湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2005年4月23日、土曜日)

 

サッカー内容に見合った敗北を喫したレッズ・・(レッズ対セレッソ、1-2)

 

レビュー
 
 いま2300時。テレビ埼玉の「レッズナビ」出演後にやっと自宅までたどり着いた次第。番組中も、また帰りの道中でも、気持ちはドンヨリと曇ったままでしたネ。何せこの試合でのレッズは、悪いサッカー内容がそのまま結果につながったという体たらくでしたからね。ちょっと内容がリンクしているから、このコラムは、昨日発売されたサッカー夕刊紙「エル・ゴラッソ」で発表した文章の紹介から入ることにしましょう。

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 「内容は悪くないけれど、どうも勝ち星にめぐまれない・・こんな状態がつづいたら、世界トップの経験が豊富なブッフヴァルトさんも痛いほど分かっていると思うけれど、ツキにも大きく左右される結果が実質的なサッカー内容に悪影響をおよぼす危険性が高まってくるけれど・・」。第5節エスパルス戦の記者会見でそんな質問をしてみた。それに対しギド・ブッフヴァルトは、「とにかく、今までやってきたことを自信をもって継続していくだけだ・・前向きに、そしてポジティブマインドでね・・」と力強く答えたものだ。たしかドイツにも「継続はチカラなり」という格言があった。

 この原稿を依頼されたとき、ここまでの問題点をどのように修正して「レッズ反撃」という流れを作り出すのかというストーリー提案があった。たしかに第6節まで勝てなかった。エメルソンは本調子ではないし、アルパイは感情を抑えられずにチームに多大な損害を与えた。また、トゥーリオやネネ、鈴木啓太や永井雄一郎の不在もあった。しかしそれは、ロジックの必然で発生した問題点というよりも、まず結果ありきで抽出された偶発的なマイナス現象という意味合いの方が強くないか?

 言いたいことは、チーム戦術的な機能性や、選手たちの積極プレー姿勢が減退したわけではないということだ。運動量が豊富でリスクチャレンジにあふれるアグレッシブサッカーは健在だし、それを支える選手たちの「ホンモノの守備意識」にも陰りを感じない。とはいっても、結果が付いてきていないということも事実。そんな場合、往々にして痛くもない腹を探らなければならないという重苦しい雰囲気になり、結局、様々な意味を包含するチーム内バランスを「自ら」崩してしまうケースが多い。冒頭の質問は、そのことについてギド・ブッフヴァルトがどのように考えているのかを確認するためのものだった。そして「継続はチカラなり」という決意を聞いた。またそこには、主力の復帰や、酒井友之、平川、坪井、堀之内、内舘といった、実効あるバックアップの広がりもある。

 とはいっても、リーグを制覇するためには、まだまだ攻守にわたって課題も多い。その最もシリアスなテーマの一つが、最終勝負の仕掛けだ。そこには、相手がレッズの攻めをより深く研究してゲームに臨んでくるという事実がある。そのことについてギド・ブッフヴァルトも、「たしかに昨シーズンと比べたらチャンスを作り出し難くなっているのは確かだと思う・・」と述べている。これは非常に重要な分析だ。だからこそ攻撃での変化の演出が重要なカギになる。

 メインテーマは、組織パスプレーと個人勝負プレーの高質なバランスによる変化の演出。そのディスカッションで中心に据えられるのが、言わずと知れたエメルソンである。素晴らしい才能に恵まれた選手だ。だからこそ「両刃の剣」でもある。ドリブル突破があまりにも強力だから、味方も頼ってしまう。結果として、レッズの仕掛けが単調なものになっていく。もちろん相手はエメルソンのプレーのクセを熟知しているから、シーズンを重ねていくごとにドリブル突破が難しくなるのは道理。だからこそ逆に、エメルソンがより強く組織パスプレーの活用「も」イメージすれば、それ自体が効果的な仕掛けの変化となって相手ディフェンスを惑わし、彼のドリブル突破力もより効果的に活かされるようになるというわけだ。テーマは組織と個のバランスなのである。

 たしかに、全体的にはレッズ選手たちのバランス感覚の進歩を感じるけれど、まだまだ個の突破だけに頼るシーンが目立ち過ぎる場面が多いことも事実。私は、この「バランスレベル」こそが、レッズ反抗の趨勢を測るバロメーターだと思っているのだが・・。(了)

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 私は、この文章を読みなおしながら考え込んでいました。私が今シーズン観たなかで最悪の試合内容・・でも、エル・ゴラッソの文章で書いたような「結果からのノイズが心理的な悪影響を与えた」というわけではなさそう・・何せ、前節ではアウェーでFC東京に勝利をおさめたことで、この試合には前向きのマインドで臨めていたはずなんだから・・とにかく、何かタガが外れたレッズ・・もしかしたらこのゲームが、本当にサッカー内容のなだれ現象のキッカケになってしまうかも・・。

 試合後の記者会見でギド・ブッフヴァルトは、「とにかくガッカリした・・特に前半はサッカーになっていなかった・・選手たちの動きやセカンドボールへの反応が悪すぎたし、1対1の競り合いでも十分な闘う意志が感じられなかった・・」と述べていました。まさにその通り。私も含め、この試合の証人になった人々の印象そのものでした。

