湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第23節(2005年9月10日、土曜日)

 

レッズ対トリニータ戦(1-2)、FC東京対エスパルス戦(1-0)を短くレポートします

 

レビュー
 
 「たしかに全体的にはレッズの方がイニシアチブを取っていたとは思いますが、どうも相手に合わせてしまっていたという印象の方が強いですよね・・」

 所用が重なってしまい、埼玉スタジアムに到着したのは前半35分をまわったところでした。そのとき試合は「1-1」。そのタイミングでのレッズは、無為に押されっぱなしで、よいカタチでボールを奪い返せないというシーンがつづいていました。でもその直後には、ポンテの一発ロング・サイドチェンジ・ラストパスから田中達也が決定的チャンスを得ただけではなく、そのシーンをキッカケに、たたみかけるように連続的に決定機を作りつづけました。そのとき私は、なかなかいいネ・・まあ心配ないな・・なんて思っていましたよ。キッカケになったカウンターチャンスだけれど、もちろん、相手守備ブロックを薄くさせるために意図的に攻め込ませた・・なんてことがあるわきゃないでしょうけれどネ。

 そしてハーフタイムに入ったところで、知り合いの記者に前半の全体的な内容を聞いたというわけです。その第一声が、「前半最後の時間帯にレッズが作り出した見せ場は、はじめての勢いのあるチャンスメイクだったんじゃありませんかね・・」、でした。そして冒頭の発言につながったというわけです。なるほど、「あれ」が初めてのレッズらしいたたみかけだったのか・・フムフム・・。

 しかし後半の立ち上がりは、皆さんもご覧になったとおり、レッズが本来の勢いを取り戻します。田中達也や永井雄一郎のドリブル突破からのチャンスメイクあり・・ポンテやアレックスが絡んだコンビネーションチャンスメイクあり・・またポンテからの、まさにピンホール狙いのようなファーサイドスペースへのラストクロスなんかも飛び出した・・。それは完璧なラストパス。待ち構えていた田中達也が、まったくフリーでボレーシュートを放つ余裕があったのですからね。でもシュートは、バーを大きく越えてしまって・・。そしてそのチャンス以降、レッズのサッカーの勢いが急激にレベルダウンしていったのです。考えられないような停滞・・。

 もちろん鈴木啓太や長谷部誠、またポンテにしても、中盤ディフェンスでの起点プレー(チェイス&チェック)を仕掛けているし、次のインターセプトもしっかりと狙ってはいるけれど、それらが、いつものように有機的に連鎖しないのです。要は、(大分のサッカーがそんなに危険なものじゃないことで、甘く見ていたから!?)攻守にわたって「ちょっと気が抜けたアクションの頻度」が高くなってしまったということです。ボールを良いカタチで奪い返しても、ボールがないところで仕掛けていく人数が絶対的に足りない。周りの味方は、ほぼ全員が足許パスをイメージするといった体たらくなのです。

 そんな後ろ向きサッカーを観ながら、冒頭の発言を反芻していた湯浅でした。どうも相手に合わせてしまっている・・。要は、流れに乗るだけで、攻守にわたって、自ら仕掛けていくという積極プレー姿勢がカゲを潜めてしまったということ。ホンモノのチームゲームであるサッカー・・有機的なプレー連鎖の集合体であるサッカー・・。もしちょっとでも歯車がブレたら、確実に選手たちの足が止まり、心理的な悪魔のサイクルに捕まってしまう・・。

 もちろんそれには、トリニータが展開する人数をかけた強化守備ブロックに、ことごとくパスレシーバーやボールホルダーが抑えられてしまったという側面もあるけれど、本来のレッズのチカラだったら、確実に「自分たち主体で」そんな悪魔のサイクルを断ち切ることができるはず。そう、前節のアントラーズ戦のようにね。私は、そんな締まりのないレッズ選手たちのプレー姿勢を観ていて、アントラーズ戦の「怒りの爆発」は一体なんだったんだろう・・なんてことを考えていましたよ。結局「それ」は、彼らの脳内の引き出しにしまい込まれたままだった・・。

 長谷部でも、ポンテでも、アレックスでも鈴木啓太でも誰でもいいから、仲間にケンカを売るなど、どんな刺激でもいいから、チームの雰囲気を鼓舞しなければならなかったのに・・。もちろん、その「鼓舞」のターゲットは、最前線からの「ディフェンスの活性化」以外にありません。チェイス&チェック・・次のパスレシーバーに対するガチガチのタイトマーク・・そしてチャンスを見計らった爆発プレス・・等々。守備こそが全てのスタートラインなのです。でも結局は・・。こんなだらしないレッズを観るのは久しぶりだ・・なんて、かなりアタマにきていた湯浅でした。

 タイムアップ直後にオートバイに飛び乗って国立競技場へ向かったわけだけれど、どうもアクセルを絞り込み気味になってしまった。ダメだ・・ダメだ・・なんて何度も自重しようとはしたのですがね・・。

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 そして国立でのFC東京vsエスパルス。お互いイメージするサッカーの方向性に共通項が多いということもあるんでしょうネ、なかなか見応えのあるエキサイティングゲームになりましたよ。もちろん最初の見所は、積極的に仕掛け合う中盤ディフェンス。両チームともに、一つの一つのアクションが、かなりのレベルで連鎖しつづけるなど、立派なコンテンツを魅せてくれました。

 この試合については、1-0を追うエスパルスが後半終了間際に魅せた怒濤のパワー攻撃と、FC東京の「ササ」にスポットを当てましょう。まず、「エスパルスの怒濤」。

 残り15分という時間帯でのエスパルスは、攻守にわたって運動量が「倍」になり、全員が前へ、前へとFC東京を押し込んでいきました。そんなエスパルスに対し、ディフェンスのパワーを増大させることが出来ず、どんどんと受け身に足が止まって押し込まれていくFC東京。「そんなゲームの流れ」はサッカーではよくあること。それこそが心理的な悪魔のサイクルなのです。そして得意の鋭いクロスから絶対的チャンスを作り出すエスパルス。クロスを送り込む選手たちのプレーだけではなく、センターで走り込むエスパルス選手たちの迫力も、まさに鬼神でした。とはいっても、結局そんな迫力パワーの連鎖は、何度かの「落ち着いた状況」によって急激に萎んでしいきました。何度かのアウトオブプレーや選手交代、またケガの治療などの「情緒ブレイク」。それらによって、エスパルスの迫力パワーが断ち切られてしまったということです。最後の数分では、完全にエスパルスは、FC東京が演出する落ち着いたゲームペースにはまり込んでしまいました。あれほどの潜在力があるエスパルスなのに・・と、ちょっと残念でした。

 さてもう一つのテーマ、FC東京の「ササ」。まだまだですね。原監督が言うように、最前線からのディフェンスの実効レベルでは、ルーカスの足許にも及びません。意図が込められた全力ダッシュがまったく出てこないのだから仕方ない。まさにアリバイ守備アクションのオンパレードってなところ。これじゃチームメイトに信頼されるはずがない。また、そんな守備姿勢だから、攻撃でのボールがないところでのアクションも勢いが乗るはずもない。たしかに味方からのタテパスのタイミングや質も良くないのだけれど、それにしても、まったくといっていいほど、タテパスをうまくコントロールできないササ。ボールを持ったときのアクションでは、一度だけ潜在力の高さを感じさせてはくれたけれど、でも全体パフォーマンスコンテンツではどうなんだろうか・・。私は、ササの「実効プレーの量と質」に対して大いなる疑問に感じていましたよ。

 それにしても今日のサッカー観戦は疲れた・・。

 



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