湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2006年5月6日、土曜日)

 

両チームともに闘う意志は超一流・・(マリノス対ジェフ、1-1)

 

レビュー
 
 「もっとタイトにマークしろ・・」。ジェフのイビツァ・オシム監督が、ハーフタイムにそんな指示を出したとか。なるほど・・

 この試合は、「あのスーパーサッカー」から中二日で迎えたことになります。ジェフユナイテッド。それにしても素晴らしかったよネ、レッズ戦。これ以上ないという忠実&ダイナミック&クリエイティブな守備をベースに、素早い守備から攻撃への切り替えでレッズ守備ブロックにプレッシャーを与えつづけたジェフ。その切り替えシーンでの、ボールがないところでの「飛び出しフリーランニングの迫力」には、ホントに目を見張らされた。それこそ、チームのサッカーコンセプト(意志のチカラ)が具体的にカタチとなってグラウンド上に現出したということです。その攻守にわたる極限ハードワークの組織サッカーは、まさに、サッカーの美しさを体現していました。

 とはいっても、ジェフにとってそれは、エネルギー消費量が大きなゲームだったに違いありません。だから、このマリノス戦で同じレベルのダイナミズムを期待されても難しかったということでしょうね。まあ、天井知らずだったレッズ戦と比べれば、このマリノス戦での選手たちのモティベーション状態は「落ち着いたレベル」にあったしね。あっと・・、それに気温も、25度近くまでアップしていたという気候的な条件もあった。

 「選手たちはフィジカル的にだけではなくメンタル的な疲れもあった・・」。試合後の記者会見で、オシムさんがそんなことを言っていました。まあ・・そういうことなんでしょうね。ただその後に、しみじみと、こんなことも言っていましたよ。「以前のジェフだったら、マリノスのホームで引き分けて落胆の表情を浮かべるなんてことは考えられなかっただろう・・」。まさにその通り。だからこそ日本サッカー界は、イビツァ・オシムに対して、深い畏敬の念を持っているのですよ。私は、畏敬だけではなく、心から感謝もしています。何せ彼は、カッコつけの日本サッカー界に、「サッカーは走るボールゲームだという事実」を、深く再認識させてくれたんですからね。

 木村元彦さんの「オシムの言葉」もよく売れていると聞きます。嬉しい限り。オシムさんの言葉に内包される哲学的な深さだけではなく、オシムさんの人となりも素直に伝達されるなど、ホントに良い本です。私も、いたく啓発されましたよ。木村さんとは、対談で一緒になったり、機会があるごとにサッカー談義をしたりする仲なんだけれど、その真摯な「本音の人間観察眼」に対して心からの敬意を表する湯浅なのです。

 それにオシムさんは、阿部と巻という日本代表候補も送り出した。特に巻という存在は、いまの日本代表フォワードのなかでは、どちらかといったら「異質」ですよね。とにかく気を抜かず、最後の最後まで(特にボールのないところで!)フルパワーで頑張りつづける(最終勝負シーンでは、脇目もふらずにスペースへ忠実に走り込みつづける!)というタイプだからね。だからこそ、最終メンバーに残る可能性が大きいと思っている湯浅なのですよ。昨日のNHKラジオ番組で一緒になった、元日本女子代表の野田さんや、元日本代表の三浦泰年さんも、具体的なオーストラリアメンバーを聞かれたとき、「巻のワントップ」をイメージしていましたよ。ちなみに私は、高原のワントップを推したんだけれどネ。

 あっと・・またまた脱線してしまった・・スミマセン。さて今度は、マリノスを視点の中心に置いたレポート。岡田武史監督の(思いやりと、ライバル関係の緊張感を高みで安定させる!)表現を借りれば、レギュラー「クラス」の選手が7人から8人も欠けたという状態でゲームに臨んだマリノスだったけれど、闘う意志という視点で、これまた素晴らしいサッカーを展開してくれましたよ。攻守にわたる、ボールがないところでの強烈な意志の主体的な具現化・・。とにかく選手たちが、主体的に仕事を探し(≒ボールを奪い返すためのイメージやシュートへいくためのイメージを具体的に描写し)、全力でそれを遂行しようとする(全力でイメージをトレースしようとする)のです。そんな積極サッカー姿勢に、これまた感じ入ったものです。

 それでも、才能に溢れる「狩野健太」のボールがないところでのプレー内容には、かなり不満でした。彼がイメージしていたのは、まさに効率であり(なるべく楽をして最高の結果だけを得たいというイメージ!)、クリエイティブな無駄走りはほとんど見られなかったのですよ。素晴らしい才能に恵まれた選手だけれど、「あれ」じゃ、某FC東京の梶山の二の舞になってしまう・・。

 どうして日本じゃ、上手い選手は走らない(そういうケースが比較的多い)のだろう・・どうして彼らは、汗かきのチームワークに一生懸命取り組もうとしないのだろう・・。もちろんそれは、「雰囲気が緩い」からですよ。「それ」をやらなくても、チーム内での仕掛けの演出家というポジションが脅かされないという、才能をスポイルしてしまう環境。才能に対して物言うことが簡単ではないという環境。

 それに対してサッカー先進国では、幼少の頃から、能力に合わせたグループ分けをするし、そのなかでも厳しいライバル環境を整備する。もちろん、組織プレーと個人プレーのハイレベルなバランスという絶対的な評価基準をもってネ。もちろん、比較的恵まれないことの方が多いイミグラント(=immigrant=移民=)は、何を言われなくとも、常にハングリーに闘いつづけるだろうけれど・・。またそんな先進国には、「才能」に勘違いさせないような、長い歴史に支えられたサッカー文化もある。そして、それらが、チーム内の競争環境を助長していく。

 それに対して、まだまだ農耕民族マインドが色濃く残り(アンチ個人主義?!)、「組織全体の機能性」をより尊重する日本の場合は、本当の意味で「個の才能を発展させる環境を整備する」のは難しいかもしれないネ。まあ、狩野については、その環境整備という視点でも、岡田監督の手腕に期待しましょうかね。

 またまた脱線してしまった・・ゴメン・・。ということで、ゲーム全体としてはある程度ダイナミックなサッカーが展開できていたマリノスだけれど、やはり最終勝負の仕掛けというポイントでは難しい。そこで求められるのは、仕掛けの変化を「個のチカラ」で演出できる選手たちだからね。ドゥトラ、マルケス、久保(後半は出場したけれど・・)、マグロン、坂田、山瀬など、そんな個の才能たちが欠けている・・だから、可能性の高いシュートチャンスを演出することがままならない・・。

 それにしてもマリノスには怪我人が多いよね。昨シーズンのように混み合ったマッチスケジュールじゃないのに・・。とはいっても私は、フィジカルトレーニング(準備の)内容が原因だとは思っていません。単に運に見放されたということでしょう。もちろん、岡田監督が、より「解放された攻撃サッカー」を志向しはじめたという要素も、微妙に絡んでいるのかもしれないけれどネ。解放されて、攻守にわたって積極的に「やり」はじめたら、制御されたサッカーのときよりは危険因子が増えるのは道理だよネ。さて・・。

 



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