 そこでギドが挙げた、パスレシーブの動きも含めた全般的な動きが緩慢だったこと。エル・ゴラッソの原稿で、相手は、レッズとなったらまず守備を固めてくる・・だからこそ組織パスプレーをもっと効果的にミックスしていくことで攻撃の変化を演出しなければ、個の突破力も活かされない・・と書いたのですが、組織パスプレーのリズムを高揚させるための大前提こそが、その「動きの量と質の向上」なのですよ。それが減退しているのに、どうやって組織プレーの量と質を向上させられるのか・・ということです。

 それには、調子の悪いエメルソンが、自分の調子が悪いことを自覚しているからこそ(?!)ドリブル突破にこだわり過ぎていることが大きく悪影響を与えていると思っています。もちろん「それだけ」ではないけれど、とにかくエメの「こだわり」によって周りのサポートの動き(意志)にネガティブな影響が及んでいることは確かだと思うのです。

 そうなった場合、もちろんセレッソ守備ブロックの思うツボ。彼らは、エメがドリブル勝負に入るかもしれないと感じた瞬間に、そのボール奪取勝負スポットに「集中」してきましたからね。そして効果的なカバーリングの網を張ってしまう。これではいくら天才エメルソンでも、いかんともし難いじゃありませんか。本当は、シンプルなパス&ムーブとドリブル突破チャレンジをもっとメリハリを付けて使い分けることで、仕掛けの変化の起点になるべき存在なのに・・。そして徐々に心理的な悪魔のサイクルにはまり込んだチームの足が止まり気味になっていく・・。

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 ちょっとここで、今シーズンのレッズのゲームをまとめてみます。まずシーズン開幕のアントラーズ戦から。その前半に展開された素晴らしい攻撃サッカーを観て、誰もが「大丈夫・・今シーズンのレッズも、完全にリーグの主役だ・・」と思ったに違いありません。でも結局は、例のアクシデントもあって惜敗してしまう。その後も、同様のアクシデントがくり返されたこともあって、リーグでの「結果」は鳴かず飛ばずという悪い流れに陥ってしまいます。とはいっても、エル・ゴラッソの記事で書いたように、内容自体は決して悪いモノじゃなかったし(チャンスを決め切れないという課題は見え隠れしていたけれど・・)、ナビスコカップではしっかりと二連勝している(この二試合ともに、後半のダレは問題だったけれど・・)。

 だからこそギドも、「継続こそチカラなり・・」という前向きの姿勢を崩さなかったし、まさにそれが正解だったわけです。そして前節、アウェーのFC東京戦でのリーグ初勝利。誰もが、さてこれからだなと確信レベルを高揚させていたところに、まさに氷入りの冷水を浴びせられてしまった・・という体たらく。見たとおり、内容でも結果でも、順当な負けでしたからね。

 「アントラーズも含めて、レッズと対戦する相手は守備を固めてくる・・ブッフヴァルトさんはサイド攻撃をより強く意識すると言う・・たしかにそれも重要な仕掛けイメージだと思うけれど、それ以外にも、強化ディフェンスへの効果的な対抗策をまとめて欲しいのだけれど・・」という私の質問に対してギドが、こんな風に答えていました。「サイドから仕掛けていくのはプライオリティーだけれど、そのためにも、もっと仕掛けの深さを演出することも大事だ・・要は、タテにもスムーズにボールを動かせなければならないということ・・それが、バックパスからの勝負スルーパスだとか中距離シュートにつながる・・もちろん、サイド攻撃にしても、深さの演出にしても、その大前提はしっかりと走ることだし、闘う意志を強く持つことだけれどネ・・」。

 さて、今シーズンはじめて、ヒドイ試合をやらかしてしまったレッズ。ファンの方々はさぞかし怒ったり、落胆したりなど悲しい思いをしていることでしょう。もちろん、そのエモーションの背景にある高い当事者意識や参加意識は、普段の日常生活でそうそう持てるものじゃありません。生活者の方々が、そんなレベルを超えたエモーショナルな「入れ込みの対象」を持っていること自体が、浦和でのサッカー文化の浸透度の高さを表象している、サッカーが秘める素晴らしいパワーの証明でもあるわけですがネ・・。

 さてこれからギド・ブッフヴァルトが、心理・精神面のケアーだけではなく、攻撃での選手タイプの組み合わせや仕掛けにおける共通イメージの再構築などの戦術的なテーマも含め、どのようにチームを立て直していくのか(、コト等々)、私の学習機会としても興味が尽きません。これはもう、来週の木曜日には袋井まで出掛けていくしかない・・?! 

 最後になってしまいましたが、セレッソについて。レッズの出来が最悪だった背景には、セレッソが展開した見事なサッカーもあったのです。小林監督は、本当に良い仕事をしました。守備を固めてカウンターを狙うというゲーム戦術だったとはいえ、細かなところまで選手たちのイメージが具体化されていたし、「それ」を最後の最後までやり通した。監督の戦術立案能力とモティベーション能力を感じます。

 



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