湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第5節(2008年4月5日、土曜日)

 

トゥーリオという刺激(差し替えあり)(ジュビロ対レッズ、1-2)・・決定力という深〜いテーマ(フロンターレ対サンガ、0-1)

 

レビュー
 
 さて、まずテレビ観戦したジュビロ対レッズ戦を簡単にレポートします。

 それにしてもカメラワークが稚拙。メインカメラは「寄り」過ぎで、こちらは半径20メートル程度しか視認できない。これじゃ、周りが何が起きているか(ボールがないところでの『意志』のせめぎ合いが!)分かりゃしない。フラストレーションがたまる。でも、まあ、気を取りなおして・・。

 ということでゲームだけれど、まず最初に、レッズの先発メンバーを見てびっくりしたことから入りましょう。

 エンゲルス監督は、ウイニングチーム・ネバー・チェンジという原則を曲げてでも(エスパルス戦から)チームを変える意味があると判断した!? まあ、鈴木啓太の復帰は順当として(鈴木啓太の不在を補った細貝萌のパフォーマンスアップを考えれば、ちょっと残念な気持ちもあったけれど・・)、前戦の永井雄一郎と山田暢久をスタメンから外したことに対しては大きな危惧をいだきました(永井は腰痛だった!?)。

 何せエスパルス戦での永井と山田は、トゥーリオの能力を存分に発揮させる重要なタスクも担っていたからね。そう、タテのポジションチェンジ。この二人が、トゥーリオが上がった「穴」を埋めるように中盤ディフェンスで「汗かきの仕事」もしっかりとこなしていたからこそ、攻守にわたってトゥーリオの良さが際立ったのですよ。それが・・

 それにしてもジュビロの闘う意志は素晴らしかった。

 そのことを象徴するグラウンド上の現象は、もちろん忠実で力強いチェイス&チェック(それに対して、レッズ前半のチェイス&チェックはお粗末の極みだった!)。レッズの次のパスレシーバーに対する寄せや追い込み、そしてそれをベースにしたボール奪取勝負にはレベルを超えた勢いがありました。チェイス&チェックが素晴らしければ、おのずと、その周りでのボール奪取勝負を狙うディフェンスプレーも活性化してくるというわけです。そこには、積極的な「意志と意図」の饗宴といった趣がありました。その意思のレベルが、90分間を通して高みで安定していたことは本当に特筆ものです。内山監督の、心理マネージャーとしてのウデを感じます。

 そんなジュビロのダイナミックな守備に対して、案の定、レッズの組織プレーがまったく機能しない。攻撃においても、守備においても(次のパスレシーバーに対するプレスは、チーム全体が動かなければ機能しない!)。またトゥーリオのプレー内容も、(守備的ハーフデビュー戦となった)アルビレックス戦のように縮こまったモノに落ち込んでいました。

 そりゃ、そうだ。この試合では、(エスパルス戦では)後ろ髪を引かれずに思い切って上がれたバックアップ機能がなくなってしまったんだからね。そう、永井雄一郎と山田暢久の汗かきカバーリング。

 たしかに梅崎司のディフェンス姿勢は向上している(相手のオーバーラップにしっかりとマークし続ける忠実な汗かき姿勢を魅せたシーンも何度も目撃した)。でも、肝心なところで、まだまだ気抜けでお座なりの部分も多い。また、トゥーリオがイニシアチブをもって上がっていったシーンでは、梅崎司も、味方のポジショニングバランスを考慮せずに最前線スペースへ抜け出していくといったシーンが散見された。そして何度も、ジュビロの危険なカウンターを喰らってしまう。これじゃトゥーリオだって上がり難い。もちろん、高原とのタテのポジションチェンジなどほとんど期待できないしね。

 ということで、前半のゲームは、完全にジュビロが席巻していました。それが、後半になって、永井雄一郎と細貝萌が登場してきたあたりから大きく変化していくのです(山田暢久は、攻守にわたって中途半端なプレーに終始した相馬崇人に代わって後半のはじめからピッチに登場)。

 要は、細貝を守備的ハーフに入れることで、トゥーリオを二列目に上げたということです。もちろん永井雄一郎は、前戦を動き回り、攻撃の起点になったり、ドリブルを駆使する突撃隊長になったりする(永井が本物のブレイクスルーを魅せはじめたことに乾杯!・・やはり、考えて走ること=本物の自己主張をすること=こそが発展の唯一のリソースだ!)。

