湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2006年4月1日、土曜日)

 

規制から解放へ・・マリノスの進化はつづく・・(マリノス対FC東京、1-1)

 

レビュー
 
 さすがに岡田武史だ・・しっかりと、FC東京の厳しいマンマーク戦術への対抗策を練ってきた・・。ゲームが立ち上がってすぐに、そんな戦術ポイントに注目していました。要は、岡田監督が、「前方の味方選手」がピタリとマークされるという状況を逆手に取るイメージを選手たちに与えていたということです。

 この試合でもFC東京のガーロ監督は、マリノス上がり目の中盤選手(清水範久)とトップのマルケスに「オールコート・マンマーカー」を付けました(このマンマーク戦術については、ナビスコカップのコラムを参照!)。清水に対しては今野泰幸。マルケスに対しては、例によって、エースキラーの伊野波雅彦。もちろんもう一人のトップ(大島秀夫)には、臨機応変に、センターバックの一人がピタリと付きます。ということで、前方の三枚は、常にマンマーカーを背負いながらプレーしなければならないということになります。「常に」・・ね・・。

 そうです。その「常に・・」というところがミソなんですよ。要は、最前線では「常に」味方トップがタイトに身体を制限されている・・だからこそ逆に、そのことを明確にイメージすることで、「その状況を超えた勝負イメージ」を描きやすくなるということです。

 実際にマリノスは、「常に演出される状況」を逆活用し、うまくチャンスを作り出していました。例えば、前半15分のスローインの場面。スロアーは、ドゥトラ。その前方には、伊野波の厳しいマークを受けるマルケスがいる。そのとき、自動的に、ドゥトラとマルケスの勝負イメージがシンクロする。「伊野波の一瞬の集中切れを利用してウラスペースを突く・・」。そして実際に伊野波が、ほんの一瞬マルケスへの注意が散漫になったその瞬間(伊野波が突っ立ち、マルケスとの間合いも空いたその瞬間!)、マルケスが爆発したのです。ウラのスペースへの爆発ダッシュ。そして同時にドゥトラが、ウラのスペースへボールを投げ込む。この、爆発ダッシュとスローインのアクションは、基本的には「同時」でしたね。要は、二人とも、この勝負アクション「だけ」を明確にイメージしていたということです(正確なイメージシンクロ!)。

 またその直後には、フィールド中央でフリーキックを得たマグロンが、すかさずマルケスに縦パスを出し、そのままパス&ムーブで突進してマルケスからのリターンパスをもらってシュートまで行ったなんていうシーンもありましたよ。要は、タイトマンマークの「静的なせめぎ合いスポット」を活用した、二人目、三人目選手たちの後方からの飛び出しっちゅうわけです。

 それ以外にも、競り合った状況から偶発的にマークが外れてフリーになるといったケースでも、マルケスや清水は、マンマークが外れたからこその完璧フリー状況を存分に活用し「単独ドリブルで勝負してシュートまで!」というイメージを具現化していました。

 全体的には、立派なサッカーを展開したのに、ツキに見放されて引き分けてしまったマリノス。それでも、彼らのイメチェンは着実に進んでいます。この試合でも、「堅すぎる」というこれまでのイメージから徐々に脱却しつつあるという傾向を感じ取ることができました。要は、堅すぎる戦術(規制)サッカーからの解放・・。

 それは、両サイド(ドゥトラと田中隼磨)だけではなく、守備的ハーフのマグロンも、ときには最前線を追い越すような勢いで攻撃の最終シーンへ参加してくるといったタテのポジションチェンジが、より頻繁に見られるようになっていることに象徴されているように思います。また、たまには最終ラインからも、チャンスを見計らって上がってくるという究極のオーバーラップシーンまであります。要は、マリノスが、より多くの人数をかけて仕掛けていくようになっているということです。人数が増えれば、それだけ、攻撃での「変化」をうまく演出できるし、ドリブル突破やタメの演出などに代表される個の勝負と組織パスプレーとのバランスを、よりハイレベルな次元で取れるようにもなるということです。規制から解放へというマリノスの「エボリューション」はつづく・・。

 



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