでしまいました。だからジリ貧。

 それでも、播戸のヘディングと、まさに起死回生という表現がピタリと当てはまる和多田の中距離シュートが決まって同点まで追いついたのだからサッカーは分からない。また、同点に追いつかれたマリノスも、最後の時間帯には、フィールドプレイヤー8人で決定的チャンスを作り出しました。その勢いも特筆の迫力でした。やはりヤツらは地力が違う・・。ドラマが凝縮された後半残り15分。前半だけで帰らなくてよかった・・。

 とにかく前半のサッカー内容は、退屈の極みだったのです。だから、もう後半はいいから、ハーフタイムに帰宅し、ガンバ対ヴェルディーのテレビ中継を見てから味の素スタジアムへ行こうかなんてことまで思っちゃったというわけです。とはいっても、そんなルーズな雰囲気のなかでも見所はありましたよ。それはマリノスが魅せつづけた最終勝負のシンクロコンビネーション。凝縮された仕掛けイメージが、見事にシンクロし、それが実際にゴールにつながったのだからお見事。要は、決定的スペースを直接狙うような一発ミドル・ラストパス(ラスト・ロング・タテパス)と決定的フリーランニングが本当にうまく噛み合っていたということです。4-5本はありましたかね、一発ミドル・ラストパスで決定的スペース(ヴィッセル最終ラインのウラスペース!)を突いてしまったシーンが・・。

 この試合では、松田、ドゥトラ、そして久保がいない(後半から登場した久保は、9分間だけプレーしてレッドカード!)。だからマリノスは、しっかり守備ブロックを固めるというイメージを基盤に、次の攻めでは慎重に仕掛けていこうというピクチャーを描いていたのでしょう。そんななかで、後方のボールホルダー(次のパスレシーバー)たちが、ボールを安全に動かしながら、常に最前線に視線を飛ばすのですよ。私は、後方で安全パスを回しつづけるマリノス選手たちの「挙動」を観察しながら、すぐにこの試合でプライオリティーとしていた仕掛けイメージを察知しました。そして次の瞬間、中澤から、決定的スペースへ走り抜けた坂田へ向けて、正確なロング・ラスト・タテパスが糸を引いていったものです。そうか、そうか・・。

 その後も、最前線を追い越して決定的スペースへ走り上がる上野へ、タテのポジションチェンジをした奥から正確なミドルパスが飛んだり、上野からアン・ジョンファンへの勝負パスが出されたりします。そして前半15分、マリノスが意図しつづける仕掛けイメージが先制ゴールとなって実を結ぶのです。そこでは、最後尾の中西がボールを持った次の瞬間、最前線の坂田が爆発したという次第。本当に見事な「一発ミドルコンビネーション」でした。それでも、飛び込んでくる相手GKを「浮き球シュート」で外した坂田のゴールがあまりにも見事すぎたから、そのキッカケになった仕掛けコンビネーションが目立たなくなってしまって・・。でも私は、坂田の見事なシュート以上に、中西と坂田のイメージがピタリとシンクロした素晴らしい中距離コンビネーションに心からの拍手をおくっていましたよ。

 その後の前半30分、同様のコンビネーションから(ラストパスを飛ばしたのは上野!)、決定的スペースへ飛び出したアン・ジョンファンが追加ゴールを決めたという次第。そこまでのヴィッセルのサッカーがあまりにもカッタるかったから(要は、後半にドラマがあるとはまったく予想できない内容だったから!)、前述したように、これでゲームは決まったから一度帰宅して・・なんて思っていた湯浅だったのですよ。でもホント・・帰らなくてよかった・・。

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 前半のマリノスが魅せた一発ミドルコンビネーションは、ヴィッセル守備ブロックの「マークの甘さ」をしっかりとスカウティングしていた結果でもあったのでしょう。情報戦でも、また実際のゲーム内容でも大きく優位に立っていたマリノス。それでも、二人の退場もあって、結局は引き分けてしまった。まあこれもサッカーだけれど、久保の退場についてだけは、何があったのか知りたい・・。ご覧になった方、是非とも教えてください。よろしくお願いします。

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 さて次は、FC東京vs浦和レッズ。ここでのメインテーマは、何といっても「山瀬の穴」しかありませんよね。

 私は、ゲームを観ながら、またまた「こんな」普遍的コンセプトに思いを馳せていましたよ。攻守にわたって積極的に仕事を探すというプレー姿勢は、攻守の目的を主体的に達成しようとか、少なくともその一助になろうという積極プレー姿勢とも言える・・そんなプレー姿勢の具体的コンテンツは、如実に、全体的な動きの量と質、攻守にわたる全力ダッシュの量と質に現れてくる・・。

