湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2007年5月20日、日曜日)

 

マリノスの課題は、ダイナミズム(動きの活力)の再活性化・・(マリノス対FC東京、0-1)

 

レビュー
 
 エキサイティングだったマリノス対FC東京。それは、試合コンテンツが大きく揺動したゲームでもありました。

 立ち上がりの時間帯は、例によってマリノスが素晴らしいプレッシングサッカーでFC東京を押し込みながら何度も決定的シュートをブチかましたりします。ただ徐々にゲーム内容が拮抗しはじめ、後半に入ると、今度はFC東京がゲームの主導権を握るという時間帯が増えていきました。なかなか見応えのあるシーソーマッチでしたよ。

 とはいっても、FC東京が「理の当然の結果として」3ポイントを勝ち取ったかといったら、総合的な視点からすれば、やっぱり「否」だろうね。まあ、誰が見ても引き分けが順当というゲーム内容だったということです。だからこそ、後半23分にルーカスと交代して出場した福西の、ファーストタッチ&ロングシュート&サプライズゴールのシーンには、誰もが心底ビックリしたハズ。まさに、サッカーの神様が演出したゴールでした。そんなことを書いたら、福西選手は不満かな・・!?

 さてゲーム。立ち上がりのマリノスは、例によって、前からの強烈な意志を込めたプレッシャーを連続的に仕掛けつづけることで(有機的に連鎖させつづけることで!)ゲームのイニシアチブを握ります。その時間帯でマリノスが魅せた、意図と意志が見事に統一された攻撃サッカーは、見事の一言でした。爽快、爽快・・。

 マリノスが仕掛けるプレッシングの優れたところは、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対して、『予測ベースで』前後左右から協力プレスを仕掛けてボールを奪い返してしまうところにあります。当たり前の表現だけれど、そこでの、プレスを仕掛ける前段階でのチェイス&チェックも含めた「意図と意志の統一レベル」は見事というほかありません。そして、そのポイントにこそ、監督のウデが如実に表現されている。早野監督は、本当に良い仕事をしている。

 あっと・・。今のマリノスの場合は、ボール奪取プロセスだけではなく、ボールを奪い返した後の仕掛けプレーも含めて、一つの「イメージ・ユニット」になっているという特筆ポイントを忘れてはいけません。

 マリノスは、ボール奪取の後、そのままドリブル突破チャレンジに入ったり、後方から全力ダッシュで押し上げてくる三人目、四人目が絡んだコンビネーションを仕掛けていくなど、ディフェンスから次の仕掛けにかけて、前への勢いが「最後まで持続する」のですよ。だから、高い確率で、その「イメージ・ユニット」が、何らかのフィニッシュまでいくという善循環が回りつづけるのですよ。

 あっと・・またまた忘れてはならないのが、ボールを奪い返した直後に例外なくイメージされる「ロングパス勝負」。ボールを奪い返した者は、例外なく、相手GKと最終守備ラインの間に広がる「決定的スペース」への決定的ロングパスを狙うのです。もちろんその勝負でのモティベーションは、最前線に張る坂田大輔の「爆発的な飛び出し」であることは言うまでもありません。少なくとも3本は、チャンスになりかけました。素晴らしい確率じゃありませんか。

 そんな「イメージ・ユニット」のメカニズムが、前半25分あたりまでに何度も作り出した決定的チャンスのバックボーンにありました。またマリノスの場合、とにかくシュートへのチャレンジに対して抜群に積極的だと感じます。その時間帯でも、山瀬兄弟や、フレッシュ日本代表の小宮山尊信が、迫力のドリブルシュートを放ちました。とにかく、すごい迫力でしたよ。でも・・

 「あの時間帯にマリノスが仕掛けてきた分厚い攻撃に耐えられたことが後半につながったと思う・・」。FC東京の原監督です。

 まさに、そういうことだね。その押し込まれる展開で原さんは、両サイドハーフの若口信男とリチェーリに対し、少し下がって中盤ディフェンスを厚くするよう指示を出し、それが見事にツボにはまったのですよ。そのことで、マリノスが展開する「攻守のイメージ・ユニット」の生命線とも言える、攻守にわたる中盤トリオ(山瀬兄弟と吉田孝行)が繰り出しつづけていたダイナミズムが、徐々に減退していったのです。ボール奪取の直後に仕掛けていくべき「前への勢い」をうまく止められてしまったマリノス・・といった具合。そう、前節のグランパス戦のように・・。そしてゲームの流れがFC東京へと傾いていく。

 「我々の場合は、タテパスを入れて三人目が飛び出していくというイメージがメイン・・ただ後半は、スペースへ抜けていく勇気が足りなかった・・怖がって横パスを出すというシーンも目立った・・スターターのタテパスが遅れたことも、全体的な流れが滞留した原因かもしれない・・まあ、相手のディフェンスが良くなったから、前へ行けなくなったという面もあるだろう・・」。マリノス、早野監督。

 これからマリノスが取り組んでいかなければならないのは、全体的なダイナミズム(動きの活力)が減退してきたとき、いかにそれを(チーム内で=主体的に)再び活性化していくのかというテーマでしょう。これから、対処的なゲーム戦術を仕掛けてくる相手が増えるに違いありません。だから、この試合のように、ダイナミズムが減退してしまうような時間帯も出てくるはず。そこで、いかにして、ダイナミズムを再び活性化していくのかというのがテーマなのですよ。もちろんそれは、リーダーシップというテーマと同義です。山瀬功治に期待しましょう。

 最後に、FC東京の今野について一言。とにかくスーパーなプレーを魅せてくれた。私は、彼のプレーだけでも楽しくて仕方ありませんでした。読みベースのクレバーなインターセプト・・忠実なマーキングと、正確でフェアなアタック(特にドリブルシュートを放とうとした坂田へのマーキングと、最後の瞬間でのスライディングは見応え200パーセントでした!)・・忠実なカバーリングとサポート・・ボールを持ってからの創造的で正確な配球・・タイミングを見計らった効果的な攻め上がり・・などなど。この試合でのヒーローは、明らかに今野泰幸でした。

 



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