湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2005年4月2日、土曜日)

 

リスクチャレンジとリスクマネージメントのせめぎ合い(マリノス対アルビレックス、4-1)・・後味の悪い敗戦だけれど、この脅威を機会に転化させよう!(トリニータ対レッズ、1-0)

 

レビュー
 
 「先日のJでは、FC東京に同じような点差でやられたけれど、そのときの敗戦と比べれば内容的には悲観することはないと思っている・・」。試合後の記者会見で、アルビレックスの反町監督がそう語っていました。まさにその通り。アルビレックスはなかなかハイレベルで活力あふれるサッカーを展開していました。監督の優れたウデが感じられるサッカーコンテンツ・・。

 その評価の対象は、もちろん高い守備意識やボールがないところでのアクティブな仕掛けなど、目立たないところでの意志コンテンツ(プレーイメージ内容)です。ファビーニョやエジミウソンだけではなく、鈴木慎吾や寺川能人、はたまた海本兄弟(慶治と幸治郎)など、アルビレックスには優れた選手がいるわけだけれど、そんな個の能力が、攻守にわたる組織プレーの実効レベルを押し上げるシナジー(相乗効果)を発揮している・・だからこそ監督の優れたウデを感じる・・。監督の仕事のなかでもっとも魅力的(?!)なものは、何といっても、才能ある選手たちに、攻守にわたる組織的な汗かきの仕事にも全身全霊で取り組むようにさせることですからね。

 ところで、マリノスが挙げた電光石火の2ゴール。そのシーンでのキーワードは、やっぱり「勝負はボールのないところで決まる・・」。開始45秒の先制ゴールシーンでは、ボールを持ってタメるドゥトラの外側をダイナミックに追い越していった河合竜二と(もちろんドゥトラから、ベストタイミングとコースのタテパスが出た!)、タテパスを受けた河合からのダイレクトクロスをイメージしたニアポストスペースへの詰めから見事なヘディングゴールを決めた大島の二人が魅せたボールがないところでの主体的なクリエイティブプレー(ボールがないところでのリスクチャレンジ!)。そして追加ゴールのシーンでは、大島のヘディングパスをイメージして後方から爆発ダッシュし、見事なシュートを決めた大橋の決定的フリーランニング。ファンタスティック・・。

 とはいっても、もちろんそれは攻撃側から見た評価。一つの現象には必ず表と裏がありますからね・・。要は、逆にアルビレックスのディフェンスを評価するという視点では、そのような後方からの飛び出しを確実にマークし切れていなかったというミスを指摘されても仕方ない・・ということです。

 「後方からタテへ飛び出していくマリノス選手に対するマークを放してしまうというシーンが目立っていたように感じるのだが・・」。そんな質問をぶつけてみたのですが、それに対して反町監督は、「前半のフォーバックでは、前後の関係がうまくコントロールされていなかった・・ただスリーバックにした後半は、マンマークをより強調したことで、うまく機能するようになった・・」という趣旨のことを述べていました。要は、前半のアルビレックスの守備ブロックは、ポジショニングバランス・オリエンテッドなイメージでプレーし、後半は、どちらかといえばマン・オリエンテッドな守備イメージにしたということでしょう。互いのポジショニングバランスを出来るかぎり崩さないように上手く相手マークを受けわたす・・という前半の守備イメージ。もちろんそれは、守備選手たちの勝負イメージがしっかりと「シンクロ」していることが前提です。特に、バランスしている相互ポジショニングを崩してマンマークへ移行しなければならない最終勝負シーンでもマークを受けわたそうとするのでは無理が生じるのも道理(単に「行かれてしまった」というシーンも多かった!)。

 どんな守備のやり方でも、最後の勝負所では「人を見なければならない」ことに変わりはありません。そんな、ディフェンスでの勝負イメージ描写という視点で課題の方が目立っていたアルビレックスに対し、王者マリノスのメリハリの効いた忠実さは、サスガとしか言いようがありませんでした。勝負所でフリーになっている相手パスレシーバーは、まったくといっていいほど出てこないのです。互いのポジショニングバランスはうまく取っている・・でも勝負所となったら、レベルを超えた忠実さで徹底したマンマークを最後までつづける・・そこでのバランスの崩れは、次のディフェンスの流れに入ったら、すぐに修正してしまう・・。そんなメリハリの効いた主体的な忠実さに、岡田武史の優れたウデを感じている湯浅なのです。