 レッズは、山瀬の「代役」としてネガティブな選択をしてしまいました。前回のコラムで書いたとおり、限りない自由度を与えられる二列目のポジションは、常に全力で仕事を探し、それを主体的に実行していくという積極プレー姿勢がないと務まりません。その評価基準で、前節での山田暢久のプレーはまだまだと書きました。そして、いまの山瀬を代替できるとしたら、それは長谷部しかいない・・とも書きました。その代わりに鈴木啓太のパートナーになるのは酒井か、それとも平川か、それともその他の基本的ポジションを入れ替えるのか・・。まあ色々な選択肢はあるけれど、とにかく山瀬の代替だけは「長谷部しかいない」と思っていたわけです。

 でもフタを開けてみたら、局面プレーでしか目立てないアレックスがその大事なポジションに就いてしまって・・。試合前は、ちょっとお先真っ暗という心境でした。そして試合がはじまってからも、まさに予想したとおりの寸詰まりの攻撃になってしまって・・。

 たしかにアレックスは才能あふれるサッカー選手です。でも、攻守にわたって全力で主体プレーを展開するという視点では、まだまだ大きな課題を抱えているのも確かなこと。彼の場合も、才能が「両刃の剣」になっているということです。やれば出来るのに、そこそこでいい・・というプレー姿勢が見え隠れするアレックス。サッカーのお仕事のほとんどは「ボールがないところ」でのものですが、そこでのアレックスのプレー内容は、まさにお粗末そのものなのですよ。

 まず動き。絶対的な運動量が足りないだけではなく、ボールがないところでのフリーランニングも、まさにお座なり(パスを呼び込む動きや、周りの味方にスペースの可能性を提供する動きが足りない等々)。また、攻守にわたる「ボールがないところでの全力ダッシュ」もほとんど見られない。このボールがないところでの全力ダッシュの意味は、攻守にわたる目的を達成しようとする意志が凝縮されたアクションなのですよ。それが見られないのでは、攻守の実効レベルを上げられるはずがない。また、動きのラディウス(半径)が狭いから「最前線のフタ」になり下がってしまっているという見方もある。山瀬は、彼の高い守備意識を基盤に、タテのポジションチェンジの演出家としても優れた側面を魅せていたけれど(味方も、山瀬のディフェンスを信頼してタテへ上がっていける!)、アレックスには、そんなコトなんて期待できるはずがない。逆に彼は、最前線や二列目での「フタ」として、味方のオーバーラップを制限してしまっていた!

 守備では、たしかにインターセプト感覚にはいいモノを持っているけれど、忠実なチェイス&チェックやボールがないところでのマーキングなど、守備のエッセンスとなる大事なプレーや、周りの味方のボール奪取の可能性を司る「守備の起点プレー」もまたお座なり。また、肝心のボール奪取勝負プレーにしても、気を入れれば素晴らしいボール奪取を魅せるのに、その半分以上は「気抜けプレー」なんですからネ。

 またボールを持ったら、こねくり回しのオンパレード・・。何度かドリブルで抜け出せはしたけれど、それにしても、タイミングが分からないから、周りは足を止めてしまう・・。

 試合後の記者会見で、FC東京の原監督が、「この試合は、攻守の切り換えの早さが勝負ポイントになる・・この一週間、そのポイントをトレーニングのコアにしてきた・・」という、なかなか深いコトを語っていました。彼らは、レッズが展開する、ボール奪取後のタテへの速さ(スピードアップ)を警戒していたというわけです。でもそれって、山瀬がいたらのハナシじゃありませんか。もちろん長谷部にしたって鈴木啓太にしたって、ボールを奪い返してからのタテへのスピードアップに力量を発揮します。でもそれも、山瀬という中継ポイントがあるからです。この試合でのアレックスは、スピードアップじゃなく、どちらかといえばボールの動きの停滞の演出家になってしまっていました。また、パスレシーブの動きも緩慢の極み。これでは、後方からゲームを組み立てようにも、前線で寸詰まりになってしまうのも道理というわけです。

 無為な様子見という、チームプレーにとっての(プレーイメージ高揚にとっての)大罪。とにかく二列目選手は、何かのトリガーになるために、汗かきプレーも含め、まず動きまわることで、自分がコアになった「仕掛けの流れ」を演出するという姿勢でプレーしなければならないのです。

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 アレックスにとって、山瀬のプレーと自分のプレーをビデオでしっかりと確認することは重要な意味を持っていると思います。もちろんアレックスは、山瀬と同じタイプの選手ではないけれど、突き詰めたプレーコンテンツは、同じベクトル上に乗っていなければなりませんからね。

 とにかく、ファースト終盤からセカンドステージにかけてのレッズの好調を(優れたプレーリズムを)支えるコアの一人だった山瀬功治の戦線離脱は痛い。でも、いなくなってはじめて彼の(プレーコンテンツの)存在の大きさが分かるというのでは、ちょっとネ・・。とにかく次のガンバ戦での正しい修正を願って止みません。

 



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