湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2005年9月24日、土曜日)

 

ゲームコンテンツがまったく違う二つの引き分け・・(レッズ対マリノス、0-0、ガンバ対アントラーズ、3-3)

 

レビュー
 これほど「メモ」が少ないゲームも久しぶりだ・・、試合を観ながらそんなことを考えていましたよ。どうしてかって? 決して寝ていたわけじゃありませんよ。要は、緊迫レベルが極限まで高まった「最高の膠着マッチ」になったということです。

 でもメモは取っていました。それはこんな感じ・・。互いに、ある程度は人数をかけて仕掛けているけれど、どうしても相手守備ブロックのウラを突いていけない・・セットプレーと中距離シュートだけがゴールの可能性を感じさせてくれるといった展開がつづく・・もちろんその背景は、両チームが展開する極限集中力の強力ディフェンス・・特に(両チームの)中盤からのプレッシングや協力プレス、全力カバーリングプレーなどが存在感をアピールする・・「抜けた!」と、観る者すべてのアドレナリンが身体を駆け回るような突破シーンでも、最後のところで「足が出て」止められてしまう・・決定的なシュートやクロスのチャンスでも(そう見えたとしても)、最後のところでカバーリングが追いついて止められてしまう・・仕掛けの起点(最前線で、ある程度フリーのボールホルダー)を演出できない両チーム・・そこには、仕掛けプロセスに(肝心なところで!)人数をかけられていないという背景要因もある・・カウンターによる大ピンチを承知の上で繰り出していく、ボール絡みやボールがないところでのリスクチャレンジプレーが、両チームともうまく有機的に噛み合っていない・・ところで、こんな展開になったら、マリノスの方が絶対に有利だろうな・・何せ彼らには必殺のセットプレーがあるし、逆にレッズでは、最後方の強烈リーダー、トゥーリオが欠けているのだから・・。

 「この試合は、両チームともに守備をしっかりと組織していることで、互いに良いところを消し合うといったゲームになった・・」。試合後のギド・ブッフヴァルト監督です。まあ・・、全体的にはそういうことなんでしょう。また彼は、「我々と戦う場合、(直近のゲーム内容とは関係なく!)マリノスが、最高パフォーマンスの勝負強いサッカーをやってくることは分かっていたから、我々にとって厳しいゲームになると確信していた・・」とも述べていました。そして、まさにその通りのゲーム展開になったというわけです。マリノスの岡田監督もまた、「予想したとおり、この試合での選手たちは、非常に活き活きとプレーしていた・・前の数試合では、相手のミスに助けられて失点を免れたという(ネガティブな)ディフェンス内容だったけれど、この試合では、(自分たち主体で)しっかりと守れていたと思う・・」と胸を張っていました。

 昨シーズンは最大のライバル同士。また今シーズンも、前期の対戦では、この試合とまったく同じような展開から、最後はレッズが決勝ゴールを奪って逃げ切ったという背景もありますからね。マリノス選手たちの闘うマインドが高揚するのも道理です。

 それにしてもマリノスの守備ブロックは強い。まあそれは、チームの気合いが乗ればのハナシらしいけれど(岡田監督の発言を拡大解釈!)、この試合では、岡田監督も指摘しいてたとおり、新加入の守備的ハーフ、マグロンがうまく機能しはじめているという側面もありそうです。守備でも攻撃でも、なかなかスマートなプレーを魅せます。ちょっとスタミナに課題がありそうですが、これで、運動量とボール奪取勝負メカニズムでの貢献度が上がり、次の攻撃でもしっかりとしたゲームメークができるようになったら、彼には、日本サッカーでは数少ない「本物のボランチ」という称号を欲しいままにしてもらいましょう。

 またレッズでは、緊迫したゲームだからこそ、トゥーリオの不在が目立っていました。彼の欠場によって、最後尾から伝播していくリーダーシップという心理的なプッシングエネルギーが失われただけではなく、ヘディングという物理的なマイナスも明確に感じられたのです。前半の(中澤の!?)惜しいヘディングシュート。また後半に何本もあった、セットプレーからの大きなピンチ。それは、レッズが制空権を握れなかったためですが、その背景に、トゥーリオという「リーダーシップと強力ヘディング」が欠けていたことにあったのは誰もが認めるところだと思います。

 たしかにレッズも着実なサッカーを展開したし、(田中達也や長谷部のシュートなど)何度か決定機を作り出したけれど、あのようなゲーム展開になったという視点で、全体的には、勝負の流れはマリノスに分があったとするのがフェアでしょうね。とはいっても、マリノスが「あの決定的チャンス」を外しつづけたことで、「勝負の流れ」が今度はレッズに傾きはじめたと感じたけれどネ(そのシンボルが田中達也が終了間際に放った決定的シュートだった・・!?)。ホント、サッカーは面白い。

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 今日は雨ということでクルマで来たのですが、試合後に(記者会見の後に)焦ってスタートしても大渋滞に巻き込まれるだけ。ということで、この試合のコラムを書きながら、プレスルームのテレビで、ガンバ対アントラーズも観戦していました。こちらは、前半9分に、アレックス・ミネイロからのダイレクトリターンパスを受けた小笠原が見事な先制ゴールを叩き込んだこともあって、互いに攻め合うエキサイティングマッチへと「成長」していきました。

 ガンバは、落ち着いて立ち上がろうというマインド。勝たなければならないアントラーズが攻め上がってくることは分かっているから、とにかくまずその勢いを抑制し、そこから自分たちに有利なカタチでペースを高揚させていこうという腹づもりなんでしょう。そんなゲームプランが、小笠原の先制ゴールでもろくも崩れ去ったということです。でも逆からみれば、ゴールが早い時間帯に入ったことは、ガンバにとってラッキーでしたよね。押し返し、逆転してやるというマインドでチームが一丸になったのですからね。

 そしてゲームが、両チームともに13本のシュートを打つという攻め合いになっていく。それらのシュートですが、その多くが、決定的に近いカタチでした。だからこそ、それらのシュートシーンからの「刺激」は計り知れず、それが両チーム選手たちを奮い立たせたということです。

 レッズ対マリノスと比べ、ガンバ対アントラーズ戦での選手たちは、明らかにより攻撃的でした。いや、タイミングよく両チームのゴールが入ったことで、自然と両チーム選手たちのマインドが高揚していったといった方が正確な表現かもしれません。最終勝負シーンに絡んでいく人数にしても、そこで繰り広げられるリスクチャレンジプレーの内容にしても、レッズ対マリノス戦を大きく凌いでいる・・。要は、攻守の切り替えの早さと絶対的な運動量において、レッズ対マリノス戦を大きく上回っていたということです。いやホント、ものすごくエキサイティングで面白いゲームでした。それも、こちらはテレビ観戦ですからね。スタジアムの興奮はレベルを超えたものだったに違いありません。

 私は、いまの「J」では、ガンバが、もっとも魅力的で、勝負強い優れたサッカーを展開していると思っています。フェルナンジーニョ、アラウージョ、そして大黒で構成する最前線のトライアングル。それを後方からサポートするだけではなく、多くのケースで「彼らをうまく利用して、自分たち自身が決定的クロスやシュートまでいってやろう」と虎視眈々と狙っている、遠藤、二川、松下、橋本のミッドフィールダーたち。彼らのサッカーでは、美しさと勝負強さ、安全とリスクチャレンジ、組織プレーと個人勝負プレー・・等々、さまざまな背反ファクターが高い次元でバランスしていると思いますよ。西野監督は、よい仕事をしています。

 さてこれで、「降格リーグ」だけではなく優勝争いも面白くなってきた。良かった・・。

 



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