 クレバーな効率性&実効性を追求するポジショニングバランス・オリエンテッド守備でも、そのスタートラインは、忠実なチェイス&チェックとマンマークです。その基本コンセプトがしっかりと浸透している(=主体的な守備意識が高い!)マリノス・・だからこそ、ボールがないところでの汗かき忠実ディフェンスに対する互いの信頼感が醸成される・・だからこそ、吹っ切れたボール奪取勝負にもチャレンジしていける・・。そんな実効レベルの高いディフェンスをベースに、前述したように、ボールのないところ「でも」しっかりとしたチャンスメイクが出来るマリノス。強いはずだ。

 「さきほど、リードしていた後半では、リスクを負わないサッカーになってしまった側面もあったと言っていたが、岡田さんにとってリスクを負うということの意味は・・?」。試合後の記者会見で、そんな質問をしてみました。それに対して彼は、前へ向かう積極的な仕掛けに対して、それを前向きに支援していくプレーではなく、逆にその穴をカバーするプレーの方が目立っていた部分もあった・・3-0というリードだから100パーセントのリスクを冒す必要はないけれど、50パーセントのリスクは負わなければならなかった・・という趣旨のことを言っていました。要は、より積極的なリスクチャレンジのプレー姿勢を目指したのに対し、実際には、リスクを補完しようとするリスクマネージメント姿勢の方が目立ってしまったということでしょう。

 ところで、リスクチャレンジとリスクマネージメント。この二つの要素は、本当に補完しあう関係にあるのだろうか・・? リスクへの吹っ切れたチャレンジをつづけることによって、攻守にわたる味方の意識を活性化させられるだけではなく、逆に相手の心理やプレーコンテンツを矮小化させてしまうという効果も期待できる・・チームの活動性(ダイナミズム)という視点で、リスクチャレンジこそリスクマネージメントの本質だ・・なんてことも言える?! 逆にリスクマネージメントという発想をスタートラインにした場合、確実にチームのモラルやサッカー内容は減退してしまう・・ただし、絶対に勝たなければならないような一発勝負では、リスクマネージメントの方を前面に押し出すケースも多い・・そこでは、どこで、どのようにリスクにチャレンジしていくかというところまで制御しなければならないわけだが・・。

 ちょっと錯綜したテーマに入ってしまったけれど、ここで言いたかったことは、「積極性を絶対的な行動基盤にするなかでのバランス感覚の重要性・・」ってなことですかネ。チームの全体的なサッカー姿勢はあくまでもリスクチャレンジ方向にあるけれど、そんななかにも「クレバーなバランサー」的プレーもしっかりと効果的にミックスできている・・とかネ。もちろん選手たちが、多くの運動量と優れたテクニックや戦術眼をベースにした高い守備意識を持ち合わせていれば鬼に金棒というわけですが・・。

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 最後に、トリニータ対レッズの試合についてもショートコメント・・。

 この試合でも、アントラーズ戦同様、アルパイの「セルフコントロール能力の欠如」が、ゲーム内容に大きく影響してしまいました。誰かが不満をもたざるを得ないという性格のレフェリー判断や相手選手の挑発などに心を乱していたら、例外なく、最後はチームに迷惑がかかってしまうものなのですよ。だからこそサッカーはホンモノのチームゲームでありホンモノの心理ゲーム・・。

 それにしても、最後の最後まで(アレ以降もレフェリー判断による心の乱れがつづいていたにもかかわらず?!)粘りのディフェンスと一発カウンター狙いで頑張りつづけたレッズは、とても立派なプレー姿勢だったと思います。だからこそ高松のヘディング一発で負けてしまったことは残念だったけれど・・。とにかく今は、ポジティブ志向でこの脅威を機会に転化させるという発想がもっとも大事です。脅威と機会は背中あわせですからね。34試合もあるシーズンはとにかく長いのですよ。

 最後に、アントラーズ戦での締めの文章をもう一度・・まあサッカーだからこんなこともあるさ・・ギドにしても「こんなこと」は何万回も経験しているだろうから、うまくチームの雰囲気をマネージするでしょう・・とにかく次だ、次だ・・。

 



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