 ただ私は、そんな変更を見ながら、「そうじゃないだろ・・トゥーリオは、後方からタイミングよく上がっていく方がチカラを発揮できるのに・・」と思っていました。もちろん相手にリードされている危急事態だから仕方ないという側面もあったけれど、それでも私は、だからこそトゥーリオは後方から押し上げる方がいいと思っていたのですよ。

 細貝を二列目に置き、前戦からのダイナミック守備アクションの起点になるだけではなく、トゥーリオの積極的な前への押し上げをサポートするバックアップ機能も持たせる・・というイメージ。フットボールネーションの現場には、全力での吹っ切れた攻撃サッカーの流れにスムーズに入っていくために、前戦に「中盤守備でチカラを発揮するタイプの選手」を置くことが効果的だという経験則があります。だから私は、細貝を二列目にして、トゥーリオの「前後のアクション」をより活性化させる方が効果的だと思っていたのです。トゥーリオにしたって、前へ行けばマークが厳しくなるからね。それよりも、相手に気付かれずに、スッとオーバーラップしていく方が、いかに効果的か・・。

 でもまあ、結論からすれば、同点ゴールアシストと逆転ゴールを決めたわけだから、トゥーリオの二列目へのコンバートは成功ということになるんだろうね。でも私は、あくまでもトゥーリオの基本的タスクは「守備にあり」と思っているのですよ。守備からゲームにはいることで、彼の「アグレッシブ・マインド(自己主張)」が、より活性化すると思うのです。

 守備で大きく貢献できていることこそが、トゥーリオの絶対的アイデンティティー(プライドの原点)に違いないからね。そんな「確固たるチーム貢献パフォーマンス」こそが、彼の強烈な自己主張のリソース(原点)なのですよ。

 ところで阿部勇樹が決めた同点ゴール。本当に素晴らしかった。センターライン付近からの、トゥーリオのアタマを目がけた超ロングパス。そのボールが蹴られた次の瞬間には、二列目にいた阿部勇樹がスタートを切っていました。そのとき彼が脳裏に描いたイメージは、トゥーリオの勝負イメージと正確に重なり合っていたに違いない。トゥーリオがヘディングで流し、それを走り込んだ阿部勇樹がダイレクトで叩く! いや、見事な一発でした。トゥーリオの、ヘディングの強さだけではなく、味方の決定的フリーランニングも引き出してしまう(!?)凄さに脱帽といったところ。

 とにかく、トゥーリオの能力を、攻守にわたって存分に使い切ることで(そこで放散される強烈なトゥーリオ刺激によって!?)チームを活性化するという「発想」で難局を切り抜けつつあるゲルト・エンゲルス監督の手腕に、大いなる拍手をおくります。

 さて、これから、フロンターレ対京都サンガを観戦するために等々力へ・・。後で、レポートします。

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 さて、ということでフロンターレ対京都サンガ。

 ゲームを追いながら、昨年のアジアチャンピオンズリーグの試合を思い出していました。昨年9月27日に等々力で行われた、セパハンとの勝負マッチ。それは、勝てばフロンターレが準決勝進出という試合でした。

 試合を観ながら、何回ガッツポーズをしかかったことか。とにかくフロンターレが作り出した決定機は、数え切れないほどだったのですよ。でも、ことごとくモノにできず、結局は「0-0」で引き分けてトーナメントから姿を消すことになった。そのときのレポートは「こちら」です。

 この試合でのフロンターレも、チャンスを作り出すけれど、どうしても決め切れないという病気にかかっていた。観ている方にとっては、フラストレーションが溜まりっぱなしのゲーム展開でした。ゴールさえ奪っていれば、サンガも守備ブロックを「開いて」攻め上がっていかざるを得ないから、ゲーム内容がエキサイティングに成長していったはずだからね。

 とはいっても、フロンターレのサッカーが(サンガが上げた一点を追う最後の時間帯を除いて!)全体的には鈍重だったことも否めない事実でした。足の動きが重かったのですよ。ボールがないところでの動きがスムーズに出てこないから、足許パスが多くなってしまう。これじゃ、サンガ守備ブロックのウラを簡単に突いていけるはずがない。

