湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2008年3月8日、土曜日)

 

レッズの攻撃を機能させるのはイバラの道!?・・(マリノス対レッズ、1-0)

 

レビュー
 
 いや、本当に素晴らしかったですね、マリノスの大島秀夫。マリノス最前線での実効ある孤軍奮闘によって、マリノスの仕掛けが何度も「危険領域」に入っていったものです。

 後方からボールを受ける。もちろん堀之内や坪井、はたまたトゥーリオにハードマークされている。そんな厳しい状況にもかかわらず、しっかりとボールをキープするだけではなく、背後のスペースへ抜け出すような力強い突破ドリブルまで魅せてくれる。相手はレッズの最終ラインだからね。これは、まさに「本物」です。

 そんな大島のガンバリがあったからこそ、桑原監督が意図するサイド攻撃もうまく機能した。この試合での田中隼磨と小宮山尊信のサイドからの仕掛けは、本当に素晴らしい実効レベルを魅せつづけました。もちろんその背景には、中盤の底コンビ、山瀬功治と松田直樹の「縁の下の力持ちプレー」があったわけだけれどね。彼らが魅せつづけた、中盤での「あうんの呼吸ディフェンス」に対しては、両サイドのカバーリングも含めて(両サイドが押し上げるタテのポジションチェンジの演出家!)本当に拍手喝采でした。

 とにかく、大島秀夫。もちろん岡田武史監督は、彼のサッカー的な能力だけではなく、人間性(性格)や意志の強さといったパーソナリティーもよく知っているはず。そのダイナミックなチャレンジプレーに目を見張りながら、ちょっと、日本代表でも観てみたくなりました。

 そんな大島の最前線パートナーである新加入のロニー。レッズのフリーキック場面で、置いておけばよいボールを、チョンと蹴ったことで二枚目のイエローをもらってしまいました。既に一枚イエローを受けていることを知らなかったはずがないし、あんな余計なコトをしたらイエローを喰らうのは世界の常識だからね、あの退場は、ホントに許されるモノじゃありません。罰金モノです。とはいっても、彼のプレーの内容自体は、ある程度はこれからに期待が持てるモノでした。

 また、マリノスの二列目にポジショニングするロペス。ベガルタ仙台からの移籍です。この選手については、ロニーと違い、「?」の方が先行しました。たしかに上手いけれど(相手を翻弄するボディーフェイントなど)、それがマリノスの仕掛けに、本当の意味での「プラス」になっていたとは思えない。まあ、まだマスターベーションの域を出ていないということです。それに、守備はまったくのお座なりだしね。

 要は、ロペスのプレーに対しては、攻守にわたる本当の目的(守備はボール奪取、攻撃はシュートを打つこと)を達成するための効果レベルという意味で大いなる疑問符がつくということです。まあ、チームメイトとの「イメージ・シンクロ・レベル」が上がってくれば、効果的なタテパスやスルーパスが出るようになるのかもしれないけれどネ。それにしても、ボールがないところでの動きが緩慢だしディフェンスもやらない。この選手の効果レベルが上がるまでは、チームも、彼自身も、少し苦労するだろうね。

 ちょっとマリノスの外国人選手に対する苦言が出たけれど、それでも、レッズのエジミウソンに比べたら、この二人の方がよっぽどマシだった。

 わたしは、エジミウソンに大いに期待していたのです。その期待が、この試合でのプレー内容によって完璧に瓦解した。これからは「その視点」で彼のことを厳しく観察しなければならなくなりました。本当に残念ではあるけれど・・。

 ボールがないところでしっかりと走らない・・タテパスを受けてもキープできない(大島の粘りプレーとは雲泥の差)・・キープしても、仕掛けるどころか、ビビッてバックパスをして止まってしまう(完全なアリバイプレー)・・守備は、もちろんお座なりで、ここでもアリバイプレーばかり・・途中からは、完全に疲れ果てていたのがアリアリ・・キャンプに「突き出た腹」で参加してきたそうな・・それも許される行為じゃないけれど、それがかなり絞られたと聞いていたのだけれど現実は・・とんでもないよ・・走れない選手なんて使うべきじゃない・・

 とにかく、能力のあるプロ選手が、しっかり走らない、守備をしないで「ぬるま湯」のプレーをすることは許される行為じゃありません。わたしは、本当に怒り心頭に発していました。こんなプレーを許していたら、チームのモラルが地に落ちてしまうじゃありませんか。この試合では、まず真っ先にエジミウソンが懲罰交替の対象であったはず。それが・・

 鈴木啓太、阿部勇樹、山田暢久で構成する中盤のトライアングルは、ある程度は(特にディフェンスが)機能していました。それが、全体としては互角以上というゲームの流れのバックボーンでした。また、高原にしても(たしかに本調子とはほど遠いけれど)しっかりと守備に入るし、動き回ってパスターゲットになったり、最前線で頑張ってボールをキープしたり、はたまたコンビネーションで使われたり、自身でドリブルシュートにチャレンジするなど、これからに期待が持てる「意志」の内容でした。

 だからこそ、エジミウソンの、プロにはあるまじき「怠惰なプレー態度」が目について仕方ありませんでした。わたしは、本当に憤っていました。フットボールネーションだったら、確実に全てのメディアがやり玉に挙げるでしょう。もちろん、彼には相応の能力が備わっているからこその批判・・。持てる能力を全力で発揮しようとする意志が感じられない(闘う意志が前面に押し出されてこない)のだから、批判されるのも当然です。

 レッズのパフォーマンス・・。トゥーリオと鈴木啓太(阿部勇樹と山田暢久)がコアになった守備ブロックは相変わらず強いけれど、攻撃の内容が・・。前からのプレッシング守備を基盤に、チャンスがあれば、もっともっと積極的に攻め上がることで組織プレーを活性化させなければいけません。それを基盤に、チャンスを見計らいながら個の勝負もミックスしていかなければならない。

 たしにか、ポンテ、長谷部誠、そしてワシントンがいないから、仕掛けイメージを(そのイメージのシンクロ状態を・・要は互いのコンビネーションイメージを)高揚させていく作業が難しいのはよく分かる。でも、そのイメージを高揚させていくためには、リスクへチャレンジしていく姿勢は必須です。この試合では頻繁に観られた不必要な用心深いプレー(逃げの姿勢!?)など、そのイメージを減退させるばかり。そして、内容も結果も悪い「スパイラルな悪魔のサイクル」にはまり込んでいく・・。

 ちょっとネガティブに書きすぎたかもしれないけれど、とにかくレッズが、この試合でマリノスが魅せつづけた、攻守にわたる積極的なプレー(強い意志)から良い刺激を受けたことを願って止みません。もちろんホルガー・オジェック監督の危機感も、かなり高まっていたことでしょう。記者会見での彼の表情から、そのことが明確に読み取れました。彼の、戦術&心理マネージメントのウデに期待しましょう。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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