湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2006年4月8日、土曜日)

 

どちらかと言えば、動きの少ない「戦術マッチ」という評価かな・・(アルディージャ対マリノス、2-1)・・強いチーム同士の、チカラの入ったエキサイティングマッチ・・(ガンバ対アントラーズ、1-0)

 

レビュー
 
 「このゲームってサ・・シーズン終盤の消化試合っちゅうノリだよね・・フ〜〜ッ・・」。ハーフタイムで、外国人のジャーナリスト仲間がため息をつくこと・・。さもありなん。何せ、両チームともに、相手守備ブロックのウラを狙うようなチャレンジを仕掛けていく意志がまったく感じられないような、「局面の競り合いを積み重ねていくサッカー」を・・別な表現をすれば、「人とポールの動きが有機的に連鎖しないような単発サッカー」を展開しているんだからね。両方の表現ともに分かりにくいですかネ・・。要は、両チームの選手たちだけじゃなく、観ている方も、簡単に次の「局面でのボール奪取勝負シーン」を予想できちゃうということです。それだけ、両チームの攻撃が単純に過ぎるということなんですよ。たしかにこれじゃアクビだって出るよな。

 一昨日にアップしたチャンピオンズリーグレポートでも書いたけれど、サッカーの魅力は、見る者の予想を凌駕する(予想がポジティブに裏切られる)ところにもあると思うのですよ。観る方は、予想をポジティブに裏切られれば裏切られる程、そのサッカーの虜になるもの・・それも「ナルホド回数」という魅力エッセンスに通じる要素ですかネ・・今シーズンのバルセロナは、組織プレーでも個人プレーでも、見る者の予想を凌駕し、そして「オ〜〜ッ! ナルホド!!」と感嘆させつづけてくれる・・もちろんその絶対的なベースが、攻守にわたる「忠実な基本プレー」にあることは言うまでもない・・勝負は、攻守にわたる、ボールがないところの動きの「量と質」で決まるのです・・。

 ちょっと蛇足が過ぎてしまった・・スミマセン。要は、このゲームには、観ている方の予想をポジティブに裏切り、我々を感嘆させ、感動させてくれるような勝負アクションが少なすぎたということです。もちろん、小林大悟がブチかました30メートルのキャノン・シュート(決勝ゴ〜〜ル!!)は、見る者全ての度肝を抜いたけれどネ・・。

 そんな、ゲームの「ダイナミズム」が欠乏してしまったことの背景要因は、攻守の両面にありでしょう。要は、両チームともに守備ブロックの出来が良かったということ。そして、両チームともに、その堅守を打ち破っていけるだけのリスクチャレンジ・マインドを前面に押し出すことがままならなかったということ。

 まあ・・ね・・、チーム総合力では確実に上をいくマリノスの攻めをしっかりと抑制して数少ないワンチャンスを決める・・というアルディージャのゲーム戦術が、結局は、究極の「高効率」で機能したという総評っちゅうことになるのかな。

 「この試合は、負けがつづいていたから、とにかく内容よりも勝負をイメージしようと選手たちを送り出した・・勝負を左右するのは、ドゥトラとマルケスが仕掛けるマリノスの左サイドをいかに抑えるのかというテーマ・・それも徐々にうまく抑制できるようになったことも良かった・・」。アルディージャの三浦監督が記者会見でそう言っていました。

 誰もが考える、強力なマリノスの左サイド。わたしは、ドゥトラとマルケスのコンビに、守備的ハーフのマグロンの押し上げも加えます。ドゥトラ&マルケス&マグロンのトリオ。わたしは、ドゥトラとマルケスが、キープ&ドリブル&ショートコンビネーションだけではなく、マグロンの決定的フリーランニングをイメージしているケースも多いと思っています。もちろん最後は、久保もいるしネ。そして、その「左サイドから仕掛け」を機能させることが、今シーズンの岡田監督が志向する「解放サッカー」のキーポイントになるわけです。「そこ」が機能することで、他のゾーンでのチャレンジマインドも活性化するはずだからね。

 もちろん岡田監督は、選手たちのマインドを「解放」するためには、よりハイレベルで積極的な守備意識の徹底が大前提だと考えているはず。そのことは、「プレス守備に対する意識付けをしたつもりだったけれど、前半はうまく機能しなかった・・それでハーフタイムに確認した・・それがあったから、後半は、よいバランスでプレスをかけ、何度か決定機を作り出したし、逆にアルディージャには、まったくチャンスを作らせなかった・・等々」という発言に如実に感じられる。そこに岡田監督の意志を感じるというわけです。

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 そんな「動きが少なかった」アルディージャ対マリノスに対し、高い次元でチーム総合力が拮抗したガンバ対アントラーズ戦は、まさに全力のエキサイティングマッチということになりました。

 立ち上がりの15分間は、ガンバが、全力(協力)プレスで中盤を制して攻め上がります。それに対して、アントラーズは、守備ブロックをソリッドに組織して対抗する。アントラーズのアウトゥオリ監督も、フォーバックの前に、しっかりと(フェル何度、青木、増田による)スリーの中盤ラインを維持するようにとの指示を出している。とはいっても、そのディフェンス姿勢は、決して受け身ではない。アントラーズ選手たちは、全員が、次の鋭いカウンターを狙っているのですよ。そう、猛禽類のマインド・・。

 そのように、両チームともに積極的なディフェンスが展開できているからこそ、次の攻撃に勢いが乗るっちゅうわけです。このゲームについては、「動的な均衡」状態がつづくという表現が適切かもネ。それにしても、あんなに厳しい組織ディフェンスを受けているのに、両チームとも、しっかりとシュートチャンスを作り出している。組織パスプレーと個人勝負をしっかりとバランス良く組み合わせながらね・・。

 この「組織と個のバランス」だけれど、もちろんそれは、両チーム選手たちの個性によって「見え方」にはかなりの違いが出てきます。要は、サイドを突いたクロス攻撃を仕掛けたり、中央ゾーンをスルーパスで突破しようとするなど、より組織プレーの比重が高いアントラーズに対し、フェルナンジーニョ、マグノ・アウベスという絶対的な仕掛けのリーダーがいるガンバの場合は、より「個の仕掛け」が強調されるというわけです。とはいってもガンバには、加地、家長という、サイドからの仕掛けを仕切る「鬼」がいますからね、「そこ」も仕掛けどころ。やはり攻撃コンテンツ(変化を演出するバリエーションの豊富さ)については、ガンバに一日以上の長ありだよね。

 またガンバの攻撃には、タテの変化もある。フェルナンジーニョやマグノ・アウベスだけじゃなく、流れのなかで押し上げた遠藤や家長がシュートを打つシーンも目立っていたしね。それに対してアントラーズでは、どうも前の選手ばかりがシュートを打つというシーンが目立つのですよ。何せ、小笠原にシュートが一本もなかったわけだからね。もちろんセットプレーからの危険度は高いけれど、攻撃のバリエーションという視点では課題も多いというアントラーズなのです。

 



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