 もちろんその背景には、サンガ守備が、マンマークを主体に、組織的に非常に良くまとまっていたこともあります。素早く忠実なチェイス&チェック(守備の起点作り)をベースに、その周りで繰り広げられる、これまた忠実な(ボール奪取勝負を仕掛ける)ディフェンスアクションが積み重ねられる。なかなかのものでした。

 書いている内容が矛盾しているように感じられるでしょうが、フロンターレのサッカーが全体的には鈍重だった(サンガ守備にうまく抑えられていた)ことは確かな事実だと思うのですよ。ただ、にもかかわらず、中村憲剛がタイミングよく攻撃に参加してくるシーンや、素晴らしいサイドチェンジパスによって両サイドバック(森勇介と山岸智)が有利な状態でドリブル勝負を仕掛けていける状況になったとき、はたまた、カウンターの流れがツボにはまったとき等には、かなり内容のあるチャンスを作り出してもいた。

 特に、後半23分のカウンターシーンは見事の一言だったね。タテパスを受けたジュニーニョが、しっかりとキープして大橋にパスを出す・・その大橋が、一瞬タテへドリブルで突っ掛けることでサンガ守備ブロックの視線と意識を引きつけ、次の瞬間には、左サイドスペースを爆発ダッシュしていたいたジュニーニョへリターンパスを出す・・まさに、大きなワンツーからの決定的チャンスメイク・・。でも結局はジュニーニョのシュートは枠を外れていってしまう。そのシーンをみて、前述したセパハンとのゲームを思い出したというわけです。「そうそう・・あのときも、ジュニーニョが決定的シュートを外しまくっていたっけ・・」

 そして、このコラムのメインテーマに入っていくことになります。チャンスを決め切れないフロンターレ。

 それは、ゴールを陥れることに対する「確信レベル」が足りないからに他なりません。ゴールを陥れることに対する「イメージ」が、まだまだ希薄だということです。実際にシュートを決められるかどうかは、「入るゾ!」と、どのくらいのレベルで確信できているかどうかに左右されるのですよ。要は、シュートする直前に、ポールがゴールに吸い込まれていくシーンを(自動的に)脳裏に描けるかどうか・・ということです。

 読売サッカークラブ時代、監督のグーテンドルフと、よくこんなハナシをしたものです。日本人は、自分を信じ切れていない・・。

 だからこそ我々は、どんな小さなシュートミスでも絶対に見過ごすことはしませんでした。トレーニングマッチのなかでシュートミスが発生したら、すぐさま「ストップ!!」とゲームを止め、そのシュートシーンを再現しながら、スローモーション的な動きでシュートさせることも含め、何度も何度も、同じシーンでゴールを決めさせるのです。

 もちろん周りの選手はウンザリ。でも我々は止めませんでした。その「しつこさ」こそが大いなる刺激だという確信があったからね。「いい加減にしろよっ!」という選手たちの不満がヒシヒシと感じられた・・だからこそ、彼らの脳裏にも、シュートをゴールに入れるというシーンが、強烈な「体感」として刻み込まれる。それが、実際の勝負マッチのシュートシーンにおいて、「確信」という心理ベースとなって反芻されるのです。

 伝説のドイツ人スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラー。

 彼は、よく選手をトレーニング前に呼び出して、シュート練習をさせました。そこでのへネスの「しつこさ」たるや、まさに超人レベル。やらせられる方もたまったものじゃない。怒りや憎しみといった人間心理のダークサイド・エネルギーも含め、選手からは極限のフラストレーションが放散されていたものです。

 私は、よくそのトレーニングを見学しました。だから私も、そこでの極限の緊張感を、鳥肌とともに体感していました。それは、それは、本当に凄い迫力だったのですよ。そして不思議なことに、その「体感」が、わたし自身のプレーに何らかの効果をもたらすことになります。特にシュートするときに、ヴァイスヴァイラーが演出した緊迫シーンが「反芻」されるようになったのです。まあシュート決定率が上がったかどうかは分からないけれど、少なくとも、ある確固たるイメージに導かれるように、リラックスしてシュートできるようになったと感じたのです。それは、条件反射的な「オートマティゼーション」とでも表現できるようなものでした。

 わたしは、ヴァイスヴァイラーから、「最高の忍耐力に支えられた(フェアな)しつこさ」というコーチングの極意を体感したつもりでいます。やはり、優れたシュート決定力は、一朝一夕で身に付くものではないのですよ。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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