湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2008年9月20日、土曜日)

 

二試合のポイントだけをまとめます・・(ヴェルディvsトリニータ、0-2)(フロンターレvsFC東京、0-1)

 

レビュー
 
 「たしかに失点が一番少ないチームは我々だ・・良い結果を得るためには、やはり失点をしないことが大前提だと思う(より多くのゴールを挙げて結果を残すということとの対比として!?)・・ただし、我々が守備偏重のサッカーを展開しているというニュアンスには賛同できない・・我々も、しっかりと攻め、しっかりとゴールを奪っているのだ・・それが、得失点差でプラス11というバランスの取れた数字になって現れている・・」

 シャムスカ監督がつづけます。「我々のサッカーでは、両サイドや両ボランチも、しっかりと攻め上がる(最終勝負シーンに顔を出す)・・全員が、攻守両面のタスクを担っているのだ・・一人が上がれば、残った者が次のディフェンスに備える・・それは、最後列の選手がオーバーラップしていった状況でも同様だ・・必要だったら、前戦の選手が戻ってくることだってある・・トリニータでは、ディフェンダーでも、チャンスがあれば、最終勝負シーンまで積極的に攻め上がってもいいんだ・・その意味でも、我々は攻撃的なチームだと思っている・・」

 そう、その通り。イケメンの主張に『アグリーッ!!』。

 わたしも、トリニータを、攻撃的なディフェンスを基盤にした攻撃的なチームだと思っているのですよ。守備こそが、すべてのスタートライン。守備がダイナミックだったら、次の攻撃も、自然と活力にあふれたモノになるはずだからね。

 たしかにトリニータは守備が強い。ただ「それ」は、決して、下がり気味にディフェンスブロックを強化するような受け身のプレー姿勢ではなく、あくまでも、積極的に相手からボールを奪い返すことを明確に意識した「攻撃的なディフェンス」なのですよ。

 シャムスカ監督が言いたかったことの骨子は、「トリニータの基盤は優れた守備意識にあり」ということでしょう。例外なく誰もが、自ら(主体的に)仕事を探しつづけながら、チェイス&チェックから、ボールがないところでの忠実マーキングまで、何らかの守備プレーを忠実に遂行しつづけるような「創造的」なサッカー。

 もちろん、相手のキープレイヤーや、彼らが得意とする仕掛けイメージに対しては、オールコートマンマークや対処的な守備ゲーム戦術を「徹底的」に駆使して対応するけれど、それにしても、優れた守備意識という絶対的なベースがなければ上手く機能するはずがないからね。

 あっと・・(イケメン)シャムスカ監督の冒頭のコメントは、わたしの、こんな質問に対するものでした。「チマタでは、トリニータが結果を残しているのは守備が強いからだ(単に守備が強いからに過ぎない!?)と言われているが、そんな評価についてどう思うか?」

 選手の質では、必ずしもリーグトップレベルというわけじゃないトリニータ。そのチームを、粘り腰の徹底サッカーでここまで引き上げてきた(イケメン)シャムスカ監督。

 わたしは、彼が、守備を徹底させる「だけ」のチーム戦術を導入するという仕事をしていたのでは全くなく、あくまでも「守備から入っていくダイナミックサッカー」を目指し、そのステップを一つずつ着実に歩んでいると思っています。

 ゴールを守るのではなく、あくまでも「相手からボールを奪い返す」という守備の目的を明確にイメージしたサッカー。だからこそ、ボールを奪い返した次の瞬間には、スペースである程度フリーでボールを持つ選手(仕掛けの起点)を演出するという目標イメージが脳裏に描写されるし、そこから攻撃の最終目的であるシュートへと「シームレス」でイメージが連鎖していくのです。

 そのようなイメージ連鎖があるからこそ(『その次』の目標イメージを持っているからこそ)ボールを奪い返したら、間髪を入れずに「次のアクション」が起こされるというわけです。もちろん、ホベルトとか森重、はたまたエジミウソンといった「大人のバランサー」はいるけれどネ。

 とにかく、トリニータの強さはホンモノです。もちろん「それ」は、結果がついてきていることで、選手の「確信レベル」と「集中レベル」が極限まで高揚しつづけているからに他なりません。

