湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第15節(2005年7月9日、土曜日)

 

アイデンティティー闘争を仕掛けるアルディージャのゲーム戦術にまんまとはまってしまったレッズ・・(レッズ対アルディージャ、1-2)

 

レビュー
 
 開始2分。大宮マーカスが、スマートな発想をベースにした鋭いアクションでレッズのパスをカットし、そのまま素早いタイミングで、タテのスペースへ抜け出した久永へのラストスルーパスを決めてしまいます。素晴らしいインターセプトから流れるように演出された最終勝負。最後は久永が絶対的チャンスを決め切れなかったけれど、そのシーンを観ながら、「このゲームに懸けたアルディージャ三浦監督は、選手たちのプレーイメージをうまく統一したな・・」なんて思っていましたよ。

 効果的なゲーム戦術。少なくとも立ち上がりの30分間は、まさにアルディージャの「プラン通り」といったゲーム展開になりました。

 最終ラインを積極的にコントロールすることで(積極的に押し上げることで!)中盤をコンパクトに保ち、レッズの人とボールの動きを抑制してしまう・・アルディージャは、レッズ選手たちの仕掛けイメージを効果的に減退させることに成功したということ・・ポジショニングバランス・オリエンテッドな優れた守備ブロックを形成するアルディージャ・・最終ラインと中盤ライン、そして最前線ラインが、常にうまく(コンパクトに)スリーラインを形成している・・そして、レッズが攻め上がろうとするゾーンには、常にポジショニング的にバランスしたアルディージャ選手たちが分散し、スペースをうまくコントロールしている・・そして、ある程度の間合いでレッズ選手たちのマークを受けわたしながら、次のパスを効果的に狙いつづける・・そして、足が止まりはじめたレッズの安全パスを高い位置でカットして必殺カウンターを仕掛けていく・・。

 冒頭のシーンは、まさにそんな展開から生み出された決定的チャンスだったというわけです。その後はレッズがボールを支配しはじめるけれど、前述したようにアルディージャの術中にはまったレッズは、人とボールの動きを活性化させられない。それは、心理的な準備も含む選手たちのプレーイメージの高揚プロセスがうまくいかなかったことの証明なのかもしれない・・なんて思っていました。アルディージャを甘くみていたレッズ選手たち?! ギリギリの緊張感に欠けていたから、人とボールの動きを活性化させるために決定的に重要な「リスクチャレンジ・マインド」も高揚させられなかった・・ということです。

 たしかに、あれほど上手に、人数をかけてスペースをコントロールされたら、うまく人とボールの動きを活性化させるのは難しい。ただ、試合後の記者会見でギド・ブッフヴァルト監督が言っていたように、とにかくまずスペースへ走るという行為(意志)を積み重ねていくことこそが大事。単発の動きではなく、スペースを作り出す動きと、そこを使うという動き(汗かき=クリエイティブなムダ走り)をクロスオーバーさせるアクションをねばり強く積み重ねていくということです。もちろん、試合に臨む段階で、選手たちのボールがないところでの動きに対する意志を極限までモティベートできなかったのはベンチの責任だけれどね。

 それにしても、トニーニョとマーカスで組んだアルディージャのセンターハーフコンビの実効あるプレーコンテンツは秀逸でした。この試合でトニーニョを中盤(守備的ハーフ位置)へ上げた三浦監督の聡明な判断に拍手です。高さがあるから制空権を取れるし、二人が展開した、ポジショニングバランスイメージを基盤にした落ち着いた読みディフェンスも特筆ものでした。いくら押し込まれても、決して最終ラインに吸収されることなく、その前のゾーンで網を張る。だから、レッズの最終パスステーション(仕掛けの起点)もうまく機能しない。まあフォーバックの成否を握るキーポイントは、この守備的ハーフコンビ(センターハーフコンビ)の機能性ですからね。

 後半はレッズが攻めつづけました。とはいっても、大宮の「精神的な持久力」も素晴らしかった。だからこそ何本かの効果的カウンターチャンスも作り出せた。たしかに後半のレッズ選手たちの積極性は何倍にも増幅したし、何度もアルディージャ守備ブロックのウラを突くなど、決定的チャンスも作り出しました。ギド・ブッフヴァルト監督が言うように、総体的なゲーム内容からすれば引き分けが妥当な線だったかもしれないけれど、ゲーム戦術の内容レベル(戦術的な準備内容)と、そのゲームプランを最後まで貫きとおす精神的な持久力では、確実にアルディージャに軍配が上がるのも確かなことです。もちろんその背景に、レッズ選手たちによるアルディージャを軽んじる発言があったことはいうまでもないけれどネ。そりゃネ、「アンタたちはオレたちのライバルじゃないよ・・」なんていうニュアンスの言葉をぶつけられたら誰でもアタマにくるでしょう。何せプロなんですからね。誰もが追い求めているアイデンティティー(プロとしての誇り!)を踏みにじれたんだから、アルディージャ選手たちにとってこのゲームは、まさに精神的なサバイバルマッチという様相を呈していたんでしょうネ・・。

 まあ、この試合でのピックアップテーマは、こんなところでしょうかネ。とにかく、アルディージャのように、人数をかけ、ポジショニングを上手くバランスさせたクレバーな組織ディフェンスを敷いてくる相手に対抗して、ボールのないところでの動きを活性化させるのは非常に難しい作業。要は、あそこでパスを受けられたら確実に良いカタチで次の勝負を仕掛けていけるという確信レベルを上げるのが難しいということです(高い確信がなければ、次のボールなしアクションは出てこない!)。その意味でこの試合は、レッズにとって良い学習機会になったはず。とにかく、どんなに狭いスペースでも少しでも動こうという意志と、どんなにリスキーでも、動く味方に対して仕掛けパスを飛ばすという強い意志を積み重ねていかなければ、確実に心理的な悪魔のサイクルの虜になって足が止まってしまうものなのですよ。まあ、たしかに難しいけれど、「それ」に本当の意味で実効あるチャレンジができて初めて次の発展ステップを踏めるということだネ・・。

 時差ボケでモウロウとしながらも、「継続こそパワーなりなんだゾ!」なんて、ワケの分からない言葉を発しながらキーボードを叩きつづけていた湯浅でした。オヤスミなさい。

 



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