湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第17節(2008年7月16日、水曜日)

 

なかなか渋いゲームコンテンツではありました・・(FC東京対ガンバ、1-1)

 

レビュー
 
 このところFC東京のゲームを続けざまに観ているので、今日のコラムも彼らを中心にまとめることにします。良いサッカーをやっているのに、どうも「勝負」という視点では弱さが見え隠れする(決めるべき時にゴールを奪えない!?)FC東京・・というテーマ。

 前節のアントラーズ戦コラムでも、内容はよかったのに、1-1になってから(アントラーズに同点ゴールを決められてから)攻め上がりすぎて守備ブロックを「空け」てしまった・・なんていうニュアンスを書きました。そこで、今日のガンバ戦。この試合でのFC東京は、攻撃と守備のバランスという視点では、最後まで「良い状態」を保っていたとすることができるだろうね。

 とはいっても、最後の最後に、ガンバに決定的シュートを(つづけざまに二本も!)打たれてしまったのは本当にいただけなかった。「アレ」は守備ブロックが完全に崩し切られた(ウラの決定的スペースを攻略された!)大ピンチだったから、ツキもあって同点で終われたから良かったものの、まあこの試合でも「勝負弱さ」というテーマは継続されていたとすることができるかもしれない。内容は悪くない(いや、良くなっている!?)のに・・。

 別な見方をすれば(この試合について)城福監督自身も言っていたように、チャンスにしっかりと決めていれば・・ということです。でも決められない。だからギリギリの競り合いでは、相手の後塵を拝してしまう。フムフム・・。

 FC東京の前半の立ち上がりは、本当に鈍重でした。相手の仕掛けの起点(ボールホルダーや次のパスレシーバー)をしっかりと抑えられていないことで、効果的な仕掛けパスを通されてしまう・・だから「後追いで」そのパスを受けたバレーやルーカスに「複数」のディフェンダーが「寄せて」しまうなんていう状況が出てきてしまう・・要は、非効率なマーキング・・結果として、その他のガンバ選手がフリーになってしまい、そこへボールを回されてピンチに陥ってしまう・・。

 そんな鈍重な展開のなか、(寄せが甘かった!)左サイドからニアポストゾーンへ簡単にクロスを入れられ、それを走り込んでいたガンバの山崎が(!?)うまく流し、ファーポストに詰めていたルーカスに先制ゴールを奪われてしまった。

 「こりゃダメだ・・この試合でのFC東京は、あまりにも自信なさそうにプレーしている・・このままじゃ、ポロポロにやられちゃうかもしれない・・」なんてガッカリしたものです。でも、その失点が「強烈な刺激」になったんでしょうね、そこからFC東京が、いつものハイレベルな組織プレーを展開しはじめたのですよ。

 城福監督に言わせれば、アントラーズ戦での悔しさも原動力になっていたとか。アントラーズ戦で展開したサッカー内容については、選手自身が「手応え」を感じていた・・にもかかわらず(カウンターとセットプレーから)大量失点して負けてしまった・・アレは我々にとって良い学習機会だった・・(何度も繰り返し『反芻』することで!?)アレを繰り返しちゃいけないというマインドでチームが一つにまとまった・・といったニュアンスのハナシをしていました。

 そんな彼らが、試合の立ち上がりにガンガンと押し込まれ、先制ゴールまで奪われてしまうのです。まあ、これで覚醒しなければ、プロなんておこがましい・・。

 そして、サイドゾーンを起点に、ガンガンと人数をかけて攻め上がっていくFC東京。右サイドでは、石川と長友のコンビが・・また左サイドでは、徳永と羽生のコンビが気勢を上げつづけるのです。いいね・・。

 それでも、次の守備の(人数&ポジショニングの)バランスが崩れないのですよ。それを目立たないところで支えていたのが、この試合で守備的ハーフに入った浅利悟。彼は、「守備的なバランサー」というイメージで、本当に素晴らしい存在感を魅せつづけていました。

 ボールを奪い返しても、決してボールをこねくり回したりせず、忠実に、そしてシンプルにボールを動かすのです。素晴らしい「リズム」の組織プレーが、浅利を起点としてスタートし、そして継続していった・・といった表現がピタリと当てはまる展開ではありました。

 このゲームでのFC東京だけれど、私の目には、浅利悟を「中盤の底」に、その前に、梶山陽平、石川直宏、羽生直剛のトリオが、まさに縦横無尽のポジションチェンジを繰り返しながら、攻守にわたって、全力のチャレンジを繰り返していたと映っていました。

 そしてその前に「シャドー・ストライカー」の平山相太が、これまた自由に動き回り、絶対的なワントップであるカボレをうまく活用する・・なんていう「構図」。あっと・・もちろん、徳永悠平と長友佑都の両サイドバックも、交替に、がんがんオーバーラップしてきますよ。

 攻撃では、カボレ、平山、梶山、羽生、石川、それに両サイドバックが積極的に絡んでくる。また守備となったら、平山、梶山、羽生が、積極的に戻り、8人のブロックを築いてしまう。もちろん、この試合での彼らは、より高い位置からのボール奪取勝負をイメージしていたけれどネ。良かったですよ、ホントに。

 対するガンバ。FC東京に同点にされた後、再びペースアップするものとばかり思っていたのだけれど、後半最後の時間帯「まで」、どうもうまく勢いが乗っていかなかった。

 要は、全体的な運動量が減退してしまったことで(同点ゴールを入れられた後に運動量を再活性化できなかったことで!?)組織プレーの基盤である、ボールがないところでのサポートアクションがうまく機能しなかったということだね。だから、一発ロングパスを起点にした個人勝負ばかりが目立つという大雑把な展開になってしまった。とはいっても、バレーにしてもルーカスにしても、どんなにゴリ押しでも、危険な状況まで持っていってしまうのは大したものだけれどネ。

 ガンバの機能不全について、西野監督は、こんな言い方をしていた。「もっと動けると思っていた・・基本的なベースが整っていなかった・・悪いのは誰もが感じていた・・それでも悪いなりのサッカーをやらなければならない・・中盤のパスが(ボールの動きが)良くなかった・・互いの距離感がうまく同期しなかった・・ボランチや両サイドハーフ、両サイドバックにしても、互いの距離感がうまくつかめなかったから、組織的にうまく機能しなかった・・」

 (個人・グループ・チーム)戦術的なイメージには、様々なものがあります。それらのなかから、相手や自然状況などを鑑み、どのイメージが最良かを(選手に徹底させるのかを)選択するわけです。もちろん「それ」には、例えばサイドバックとサイドハーフによるコンビネーションプレーの「タイプ」も含まれる。このカタチになったら、確実に「前のスペース」へ飛び出していかなければならない・・とかネ。

 それらの「シンクロ・イメージ」が徹底されていなかったから、上記のような「機能不全」が生じてしまったということなのかもしれない。もちろん、その一番大きな要因が、絶対的な運動量の不足にあることは論を待たないけれど、それでも、戦術的なイメージがしっかりとシンクロ(徹底)していれば、カタチになりそうな状況では、自然と身体が動くものだからネ。

 やはり遠藤ヤット(保仁)の不在が大きいということもありそうだね。とにかく彼は、攻撃でも守備でも、さまざまな意味で「起点」だからね。そんな「リンク機能」が、いまのガンバには欠けているということだね。

 でも「無いものねだり」はバカげている。ルーカスが遠藤ヤットの機能をある程度は肩代わりできるかもしれないという期待はあったけれど、それも「まだまだ」のようだし。とにかく今は、遠藤ヤットの不在を、全員でカバーするしかないということです。脅威と機会は表裏一体・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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