 難しい意味合いだけれど、トリニータは、近年では希な、内容(志向する理想)と結果のバランスが剣が峰で釣り合っている(釣り合いつづけている)チームだとすることができるかもしれない。その意味でも、本当に興味を惹かれるチームではあります。それにしてもシャムスカ監督はイケメンだネ〜〜

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 さて次は、エキサイティングだった、フロンターレ対FC東京。

 このゲームのポイントは、何といっても、後半の攻防。一点を追いかけるホームのフロンターレ。それに対し、前半41分に『アクシデント』で今野泰幸が一発退場になってしまったことで一人足りないFC東京は、強力な守備ブロックを組んで対峙する。

 ホントに見所満載の攻防だった。

 フロンターレは、サイドを「こじ開ける」ように攻め入ってクロスを送り込む。それは、まさに「ペナルティーエリア角ゾーンの攻防」。フロンターレの高畠監督は、黒津勝に代え、ドリブル突破も期待できるレナチーニョまでも投入し、グリグリとサイドゾーンをこじ開けようとするのです。

 そしてフロンターレは、何度か、絶対的な同点チャンスを作り出すのですよ。サイドからだけではなく、チョン・テセのポストプレーによる中央突破(振り向きざまのシュート)や、ジュニーニョの、決定的スペースへの「抜け出し」と一発ロングラストパスがピタリと合った絶対的チャンスもあった。でも結局はゴールを割ることが出来ずにFC東京に逃げ切られてしまった。フムフム・・

 FC東京の城福監督は、わたしの(下記の)こんな質問に対しても、あくまでも冷静にコメントしていました。

 「いまの城福監督の印象として、ツキに恵まれたな〜というニュアンスの方が強いか、それとも、あくまでも順当に相手の攻撃を抑えて守りきったゾ!というニュアンスの方が強いか、どちらでしょうか?」

 「たしかに何度かは危ないシーンはあった・・ただ我々は、フロンターレに守備ブロックがズタズタに崩されたとは思っていない・・その崩しとは、例えば、ドリブルやコンビネーションで抜かれ、カバーリングがハズされてパスを通されることで決定的スペースを攻略されるなどといったことだ・・たしかに相手のドリブルやコンビネーションの重圧に対して、単純に蹴り出してしまうような逃げのプレーもあった・・ただ守備ブロックは、あくまでも最後までしっかりと機能していたと思っている・・まあ、たしかにクロスがピンポイントに合わされたというピンチはあったけれど・・総体的には、よくやった(順当に守りきった!)と思っている・・何せ、我々は10人だったし、相手は強いフロンターレだったのだから・・」

 ナルホド、なるほど。城福監督は、明快な話し方と、自信あふれる態度がいい。優れた監督の資質(優れたパーソナリティーとインテリジェンス)を感じさせてくれます。

 ところで、何度か、「エッ・・どうしてコレがゴールにならないの?」っちゅうフロンターレの絶対的チャンス(FC東京にとっては大ピンチ)シーンもあった後半の攻防。それは、まさに、偶然と必然が交錯するドラマであるサッカーの面目躍如といった展開だった!?

 ところで、どこまでを必然とし、どこからが偶然なのか・・。それは永遠のテーマだけれど、結局その境界は「意志のレベル」によって決まってくるということなのかもしれないね。要は、意志のチカラによって、偶然要素を「必然ゾーン」へ引き寄せる(引き入れる)ことができるようになるかもしれないということです。

 「決定力!? 結局それは、血と汗の結晶ということだよな・・苦しいトレーニングを積んでいくうちに、シュートを打つ前に、ゴールの中に蹴り込まれたボールが見えるようになるんだ・・まあ、意志の強さということだな・・そんな確信がなけりゃ、シュートをきめるコトなんて出来っこないさ・・」

 以前、ボンバー(爆撃機)と呼ばれたドイツの伝説的ストライカー、ゲルト・ミュラーが、そう私に言ったことがありました。

 やっぱり、サッカーには近道はないし、楽して金を儲けることも出来ないのですよ。地道な努力の積み重ねこそが報われるということです。

 それにしても、あの、ヴィトール・ジュニオールやジュニーニョ、牛若丸やチョン・テセのシュートが入らなかったのは、単なる偶然だった(FC東京は、単についていいただけだった)!? あははっ・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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